[完結]君は所詮彩り

balsamico

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5 揺らぎの少年

揺らぎの少年 6 X

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姿が見えるぎりぎりの距離からそっと見る。公園に3歳くらいの女の子と少しよちよち歩きの小さい男の子といるその人は、しゃがみこんで一緒に笑っていた。


何を笑ってるんだろう。
その場に俺もいたくなって、その人らに俺のこと認識してほしくて、木陰から足を踏みだした。


あれから数年が過ぎた。
目の前の至生からは顎あたりの丸みがとれたのか大人びた印象をうけた。動きやすそうなラフなTシャツとチノを着たその姿は機能重視の生活の匂いがする。


幼い子はおもちゃを何度も放り出し、至生はそれを拾っては渡していた。子どもはその動作の繰り返しが楽しいみたいだ。


近づくと顔を上げる至生。
そこに俺の顔を認めると固まっていた。
そして、慌てて子どもの手を引き自分の周りに寄せた。


華やかな目が伏せ目になって、再度俺に向けられた時にはきつい眼差しにかわっている。俺は目の前の至生に勝手に胸が熱くなってしまった。

「……久しぶり」

俺のあいさつに至生は何も答えず子どもたちを自分の背後に寄せた。


俺は背後の黒髪の女の子に目を向ける。
あのときの子なら年齢的にこの子だ。色白で目がりりしくて至生に似ている。
けれど、何となく俺にも似ている気がする。それに聖人の面影があるように見える。なんにしろ俺たちは親族なんだから。

「あのときの子?」
「違う、聖人の子」

にらみつけられ即座に否定された。
至生からはほんの微かにいい香りがした。
ヒートが近いのか、抑制剤を飲んでいるようだ。


匂いに気を取られるとそのままふぅっと吸い込まれそうになる。匂いにもうちょっと触れたい、匂いに惹かれ一歩前に踏み出すと、即座に後ろに下がられた。

「俺に近寄るなっ。もうお前を見たくない」

俺の好きだった人が俺を拒絶し嫌そうな表情を浮かべてる。
悲しみが急激に足下から湧いて出て頭のてっぺんに到達する。


前々からわかっていたけど、わかっているけど、この人の中に俺の居場所はない。現実を突きつけられ、少しだけ残っていた非現実な甘い思惑は無残にも散った。


俺は漂っていた苦い空気みたいなものを飲みこんで、答えた。

「……わかった。そうする」

俺の撤退表明に至生はほっとしたのか表情を緩ませていた。
その様子があからさま過ぎてむっとする。そこまで毛嫌いしなくても。
ここに隙が出来ていた。俺の話を聞いてもらえそうなタイミング。俺はこの隙を最大に利用した。

「俺、あんたのこと……ずっと好きだった」

至生が俺をみてひゅっと息を飲んだ気がした。

「……あれ、後悔してないから。………俺にはさ、……夢のようだった」

思いと息を溜めて溜めて吐き出した。


場の時が止まり、至生の眉は下がって瞳が揺れた気がした。そのまま泣きだすのかと思った、まぁ、それは俺の願望だけど。


俺はそれを告げると至生たちを目に入れないようにターンして早足で駅に向かった。
もうこれ以上言う事はないし。あの泣きそうなイメージを俺の中に焼き付けたなら、それでいい。もう、これでおしまい。


この地域にいるのは今日で最後だったから遠くからあの親子を一目見ようと思った。
この場所にはすでに何回か来ていて、下の子の名前も、この公園に遊びにくる時間帯も知っていた。まるで軽いストーカーみたいだ。


至生の中で俺の事はすっかり消えてなくなり、幸せそうに見えた。


この地にいるのが最後だと思うと無にされているのが急に苦しくなった。
俺のことを無視しないで、無かったことにしないで、俺の事を思い出して、少しでもいいからもがいてよ、って。


自分の爪痕を残すために感情をぶつけ相手を乱すことを期待した。
俺の話に嘘はない、俺は昔から至生が好きだったから。


聖人といちゃついているのを見たときは、嘘だと思ったし、キス後のだらしなく蕩けた顔とか俺も至生にあんな顔をさせたいと思ってしまった。


それが、至生に抱いていたぼんやりとした好意が性的なものと気づくきっかけだった。
それ以降は二人を見るとぎりぎりとした苦い思いを抱く。それは切なさと悔しさと置いて行かれた感が混じった複雑な感じで。聖人と至生は番だったし、年齢も下過ぎて、後から出てきた俺の入る余地なんてなかったんだ。


俺はあの匂いでぶっ飛んだ。
俺に反応するはずのない至生のヒート。


あの日、俺の下で快楽にむせび泣く至生。分け入った濡れた熱い肉の感触。
打ちつけるたびに肉が絡みついて俺を締め付ける。俺の動きと連動する至生の甘い吐息。俺は夢中になって何回も何回も出した。
地べたがむき出しでも、足の痛みなんか気にならなかった。後でみたら膝の皮はむけていた。


あの感触であの後、何回抜いたことか。多分何百回抜いた。
あの匂いを思い出すたびに腰奥にずくりと発生する欲望は今も俺を圧迫する。



立ち去る前に吐き捨て相手をかき乱すことを目的とするなんて自分でも卑怯なやり口だと思った。
長年の自主訓練でほんの少しの匂いを嗅いだだけでも腰は熱くなる。事象が起きる前に去らねばならなかった。


在来線に乗って基幹駅に向かう。
俺はここを抜け出して別の街に行く。
俺の知らない過去が俺にわんわんとついてまわる、こんな場所もう、うんざり。





俺と至生のことについては事故扱いとされていた。俺の第二の性が診断前で無自覚であったこと、番のαにしか反応しないはずの至生が俺に反応してしまったという理由だったと思う。
血縁だから反応する、聖人とも血縁で俺たちのにおい自体が似ていたという理由もあるかもしれない。
それでも加害をしたのは俺で、俺の親は至生に慰謝料を支払っていた。


義母は父親と俺の行動が一緒で血筋じゃないかと陰口をたたいていた。俺が事件を起こしたのは俺の生まれが生まれだからってさ。
お前なんか死んだらいいんだ。くそババぁ死ね。




あのあと至生は子どもを生んでいた。
その子は聖人の子どもということになっている。
いつか顔をちゃんとみて、話をしてみたいなと思っていた。
俺と至生の子どもだから。


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