3級神エリカの成り上がり~打倒オーディン! 冤罪で死刑⁉ 最下級の女神エリカの成り上がり物語~

法王院 優希

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正史ルート

番外編 あたしの英雄

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あたしはスクルド。2級神で、未来を司る女神。そして運命の3女神の1柱。


 まあ、簡単にいえば、あたしは運命にまつわる仕事をしていて、さらにバルキリーとしての役目も担っている。だから、人間界に出向いて英雄の魂を探すことがある。たとえ神の力があるといっても、同時にいくつもの世界を飛び回るのは骨が折れる。そこで使うのが「分身体」ってわけ。あたし自身は神界に残り、同時に分身体を人間界に派遣することで、効率よく業務をこなす仕組みなのだ。


 バルキリーの仕事は大きく分けて「英雄の魂の回収」と「その英雄の成長の手助け」。英雄は生きているあいだに輝きを増し、死後にその魂を引き上げてこそ最上級の“エインフェリア”となるから。探して、導いて、いつか死を迎えたときに回収する。気の長い仕事だ。でも、そういうプロセスを経ないと、真の英雄の魂は育たない。


 ちなみにあたしは“女英雄”しか信用していない。男というのはすぐ堕落する傾向があるから嫌いなのよ。もちろん、どこかに優れた男英雄がいるのかもしれないけれど、これまで関わってきた男の魂がみんな途中で転んでしまうのを何度も見てきた結果、すっかり男嫌いになってしまったの。だから、あたしが使役しているエインフェリアも全員女性。これはあくまであたし個人のポリシーだけど、いまのところ問題なくやっていけている。


 

---



 さて、あれは確か――「リサイクル計画」に参加していた時のこと。


 そのリサイクル計画というのは、異世界から「英雄になり得る魂」を送ってもらい、こちらで転生させて育てて死後に回収するという計画。あちらの世界では平和すぎて英雄の需要がないらしいから、余剰気味の「有望な魂」をこちらに回してくれる――簡単にいえばそういう契約みたいなもの。もちろんオーディン様が決めた話だし、あたしは従わざるを得ない。


 その日、あたしは新しく異世界から届いた魂と対面していた。嫌な予感はしてたけど、担当は男。内心で「最悪だな」と思ったけど、仕事だから仕方ない。


「欲しい能力を1つだけ与えてあげるわ。何がいい?」


 あたしはいつものように淡々と説明した。こういうとき、戦闘向きでもない能力を望むようじゃ見込みがない。そんな奴は適当な試練を与えて始末し、元の異世界に送り返してやるだけ。だけど、その男はちょっと違うことを言ってきた。


「全てを従える能力が欲しい」


 なるほど、叶えるのが難しい能力だ。あたしは少し考えこんだけど、それっぽい能力を与えてあげることにした。


「なら、召喚術の能力を与えるわ。(召喚したものは)全て従える能力よ」


 いくらか曲解は入っているけど、これでいいだろう。そうして、あたしは人間界の郊外に小さな家を用意し、その男を転生させて住ませてやった。召喚術も最低限は教えてあげたし、あとは本人が成長できるかどうかが鍵になる。


 ところが、男性への嫌悪感が拭えないあたしは、最初からその男にあまり期待をしていなかった。目の前で小さなドラゴンを召喚してはしゃいでいる姿に、子どもっぽくて頼りない印象を抱いてしまう。英雄に成長する可能性はあるかもしれないけど、まあ、しばらく様子を見ないとわからない。


 あたしはその夜、その男の家に滞在していた。もし本当に英雄の資質があるなら導いてあげないといけないから、部屋もひとつ用意してある。男は召喚術が楽しすