赤い果実の滴り

balsamico

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グリンゴ草

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私は唇に触れる。
テオが触れた唇をそっと指先で撫でる。そして自分を抱きしめる。
こうしているとあのグリンゴ草の匂いがふっと香ってくる気がした。


異母兄にされた時はぬるっとして、ただ、ただ気持ちが悪かった。
テオにされたそれは、顔は赤らみ胸はどきどきと早鐘を打った。
同じ唇をあわせるだけの行為なのに、何故これほどまでにちがうのだろう。


あれからテオは私を見かけると柱の陰や扉の裏に私を連れてゆき、身体を引き寄せ口づける。それだけで満足するのか、私を解放するとすぐに目的の場所に向かっていってしまう。


家令のリームと鉢合わせしてしまい、それら一部始終を目撃されたことがあった。


立ち去っていくテオをリームと二人で見送る。我にかえるとやたら気まずい。とはいえお互い無言では立ち去りずらく、だからといって今ここで何をしゃべってよいかわからなかった。

少し焦りながら乱れた衣服を整えていると
「今日はいい天気ですね」と声をかけられた。

屋敷の中は薄暗く外の天候はわかりにくい。多分、明るさの感じから今日は曇りだ。でも、これはきっとリーム自身が気を配ってくれた世間話に違いない。
「ほんとにそうですね」私も調子を合わせ二人で何も無かったことにした。


私の屋敷での生活は淡々と過ぎてゆく。
縫いとりは素敵なものができあがった。どこに使おうか悩むばかりだ。

リームと女中頭のハノンから、この家のしきたり、テオの親族関係、私も全く知らなかった王国の成り立ちや歴史を学ぶ。
それとともに、与えられた庭をどのような草花で埋め尽くすか図鑑や種とにらめっこするのにも忙しかった。


テオは相変わらず、私を見かけると抱き寄せる。
そのテオが遠征でしばらく不在になった。
抱きしめられる時に感じる力強さの欠落。テオが不在になって初めて、自分が寂しく感じていることに気がついた。

遠征から帰還時には長時間抱き潰された。
テオの唇は口から耳たぶ、喉元まで降りてくる。
いつもと違う熱。自分の内部から沸き上がるような奇妙な熱。新しい感覚に私は震えた。
ぞくぞくしたものが背中が駆け抜け、全身の力が、抜けて……いく。


そんな私に気がつかず、目を潤ませ切なげなため息を残し、テオは身を離して去って行く。


徐々に失われていくテオの熱。
それは私の中に伝播し、頬や胸、身体の奥底までもが熱を帯びた。


テオの熱を受け止めたいと思った。

私自身が熱をもっとほしいと思った。

私を熱で燃え尽くしてほしいと思った。


以前の私は、女としての身体を嫌悪していた。
でも今の私は、違う。
テオを受け止める女の身体がほしいと切に願っていた。





母が赤ん坊を産んだ。
ジーナから連絡がきて母の出産に立ち会った。


いまにもはち切れそうな腹になっても母の容姿に変化は無かった。ただ以前より少し顔がふっくらしていた。


妊娠が判明してからの母には医師が付き添い、腹の中に管で直接食事を送りこまれた。妊娠中には赤ん坊のために取らなくてはいけない食物があるらしい。


出産はかなり痛くて苦しいと聞いていた。
母はこんな時でも目を覚まさない。


母の股から大量の水が漏れだした。部屋は慌ただしくなる。
医師たちは母の身体を切り、腹から赤ん坊を取り出した。


血まみれで白い胎脂にべったりとまみれた、ところどころ青くて赤黒い赤ん坊。
赤子は何の音も発しない。
医師が足を持ちひっくり返して尻あたりを叩くと、赤子は大声で泣き出した。
赤子は男の子だった。


医師たちが急に慌てだした。
母の血は止まらず弱かった呼吸は更に弱まっていく。
父が呼ばれた。
父は母を見て泣いていた。
母にすがり付いて泣いている。
赤ん坊には目もくれない。

生まれたばかりの赤ん坊は父にとっては私と同じようなもの。父にとって母は特別な存在であって、私と赤ん坊はそれ以外の軽い存在に思えた。


私はジーナに手を引かれ、時が止まってしまった母の傍らに寄った。
青白く、真っ白だったけど、いつもの母だった。触れてみるとまだ温かい。


私のためにこの国に馴染もうとして、私のために沢山の歌を歌ってくれた。
私のこと思ってくれていた母。


もっと一緒に居たかったよ。
いろんな事を教えて欲しかったよ。
起きていて守って欲しかったよ。


いろんな想いが次から次へと溢れ出てきて自分の気持ちに追いつかなかった。





泣きながら屋敷に戻ると訓練場から戻っていたテオがいた。
テオは私を見ると何も言わずに抱きしめてきた。


テオには母親がいない。
若かりし頃に病気で亡くなったと聞いた。テオの父はその後、新しい妻を迎え、腹違いの弟や妹が生まれた。
今テオはその家族たちとは離れ、この屋敷で暮らしている。
この屋敷は母親の実家だったそうだ。


この人も私と似たような経験をしていたんだと思った。
私を見るテオの目は優しげだ。
また、涙があふれてきた。
私は自分からテオの身体に抱きついた。


その日はテオの寝室で腕に抱えてもらいながら一緒に寝た。
私は何も思わず、何の夢も見ず、新月の夜の海に沈みこむように、深くふかく眠った。

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