手に職をつけるって、そういう意味じゃないが?!

錨 にんじん

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始まり

ゴーレム

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 「どうする?」

 俺はアクネルとレナンに視線を送る。

 「どうすると言われても、もう相手はやる気満々だぞ」

 「え?」

 俺は視線をアクネルから目の前のゴーレムに向けると、そいつは今にも大ぶりの右ストレートを繰り出そうとした。

 「あ、レナンの魔法は威力が強すぎて、二人を巻き込んじゃうから発動できないからね?」

 「マジかよ」

 じゃあ、何で一緒に前に出てきたんだこの魔法王は。

 「来るぞ!!」

 アクネルが叫ぶ。
 それと同時に、ゴーレムのオレンジ色の結晶が瞬いたかと思うと、右ストレートがミサイルのごとく繰り出された。

 「くそっ!狙いは俺かよ!!」

 近づきすぎた、と言うよりゴーレムの腕が長すぎる。
 この間合いでは、避けることに関してはまず無理だ。
 アクネルとレナンに助けを求めようと横を見ると、いつの間にか後方に避難していた。
 薄情な。
 
 「しゃあねぇ!一か八かだ!」

 ゴーレムの腕が迫る中、俺は咄嗟にイメージした。
 俺のイメージするものは、ユンボのアーム及びバケットだ。
 ミノタウロス戦ではブレーカーで対抗したが、今回は二人が駆り出される原因となった相手の一撃。
 そんな一撃を、素手で受け止める勇気はない。
 やがて、異空間から平バケットのついたユンボのアームが伸びてくると、ゴーレムの腕が伸びきるより先に、俺の目の前で平バケットと衝突した。
 ゴンッと言う鈍い金属を響かせて、ゴーレムの動きが止まる。

 出現したのは相変わらず、死んだその日に使っていたユンボの物だ。
 俺はそのアームを持ち上げるイメージをしてゴーレムの腕を押し返すと、ゴーレムは勢いを逃がすようにして後ろに飛んだ。
 
 「何とか防げたか。イメージはもっと早くできるようにしないとな。他にもとっさにイメージできるようになれば、この力も少しはマシになるだろう。……さて、次はこっちの番だ!」

 俺はゴーレムを見据えると、やつの真上に先ほど持ち上げたアームを振り下ろした。
 ゴーレムは両腕を頭上でクロスさせると、平バケットの一撃を受け止める。
  
 「かてぇな……!」
 
 試掘してて石とぶつかった時に、壊そうとして打ち付けたときと同じ衝撃だ。
 その衝撃はユンボに乗ってても腰やらにダメージがあって正直好きじゃないというのに、まさか乗っていなくても衝撃を受けるとはな。
 
 「ここからどうするか?」

 「海人、そのキカイは壊しても大丈夫か?」

 次の行動に迷っている俺の後方から、アクネルの声が聞こえてきて振り返る。

 「別にいいが?……っておい?」

 そこには、アクネルが槍投げのような構えを取っていた。
 肩に担がれるようにして構えられた白い槍からは、激しい光が放たれておりさらに白く輝いている。
 
 「ゴーレムは粉々にすれば終わりだ。様子見はしない。初めから全力だ!」

 アクネルはさらに槍を引き付けると、左脚を上げた。

 「煌槍ランビリズマッ!!!!」

 アクネルから放たれた槍は白し光を螺旋状に纏(まと)い、木々を舞い上がらせ大地を抉りながら突っ込んでくる。

 「いやこれ、俺も巻き込まれるじゃねぇか!」

 「あ」

 「馬鹿野郎!」

 アクネルのやつ、自分技の威力把握してないのか?!
 だが、それなりに距離があったのが救いだった。
 俺は直撃を免れるために、森の中に飛び込む。
 槍は、俺のいた大地を抉りながら後ろを通過していく。
 
 槍は俺のユンボのアームを螺旋状の光によってねじ曲げ、ゴーレムに直撃した。
 その衝撃は強烈な爆風によって木々をへし折り、大量の砂埃を上げた。
 アクネルの右手に放たれた槍が収まる。
 
 「よし」

 「よし……じゃないわ!死ぬかと思ったわ!」

 「バエちゃん、良く避けたね!」

 「やかましい!」
 
 笑うレナンからは一切の緊張感がなく、完全にリラックスしきっていた。
 俺は、いまだに砂埃が上がっているゴーレムがいた先を見る。

 「とんでもねぇ威力だな」
 
 アクネルの繰り出した技の威力は、根っこから舞い上げられて更地にされた森と、一本道のように抉られた大地が物語っている。
 俺はレナンに次いで、アクネルが王と呼ばれる人物であると痛感した。

