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第五話 あの後
しおりを挟む昨夜、あの場から走って家まで逃げた和彦は、幸いなことに人にすれ違わなかった。魔法少女スタイルで全力疾走している姿は目撃されたら奇異の目で見られただろう。
自分のアパートの扉前までたどり着いた和彦は慌てることになった。
「鍵!鍵がない!」
姿が魔法少女になってしまって一緒に鞄もどこかにいってしまったのだ。
「なあ、オレの鞄どこいったんだ?というか、オレの服とかもどこいったんだ?」
走っている間和彦の肩にしがみついていた不思議生物は当然のことのように答える。
「ブローチに格納されてるぽよ。ブローチを握って念じれば出てくるぽよ。」
言われた通りにやってみると何もない空間にポン!と鞄が現れた。もういろいろなことを置いておいて、自分だけの空間に逃げ込みたかった和彦は鞄からキーケースを取り出して部屋に入る。
鞄を机に置き、コップに水道水を注いで一気に飲む。
見た目はコスプレ美少女だが、仕草は完璧に仕事終わりにビールを飲むおじさんだ。飲んだのは水道水だが。
「ぷはーー、それでさっきの敵?ってなんなんだ。というか、お前も一体何者なんだ。魔法少女っていうのも説明してくれ。」
まだ魔法少女の姿だが、いつも寝起きする空間に入って気持ちは落ち着いてきた。そうなると怒涛の展開について行くのに精一杯で一旦置いていた疑問が噴出してくる。
「あれもこれも教えてくれと我儘なやつだぽよ。仕方ない、教えてやるぽよ。」
なぜか偉そうな様子の不思議生物。
腕を組み和彦の目線のちょっと上まで浮かび上がり見下ろしながら話し始める。
「僕のことはぽよちゃんと呼ぶぽよ。正式な名前はこの地球の人間には言えないぽよ。」
「この地球ってことは、えーっと、ぽよちゃん?は地球外生命体ってことか?」
「そうぽよ!僕の住む星はこの地球よりも発展しているぽよ。何光年も先にある地球にやってくる方法もあるし、今お前と話せているように異言語でも通じ合う方法もある。それらは全てここでの言葉に翻訳すると魔法と言うぽよ。」
「はぁ、なるほど・・・?」
えっへんと胸を張る様子は二頭身のぽよちゃんがやるといっそ滑稽に見える。
それにぽよちゃんの言うことは壮大すぎて和彦は生返事でしか返せない。
「リアクションが薄いぽよ!まったく、お前ノリが悪いとよく言われるぽよね?」
「うっ・・・、別にいいだろ。それより、何光年も先から何しに来たんだ?」
へんてこりんな見た目をして言うことは鋭い。図星を刺されて和彦は話題を元に戻す。
「察しも悪いぽよね。我々の敵である悪の惑星が地球を侵略しようとしているぽよ!それを阻止しに来たぽよ。さっきお前が倒したやつらが悪の惑星の尖兵ぽよ。」
「え、地球が侵略されそうなの?」
衝撃の事実をさらっと言われて戸惑う。
「銀河系は不干渉地域として協定が結ばれているぽよ。それなのに最近悪の惑星が地球に接触している気配を感知したぽよ。実際に侵略行為が始まる前にギリギリ僕が間に合ったことに感謝するぽよ。」
「ぽよちゃんが地球を救いにきたことは分かったけど、それでなんでオレが魔法少女をすることになるんだ?」
「それは僕も不本意なんだぽよ。本当は可愛い女の子と一緒に戦う予定だったのに、お前みたいなおっさんとなんて・・・」
見た目がオモシロ可愛い系の2頭身動物だから良いものの、ぽよちゃんの可愛い女の子へのこだわりは普通に気持ち悪い。
おそらく、和彦が助けた女子高生が本当は魔法少女になる運命だったのだろう。それをたまたま居合わせた和彦が腕を引っ張ったことで、ぽよちゃんの狙いがずれてしまったのだろう。
やっぱりオレって間が悪いな・・・
「だから、通常魔法を使って変身したら元々の容姿をベースにするところを、僕好みの美少女になってもらったぽよ!」
嘆く和彦と対照的にぽよちゃんはご機嫌に、中身がおっさんって分かってても可愛いぽよ~、と言いながら和彦の周りをくるくる回る。
「この姿がぽよちゃん好みってことは分かったけど、どうやったら元の姿に戻れるんだ?
まさか、敵を全部倒し終わるまでこのままとか言わないよな。」
この姿から戻れないとなると困る。仕事に行くこともできない。そうなったら当然給料も入らなくなるので死活問題だ。
「朝になったら自然に元の姿に戻るぽよ!」
その言葉に一安心した和彦だが、続いた言葉にがっくりと肩を落とすことになる。
「ただ、明日からも悪の手下が現れたら、変身して戦ってもらわなきゃいけないぽよ。」
これからも定期的に生き物かどうかもよくわからない人間を襲う奴らと戦わねばならないらしい。
「それって拒否できないの・・・?」
わずかな希望を込めてぽよちゃんを見つめる和彦。
しかし、ぽよちゃんが口に出す言葉は無常だ。
「敵が現れたらまずブローチが反応するぽよ。そこで『ラブリーコネクトチェンジ』と言わなければ、変身はしないぽよ。
そのままにしていると、敵を倒すためのパワーがブローチから溢れ出して、お前の体がめちゃくちゃ発光するぽよ。」
「発光・・・?」
和彦の脳裏には後光が刺す大仏の絵がよぎる。
体に害はないのだろうけど、キラキラ光りながら日常生活を送るのは無理だろう。
悩む和彦に向かってぽよちゃんはさらに衝撃的なことを口にする。
「光らせたまま放置してたら、爆発するぽよ!」
「爆発!?」
「爆発はやばいよな・・・。」
ぽよちゃん曰く、敵が現れる可能性が高いのは夜らしい。なので仕事中は大丈夫だろうと思っていたが、飲みに行くのは仕事終わりなので当然夜だ。
爆発はもちろんやばいが、発光した時点で人間的にはアウトな気がする。
良い案が思いつくことのないまま就業時間直前になってしまい内心頭を抱える和彦。
残業があることにして断ろうかとも思ったが、普段から大して仕事していないのに急に残業し出したら周囲に不審がられる。
ちなみに、とんでもないことを平然と言ってのけたぽよちゃんは家で寝ている。会社についてこられてもバレないかヒヤヒヤするのでそれはいいのだが、相談ができないので困った。
「小巻さん、仕事終わりました?」
悩みに結論が出ないまま退勤時刻になり、望月がやってきてしまった。
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