[完結]君は所詮彩り

balsamico

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3 至って至生

至って至生9

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暴力描写、モブレ未遂あります。

   ――――――――


今日の昼休みは教室で弁当を食べた。先輩が居そうな屋上行きは無視。


抑制剤は3時間目後の休み時間と昼食後にも飲んだ。分包したのではなくて、2倍飲んだ。その所為か午後の授業はいつも以上に上滑りで、先生の解説は右から左へ抜けていく。


5時間目後の休み時間に先輩が教室まできた。対応した級友から呼び出しがきた。用件は多分ラノベ風にあらわすと"昼休みに俺が屋上に姿を見せなかった件について"だ。

「放課後、屋上にきて欲しい」

上級生からの呼び出しに周りの同級生から好奇の目が向けられる。

「北郷、何かやらかしちゃったとか」

「やってない。たいした用じゃないから」

席にもどると心配して一緒に付いて行こうかと言ってくれる奴もいた。クラスでは素っ気ない付き合いしかしてなかったけど意外と優しい。俺はちょっと嬉しくなる。


イヤイヤ上がっていた階段。
放課後、決着を付ける覚悟を持って上る階段。同じ階段を上るだけなのに感じ方も足どりも違う。


自分の中で先輩に会ったら何を言うべきか答えは出ていた。それをどう伝えればいいのか、そこはまだあやふやで、明瞭になってはいなかった。


階段からの扉を開けると西日が目に差し込んでくる。まぶしい。


日を避け目線の角度を変えると、その先には欄干に寄りかかる先輩がいた。そして相変わらずこの場所には他の人の気配がなく、また二人っきりだ。

「今日は教室で食べたんだ? 待ってたのに来ないから」

「……すみません」

一応相手が先輩だから謝る。でも一緒に食べるとか待ち合わせした覚えなんかないけど。

「あれ、今日はヒートのはずなのに、匂いが薄い」

「そうですか」

抑制剤ダブルが効いてるんだ。心の中でほくそ笑む。まあ、そんなことをしたとばれたら医者や聖人に怒られそうだ。


でも、何で聖人は怒るんだろうと、ふと思った。普段から聖人は俺のことでよく怒ってる。


今回のことでは、薬の規定量以上の服用で具合が悪くなることや副作用を心配して怒るんだろう。


学校からの通知を溜め込んで叱られたのも俺が学校生活で不都合を被るからだ。


聖人が俺を怒るのは心配の裏返しだ。
俺が困るような状況にしたくないんだ。
あとで後悔するようなこととかさ。


普通どうでもいいやつに嫌われてまで注意なんてしないし、そもそも心配なんかしない。それって俺は"どうでもよくない"存在ってことだ。


注意以外にも意志も尊重されてきた。
俺は今さら気がつく。今まで充分に大事にされてたし、愛情もらってたじゃん。


ぼやけてた視界がクリアになった気がする。

「こっちおいでよ」

魅力的な笑顔で先輩は側に来るよう誘う。昨日までのぼやけた俺だったら何も思わず従っていただろう。
 

俺は拒絶の意味で頭を横に振る。そして言葉でも拒絶する。

「行きません」

俺はいったい先輩の何を見てたんだろう。
垢抜けた容貌?
自信過剰な振る舞い?


この人は俺に好かれる為の努力を何かした? 
何もしてないよね。


先輩が好きなのはヒートの匂いがするΩやヒート中のΩじゃん。
それって俺じゃなくてもよくね?


