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第十二話 誰が敵か味方か
しおりを挟む和彦はその場に座り込んだ。先ほど目撃した出来事が一体どういうことなのか、彼には全く理解できなかった。
座り込んでどれくらい時間が経っただろうか。もしかしたらほんのちょっとの時間だったかもしれない。
急にブローチが淡く光りぽよちゃんがぽん!と飛び出してきた。
「無事ぽよか!?」
「う、うん。」
いつになく焦った様子のぽよちゃんに、和彦は生返事を返すことしかできない。
和彦の返事にぽよちゃんは安心した様にホッと息を吐く。
「良かったぽよ。さっき僕が突然消えてしまったのは、おそらく××星の奴が近づいてきたからぽよ。」
「え?聞き取れなかったんだけどナニ星・・・?」
ぽよちゃんはいつも通り高めの声でハキハキ喋っているのに、急に言葉が聞きとれなくなったので聞き返す。
ぽよちゃんはハッとしてちょっとバツの悪そうに答えた。
「固有名詞はうまく翻訳されないのを忘れてたぽよ。××星は僕たちが戦ってる敵を作ってる悪の惑星ぽよ。」
自分がいつになく慌てていることに気づいたのだろうか、ぽよちゃんは一息ついて少しだけ落ち着きを取り戻した。
「前も言った通り、悪の惑星と僕の惑星は地球に関して不干渉条約を結んでるぽよ。だから、悪の惑星の奴らが一定距離に近づいたら僕はブローチの中に格納される設定になってるぽよ。」
しかし、落ち着いたぽよちゃんとは反対に、聞けば聞くほど和彦の頭には焦燥感が迫ってくる。
嫌な予感がする。この先を聞きたくない。
そう思う和彦にぽよちゃんは無情にも問いかける。
「僕が消えてる間、誰か見なかったぽよか?そいつが敵の親玉ぽよ。そいつさえ倒せば戦いは終わるぽよ。」
先ほどまでここにいた人物が、敵の親玉・・・?
えっと、さっきまでここにいたのは望月で、つまり望月はもしかして・・・
「おい!無視するなぽよ!」
混乱する和彦はぽよちゃんの問いかけに答えることはできなかった。
ぽよちゃんを適当に誤魔化して、パパッと着替えて家を目指した。
帰宅してからは速攻で布団にくるまる。現実逃避だ。
しかし、布団の中でも思考は止まらない。
望月は10年前から知り合いなんだから敵なわけ・・・
いや、でも、望月が出張してきた日にぽよちゃんと出会ってるのはタイミングが良すぎる?
仮に、仮にだけど、望月が敵だとしたら・・・
オレと仲良くしてるのは、オレと付き合ってくれたのは、オレを利用するため・・・?
気付けばすがる様にスマホを握りしめていた。そしてそのまま気絶する様に眠ってしまった。望月からコマキ宛にきた連絡には結局返信しないままだった。
目が覚めるといつも通り、魔法少女姿からアラサー男の姿に戻っていた。ぽよちゃんはクッションの上で寝ていた。自分を無視する和彦に怒って不貞寝したようだった。
眠れはしたがずっと夢を見ていて脳が休まっていない感覚だ。具体的に覚えていないが悪夢だった気がする。まとまらない思考のまま惰性的に着替えて会社を目指す。
出社してデスクに座っていると、いつものように爽やかな様子で出社してきた望月が見えた。
昨日見た望月はやはり何かの間違いなのではないだろうか。
午前中は自分の業務に全く集中できずに終わった。
望月の方を見ては気づかれそうになって目を逸らす。それの繰り返していたらあっという間にお昼になっていた。
昼休憩、開放されている屋上で買ってきたパンを袋から取り出す。
万が一望月にランチに誘われたら困るから、お昼のチャイムが鳴ると同時に飛び出してきたのだ。こんな心境で望月と会話をすることなどできない。定食屋で鉢合わせない様にと念を入れて、急いでコンビニでパンを買い屋上にきた。
小雨が降る予報なので和彦以外に人はいない。
まだ地面に雨の跡はないが、空には今にもポツポツときそうな暗雲が立ち込めている。
雨が降る前に食べてしまおうと袋を開けようとすると、ポケットの中のスマホが震えた。震えは止まらない、電話の着信の知らせだ。スマホを見るとなんと望月からだった。
今まで電話きたことないのになんで!?
