手に職をつけるって、そういう意味じゃないが?!

錨 にんじん

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始まり

能力

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 翌朝、例のスライムの森に繰り出した俺たち三人は、緑色のジェル状のモンスターである小さなスライムの群れに囲まれていた。

 「大歓迎してくれてるじゃねぇか」

 「本当にな。恐らくは、昨日逃がしたミノタウロスの指示だろう」

 アクネルが片腕で槍を構えながら、木の上や地上からこちらの様子を窺うスライムを牽制している。
 やはり、相手の強さが分かるからなのか、すぐにはこいつらも攻撃してこない。

 「アクちゃん。ここはレナンがやっていい?」

 「分かった。加減しろよ」

 レナンが一歩前に出ると、アクネルは一歩後ろに下がった。

 「海人、お前も下がっていろ。巻き込まれるぞ」

 「お、おう」

 俺はアクネルに言われるがままに、後ろに下がらされる。
 レナンは一体何をする気なんだ?

 前の方に目をやると、両手を空へと向けて伸ばし、赤い光に包まれるレナンの姿が見えた。
 レナンの短い銀髪と、白いコートが揺らめく。
 ふと、レナンの髪が揺らめいたことにより、彼女の耳が露わになる。
 細長い、その先のとがった耳は間違いなくそれの耳だった。

 「あれ?レナンってもしかしてエルフなのか?」

 「あれ、言ってなかったか?」

 初耳だ。

 「そうだ。レナンはエルフの中でもたった一人である、魔法を得意とするエルフメイジという種族だ。無尽蔵の魔力を持ち、繰り出されるその魔法の威力は、この世界において最強と言われるほどだ」

 衝撃の事実を告げらた直後、レナンの自信に満ち溢れた声が森中に響き渡る。
 
 「テッラ・大地ブルチャーレ!!!!」

 瞬間、辺り一面が炎に包まれた。
 スライムの群れを、森と大地をも巻き込んでその限りを燃やし尽くしていく。
 だが、その炎は器用にも俺とアクネルは避けるように燃え広がっていた。
 不思議と熱も全く感じない。
 ここまで器用にコントロールできるものなのか?
 レナンが生み出した炎の海は、それから30秒ほど燃え続けていた。

 やがて炎が消えると、その焼けた大地には俺たち三人しか立っていなかった。

 「終了」

 レナンが達成感に満ちた表情をしている。
 もはや抉られて少し低くなった丸焦げの地面に立つレナンを、俺は若干引き気味に眺めていた。

 「とんでもねぇな……これが、王女から直々に任務を任される者の実力か」

 「どう?レナンの実力、凄いでしょ?」

 一仕事終えたレナンが、こちらに駆け寄ってくる。

 「流石だな。正直ここまでとは思ってなかった」

 「え~。これでもまだ、本気じゃないよ?」

 ははっ……マジか。
 レナンのその言葉に、俺は愛想笑いしかできなかった。
 
 「そう言えば、レナンお前エ……」

 「レナン、海人。おしゃべりはお終いだ。でかいのが来たぞ」

 アクネルが前方を睨みつけて、槍を構え緊張感のある声で俺たちに呼びかける。
 
 俺は、アクネルのその視線の先に目を向けた。

 「こりゃ、またでかいスライムだな」
 
 それは、先程レナンが立っていた抉れた黒焦げの地面に佇んでいた。
 先ほどレナンが焼払ったスライムの、何十倍もある巨大なスライムがこちらを見下ろしている。
 レナンはその姿を見るや、大きくため息をついた。

 「スライムは小さい分にはやりやすいけど、大きければ大きいほど弱点である核が捉えられないから、ちょっと面倒なんだよね~。強くないからいいんだけど」

 「え、強くないのか?」

 「まあ、核を破壊しない限り何度でも身体を再生してくるけど。攻撃手段は取り込んでの捕食だから、適当にあしらっていればいいからね」

 「あー……」
 
 俺はレナンの言葉で危うく勘違いするところだったと、後悔する。
 多分そんなに強くないってのは、この二人からしたらってことなんだろう。
 並みの、ましてや初心者の冒険者ならきっと何もできずに捕食されるに違いない。
 改めて、この二人と出会い、行動出来て良かったと思うよ。

 「さて、サクッと倒しちゃお」

 「あ、ちょっと待ってくれ!」

 「ん?どうしたの?」

 おそらく秒で仕留めそうな勢いだったレナンを、慌てて引き留める。

 「もし可能ならあのスライムは倒さずに、適当にあしらっていてくれないか?こいつを能力の実験体にするんだ」

 「あー、分かった!」

 レナンは内容を理解するのに少し時間が掛かったようだが、快く引き受けてくれた。

 「しょうがない。手を抜くとなると、力加減が難しいだろうからな。私も加勢するとしよう」

 そう言ってアクネルも前に出ると槍を構え、小さく笑った。
 改めて思う。こんな頼もしい仲間は、早々いないだろう。

 「二人ともサンキュー!発動はイメージらしいから、発動できそうだったら合図する!タイミングが分かればだけどな!」

 「頼むぞ、海人!」

 アクネルはそう言い残すと、巨大スライムに向かって突っ込んでいく。
 レナンはこちらに伸びてくる粘液を、生み出した四つの小さな光の玉を操って冷静に対処していた。

 俺はそんな二人に守られながら、イメージに専念した。

 能力は舗装。
 職業が能力になっていると言っていた。職業で得た技術や知識が、イメージにより具現化される。
 俺は何をしていたか。そうだ、ユンボのオペレーターだ。
 場合によって大小さまざまだが、今一番印象に残っているのは死んだその日に乗っていた、あの中型のユンボだ。
 アームを伸ばせば全長八メートルにはなるユンボ。

 瞬間、操縦席から見たあの日の光景が、脳内に鮮明に映し出された感覚に襲われた。

 「二人とも!下がってくれ!」

 俺の叫びに二人は即座に反応し、スライムから距離を取る。
 イメージを逃がすな!このイメージを具現化させるんだ!!

 そう心の中で念じた刹那、俺の頭上からそのイメージ通りのユンボのアームが巨大スライム目掛けて伸びていくのが見えた。
 やがてスライムに到達しそうになると、そのアームの先端についた爪バケットが無意識のうちに折りたたまれ、平面の部分で巨大スライムを叩き潰した。
 核を潰されたのか、スライムは起き上がるそぶりを見せない。

 「でた……」
 
 俺が衝撃のあまり、唖然としていると

 「何だ、それはっ?!」

 「すごーい!!!」

 後ろに下がったアクネルが驚きの声を上げ、レナンは目を輝かせながら飛び跳ねていた。
 俺は真上を見上げる。
 
 何だ、これ?

 そこには、何もない空間から伸びるユンボのアームが存在していた。
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