2 / 15
口酸っぱいジーナ
しおりを挟む婚礼披露の宴。
私自身たくさんの布で包まれ、自分で身動きが取れず、周りを見ることもかなわなかった。
方々からお祝いの言葉が飛んでくる。
元々顔を覚えるのが苦手な上、屋敷からほとんど出なかった私には、招待客が誰が誰だかわからない。
布越しにシルエットが映る新郎が、方々から投げかけられるあいさつを引き取って返答をしていた。
深夜宴席を引き、部屋で新郎と2人きりになって初めてその顔を見た。
見覚えのある浅黒くてかっちりした顔。
その顔はバザールで私を追いかけて塀から引きずり降ろし、果物をつぶす原因をつくり胸をつかんだあの男だった。
後半の被害のイメージが強過ぎて、コインを拾ってくれた親切などすっかり抜け落ちている。
「やあ。あの時はごめんな」
男は長椅子にもたれ飲み物を手にし、何でもないように言う。
宴席で新郎に散々注がれていた祝酒。
既にかなり酔っぱらっているようだ。
顔が赤い。
「君の名前はなんて言うの? なんて呼ばれていた?」
戦々恐々としながら距離をあけ男を眺めていると名前を問われた。
名前には思いが含まれている。
親の期待や一族の発展などを願い、その子に相応しい名前を付けられる。それは一族の先達からの祝福であり、年少者への歓迎。
だけれど、私には何もない。
三の姫、時々、ソナの君と呼ばれてた。
ソナは庭先に勝手に自生する草花。
背が高く滅多に花をつけない、付ける花も小さく質素。
「三の姫か、ソナの君と。多分、私がひょろひょろで華やかさがないからだと……」
「どうして? そんなことはないのに。君は綺麗だし、それにソナの青い花だって可憐じゃないか」
私は男にそんなことを言われて困惑していた。強く困惑していた。
これまで、このようなことを言われた経験が無かった。なので、どのように振る舞ってよいのかわからなかった。
「君を見てから、君のことが頭から離れなくて、どうせ誰かと結婚しなくちゃいけないなら、俺は君がいいって思ったんだよね……」
あの転倒がよほど印象に残ったのだろうか。熱量の差に戸惑ってしまう。
「君がこの屋敷に来てくれてうれしい。俺の目の前にいてくれてうれしい……」
男はそう言って、そのままガクリと寝くずれてしまった。
吐く息からは酒の臭いが強く漂う。飲みすぎのようだ。彼は新郎として宴席に潰されてしまった。私は目に付いた掛布を男に被せた。
その晩に初めて聞いた新郎の名はテオドールといった。
**
テオドールこと、テオは優しかった。
私に屋敷内を案内し、出会う使用人一人一人に私を紹介する。
当然のように優しくされるので政略結婚である側面を忘れていた。私の父は王の弟。彼は元大臣の息子で、大臣は父の従兄弟。お互い婚姻相手として申し分なかったのだろう。
敷地の自分の好きな場所に案内された。木の枝の張り方が天に逆らう感じが好きでその下で逆立ちをしたとか、子ども時分に転がり落ちた井戸だとか、場所ごとのエピソードを伝えてくる。その一つ一つが場面場面を想像させ、彼の人となりを知ることができた。
婚礼の日は酔っぱらって長椅子で寝込んでしまったテオ。
翌晩には「一緒に寝る?」と問われた。
婚姻の成立の条件に新郎新婦は1週間同じ寝所で寝る、という決まりがあるらしい。式の直前にジーナに言われた。
「約束だから、何もしない」
テオはそう言う。部屋は2人きりで、どうなるかよくわからなかった。
「これはとても婚姻に大事な儀式です」と、あのジーナが何度も何度も口酸っぱく言う。
あまりにもしつこく言うため刷り込まれてしまい、拒否をせず従ってしまった。
異母兄たちには酷い扱いをされていた。父の母に対する振る舞いもあって男性自体が信用出来なくなっていた。
広い寝所で2人きり。
何かされるんじゃないかと多少怯えていた。約束を破棄されるんじゃないかと疑ったりもした。
結局その後の1週間、毎日一緒に寝ても何事もなかった。いびきをかく、寝相が悪いなど不快な事も何もなかった。広いベッドで横になって眠る。ただ、それだけだった。
最終日の晩からは別の寝室になる。それがなんだかちょっと寂しくて、テオが抜けた後の香りとぬくもりが残る寝具に手を触れ、指だけでも触れておけばよかったと思ってしまった。
10
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる