手に職をつけるって、そういう意味じゃないが?!

錨 にんじん

文字の大きさ
6 / 16
始まり

可能性

しおりを挟む
 「おい!それは何だ?!」

 「ねぇねぇバエちゃん、それってなんてモンスターなの?」

 イメージの具現化に成功して巨大スライムを討伐した俺は、アクネルとレナンの二人に問い詰められていた。
  
 「海人、お前はドラゴンテイマーだったのか?!」

 アクネルがさらに迫ってくる。
 近い。
 別に女慣れしてないわけじゃないが、美人の顔が近くに来れば少なくとも緊張はする。

 「待て待て、二人とも少し落ち着こうか?一度に質問してこられても、俺が一番分かってないんだから答えられんわ!それに何だよ、ドラゴンテイマーって」
 
 「ああ、すまない」

 興奮したアクネルが俺から一歩距離を取る。
 すると、レナンが前方を指さした。

 「あ、消えちゃうよ」

 「消える?」

 レナンのその言葉に振り返ると、巨大スライムを叩き潰したユンボのアームが虫食いのように穴だらけになっていた。
 見ると気化しているようで、アームは徐々に形をなくしていき、ついには跡形もなく消え去ってしまった。

 「あの子死んじゃったの?」

 「いや、死ぬも何もあれはそもそも生き物じゃないからな。ユンボといって、俺がもともといた世界で仕事をするときに使っていた機械だ。そんなに驚くってことは、二人ともユンボを見たことないのか?」

 「ないよ」

 「ないな」

 「そうか」

 ないのか。
 まあ、ユンボを見てモンスターだのドラゴンだの言うわけないよな。でも、そういう風に見えることには共感できる。
 俺も子供のころに車で工事現場の近くを通るときは、ユンボやクレーンを見たときに恐竜だと思っていたものだ。 
 
 
 「よし!じゃあ、改めて二人にさっきのユンボを見せてやろう!残念ながらモンスターやドラゴンではないが、次は全体図だ。先はアームだけだったらな!」

 「ほんとに?!」

 レナンが、期待に満ちた表情で碧眼を輝かせる。

 「おう!と言っても、今日初めて使い方が分かったばかりだからな。もしかしたら失敗するかもしれないから、そこは大目に見てくれよ?」

 「分かった!」

 「いい返事だ!それじゃあ、二人とも少し離れててくれ」

 俺はレナンとアクネルの二人が離れたのを確認すると、先ほど巨大スライムが潰れた黒焦げの地面に目を向けた。
 潰れたスライムの身体はその衝撃で爆散して、辺りにはジェル状の身体の一部があちらこちらに飛びちっているが、レナンのおかげで邪魔な木が一切なく広々としてるから、あそこにユンボを出すことにしよう。

 「始めるか」

 俺は目を閉じると、イメージに集中する。
 今度はアームだけでなく、全体図だ。
 あの巨大スライムを倒した時は、記憶に新しかった光景が操縦席からの景色だったから、そのイメージが強く表れたのだろう。
 だから、その時に見えていたアームが具現化されたんだと思う。
 発動はイメージ。
 乗り込む前、現場に着いた時に遠目から眺めるその全体像をイメージしろ。
 爪バケットで、キャタが二つあって、操縦席があって……

 「海人!出てきたぞ!」

 「バエちゃん!!避けて!!」

 避けて?

 二人の慌てた声を聞いた俺は目を開けたが、出てきたというには肝心のユンボが見当たらない。
 
 「なあ、出てきたってどこに……」

 俺は後ろで騒ぐ二人の方に振り返ると、異変に気づいた。
 あれ?おかしいな。二人は太陽に照らされてるのに、俺は影の中……。
 俺は上を見上げる。

 「嘘だろ?!」

 目の前に飛び込んできたのは、二つの巨大なキャタピラーだった。
 それが徐々にではあるか、着実にこちらに迫ってきていた。
 俺は、急いで二人の元まで避難する。
 ここには影が来てないから安全だろう。
 振り返ると、イメージしていた通りのあの日乗っていたユンボが、何一つ欠けていな状態で存在し、宙に浮いていた。
 一先ず、全体を出すことは成功だな。場所は失敗したが。
 
 「おっきー!」

 やがて地面に着地したユンボに、レナンが無邪気に駆け寄っていく。

 「これはすごいな。大きさは、ワイバーンぐらいか?それに、硬いな。なあ、これはどう使うんだ?仕事で使っていたんだろう?」

 アクネルはユンボを興味深そうに手で撫でたり、槍でつついたりしている。

 「それは操縦席に乗って使うもんなんだが」

 俺はユンボに近づくと、キャタピラーに足をかけて操縦席に乗り込む。

 「レナン、そこから降りた方が良いぞ。危ないからな」

 「はーい」

 真っ先に近寄っていったレナンは何故かユンボのアーム、もっと厳密に言うと人間でいう肘に該当するアームとブームの接続部のところまで登っていた。
 因みに、運転席の前から伸びているものをブームといって、先にかけてアーム、バケットと言うのだが、大体はアームとブームまでを含めて「アーム」と言い表すのがほとんどだ。
 今回出現させたのは、そのアームを限界まで伸ばせば7メートルになるもので、曲げて半分になってるとはいえ地面からは4メートルの高さになる。
 しかし、素直に返事をしたレナンはそこから飛び降りて綺麗に着地を決めると、特によろけることなく小走りで離れていった。
 流石はエルフといったところか。俺なら確実に脚の骨を折ってる。