え、え、昨日怪しいところを見ちゃったのに気づかれた・・・?
いや!昨日返信しなかったから、コマキのこと心配してかけてくれたのかも!
なぜ望月が電話して来たのかはわからないが、何れにしても電話にはもちろん出ることはできない。コマキ宛にかかってきているのに、変身していない和彦が喋ってしまったら男の声なので変に思われる。
ドキドキしながら着信のバイブレーションを見守る。震えが止まり不在着信の通知が出た。
自然と止めてしまっていた息を吐き出すと、後ろから声がかかった。
「小巻さん、電話に出ないんですか?」
和彦はビクッと比喩でなく数ミリ飛び上がった。
この声にはとても聞き覚えがある。恐る恐る振り返ると案の定、スマホを持った望月がそこにはいた。
「も、望月、どうしてここに?」
「小巻さんが屋上に行くのが見えたので追いかけてきました。そしたら着信が入っている電話を見つめて固まってる姿が見えたから。」
「いや、これは、迷惑電話が最近よく入ってて。」
咄嗟に言い訳をしながら、和彦は違和感を感じた。
普段の和彦なら気づかないかも知れないが、昨日からの流れでは気になってしまう。
オレを追いかけてきたタイミングで、なぜコマキに電話するんだ・・・?
彼女に電話するならむしろ、人がいないところを探すんじゃないか?
和彦の脳内でその違和感に答えが出る前に、望月がクスッと笑って口を開いた。
「酷いなぁ、俺からの電話を迷惑だと思ってたんですか?」
「・・・え?」
フリーズした和彦の脳内を揺り動かす様に、望月は続ける。
「それ、俺からの電話の通知でしょ?この間、連絡先交換したじゃない、コマキちゃん。」
にっこりと笑う笑顔は和彦の知っている望月と何ら変わらない。だけれど・・・
「望月、気づいてたの・・・?」
「はい。最初から疑ってたんです。小巻さん、なんか変でしたから。」
変だったから、というのはどうとでも取れる言葉だ。
カンが鋭いだけとも捉えられるし、ナントカ星の関係者だから気付けたとも考えられる。
次の切り出し方に迷った和彦は、思いついたままの言葉を口に出す。
「望月って、実は地球人じゃなかったりする?」
普通の人が問われれば笑い出すような間抜けな質問だが、恐る恐る尋ねる和彦の声は不自然に上擦った。否定の返事が返ってきた時に、冗談だったと言える余白を無理に作ろうとしたのだ。
「ハハッ、小巻さんらしいですね。そんな聞き方されるとは思わなかった。」
だが、和彦のわずかな期待は軽く覆される。
徐に望月はしゃがみ込み何かを摘み上げだ。タバコの吸い殻が落ちていたようだ。
それを望月がパッと上に投げると、その塊は下に落ちることなく黒い塊になり浮いていた。
「それって・・・。」
和彦のポケットから明かりが漏れる。ハンカチにくるんでポケットに入れていたブローチが光っているようだ。
「これは俺の星で開発された兵器です。」
和彦が戦ってきた敵と同じような黒い塊が空中でふよふよと動く。望月はそれをクルクルと指先を回し、まるでおもちゃのように操っている。
それならやっぱり望月は地球を侵略しようとしているということ!?
でも、だとしたら今それを自分から明かしたのはどうしてだ・・・?
望月の意図が分からず、何も言えずにただ見つめ返す。今までこんなに不審気な目線を望月に向けたことはない。
望月はそんな和彦に向けてにっこり笑いかけてこう言った。
「小巻さん、魔法少女を辞めたいですよね?」
望月を信じたい気持ちはある。だが、この状況で聞かれて手放しにイエスの返事はできない。
確かに辞めたいけど、怪しいし・・・
えっと、どう答えたらいいんだ・・・?
数秒考える。目の前の優しい表情の望月を見てとりあえず話だけでも聞いてみようか、そんな気持ちになった。その時、急に何もない空中から男が降ってきた。
「やはり魔法少女を消すのが目的だな!」
降ってきたのは黒髪で背の高い細マッチョだ。もちろんこんな知り合いは和彦にはいない。
謎の男の着地と同時に爆風が吹き荒れる。
今度は、一体何なんだ!?
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