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何者2

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「君は誰?」

「あんたこそ誰だ」

橋下は質問に質問で答えたが、今「八雲」と呼んでいたくせに「誰だ」って………どういうつもりかわからない。
橋下は冷静を装った透明な仮面の下に感情を上手に隠し、何を考えているか見えないのだ。

もそもそとシャツで拭いてから手を出した八雲もわからない。

「八雲壱条です、よろしく」

このやり取り……どっかで見た。

しかし橋下はどこかの馬鹿な奴みたいに手を出したりはしなかった。

「あんた人間じゃ無かったんだな」
「はあ?お前何言ってんの」

そんな場合じゃないのに、あまりに突飛な一言に素で突っ込んでしまった。
八雲は眉一つ動かさないが、冷酷とも言える目付きは冷え冷えと尖り、冗談を軽く飛ばす雰囲気ではない。

「お前な、時と場所を選べ。そういうのはまた今度にしてくれないか?……ってか自分の教室に帰れよ」
「安倍先輩はこの異様な空気を何も感じないんですか?」

「いや……それは……」

確かに……空気が揺らぐような、背中が怖いような、振り返ってはいけないような、脅迫じみた冷気は感じるが、こんな状況では当たり前に思える。

「人間じゃない」なんてサラッと真面目な顔で言われても同意出来るほど無邪気じゃない。
ふざけてるのか、何かの比喩かわからなくて困惑していると橋下は「ふーん」と物珍しいものを検分するような声で淡々と続けた。

「こんだけ変な感じなのに鈍感ですね」
「鈍感かもしれないけど常識はある」
「安倍先輩の常識は幸せな人の常識です。俺は嫌なのに幽霊とか見えちゃうからわかるんです」

「……俺だって爺ちゃんを見た事あるけど…」
「そりゃ爺ちゃんなら見えるでしょう」

「…………いや……そうじゃなくて…」
「うちにも爺ちゃんがいるけど普通に蜜柑食ったりテレビ見て居眠りしてますよ。見える人と見えない人がいる程爺ちゃんは器用じゃありません」
「だから違うわ馬鹿、死んだ筈の爺ちゃんを見たの……多分だけど」

「何だ、つまんないな、それならそう言え」って……生きた爺ちゃんと死んだ爺ちゃんを横に並べて、当たり前に比べる辺り橋下はとことん変わり者らしい。

意味不明な事を勝手に喋って勝手に終わって八雲に向き直った。


「この血……あんた何だ、答えによっては…」

ジリっと下がった橋下は倉庫の中に乱立している1とか2の旗が付いたポールを、八雲を警戒するかのように後ろ手で台座から抜いた。

「おい……橋下?」

冷めているようにすら見えたのに……実は激昂しているのか?そう言えば一番最初に満島をボコボコにしたのはこいつだった。

八雲をボコボコにするのは賛成。
漸くこの変な後輩と意思疏通が出来た気分だ。

遅れてポールを握ろうとすると呆けたように宙を見つめていた君継がゆっくりと頭を動かしてカスカスの声で小さく笑った。

「橋下……大丈夫だから……」
「深森さんは相変わらず馬鹿ですね、そんな也して何を呑気に笑ってるんですか、俺達が来なければもう駄目だったかもしれないでしょう」

「馬鹿って言うな、そうだよ、八雲は人間じゃない、吸血鬼だけど殺されたりしないから、な?広斗」

「な?」って軽い調子で同意を求められても困るし、またそれか……と、思ったら。

「そうかなって思ってました」

?!

すんなり賛同した橋下に驚いた。
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