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正史ルート
第14話 知識の神からの誘い
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ある日。
夜の闇が深まり、しんと静まり返った頃だっただろうか。私の家の扉が、控えめながらもはっきりとノックされた。
面倒な奴ほど夜分に人の家を訪ねてくる。私は内心で舌打ちをしながら扉に近づいたが、厄介事の予感しかしない。だが、仕方なしに扉を開ける。
すると、案の定そこには胡散臭い笑みを浮かべたロキの姿があった。彼の目は私を上から下まで値踏みするように見つめ、馴れ馴れしい口調で言う。
「やあ、エリカ。いい話があるんだ」
いつもの調子だ。夜分だろうとまったく遠慮する様子がない。ロキからはどこかしら甘ったるい誘惑の香りと、底知れぬ狡猾さが同居する独特の空気が漂っている。私はやれやれ、と肩をすくめながら玄関先に立ち、できれば早く話を終わらせて追い返したいと思った。
すると、私の肩に止まっていたスザクが「ピイピイ、ピー!」と鳴いた。スザクにしてはやけに警戒した声だ。スザクは可愛らしい見た目ながら、相手の気配を敏感に察知する。どうやらロキを歓迎していないらしい。
「この鳥はなんだい? 君のペットなのかい?」
ロキがスザクを指さして問う。視線は興味深げだが、その瞳には好奇心というよりは、一種の品定めをするような冷たさが見え隠れする。私はできるだけそっけなく答えた。
「そうよ。私が育てている子なの」
「そうか。君もペットの良さに気づいたか! いいものだよ」
ロキは何を勘違いしたのか、同志を見つけたかのように嬉しそうに笑う。だが、この男のペットといえば、あの巨大生物。絶対にスザクと同類にして欲しくない。頭の片隅で「冗談じゃないわよ」と毒づきながら、私は少し足を踏み出し、ロキに向き直る。
「……で、何の話なの?」
早く本題を切り出してくれないと、こちらも疲れるだけだ。ロキは相変わらず薄い笑みを浮かべて言う。
「ああ、そうだったね。なに簡単な話だ。僕と手を組まないかい?」
その口ぶりは軽いが、その裏に隠された打算は計り知れない。ロキは一見すると飄々としているが、目つきだけは真剣だ。私は少し息をついて眉をひそめる。
「どういうことよ」
正直、心当たりがないわけではない。私が抱えている野望や目的について、ロキは知識の神らしく、何らかの経路から掴んでいるのだろう。彼が私に声をかけてくるからには、それ相応の理由があるはずだ。すると案の定、彼は見透かすような笑みを浮かべる。
「君はオーディンを倒したいと思っているんだろう? なら、協力し合う方が建設的だと思うんだがね」
やはりか。私の胸はかすかにざわつく。こいつは、私の野心をとっくに見抜いているらしい。さすが知識の神といったところか。
「だとしても、私はあなたと組むのは嫌よ」
脳裏をよぎるのは、この男のうさん臭さだ。信用できない相手と手を組む気には到底なれない。
「……まあ、そう言わないでくれたまえ。僕たちは結構大きなグループで、2級神も何柱か参加しているのさ。君が協力してくれれば、オーディンを倒せる日が近づくと思うんだがね」
ロキはじりじりと間合いを詰めてくる。私は僅かに身構える。堂々と反逆を口にするが、告げ口される危険や、計画が露見するリスクは気にならないのだろうか。それとも、私にどうされようと握りつぶす自信があるのか。
「それなら、あなた達だけでやりなさいよ」
鼻で笑うと、ロキはまるで待ってましたとばかりに言葉を続ける。
「……実はねえ、耳よりな情報があるんだよ。聞きたいかい?」
ロキが少し声のトーンを落とす。単なる脅しだけではなく、今度は何か大きな餌をぶら下げようとしているのだろう。私は正直、早く帰ってほしいが、一応話だけは聞かないと後々面倒だ。
「一応聞いておきましょうか」
「ははは、そうだろうとも。実はね……オーディンの城の宝物庫にすごいお宝が眠っているという話なんだ」
ロキの声はやけに弾んでいる。それに合わせるかのように、肩のスザクは警戒心を露わにしながらも小さく首を振る。
「へえ、どんな宝なの?」
私はわざと興味のなさそうな口調で訊ねる。すると、ロキは薄く笑いながら密やかな声で告げた。