そしてこの人のことを俺は好きか? って自分に問いかける。
その答えはとっくに出てる。


全然好きじゃない。


先輩は俺の態度に怒ったらしい。
急に反抗したように思えるんだろうな、違うのに。


先輩は俺の手を強く引き、階段裏の雨水管が走る壁に自分の身体で俺を押し付けた。

「なんで……昨日まで仲良くしてたよね?番が居ない同士、仲良くしようよ」

先輩は首筋に顔を埋めてくる。
顎をとらえて唇を合わせようとする。
俺は顔を逸らして避けようとしたけど、半分ねちゃりと触れてしまった。

「こんなこと、とか……こんなこともしたよね? 気持ち良くなって硬くしてた」

下半身に手を伸ばしてくる。触れられても全然気持ちよくない。

「ヒートだと、もっともっと気持ちいいんだ。抑制剤が切れたら中が疼いて欲しくてたまらなくなるよ」

残念ながら今の俺は気持ち良さなんて感じない。抑制剤の二重服用に、相手がいけ好かない先輩だからだ。


押さえつけから逃れようともがく俺の腹に膝が入った。苦しい、一瞬息ができない。その場で崩れ落ちうずくまる俺。


引き倒される俺の上に先輩が覆い被さってきた。痛みをこらえて下から片目で見上げた先輩の顔は鼻の穴が広がっていて変な顔だった。





「何やってるんだ!!」

ドアがばんと開かれ、聖人の怒鳴り声が聞こえる。
やっぱり大丈夫だった。聖人が迎えにくる時間だったから……来てくれると信じてた。


向こうで聖人と逃げようとする先輩が揉めている音が聞こえる。俺は身体が痛くてよく見れない。


バタバタ階段を駆け下りる音。先輩は逃げたようだ。
うつ伏せになっている俺を、慌てて傍にきた聖人が引き起こし顔をのぞき込んでくる。

「大丈夫ですか!?」

「……大丈夫、そうに……見える?」

「見えないですね」

今の俺はボロボロだった。





腹に膝打ちを食らった俺は頑張った。油断をしていた相手の腹に一発食らわしたのだ。でも哀しいかな腕力がしょぼい俺では大した効果は無かった。逆上させるという逆の効果がついてしまった。


先輩は多分いたずらするつもりだったんだと思う。ヒートのはずなのに発情していなかったし。催してない同性なんて、つまらないだろ。


予想外の俺からの反撃に攻撃性が強く出てしまった。俺は再度腹を殴られ、痛みで転がっているところ足に蹴りを入れられた。


もう抵抗なんてできないさ。
ぐったりしているところをやりたいようにされた。ズボンをひんむかれ、ブリーフも下ろされた。
その際、げ、ブリーフ、ダサって聞こえたのは忘れない。秋田さんと一緒に呪ってやる。


丸出しのちんこを握られた。
残念ながら俺のちんこはうんともすんとも言わない、素直で可愛いやつだからな。


先輩はズボンを下ろして自分の性器を露出させた。ぎんぎんのちんこ。俺はボロボロでみすぼらしい状態なのに、発情していないのに、今の俺相手に勃っているのが不思議でしょうがない。


先輩は俺をうつ伏せにした。そして俺の足を割り強引に自分の性器を押し付けた。


俺も自分でいじったことがあるから知ってる。あそこはヒートで発情している時以外は性器じゃない、排泄器だ。


先輩は俺のその排泄器にぶち込もうとしている。発情していないから全く濡れてない。それでも無理に入れようとしてくる。俺の頑なな排泄器は悲鳴を上げた。痛い。裂けそうで痛いって。


すりこぎを当てるように性器を一点にごりごりと当てられ続けていると、俺の頑なな出口も緩んでくる。力負けした中に何かが入ろうとしている。痛い。とにかく痛い。


そんな時に扉の開く音がして、聖人の怒鳴り声に続くバタバタと響く足音。俺は助かったと思ったね、うん。





聖人に服を直してもらいお姫様抱っこで車まで運ばれた。すげー恥ずかしい。
放課後でほとんど人が居なかったのが救い。


後部座席に寝かされると弾みでぶつけた蹴られた足が痛くて、「いちちっ」と思わず声を上げる。

「病院に行きましょう。相手が未成年だからって許せませんっ」

聖人は怒っていて車を直ぐに発進させそうだ。でも、病院に行く前に俺にはやりたいことがあった。さっき浮かんだことだ。

「……聖人、病院に行く前に静かな場所に連れてって」

聖人は大きな疑問符がついた表情を浮かべている。
本当はちゃんと説明したい。でも俺も今さっき片鱗に触れたところで、今、手を離したらそいつが逃げ出しそう。

「わかりました。海浜公園に行きましょう」

シーズンオフの海浜公園は静かだ。駐車場も完備していて、聖人にとって最終の目的地である病院にも近かった。


海辺に向かう道は舗装が悪いのか時々がたがた揺れて、俺は痛みで変な声をだす。
この車はサスペンションがいいはずなんだけどおかしいな。
その度に聖人は車を停めようとするので、それを制止するのに疲れてしまった。


窓から見える夕日。
太陽が沈まない時間がじりじり伸びている。
季節は俺の大好きな夏に向かっていくんだ。夏を好きな理由? だって、ずっと裸で居られるだろ。





車は海浜公園についた。
惑ごしに見上げる空には何の建物も入り込まない。ただ赤い夕日だけ。

「着きましたよ。ここは静かです。ここで、どうされるんですか?」

聖人はドアに手を掛けてる。

「聖人、車内から出ないで。このままで聞いて」

俺は横になりながら、つるっと逃げ出しそうな気持ちの尻尾を押さえつけていた。それに夕日の差し込みがまぶしい。

「俺、前も言ったけど、聖人が好きだ」

「?? ……、ありがとうございます」

突然の俺の告白に聖人は戸惑っている。
今はそんな状況ではないからだ。

「いいから、最後まで聞いて」

俺はここ最近考えていたことと、今日、気がついたことを話し出した。





聖人はいつも俺の傍にいてくれた。
優しい目で見ていることも、俺に対して困ったという顔をしていることもあった。
怒ることもしょっちゅうで、俺に厳しいノルマを課すこともあった。


