ストーキング ティップ

ろくろくろく

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知ってる方が変だから

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いちじくのケーキなんて初めて見た。
一瞬だけ見せた不機嫌なんて忘れたようにいつもより倍増しでにこにこしているクリスはどうやらいちじくを勧めたいらしい。

人の顔色を伺うなんてしたく無いけど、相手がクリスであってもなくても不穏な感情は怖いのだ。お皿に乗ったいちじくのショートケーキを受け取って白いテーブルの上に置いた。

「いちじくって……何科…かな?」
「か?ナニカって何の話?」
「正確な科目じゃなくて勝手なイメージ分けだけど瓜科とか林檎科とかバナナ科とか」

「科じゃ無いね」と笑うクリスに勧められるままデッキチェアに座ってからケーキの匂いを嗅いでみた。

「臭くは……ない」
「果物はバラ科が多いみたいだけどいちじくはどうだろう、嫌い?」
「嫌いとかじゃ無くて実はアレルギーがあって桃とかバナナとかメロンを食べると喉がおかしくなるんです」

「………アレルギー?」

噛み砕くようにもう一度「アレルギー」と呟いたクリスがポカンと口を開けた。

「あ、嘘じゃないですよ、あんまり聞かないけどちゃんと検査したんです、昔っからバナナの匂いが嫌いだったんですけどそれは自然と自衛してたんだってお医者さんが言ってました」
「明日……朝ご飯にマンゴーを用意したけど…」
「マンゴーは駄目です、バナナ、メロン、マンゴー、桃が1番酷く出ます」
「何それっ?!!!」

突然の大声に驚いて手に持ったお皿を放り投げそうになった。相変わらずキレ所がわからない。

「………びっくりした」
「びっくりは僕だよ!何それ!知らなかった!知らなかったなんてあり得ない!料理する時隠し味にフルーツ入れるよ?!肉に漬け込んだりするよ?!ソースに使う事もある!」
「りょ……料理した事あるんだ」
「無いけど!蓮の体の事なのに知らないなんてあり得ない!」

あり得るだろう。
予算の限られた食生活の中でフレッシュなフルーツを使ったスイーツなど買わないし、嗜好の話をする程親しい交友関係などないのだから親以外は知りようもない。
「まだ足りなかったのか!」と頭を抱えられても困るのだ。

「足りてます、十分です、むしろやり過ぎです」
「セロリが嫌いなのは知ってた」
「今更ですが一応聞きます、なぜそれを?」
「え?……摘み出してた…よね?」
「でしょうね」

セロリは嫌いなのだ。
ちょっと入ってるだけで全てを凌駕する臭いが嫌いだ、セロリの参加を知らないで不意に出会ってしまうと当然のようにつまみ出すが、嫌いなセロリが自己主張をしているメニューは選ばない。
つまり、同席しているくらい近くにいなければ、セロリとは認識出来ないだろう。
そして、近年でセロリとの未知なる邂逅を果たしたのは実家近くの中華で一度きりだ。

「あんな狭い店で……一体どうやって見てたんです…ですねしかも場所…」
「玉葱の真ん中も嫌いだろ」
「いや、嫌いって訳じゃ無いです」
「嘘だ、残してた」
「だからどこから見てたんです」
「そこはいい!足りて無いんだ!全然足りて無い!もっと一緒にいなきゃ駄目だ!!」

「もう丸3日程一緒にいますが………」

自分で言って自分で驚いた。
クリスとまともに話すようになってからまだ3日しか経っていないのだ。
それなのに部屋にお邪魔したり遊んだり……知りたくもなかった下半身の営みまで見ている。

これはクリスが凄いのか。
それともクリスが変なのか。
あれもこれも全部どんな反応をすれば正解なのかがわからない。

「ケーキはやめようね、次はお饅頭でも買ってくるよ」
「でも苺は大丈夫です、いちじくはクリスが食べたらいいじゃ無いですか」
「駄目、僕がいちじくを食べたら分けちゃうかもしれないでしょう」
「分けてくれなんて言いませんよ」

そもそも灰汁の多そうないちじくを避けたいからこんな話をしているのだと言おうとしたら「キスしたら分けるだろ」と見事なウインクをする。
どうやらキスが悪かったわけでは無いらしいがもう引っかかったりはしない。

「キスなんてしなければいいでしょう」
「彼氏の部屋に来たのに?」
「何にもしないって約束しました」
「え~……じゃあお風呂に入って洗いっこは?」
「しません」
「この際だからベッドで触りっこ」
「もっとしません」

ポンポンと間髪入れずに飛んでくる乗れない誘いはよくもそれだけのバリエーションを瞬時に作れるものだと感心しながら、全て「しません」で押し通した。

そんな風に夜は更けて行き、空が白む頃に少しだけ寝ることになったのだ。
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