「時を自由に操る宝らしい。欲しくはないかい?」
その言葉に思わず胸が高鳴る。時を操る――もしそれが本当なら、私の目的に近づくために利用できる。けれども、相手はあくまでロキだ。彼と組めば、どんな罠が潜んでいるかわかったものじゃない。
「そう。別に欲しくはないわ」
感情なく否定する。すると、ロキはわざとらしく肩をすくめる。
「そうかい? 君は強くなりたいんだと聞いていたんだけどね、ヘルから」
ヘルの名前を出されると、一瞬ドキリとする。私はヘルと定期的に会話しているが、まさかそこまで細かい話がロキの耳に届いているとは思わなかった。
「そうかもしれないわね」
私が曖昧に返すと、ロキはさらに突っ込んでくる。
「聞くところによると、ヘルの血液を定期的に手に入れているそうじゃないか? 君は僕の娘をなんだと思っているんだい、まったく!」
娘、という言葉に妙な力がこもる。ロキの表情がほんの少しだけ険しくなったように見える。
「やめろと言うの?」
「親としては、大事な娘にそんな事をして欲しくないと思うのは当然の事じゃないかね」
ロキの態度が、今度は上から目線で偉そうだ。私は眉間のしわを深くした。確かにヘルはロキの娘だけれど、親の好き勝手にしていい道具じゃない。
「まあ、無理に手に入れようとは思わないわ。私達は神友だもの、お互いに協力しあっているだけよ」
適当に言い訳して取り繕う。と、ロキが急に声を荒げた。
「親の僕がやめさせることもできるんだぞ!」
脅迫か。やれやれ、こういうところが信用ならないのだ。私はわざと冷ややかに言い放つ。
「別に、それならそれで構わないわよ」
ロキに黙って手に入れる方法はいくらでもある。そう思うと、言葉尻も自然と尖ってしまう。
「君もなかなか強情だね。君は僕の能力を知っているかい?」
「知らないわ」
興味はないと言いつつも、彼がどんな能力を隠し持っているか考えたことはある。 すると、ロキは鼻先で笑い、誇示するように言った。
「僕は透明化の能力を持っているんだ。宝を盗み出すのにうってつけの能力だろう?」
それを聞いた瞬間、私は過去に“何もない場所からロキが現れた”不審な体験を思い出す。もしかして、あれは本当に透明化していたのか。彼が自慢げに胸を張ると、ふっとその姿がかき消える。
「ほら、この通りさ」
声だけが宙に漂う。完全に見えない。私は無意識に一歩後ずさる。これが暗殺に使われることを考えると、厄介だ。
「すごいだろう?」
あちこちから声が響き、どこにいるのかわからない。しばし息を殺していると、ロキは姿を現し、得意げに言葉を続ける。
「ふはははっ! 協力する気になったかね」
「そんな能力があるなら、あなただけでやりなさいよ。私は必要ないでしょう?」
私は冷ややかに言うが、ロキは「そうもいかないんだ。見張りがいるからね」とあっさり返す。扉の開閉などの物音までは消せない以上、忍び込むときに邪魔になるだろう。ならば、どうしようというのか。
「私に見張りを殺せというの?」
「いやいやいや……君は本当に野蛮だな。気絶させるだけでいいさ。どういう倫理観をしてるんだ、君は」
盗みや反逆を企てている張本人に倫理観を問われたくはない。私の眉がますます険しくなる。
「君の素晴らしい剣技で、見張りを気絶させて欲しいんだよ。簡単だろ?」
「自分でやりなさいよ」
ここまで言われて、私である必要がいったいどこにあるのかと問い詰めたい気持ちになる。ロキは芝居がかった口調で両手を広げた。
「僕は非力な知識の神だからね。野蛮な事はできないのさ」
神力20万もあるのに、本当に非力だなんてありえない。こいつは嘘をついている。私が計測していることを知らないのだろう。私はあえて突っ込まず黙っておく。
「つまり、僕たちの利害は完全に一致しているってことさ。協力してくれるだろう?」
最後の一押しのように言うロキ。確かに時を操る宝には心惹かれる。だが、私の本能が警告している。こいつと手を組めば、いつか大きな代償を払わされると。
「ピイピイ」
それまで比較的おとなしかったスザクが、まるで私の不安を代弁するかのように騒ぎ出す。人間の言葉は喋れないが、その鳴き方には「断れ」と言っているような強い意志が感じられた。
私はスザクの小さな体をそっと撫で、そしてロキに向き直る。