そんな聖人に俺は文句を言う。
ぶーぶーと。でも、聖人の行動や言葉の裏には、俺が社会で爪弾きされないためのマナーを身につけ、よりよく生きて欲しいという願いと愛情があった。


俺が困ったら助けてくれる聖人。
時には遠くから見守ってくれる聖人。


一緒にバカないたずらをやった時の聖人の顔。共犯者になった時だ。
真面目な顔を崩して困りつつも少し面白がっていたのを俺は見逃さない。こんな顔もするんだと思った。


俺は聖人とずっと一緒に居たいと思ってた。母親や兄弟代わりの甘えかと思ったこともあったけれど、それだけではなかった。


聖人が悲しんでいたら気持ちを和らげて笑わせたいと思う。守られているのは当たり前だったけど俺のそばに居るときは少しでも気持ちが楽になって欲しい。


聖人の笑う顔が好きだ。俺のそばにいて笑っていて欲しかった。
でもそれは俺の中の思いでとどまっていた。


俺が聖人から受けていたのは惜しみのない愛情。それに対して俺は聖人に愛情のある行為を返してないし、気持ちすらも伝えてもいない。軽い冗談口調なら言っていたと思う。でも、本気で伝えてはいなかった。その本気の気持ちが俺の逃げそうなモノの正体だ。


「聖人はいつも俺を守ってくれた。だから自分らしくいられた。いっぱい助けてくれてありがとう。
ガミガミ言って嫌われるのって嫌な役割だよね。やりたくないよね。
聖人、俺の為に言ってくれたよね。俺いつもうるさいとしか思ってなかった。今頃気がついた。本当にありがとう」

聖人は少し驚いたみたいだったけど黙って聞いていた。

「俺さ、シールが増えないことに気が付いて絶望したんだよね。たかがシールなんだけどさ」

聖人は訂正したかったのか口を挟んだ。

「シールは」

「うん、知ってる。俺、まーちゃんに相談してたんだ。聖人と番になりたいって。速攻、笑われたよ」

「真砂さんは何と?」

「俺はそのままでいいって笑ってた」

聖人は??? だらけの顔をしていた。聖人でも、まーちゃんの意図は読めないらしい。

「シールはまーちゃんが作ったんだろ。俺が出来なくて放棄することも絶望することも、全部見越してたんだ。俺、聖人と番になりたくて勉強頑張ってたのにな」

聖人は黙って聞いている。

「そんな折、近づいて来たのが、さっきのあの先輩。俺、自暴自棄になってたんだよね、多分。そこをつけ込まれた。
あの人はαだから、何か特殊な能力があったのかもしれない。いつの間にか人払いされてたし、俺にも何か操作されていたのかも。へんな感じの仲になってたし」

聖人は何か言いたかったのか無理やり口をつぐんだ気がした。

「でも、俺その時、気がついたんだ。聖人以外とこんなことしたくないって。
それでヒート狙いの先輩を拒否ったら、ボコられちゃった。
あ、でも腹にパンチ一発決めたよ。へにゃへにゃだけどさ。中も少ししか入れられてないよ。あ、抑制剤も切らしたりしてないからね。だからヒートにはなってないよ」


何か言い訳じみてるなって思いながら続けた。
少し前だったらやられても気持ちよければ先輩だってバッチ来いだったと思う。


「自分を大事にしないことは、俺のことを大事にしてくれる人に対して失礼だと思ったんだ。聖人や家の人とかにさ。
だから改めて思う。これまで大事にされてきた意味だとかさ」

聖人も秋田さんも悲しむんじゃないかな。俺が自暴自棄になって痛めつけていたら。
俺はようやくまとまった自分の思いを、熱を一つ一つを言葉にしていく。

「俺は聖人からいっぱい大切にしてもらっていたのに、その愛情に何も返せてない。だから、こんな状態だけど本当の気持ちを伝えようと思って。
俺は聖人が好き。聖人と番になりたい。ずっと一緒に居たい。
こんなにボコられて酷い状態にならないと言えないなんて、カッコ悪すぎるよな……」

俺は差し込む夕日が眩しくて腕で顔を覆っていた。俺が話し終えたあとしばらく聖人が何も言わないので腕を上げて前席をのぞいてみる。


よく見えないので痛みを堪えて体勢を起こしてみると、シートにもたれた聖人が泣いているようにみえた。俺は再度痛みをこらえて静かに身を倒した。


その後しばらくしてから、怒りモードで病院に連行されたので、単に俺の気のせいだったかもしれないけど。

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