ストーキング ティップ

ろくろくろく

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初犯では・・・ない?

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「蓮」
「は……はい」
「好きです、付き合ってください」

てっきり、この一連の流れに言い訳をしてくれるのかと思ったら何だ。

「……………まだそれですか…」
「本気にしないんだ。」
「出来ません、何回も聞きますが一体何がしたいんですか」
「え?!何って……そりゃ…まだ早いけど、いずれはイロイロと…ほら…欲しい…と言うか…」
「何が欲しいんですか」

「………体……」

ポツっと出てきた呟きに自分でもビックリしたのか「違ぅ!」とか「それもある」とか「言っちゃった!!」って手をバタバタさせて、そのままひっくり返って足までバタバタしてる。
どんな使役をさせるつもりか知らないけど適任は他にいるだろう。

「体って言われても俺は体力無いし、力仕事をする気はありません」
「違うから、体って体も欲しいけど蓮が欲しい、全部欲しい、外に出したく無い、誰にも見せたく無い、手の中に包んで持ち歩きたい、嘘みたいだけど非現実的な恋愛小説みたいな気持ちになっててもう自分でも手に負えない」

「……恋愛小説?……何言ってるんですか」

初めは飲み会の余興に使われたと思ってた。
しかし、2人きりの今それを続けても意味が無いのはわかる。多分だけど演技じゃ無いだろう、クリスが必死なのもわかる。しかし、あまりの挙動不審に加えて意味不明の言い訳をされたらこの非常識な現状に益々混迷は深まっていくばかりだ。

「……何を言いたいのか…わかりません」
「好きだ、付き合って欲しい、蓮が欲しい、他に言いようが無い」

スッと立ち上がったクリスは背が高くてこの全てがミニマムな安い部屋の規格に合ってない。何だか思い詰めたような顔をして寄って来るから思わず仰け反って距離をとった。

「何もしないから…抱きしめてもいい?」
「……締めないでくれると助かります」
「緊張してるから……締めたらごめん」
「ごめんって…ちょっと……」

広がった長い手が迫ってくる。
飛び上がって避ければ逃げられるくらいゆっくりだけど混乱した頭の回転が追い付かずに捕まってしまった。

「好き」「好き」と囁く声よりも、振動が伝わってくるくらいクリスの鼓動の音が大きくて歌ってるみたいだな……なんて呑気に考えていた。
しかし、締めないと言ったくせに締まってきてる。

「あの?…クリスさん?……」
「クリスでいい、ねえ、このまま……色々しちゃ…駄目…かな…」
「色々って?」
「………キス…とか?……」
「は?」

ハッと首を引いたら鼻先が触れそうな距離にクリスの顔があった。
こんな綺麗な顔が間近にあったら男女不問全年齢対象で慌てると思うけど、それよりも目と口が四角になったクリスにびっくりした。

「違……違うから今の無し…」

あわあわと振り回す手は口を覆ったり頭を抱えたり忙しい。見えてないけど見えたんだ、魂だけが飛び上がって抜けそうになってバウンドしている。ここまで誰かが動揺する姿は見た事なかった、白くなったり赤くなったりの百面相はもう既に名人芸だ。

「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃ無い、でも早いよね、これは早いよね、いいけど、俺はいいけどあんまりがっついて不誠実だと思われたく無いからしないよ?!」

「でもせっかくだから」と形のいい唇がチュッと頬を吸った。
そのまま抱きつかれたからクリスがどんな顔をしているかは見えなかったけど、そこで漸く、この一連の不審な行動が何を意味するのか、何をしたかったかを悟った。

「……え?……付き合って……って……」
「一緒にいたい、同じ物を食べて美味しいと言いたい、同じ物を見て笑いたい……」
「はあ……」

好きだと言われた。
付き合って下さいとも言われた。
しかし、額面通りに受け取る程間抜けじゃ無いつもりだ。遊ばれてるんじゃ無いにしても何かの比喩だと考えるのが普通だ。
例え、普段からクリスに手を振るファンの女の子だってこんな風にいきなり告られても信じないと思えた。

まともに話したのはたったの1日だ。
ただでも対人スキルが枯渇した生活をしている中で、突然部屋に上がり込んでいる有名人を前にどう対処していいかわからない。
「ご飯を食べよう」と言って手を引かれ、座ってしまった。

そこで初めてコーヒーの匂いがどこから香ってくるのかを知った。部屋の入り口にあるコンセントで見知らぬ家電が湯気を立てている。

「あの、そのコーヒーメーカーは?」
「無かったから持ってきた」
「無かったから?……」

それは、一回来たら無かったから取りに帰ったって事だろうか?しかし、今は朝の8時前だ。クリスの家がどこにあるかは知らないが、早朝に大家さんを叩き起こして鍵を借りるのは不自然でしか無い。

「ちょっと待ってください、この部屋に入るのは2回目なんですか?」
「え?」

ふいっと目を逸らして、さっきも見た無垢な無表情だ。「いい天気だね」なんて突発的なカジュアルトークに誤魔化されはしない。

「いつですか?」
「そこはいいからさ、ほら、ブーランジェリー・ミカドのパンを買ってきたんだ」
「クリスさ……」

「ん」と言い切る前にまだほんのりと暖かいクロワッサンに口を塞がれた。
思わず噛むとサクッと解ける。


そう言えばブーランジェリー何とかってパン屋が大学の近くにあると聞いた事があったが、何でも一個300円とか400円とかするとか。
乏しい仕送りで生活する身の上の貧乏人には雲の上の存在だった。高級なパンはクリスの存在そのものと同じだなのだが、やはりコンビニパンとは一味も二味も違う。

「………美味しい……」
「そう?よかった、マーマレードジャムがあるよ、付ける?」
「じゃむ……」
「そう、これもブーランジェリーミカドの自家製だからきっと美味しいよ」

そう言って紙の袋から出て来た小瓶は実家でよく食べたアオハタの瓶よりずっと小さくて……小さいけどきっと倍ほども値段が違うのだろう。
コポンと音を立てて新品を開封したクリスは指でジャムを掬い取り「ハイ」と差し出してくる。

………口元に。

「出来ればスプーンか何かで掬って欲しいんですけど……」
「ケチ」

ケチでは無い。
ほぼ知らない人に指を舐めろと差し出されて素直に口を開ける奴がどこにいる。

クリスの勢いに押されて色んな疑惑が有耶無耶のまま朝ごはんを食べてしまったのだが……。

何が何だかわからないけど、何かの企みかもしれないけど、取り敢えず好かれてるって事は伝わった。
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