「でも、断るわ!」
ロキが思っている以上に、私は彼を信じていない。餌をちらつかされようが、脅迫されようが、絶対に協力しないと腹をくくった。
「断る理由なんてないだろう?」
まるで理解不能だと言わんばかりに、ロキが両手を広げる。
「あなたが信用できないのよ」
はっきりと明言すると、ロキの目が細まり、ぞっとするほど冷たい光を宿す。
「……ふむ、僕の頼みを断ってタダで済むとでも?」
脅迫の言葉がじわりと空気を重くする。懐柔したり、脅迫したり、忙しい奴だ。そんな中途半端な二面性こそが、彼の一番信用ならないところだと思う。
「やるっていうの?」
私は静かに全斬丸を抜き、切っ先をロキに向けた。視線が交わり、空気がぴんと張り詰める。
「まったく君は本当に思い通りにならない奴だね。後悔することになるよ」
「あなたの脅しは聞き飽きたわ。いつでも相手になってあげるから、かかってきなさい!」
こちらの強気な態度に、ロキは一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべたように見える。
「ピー、ピピー、ピー」
スザクも甲高い声で応援するかのように鳴く。まるで「早く帰れ!」と言っているようだ。ロキは嘲るように鼻を鳴らすと、思い切り私を睨みつけた。
「覚えていたまえ! 絶対に後悔させてやる!」
荒々しい鼻息を残し、ロキは暗い夜の闇へと姿を消していった。扉を閉めた瞬間、私は安堵と疲労がいっぺんに押し寄せてくるのを感じる。
いったい何だったんだ、あいつ。相変わらず面倒な男だけど、あの宝の話は気になる。時を操るなんて、真偽はともかく確かに強力な代物だろう。もし本当にオーディンの城にあるのなら、いつかは手に入れたい。だが、ロキと手を組むことは絶対にしたくない。
スザクが小さく羽を伸ばす。きっとスザクにとっても落ち着かない夜だったのだろう。
「さあ、寝ましょう」
自分にそう言い聞かせるように、私は意識を切り替えようと深呼吸をする。ロキとのやり取りは不快だったが、宝の情報を得たのは思わぬ収穫だった。ここからどう動くかは、また追々考えればいい。何にせよ、今夜は長かった。
いつか、その宝を手に入れてやろう。私はスザクを抱え込み、微睡みの世界へと身を委ねるのだった。
---
現在のエリカのステータス
神力……4000(ヘルからの定期的な血液供給による上昇)
特殊能力……発明、暴食、ちょっとだけ未来視、毒耐性、無限成長、再生
夜の闇が深まり、しんと静まり返った頃だっただろうか。私の家の扉が、控えめながらもはっきりとノックされた。
面倒な奴ほど夜分に人の家を訪ねてくる。私は内心で舌打ちをしながら扉に近づいたが、厄介事の予感しかしない。だが、仕方なしに扉を開ける。
すると、案の定そこには胡散臭い笑みを浮かべたロキの姿があった。彼の目は私を上から下まで値踏みするように見つめ、馴れ馴れしい口調で言う。
「やあ、エリカ。いい話があるんだ」
いつもの調子だ。夜分だろうとまったく遠慮する様子がない。ロキからはどこかしら甘ったるい誘惑の香りと、底知れぬ狡猾さが同居する独特の空気が漂っている。私はやれやれ、と肩をすくめながら玄関先に立ち、できれば早く話を終わらせて追い返したいと思った。
すると、私の肩に止まっていたスザクが「ピイピイ、ピー!」と鳴いた。スザクにしてはやけに警戒した声だ。スザクは可愛らしい見た目ながら、相手の気配を敏感に察知する。どうやらロキを歓迎していないらしい。
「この鳥はなんだい? 君のペットなのかい?」
ロキがスザクを指さして問う。視線は興味深げだが、その瞳には好奇心というよりは、一種の品定めをするような冷たさが見え隠れする。私はできるだけそっけなく答えた。
「そうよ。私が育てている子なの」
「そうか。君もペットの良さに気づいたか! いいものだよ」
ロキは何を勘違いしたのか、同志を見つけたかのように嬉しそうに笑う。だが、この男のペットといえば、あの巨大生物。絶対にスザクと同類にして欲しくない。頭の片隅で「冗談じゃないわよ」と毒づきながら、私は少し足を踏み出し、ロキに向き直る。
「……で、何の話なの?」
早く本題を切り出してくれないと、こちらも疲れるだけだ。ロキは相変わらず薄い笑みを浮かべて言う。
「ああ、そうだったね。なに簡単な話だ。僕と手を組まないかい?」
