[完結]君は所詮彩り

balsamico

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2 聖人

北郷家 2

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役所と中学校に行って転校の手続きが済んだところで、暁生さんから呼び出しを受けた。


暁生さんに連れられて入った洋室に少し大きくなった至生がいた。
姉の葬式以来だから、かなり会うのは久しぶりだ。


見知らぬ北郷の家で至生の存在はとても心強かった。


また年下の子どもに慕われるというのは悪い気はしなかった。
なんとなく自尊心が満たされるし、彼らの手本になるため自分を律する心が働くからだ。

「至生、聖人くんだぞ。これから一緒に暮らすからよろしくな」

至生は取り組んでいるワームの組み立てから目を離さない。


暁生さんは困ったような顔をして俺をみる。

「麻耶さんが亡くなってからあんな感じなんだ。頼む、仲良くしてやってほしい」

仕事があるからと暁生さんは自室に戻っていく。
しばらく様子をみていると組み立てが終わったのか至生は俺の前にきた。

「父さんが言っていた人だ……」

俺を値踏みするように周りを一周しながら、じろじろみてくる。


これまでの至生は俺にこんな対応しなかった。
すぐに駆け寄ってきて抱きついていたのに。

「お前、何なの? 」

「何って……」

こんなことを言われると思わなかった。けんか腰の至生。


俺は至生の母の弟で、叔父。至生に好かれていたお兄さんだったのだけど。
そんな思いが喉元まで上がってきていた。


そんなことを言ったら馬鹿にされそうな雰囲気が今の至生にあった。
子どもなのに妙に強い目力にたじろぐと、至生はにやりとした。





後で思うとあの時の対面はマウンティングだった。優越的立場の誇示。子どもにされるとは。


ちょうど手頃な人材だったのか、暁生さんに至生の世話を頼まれた。
年が近いので兄のような立場で見守って欲しいとのこと。


みなしごで引き取ってもらっている立場の俺には、断る選択肢はなかった。


至生の世話をしていた秋田さんという初老の男性と一緒に至生の面倒をみることになった。


強気な反面、妙に子供じみた振る舞い。


かと思えば突然無表情になり固まる。
突然活動が停止し、空白化するブラックアウトみたいな現象。


苦痛が高まると自己防衛で意識がなくなるみたいだった。記憶も曖昧になる。


母親の事故の後遺症らしい。
通院も嫌がり、カウンセリングも行かない。


俺に対して行った強気な威圧的行動は学校でも行っているらしく、クラスでは目の敵にされているようだった。
きれいな顔でキツくて幼稚。


ただでさえ本人の忘れ物も多いのに、しまいには物を隠され、いろんな物が行方不明になっていた。



ある日、学校からぐったりと呆けた状態で帰ってきた。
その日の帰りは妙に遅く、着衣がところどころ乱れていた。


いじめでも受けていたのかと、けがの具合でもみようと服を脱がせてみると
背中や腰回りにぬるつく感触がある。


手につく液体の匂いを嗅ぐと嗅ぎ慣れた体液の臭いだ。
急いで全部脱がせて確認した。


尻などには裂傷や摩擦などはなく、掛けられただけのようだった。
服を脱がされ精液を掛けられている、そんな状況はかなり危険だ。


本人に問いただしても記憶はあいまいで要領をえない。
警察や学校に通報をし、今後警戒をするようにした。


秋田さんや家の人に手伝ってもらい、手分けして送迎をした。
至生自体が送迎を巻いてしまうこともあって手を焼かされていた。





至生との慌ただしい生活の中で、北郷の家のあれこれに耳をすます。
いろいろなことが見えたり聞こえてくる。


北郷の裏家業とか、暁生さんの愛人のこととか。

暁生さんには長年の愛人がいる。
話を聞いてから、探してみるとすぐにわかった。
暁生さんと常に一緒にいるあの人だ。
存在感の塊のような暁生さんの横にいるあの人。
気配がなさ過ぎて意識する前は気がつかなかった。


その関係は姉が嫁ぐ前からで、二人は夫婦同然だったらしい。


それを耳にしたとき俺はいたたまれなかった。
姉は、彼女の人生はなんだんだったんだろうと。
αの子どもを産むだけの人生だったのかと。


貧しいうちの家庭に生まれたからなのか、Ωだったからなのか。
両方だったからか。


北郷の家に住んでまもない俺でさえ知れる事実。


姉はもしかしたらうっすら知っていたのかもしれない。
夫に愛する者がいることを。
自分が跡継ぎを産むためだけに求められたことを。
実家が貧しくて戻ってこれなかったのかもしれない。


姉を想う。


握る拳に水滴が落ちる。
腹の中が熱くてどうにかなりそうだった。

「聖人」

至生の声がする。
この時間は歯磨きの確認だ。

「至生さん」

ノックもせず容赦なく部屋に入ってくる姉の忘れ形見。

「聖人、ちゃんと磨けたから見て」

小作りな鼻や口が姉に似ている。強い目は暁生さん似だ。

「あれ、聖人泣いてた?目が赤い」

姉の代わりに至生を守ろうと思った。世間から、北郷から。
母や姉達の分まで幸せにしようと思った。

「よし、よし、泣くなよー」

至生は歯ブラシを持ったまま頭をなでてくる。


俺はそんななだめが効く年齢じゃないのに。思わず笑ってしまう。


普段、反抗的で挑発的な至生が優しかった。
今の俺にはそれで十分だった。


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