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5 揺らぎの少年
揺らぎの少年 2 反発と憧憬
しおりを挟む夏休みになると我が家に三智がやってくる。
俺は彼より年上だし、ホストとして大人であろうと心がけていた。
家で肩身の狭い思いをしている可哀想な少年をやさしくいたわってあげなければならない。俺って大人だから。
多少の不自由があるだろうけど我慢できる俺って、すんごい。
今日の昼飯には俺の好物じゅんさいジュレの小鉢が付いていた。ジュレのさりげない酸味とじゅんさいのつるつるした喉ごしとぷつんとした食感がたまらないのだ。
会食の場で出会い恋に落ちてから家でも用意してもらっていた。
渋い趣味と散々言われたけど、好きなものは好きなのだ。
おかわりをねだる俺用にと秋田さんはいつも余分に用意してくれていた。
じゅんさいの小鉢が含まれた食卓を前に俺は勝手にご機嫌になる。
「これはのどごしがつるんとして美味しい。こんな美味しいものをはじめて食べました」
三智は秋田さんにじゅんさい褒めちぎっている。うんうん、そうだろ。俺もそう思う。
料理を褒められて嬉しそうな秋田さん。
三智に小鉢のおかわりを勧めていた。じゅんさいは三智の家や地域ではめったに食べない食材なのかも知れない。単純に珍しいのかも。
俺は、お代わりは全部俺の分と言いそうな気持ちをぐっとこらえた。三智は客だし、俺は三智より大人なのだ。
三智はじゅんさいジュレのお代わりを2回、俺はお代わりを1回食べた。
これ以上俺がじゅんさいを欲しがると遠慮という名の強制供出になってしまい誰かの分が無くなってしまう。それを防ぐ為に俺は我慢をする。俺には大人の分別があるのだ。
俺の胃袋に入る予定だったお代わりの大半を三智に奪われてしまった。
大人な俺は、今回は仕方ないことだ、また次があるさと言い聞かせ、食卓を片づけていたら、三智がやってきた。
「さっきのぬるぬるのやつ、あれって至生の好物だろ。あんなの何で好きなの。食感だけで味ないじゃん」
俺は衝撃を受ける。
あの秋田さんに対する三智のじゅんさい上げ上げ発言はなんだったんだ。
俺のお代わりは……。
「……あのつるつるの、ぷるぷるの、つるんとした食感が、……いいんだ」
俺は動揺してしまう。
目の前の三智の裏切りに心はいっぱいだ。
さっきまでじゅんさい美味しいって言ってたくせに!
それに、こいつ、好きでもないくせにじゅんさいをお代わりしたのか。
しかも俺の好物ってことを知っている。
すげー感じわるい!
「至生って、いつもつるつるとかむにゅむにゅとか擬音ばかりだよな。幼児なの?
しかもあの、じゅんさいってやつ絶滅危惧種なんだってさ。あんたが食べ尽くしたんじゃないの」
幼児、絶滅……あまりのひどい言い草に俺は動揺して何も言い返せない。
「ごちそう様でした」
三智は俺に言い捨てたあと台所にいた秋田さんに愛想よく声を掛けて軽やかに自室へ戻っていった。
「……あいつって何なの?」
残された俺はぶ然とするほかなかった。
*
聖人と三智がしゃべってる場に出くわした。三智の家人の近況を伝えてるよう。
三智が笑顔を聖人に向ける。
聖人も笑顔を浮かべている。
三智は洗面所から出てきた俺を横目でちらりと見た。
確認して、更に聖人に親しげに話しかける。腕までつかんでるぞ。
その現場に出くわした俺は、いったん廊下の角に引き下がって、角ごしに姿を隠していた。
様子をうかがいながら俺はなんだかむかむかしていた。
入ってはいけない邪魔しちゃいけないような雰囲気を二人に感じてムカついている。
聖人に近づかれて嫌なのに、現場を回避して邪魔をしない自分自身に腹をたてていた。止めさせないことは消極的賛成と同じことだ。でもそれは俺の意志とは違うんだ。
聖人も三智に対し嬉しそうに対応しているようにみえた。
「なんだよ、みっともないよな。でれでれして」
三智は前髪が重くて伏せ目の黒目の美少女みたいだ。男だとわかっていても目の陰りや赤い唇、白いうなじなどに何かときめくものがある。
彼らが単なる叔父と甥の関係だって分かってる、けど、なんかむかつく。
叔父と甥の関係なら俺と同条件じゃないか。
俺の方が聖人とずっといたんだぞ。
おねしょの始末もしてもらってたし、ヒートの時も一緒なんぞ、ざまみろ。
独りでやたらと悪態をついた。
俺を小ばかにし見下す三智の態度に腹を立てていた。
秋田さんや聖人の前では良い子の振りをするのがむかつくし、人によって態度をかえるのが凄いむかつく。
そして今度は俺の聖人にすり寄り媚びやがって。むかつく、むかつく!