その口ぶりは軽いが、その裏に隠された打算は計り知れない。ロキは一見すると飄々としているが、目つきだけは真剣だ。私は少し息をついて眉をひそめる。
「どういうことよ」
正直、心当たりがないわけではない。私が抱えている野望や目的について、ロキは知識の神らしく、何らかの経路から掴んでいるのだろう。彼が私に声をかけてくるからには、それ相応の理由があるはずだ。すると案の定、彼は見透かすような笑みを浮かべる。
「君はオーディンを倒したいと思っているんだろう? なら、協力し合う方が建設的だと思うんだがね」
やはりか。私の胸はかすかにざわつく。こいつは、私の野心をとっくに見抜いているらしい。さすが知識の神といったところか。
「だとしても、私はあなたと組むのは嫌よ」
脳裏をよぎるのは、この男のうさん臭さだ。信用できない相手と手を組む気には到底なれない。
「……まあ、そう言わないでくれたまえ。僕たちは結構大きなグループで、2級神も何柱か参加しているのさ。君が協力してくれれば、オーディンを倒せる日が近づくと思うんだがね」
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「それなら、あなた達だけでやりなさいよ」
鼻で笑うと、ロキはまるで待ってましたとばかりに言葉を続ける。
「……実はねえ、耳よりな情報があるんだよ。聞きたいかい?」
ロキが少し声のトーンを落とす。単なる脅しだけではなく、今度は何か大きな餌をぶら下げようとしているのだろう。私は正直、早く帰ってほしいが、一応話だけは聞かないと後々面倒だ。
「一応聞いておきましょうか」
「ははは、そうだろうとも。実はね……オーディンの城の宝物庫にすごいお宝が眠っているという話なんだ」
ロキの声はやけに弾んでいる。それに合わせるかのように、肩のスザクは警戒心を露わにしながらも小さく首を振る。
「へえ、どんな宝なの?」
私はわざと興味のなさそうな口調で訊ねる。すると、ロキは薄く笑いながら密やかな声で告げた。
「時を自由に操る宝らしい。欲しくはないかい?」
その言葉に思わず胸が高鳴る。時を操る――もしそれが本当なら、私の目的に近づくために利用できる。けれども、相手はあくまでロキだ。彼と組めば、どんな罠が潜んでいるかわかったものじゃない。
「そう。別に欲しくはないわ」
感情なく否定する。すると、ロキはわざとらしく肩をすくめる。
「そうかい? 君は強くなりたいんだと聞いていたんだけどね、ヘルから」
ヘルの名前を出されると、一瞬ドキリとする。私はヘルと定期的に会話しているが、まさかそこまで細かい話がロキの耳に届いているとは思わなかった。
「そうかもしれないわね」
私が曖昧に返すと、ロキはさらに突っ込んでくる。
「聞くところによると、ヘルの血液を定期的に手に入れているそうじゃないか? 君は僕の娘をなんだと思っているんだい、まったく!」
娘、という言葉に妙な力がこもる。ロキの表情がほんの少しだけ険しくなったように見える。
「やめろと言うの?」
「親としては、大事な娘にそんな事をして欲しくないと思うのは当然の事じゃないかね」
ロキの態度が、今度は上から目線で偉そうだ。私は眉間のしわを深くした。確かにヘルはロキの娘だけれど、親の好き勝手にしていい道具じゃない。
「まあ、無理に手に入れようとは思わないわ。私達は神友だもの、お互いに協力しあっているだけよ」
適当に言い訳して取り繕う。と、ロキが急に声を荒げた。
「親の僕がやめさせることもできるんだぞ!」
脅迫か。やれやれ、こういうところが信用ならないのだ。私はわざと冷ややかに言い放つ。
「別に、それならそれで構わないわよ」
ロキに黙って手に入れる方法はいくらでもある。そう思うと、言葉尻も自然と尖ってしまう。
「君もなかなか強情だね。君は僕の能力を知っているかい?」
「知らないわ」
興味はないと言いつつも、彼がどんな能力を隠し持っているか考えたことはある。 すると、ロキは鼻先で笑い、誇示するように言った。
「僕は透明化の能力を持っているんだ。宝を盗み出すのにうってつけの能力だろう?」
それを聞いた瞬間、私は過去に“何もない場所からロキが現れた”不審な体験を思い出す。もしかして、あれは本当に透明化していたのか。彼が自慢げに胸を張ると、ふっとその姿がかき消える。
