手に職をつけるって、そういう意味じゃないが?!

錨 にんじん

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始まり

スライムの森

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「まさか、自分の身体がブレーカーになるとは思わなかったなぁ」

 俺は、ひび割れた地面を見渡す。
 拳を突き立てたところを中心に、蜘蛛の巣のように広がった亀裂はよほど威力が強かったのか、ところどころでは段差ができたりと、軽度に地形が変わっていた。

 「能力について分かったことは、重機を出現させることができることと、自分の身体を重機にできるってことか。二つ目に関しては、もう少し試してみないと詳しくは分からな……」

 「駄目だぞ」

 まだ何も言ってないのに、アクネルに食い気味に否定された。
 
 「一応、王女からの任務を受けて、このスライムの森に来ていることを忘れるなよ?一先ず、今回の能力試しはこのくらいにして、先に進もう。はっきり言って、その能力の可能性は未知数だ。他にもできることは多いかもしれないが、その全てが分かるまで試していたらいつまでたっても任務を遂行できない。だからレナン、目をキラキラさせるな」

 俺の隣でレナンが、まだ見ぬ能力に期待に満ちた表情で目を輝かせながら待機していた。

 「だってよ、レナン」

 「え~、次は何が出るのか気になるのに~」

 「そう言っても、俺だって何が出来るか分かってないからな。一緒に、少しづつ試してみようぜ?」

 レナンは少し考えるようなそぶりを見せると、しぶしぶ頷いた。

 「……分かった」

 「よし!じゃあ行くか!……そういえば、二人の任務って具体的には何が目的なんだ?」

 一応マイルの店で、ここスライムの森には本来いないはずの魔物が一年前から現れたと聞いたが、俺にはいくつか疑問が残っていた。
 もし、転生してきたその日に出会たあのミノタウロスが今回の目標なら、アクネルは様子見をすることなく即座にとどめを刺していただろう。
 俺がいたというのもあったのかもしれないが、逃げられた時のアクネルの反応も特に焦る様子はなく、あまり重要視しているように見えなかった。
 ならば、本命があるはずだ。
 王女から直々の任務となり、世界最強の魔法使いと言われるほどのレナンが出向く必要があるほどの本命が。

 アクネルが森の奥に歩みを進めた。

 「歩きながら話すとしよう」

 俺とレナンは立ち上がり、アクネルを追いかけた。
 そして、俺とレナンが隣に来たところで、アクネルは視線を前に向けたまま口を開いた。

 「昨日も言ったと思うが、ここはスライムの森と呼ばれていて、その名の通り本来はスライムしかいない森なんだ。ところが今から約一年前に、スライムではない魔物がたびたび確認されるようになった。ゴブリンや、昨日見たミノタウロス、時にはワイバーンを見たなんて情報もあったな。ゴブリンはともかくとして、ミノタウロスやワイバーンは初心の冒険者では到底太刀打ちできない相手だ。そこで解決策として、手練れの冒険者を対象にそれらの討伐依頼が出されることになったのだ」

 「成程ねぇ」

 俺は頭の中で整理するために、相槌を打つ。
 つまりは、スライムしかいないから初心者にはうってつけの練習場だったのに、強いモンスターの出現でそれが壊れてしまったと。
 それだといけないよねってことで、経験者に討伐依頼を出して解決しようとしたわけだ。
 
 「でも、一年たった今でも解決してないんだな。それどころか、王女から直々の任務に成程に状況は悪化したのか」

 「そうだ」

 アクネルが頷く。

 「最初は順調に討伐がされていき、森も本来の姿に戻りつつあったのだが、半年前に現れたそれによって難航することになったのだ」

 「それって?」

 「ゴーレムだよ」

 隣を歩きながら、俺と一緒にアクネルの話を聞いていたレナンが代わりに答えた。
 俺はアクネルからレナンに視線を移す。

 「何だ、ゴーレムってのは?」

 前を向いていたレナンは振り向き、俺と目を合わせる。

 「ゴーレムっていうのは錬金魔法によって、土や石から作られる眷属みたいなものだよ。本当は術者が近くで操って戦わせたりするんだけど。今回現れたのはその術者を必要としない、完全に独立したゴーレムらしいの。それにものすごく強いらしくって、今まで挑んだ冒険者は傷一つつけられなかったんだって!だから、レナンたちが呼ばれたの!」

 レナンのテンションが、後半から高くなった。
 強敵と聞いて楽しみなのだろう。
 早く戦いと、目が訴えている。
 
 「ということは、そのゴーレムとやらを倒すのが今回の目的ってわけか」
 
 「そうだよ!一応術者も探してみようとは思うけど、多分見つからないだろうね~」

 「成程な」

 そのゴーレムは相当強いのだろう。
 恐らく、今まで挑んだという冒険者の中には相当な手練れもいたはずだが、それでも傷一つつけることができずに、こうして王女直々に任務を受けた二人が来るほどなのだから。