 「こんなの食らったら、アイツも粉々だろ」

 「いやぁ、そうでもないみたいだよ?ほら」

 レナンが砂埃の上がる先を指をさす。
 
 「マジかよ」

 砂埃が立ち込める中に、上半身の左半分を抉られたゴーレムの姿があった。

 「あれを受けて立ってられるのかよ」

 「だが、私の攻撃が通用することは分かったな。ほかの冒険者が傷をつけられないと言っていたからどれほどと思っていたが」
 
 ふと、目の前のゴーレムがオレンジ色の結晶に光を灯す。
 すると、粉々にされたゴーレムの身体を形成していた石が解けると、会下れた箇所に集まっていた。

 「再生した?!」

 「うそ!」

 レナンが俺と同時に驚きの声を上げた。

 「なんだ、ゴーレムって再生しないのか?」

 「するにはするんだけど、あれは初めて見たかな。ゴーレムを修復するのって、一度崩した後にもう一回生成し直す必要があるの。その時にはその場に魔法陣が出現するはずなんだけど。それに部分修復も聞いたことがないよ」

 「成程な」
 
 確かに先ほどのゴーレムの足元には、魔法陣が出現していなかった。
 ゴーレムはそんな状況下の中で、ひとりでに再生を開始し今では完全に元通りになっている。

 「どこかに弱点があるのか?」

 「弱点?」

 レナンが、二パッと笑う。
 もう、いやな予感しかしない。

 「よーしだったら!」

 そう意気込むとレナンは、空高く跳び上がる。
 
 「海人、下がるぞ」

 「あいよ」

 アクネルに促され、俺は素直に従う。
 レナンの魔法の威力も、アクネル同様おかしいからな。巻き込まれたらかなわん。

 「弱点が何かは分からないけど、バラバラにしちゃえば弱点にもあたるでしょ!」

 いやな予感ってのは当たるものだな。多分、ここいら一帯吹き飛ぶんじゃねぇか?
 そんな不穏なことを叫ぶレナンが両手を高々と上げると、バチバチと弾けるような音を立てる黄緑色の光が、その小さな両手に納まっていく。
 
 「いくよー!!ボスコトオーノッ!!!!」

 レナンの両手から大量の雷が放たれ、大地を抉り深い溝を大量に生成していく。
 ゴーレムは降り注ぐ雷を右腕で受けようとしたが、右腕は粉々に砕け散った。
 それからは徐々に破壊されていき、片足を失った直後に全身に雷を受け、ゴーレムの身体は粉々にはじけ飛んだ。

 魔法を放ち終えたレナンが、地面に着地すると腰に手を当てて高らかに笑い声をあげる。

 「これで復活できないでしょ!」

 俺はそんなレナンを横目に、荒れきった森を見た。
 
 「相変わらずふざけた威力だな。森がもうめちゃくちゃだ」

 「まあ、私たちが戦うといつもこうだからな」

 「いやダメだろ」

 確かに戦闘をすれば、地面も抉れるだろうし森も吹き飛ぶだろう。二人ほどの実力者なら、なおさらだ
 だが、ここは一つの森。破壊しっぱなしは、さすがに良くない。
 
 「おい二人とも……」
 
 「アクちゃん、バエちゃん、凄いよ」

 俺の言葉に重ねるように、レナンが口を開いた。
 俺とアクネルは同時にレナンの視線の先に目をやると、ため息をつく。
 
 「いやぁ、マジか」

 「まさか、あれで立てるとはな」

 目の前で、先ほど確かに破壊しつくされたゴーレムが完全に修復された状態で立ち上がっていた。
 頭部のはめ込まれた、オレンジ色の光を放つ結晶も健在だ。
 俺たちは同時に構える。
 
 「そうだ。ところで、バエちゃんはさっき何を言いかけてたの?」

 レナンの質問に、俺は小さく笑う。
 
 「なに、この戦いが終わったらこの森を三人で直すぞって言おうとしただけだよ。これじゃあ、直す範囲が広がりそうだがな」

 「そうだね!」

 「そうだな」 

 レナンとアクネルは笑って、俺の言葉にうなずく。
 二人の笑顔に、何故か俺は気分が高まるのを感じた。
 
 「よし!それじゃあ、これが終わったら三人で森を直すとしようか!その前に、まずはあいつを倒すぞ!」

 「ねぇねぇ、森を破壊しないように手加減した方がいい?」

 「どうせ直すんだ、とことんお前の魔法をぶつけてやれ!アクネルも遠慮するなよ?」

 「もとよりそのつもりだ」

 俺たちは笑顔でアイコンタクトを取ると、ゴーレムを見据える。
 ゴーレムは、頭部にはめ込まれたオレンジ色の結晶に光を灯し続けていた。
 さっきから光っているが、動き出すときもあの結晶が光ってたな。それに、腕が再生した時も光っていた。
 もしかして、あのむき出しになってる結晶が弱点だったりするのか?
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