「ほら、この通りさ」
声だけが宙に漂う。完全に見えない。私は無意識に一歩後ずさる。これが暗殺に使われることを考えると、厄介だ。
「すごいだろう?」
あちこちから声が響き、どこにいるのかわからない。しばし息を殺していると、ロキは姿を現し、得意げに言葉を続ける。
「ふはははっ! 協力する気になったかね」
「そんな能力があるなら、あなただけでやりなさいよ。私は必要ないでしょう?」
私は冷ややかに言うが、ロキは「そうもいかないんだ。見張りがいるからね」とあっさり返す。扉の開閉などの物音までは消せない以上、忍び込むときに邪魔になるだろう。ならば、どうしようというのか。
「私に見張りを殺せというの?」
「いやいやいや……君は本当に野蛮だな。気絶させるだけでいいさ。どういう倫理観をしてるんだ、君は」
盗みや反逆を企てている張本人に倫理観を問われたくはない。私の眉がますます険しくなる。
「君の素晴らしい剣技で、見張りを気絶させて欲しいんだよ。簡単だろ?」
「自分でやりなさいよ」
ここまで言われて、私である必要がいったいどこにあるのかと問い詰めたい気持ちになる。ロキは芝居がかった口調で両手を広げた。
「僕は非力な知識の神だからね。野蛮な事はできないのさ」
神力20万もあるのに、本当に非力だなんてありえない。こいつは嘘をついている。私が計測していることを知らないのだろう。私はあえて突っ込まず黙っておく。
「つまり、僕たちの利害は完全に一致しているってことさ。協力してくれるだろう?」
最後の一押しのように言うロキ。確かに時を操る宝には心惹かれる。だが、私の本能が警告している。こいつと手を組めば、いつか大きな代償を払わされると。
「ピイピイ」
それまで比較的おとなしかったスザクが、まるで私の不安を代弁するかのように騒ぎ出す。人間の言葉は喋れないが、その鳴き方には「断れ」と言っているような強い意志が感じられた。
私はスザクの小さな体をそっと撫で、そしてロキに向き直る。
「でも、断るわ!」
ロキが思っている以上に、私は彼を信じていない。餌をちらつかされようが、脅迫されようが、絶対に協力しないと腹をくくった。
「断る理由なんてないだろう?」
まるで理解不能だと言わんばかりに、ロキが両手を広げる。
「あなたが信用できないのよ」
はっきりと明言すると、ロキの目が細まり、ぞっとするほど冷たい光を宿す。
「……ふむ、僕の頼みを断ってタダで済むとでも?」
脅迫の言葉がじわりと空気を重くする。懐柔したり、脅迫したり、忙しい奴だ。そんな中途半端な二面性こそが、彼の一番信用ならないところだと思う。
「やるっていうの?」
私は静かに全斬丸を抜き、切っ先をロキに向けた。視線が交わり、空気がぴんと張り詰める。
「まったく君は本当に思い通りにならない奴だね。後悔することになるよ」
「あなたの脅しは聞き飽きたわ。いつでも相手になってあげるから、かかってきなさい!」
こちらの強気な態度に、ロキは一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべたように見える。
「ピー、ピピー、ピー」
スザクも甲高い声で応援するかのように鳴く。まるで「早く帰れ!」と言っているようだ。ロキは嘲るように鼻を鳴らすと、思い切り私を睨みつけた。
「覚えていたまえ! 絶対に後悔させてやる!」
荒々しい鼻息を残し、ロキは暗い夜の闇へと姿を消していった。扉を閉めた瞬間、私は安堵と疲労がいっぺんに押し寄せてくるのを感じる。
いったい何だったんだ、あいつ。相変わらず面倒な男だけど、あの宝の話は気になる。時を操るなんて、真偽はともかく確かに強力な代物だろう。もし本当にオーディンの城にあるのなら、いつかは手に入れたい。だが、ロキと手を組むことは絶対にしたくない。
スザクが小さく羽を伸ばす。きっとスザクにとっても落ち着かない夜だったのだろう。
「さあ、寝ましょう」
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いつか、その宝を手に入れてやろう。私はスザクを抱え込み、微睡みの世界へと身を委ねるのだった。
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