 俺は二人を交互に見る。
 
 今向かう先に強敵が待ち受けているかもしれないというのに、二人からは一切の焦りや恐怖を感じなかった。
 レナンはさっきから目をらんらんとさせているからそうなのだろうが、アクネルも自分の実力に絶対的な自信があると言わんばかりに落ち着いている。
 俺は、少し雲がある晴天の空を見上げる。
 
 俺は果たして、二人の戦いについていけるのだろうか。
 今日能力が発覚したばかりだ。
 それもまだまだ未完成で、全体を具現化させたユンボもいつの間にか消えていた。
 
 「俺の能力は、果たしてどこまで通用するんだろうな」

 そもそも、俺の能力は戦闘向けじゃない気がする。確かにスライムを叩き潰したみたいに、ユンボのアームで戦えるのかもしれないが、ミノタウロスのあの素早さを見るに当たる気がしない。

 そうなると、自分の身体を重機にする能力を極めた方が良さそうだ。
 イメージは漠然としたものだったのにもかかわらず、その威力は絶大だった。それに、自分の身体なら、重機を操る以上に器用に立ち回れると思う。
 重さが鉄塊並みに重くなるあの感覚もそうだが、地面を叩き割った右拳に一切の擦り傷がないのを見るに、硬度も鋼鉄並みになっていたのかもしれない。

 「もう一度スライムでも出てきてくれれば、能力を試せるんだが」

 「ほう。それなら俺が相手してやろう」

 突然の声に、アクネルが白い槍を構え、レナンと俺はその声が聞こえた森の奥を睨む。
 俺はその声に聞き覚えがあった。
 その声の主は、木々をかき分けながら前方から近づいてくると、やがて目の前に姿を現した。 
 
 「大きな音が聞こえてきたから何事かと思えば、昨日の転生者じゃねぇか。どうだ?能力は使えるようになったのか?」

 姿を現したそれは、この世界に来た時に一番最初に出会ったミノタウロスだった。。
 右手には相変わらず、バカでかい石刀を携えている。

 「おかげさまでな。二人にも協力してもらって、使えるようになったところだ」

 「そうか!なら、その力見せてもらおうか!」

 鼻を鳴らしたミノタウロスは不敵な笑みを浮かべると、石刀を振り上げた。
 そして、勢いよく振り下ろす。

 ミノタウロスのその渾身の一振りは俺を狙っていたが、前に出たアクネルがその一撃を槍で受け止め、はじき返した。
 石刀が再び振り上げられた態勢になりがら空きになったミノタウロスの腹に、アクネルは素早く潜り込み槍を突き出す。

 「させるか!」

 腹を一突きにされそうになったミノタウロスは、右腕を素早く戻すと石刀を盾にしてその一撃を防ぐ。
 だが、威力までは殺せなかったようで、巨体が宙に舞い二メートルほど後退させられていた。
 ミノタウロスがアクネルを睨む。


 「やっぱつえぇな……!流石は槍王そうおうだ。だが、ただで殺されるわけにもいかねぇ。転生者だけでも道連れだ」

 そうおう?いや、それよりも。

 「道連れだ?」

 俺は一歩前に出る。

 「海人?」

 「バエちゃん?」

 急に前に出た俺を、驚きを隠せない二人が同時に見る。
 ミノタウロスは余裕な笑みを浮かべていた。

 「どうした?やる気か?ちょっと能力が使えるようになったぐらいで、満足に戦えるとは思えんがな。確かに転生者はどれも化け物だ。だが、今のお前なら……」

 「うるせぇな」

 俺はミノタウロスを強制的に黙らせる。

 「確かに厳しいかもしれねぇが、舐められりゃ話は別だ。お前、どうせゴーレムのことも知ってるんだろ?」

 「知ってたらどうするんだ?」

 「お前のその自慢の武器を粉砕して、そのゴーレムのいるところまで道案内させてやるよ!」

 俺は右腕を構える。
 正直賭けだが、一度発動できているしブレーカーならいけるだろう。イメージも今のところ失敗していないし、重機化は漠然なイメージでも発動することが分かってるからな。
 
 「やれるものなら、やってみやがれーーー!!!」

 煽られて怒りを露わにしたミノタウロスが、俺の脳天を目掛けて石刀を振り下ろす。
 それと同時に、身体が鉄塊の重さになる感覚を感じた。

 成功。

 「一撃だ」

 ミノタウロスの石刀が俺の腕が届く距離まで接近した瞬間、俺は握った拳を石刀に向けて勢いよく繰り出した。

 「ブレーカー!!!!」

 俺の拳が石刀に触れると、一回の衝撃で振り下ろしの勢いを殺し、二回目の衝撃で完全に石刀を粉砕した。
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