今日見た夢とあの日見た夢

ろくろくろく

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園の子

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サワサワと騒つく教室の中を諌めるような勢いで、ドンッと教壇の上で揃えられたプリントの束は分厚かった。

「さて!昨日とたっぷり遊んだ代わりに今日は体育が数学に変更、放課後は補修を一時間追加!それから地理の先生から宿題のプリントを預かってる、これはそれぞれ家でやって来い」

教師の無茶な宣告に再び「え~~ッ」ッと上がる声の中、満島がさっと手を挙げて果敢に反論をした。

仲は良くないし仲良くする気も無いけど、満島は久本と同じくどこでもリーダーになるタイプだ。
だから人気者の君継とはソリが合わないって事なのかもしれないが、個人的に話すと楽しい奴でもある。

言ってやれ!と激励が飛ぶと、満島は選挙前の候補者みたいに「まあまあ」と手を上げた。

「何だ満島、時間が減るとお前らが損をするぞ」
「先生、地球のやる事には誰も勝てません、ガツガツと抗っても仕方ないし、ここは大きな心で無かった事にしてはどうでしょう」

「土曜日に登校したい奴はほざいてろ」

また「え~~……」と賛同と抗議の声が飛んだけど、数学を担当している担任教師は山下とつるんで遅刻の取り締まりを楽しんでいる一派だ、生徒を抑え込むのが上手く、「終わらなかったら全部宿題な」と、一言で全員を黙らせて、辞書みたいなプリントの束で教卓を叩いてから「ん?」と二度見した。

「何だこれ」

「……あ……」

君継の濡れた靴下を回収してなかった。
デカデカと「君継」って書いてあるから知らないふりは無理だ。

「きみつぐ……って汚い字だな、深森のか」
「すいません、濡れたから干してます」
「おいおい、安倍は深森のオカンみたいだな、全く……お前ら高校生にもなってどんだけはしゃいでるんだ」
「はあ……」

仰る通りですが「お前ら」は、やめてください。
今、このクラスで濡れているのは君継だけです。

教師も笑っているだけで何も言わなかったが一応教壇だし、プリントが濡れたら文句を言われそうだったから回収しようとすると、今、丁度、立ち上がっていた満島がさっと泥水に塗れた靴下を取り上げた。

「おい!ちょっと何するんだよ」
「何って決まってるだろ、汚いから捨てといてやるよ」
「おい!あっ!」

止める間もなく教室の後ろにあるゴミ箱に向かって投げられた。
教壇の側から教室を横断した濡れた靴下は飛沫を飛ばし女子から悲鳴が上がった。

「ナイショッ!」

綺麗にゴミ箱に入った靴下に誰かの声援が飛んだ。

サイテーとか上手いとか笑いが起きる中、君継が黙って立ち上がりゴミ箱に歩いていく。

「ああ!悪りぃな君継、園の人は靴下が雑巾になってもまだまだ履くんだよな」
調子に乗った満島の言葉にまた笑いが起こった。

何故笑えるのか不思議だ。
笑ってる奴も文句を言ってる奴も何も考えてない、集団になると烏合と化すのは何故なのだろうといつも思う。

「やめろ」と言いたいが君継が何も言わないのに口を出したら悪化する。それは何度も何度も繰り返された光景なのに……

「あれ?満島のペンケース端っこが破れてんじゃん、「汚いから」捨ててやるよ」

「あっ!おい!安倍!」

満島はまだ教壇の横に立っている。

ゴミ箱は今正に君継が靴下を回収しているし、と周りを見回すと、窓際の女子がガラス戸を開けてくれたから外に放り投げてやった。

「ナイショッ!」

同じような掛け声と笑い声の内容はさっきと同じ集団心理なのだとわかっているが、やっぱり一泡吹かせてやったと胸がすいた。

その場は遅れた授業分を取り返したい教師の仲裁と一喝で有耶無耶になったが……

これは失敗だった。

雪玉に石を混ぜた桧山は、あの時確かに「やり過ぎた」と青くなっていた。
君継がもっと、所謂「被害者」って顔をしてくれたらいいのに、ケロっと復活したから許されたような気になって平気で絡んでくるが、もう高校生なのだ。

いい加減に大人になって欲しいし、何より……小さな事でも、こんなくだらない事で君継に傷付いて欲しくない。

君継自身が頑張って無視しているのに仇になる様な真似をすべきじゃなかった。

大方が味方に見えるクラスメイトも、敢えて言えば教師達の中にも、差別とまでいかなくても親が漏らした一言を、世間の根底にある「君継の家は普通ではない」って感覚に賛同している。

それは満島や桧山に取って後ろ盾に近いのだ。

ちょっと気不味いとか、嫌われたかも、なんて個人的な問題は置いといて暫くは注意しなければならなくなった。

そして、やっぱりと言うかそうだろうなって言うか……反君継勢力(幼馴染の友達なんだけどね)を無駄に煽った末の仕返しはその次の日すぐに来た。
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