 とまあそんな感じで、アスレチック感覚で遊んでいたレナンが先にユンボから離れていたアクネルの元まで行ったところで、俺は足元のゴムマットの下にあったカギを取り出すと、ユンボに差し込む。
 日本にいた感覚で覗いてみたが、鍵の場所も当時と同じだった。
 
 「さあ、動いてくれよ?」

 俺がカギを回すと、ユンボは聞きなれた心地よい起動音を上げた。

 「お、かかった」

 「うるさーい」

 レナンが耳をふさいで文句を垂れる。

 「これがいいんだよ。みろ、アクネルは平気そうだぞ」

 「まあ、モンスターの鳴き声と比べれば静かな方だからな。いいかどうかは知らんが」

 「冷たいやつだな、お前」

 アームが出現した時はあんなにはしゃいでたくせに。
 起動だけでも新鮮な反応をしてくれると思っていただけに、ちょっと寂しい。 

 「早く動かしてー!」

 「はいよー」

 レナンめ。
 音には文句を垂れていたくせに、動くのは早く見たいのか。
 俺はレナンのその要望に応えるため、早速二つのレバーを握る。
 まずはアームを浮かすとしよう。

 俺は右手に握ったレバーを手前に倒す。
 するとアームが根元から持ち上がり、地面からバケットがわずかに浮いた。
 そこからは両方のレバーを操作して、前方目掛けて完全にアームを伸びきった状態にもっていき停止させる。
 アームにブレーキがかかり、ガチャンという金属音を立てる。

 「動いたー!」

 「こう見ると、本当にドラゴンが首を動かしたように見えるなぁ」

 「どんなもんよ!カッコイイだろ?」

 気持ちよくなった俺は、パフォーマンスとしてさらにレバーを操作する。
 アームをその伸びきった状態のままで地面に当たるまで下すと、徐々に折りたたんでいき、時たまユンボが後ろにひっくり返らないようにアームを上にあげたりと調整しながら、地面を抉りとってみせた。
 バケットの中に山ができるぐらいの土が収まる一連の動作を、二人は食い入るように見ていた。
 
 「どうだ?これはこういう使い方をするんだ。間違っても、スライムを叩き潰すなんて使い方はしないからな?」

 そう説明しながら、バケットの中の土を反す。

 「ねぇねぇ、他には?他にはどんなことができるの?!」

 「他って?」

 俺が聞き返すと、レナンには説明が難しいと判断したのか、アクネルが代弁する。

 「それ以外にも別の物を出現させたり、もっと別の能力もあったりはしないのか?」

 「成程なぁ。確かにこれを出現させるってだけじゃ絶対と言っていいほどに、魔王軍なんかとは到底太刀打ちできないからな」

 俺は一先ずアームを地面に下ろすと、ユンボから降りる。
 さて、どうしようか。
 ほかにイメージしてもいいが、いかんせん疲れる。
 まだ慣れてないからっていうのもあるかもしれないが、イメージに時間が掛かりすぎる。
 そもそも、頭で何かを想像すること自体苦手だ。

 俺はその場にしゃがみ込むと、二人を手招きする。

 「ちょっと物を出現させるのは疲れるから、どんなものがあるか身体を使って説明してやろう」

 「えー、レナンもっと別のキカイ見たい~」

 「まあ、そう言うな。海人も慣れてないんだ。それにあまり油を売ってもいられない。暗くなっては、また戻らないといけないからな。これだけ聞いたら出発するぞ」

 「また、イメージしてみるから。今回はこれで我慢してくれ」

 「しょうがないな~」

 どうやら許されたらしい。
 二人が俺の傍まで来ると、レナンはしゃがみ込んだが、アクネルは立ったままで俺たちを見下ろしていた。
 
 「まあ、さっき見せたみたいに、地面を掘るってのも俺の仕事なんだが」

 俺は右手で拳を作ると、地面に当てる。

 「他にも、コンクリートやアスファルトみたいに固いやつを壊すときには、こうガガガッって」

 打ち付ける感じで壊すブレーカっていう機械もあるんだ。
 そう説明しようとした時だった。
 俺の拳が地面を割り、辺りにヒビ割れが広がっていった。
 アクネルとレナンは、突然の地割れにバランスを崩す。
 
 「わっ!!!急にひび割れたよ!?」

 「おい海人!これは何だ?!」

 「俺にも分からん!!」

 ブレーカーで破壊するときの擬音を声に出したタイミングで、まるで俺の拳がブレーカーになったみたいに地面に衝撃を与えたのだ。
 それに、二人は急な衝撃によろめいていたが、俺の身体はまるで鉄の塊になったかと思うほど重くなり、一切微動だにしなかった。

 まさか、俺の身体そのものが重機になったとでもいうのか?
 
 「おいおい……手に職をつけるって、こういう事か?もはや、物理的だな……」

 俺は地面を叩き割った自分の拳を眺めながら、苦笑いするしかなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

処理中です...