今日見た夢とあの日見た夢

ろくろくろく

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マラソン2

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靴箱の周りに集まった朝練終わりのクラブ組はやけに鼻息が荒かった。目標は全員20位以内!」って自主的に言ってる所が凄い。
みんな勉強するくらいならマラソンの方が楽って奴らばかりだから、無駄に鍛えてる運動部に混じって10位以内なんて無茶だと思う。ってか無理。

待ち受ける「負け」の予感にげんなりして教室に着くと、嫌だとか逃げたいと言いつつもクラスの中は異様にハイテンションだった。
ワアワアキャアキャアと騒がしい中で、一人だけ時間の流れが違うような八雲がもう席に着いて悠然と本を読んでいた。

机の横に行って手元を覗くと、一時ブームだったらしい聖書とは違うみたいだ。十字軍の話を読んでいる所までは知ってるけど、もうタイトルを聞く気は無い。どうせ聞いたってわからない。

相変わらずの癖……ページを捲る長い指は慈しむようにスリスリと紙の縁を擦ってる。

横に立っているのに気付いてくれないから、捲りかけたページを抑えてみると、追っていた文字から目を離して「おはよう」と笑った。


「………あれ?」

リンッと聞き覚えのある透明な鈴の音が降って来た。

上?


「君継……口が開いてるよ、何を見てんの?何かいる?ヤモリ?ムカデ?」

食うのか?って真面目に聞くなって思う。

「食うか馬鹿」
「じゃあ何?幽霊?何かに呼ばれた?」

「いや……」

耳の横を擦るように囁く小さな音は埋もれて見えなくなった夢の中の記憶だ。
八雲に聞こえる訳もないし、説明のしようも無い。

「何でもない、それより今日はマラソンしか無いのに来たんだな、朝会わなかったから休むつもりかと思ってた、来たって事は八雲もマラソン走るの?」
「走らないけど絶対参加らしいから一応スタートはするけど?」

「……」

走るのか走らないのかどっちなんだ。

もう一回聞いてみる。

「走らないの?」

そう言えば体育の授業の時八雲がどうしているか知らない。体育は楽しいから人の事なんて見てないのだ。八雲が河川敷を激走する姿は想像も出来なくて何だか笑えた。

「何かおかしい?」
「うん、面白い、なあ、八雲の順位目標って何位?」
「さあ?あんまり関係無いからね、お子ちゃまは頑張って先に行ってくれ、僕はのんびり散歩して帰ってくるからさ」

うん、やっぱり走る気はないらしい。
いつもながら、スッパリ、あっさり、気持ちいいくらい堂々とルールを無視する。

物腰が柔らかいから目立っていないが、八雲は教師たちにとってとんでも無く扱い辛い生徒なのではないかと思う。

八雲には、怒ったり怒鳴りつけたり小突いたりをしてもいい雰囲気は無く、どの教師も一歩遠慮しているように見えた。

事実、先週のサボり事件の時もこっちは罰則補修を課せられたのに八雲にはお咎めなし(深山によると八雲は授業が始まってすぐ、先生に何も言わずにサラリと教室を出て行ったらしい)

進路調査のプリントも出した様子はなく、授業中に堂々と関係ない本を読んでいても何も言われない。勿論誰も当てたりしないし……もうえこひいきの部類と言えた。

「いいなあ……俺も一緒に散歩しようかな」
「ん?する?それならいっそマラソンなんかやめてどっか行こうか」
「どっかって……」

「行かないからな!君継!変な誘いに乗るなよ」

勿論断るつもりだったのに、返事をする前に広斗の声が飛んで来た。

しくじった。

八雲の事を考えながら登校したせいで教室に入ってすぐ、何も考えずに八雲の所に一直線で来てしまっていた。

教室の真ん中でサボる相談なんかしてると……、そりゃ目立つし広斗だって黙ってない。

「広斗、冗談だよ、真面目にとるな」
「いいから君継は体操服に着替えろよ、もう時間も無いし最前列に並ばないとスタートで損するぞ」

「わかってるよ」
「じゃあ早く行けよ」

身長差を誇示するように胸で体を押された。

「頑張ってね」と他人事みたいに手を振った八雲に、 手を振り返そうとすると手の上に飲みかけのりんごジュースが乗った。

視線の繋がりを断ち切るように前を塞がれたまま教室を押し出されたけど、そこまであからさまに態度に出さなくてもいいのに。

確かに、八雲と話すようになってからロクな事してないから怒るのはわかるけど、出来れば広斗も普通にしていて欲しい。
そうなれば話をするくらいでこんな険悪にならずに済むのにって思う。
これでは鞄の底に入れて持ち歩いているブツが益々重い、言えない、見つかる訳にいかない。

まだ手に持ったままだった鞄をギュッと握って背中に回した。



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