俺は廊下の壁から怒りを飛ばしていた。
*
「至生ってA検定2回落ちたって本当?」
「それが、どうした? ちゃんと3回目に受かったぞ」
「僕は1回で受かったし、小5で取った」
「そうですか、よかったな、それに至生って呼び捨てにするな。至生様って呼べ」
「やだ、自分よりバカな人に敬称なんて付けたくない」
三智はにやにやして言う。
とてもきれいな顔のはずなのに俺に向ける顔は醜悪に見えた。
もう、三智と話したくない。
三智と話していると話はいつの間にか俺のことを下げる内容になっている。
三智は俺を見かけると寄ってくる。
大人であろうと頑張る俺を怒らせ、ガキ領域に引きずり込もうとする。そのことを楽しんでいるようにも思えた。
「何で聖人は、あいつに優しいんだ?」
「あいつって三智ですか。優しい? 普通ですよ」
「あいつ、俺には意地悪してくる」
「身近に年上の同性がいないので至生さんに甘えてるんですよ」
「俺、あいつに優しくできないよ。あいつ俺に意地悪ばっかりしてくる」
「まあ、意地悪なんて、まだ子どもなんでしょうね」
聖人はそう言う。
言外に君たち意外と子どもなんだね、相手は子どもだから我慢してねと言われた気がしたけど、俺は我慢したくない。
酷いことには酷いって本人に言う。
相手が子どもだからって関係ない。
人を踏みにじるのは誰だって駄目だ。
食堂で出会った三智を捕まえて言う。
「お前、凄い感じ悪い」
「気のせいじゃない?」
「気のせいじゃない」
「過敏過ぎない?」
はぁ。あれが過敏? 三智のねちっこい絡みに気がつかないのが普通ってか? あり得ねー。
「理由はわからないけど、おまえは俺を目の敵にする」
「あのさぁ、何で僕が至生に絡むわけ?絡むメリット無くない?」
「そんなのこっちが知るもんか」
「至生になんか興味なんかないよ。なんで興味を持つと思う?自意識過剰じゃないの?」
俺は口が回る三智にとっさに言い返せずただ立ち尽くす。投げつけられた言葉で心がささくれ沈下していく。
三智が俺に向ける言葉の奥に潜む反発や憎しみに触れると、俺の視界の色彩のトーンは落ち、世界の彩りは淡く薄らいでみえる。
俺は自分の知らないところで三智に対してやらかしてしまったのではないか、絡まれる原因が自分にあるのではと自責の念にかられていた。
俺が責められる理由など何も見当たらなかったのに。
後日、落ち着いてから考えた。
三智が俺を責める理由があるとすれば、それは俺が「知らなかったこと」に尽きるのではないか。
俺と聖人が一緒にいるところや、屋敷内でいちゃついているとこも見られていたらしい。俺はそれを知らなかった。
単に生意気なガキだった三智の態度がそれ以降に変わったことも俺は知らなかった。
当時の俺は三智には大して関心を持っていなかったのだ。
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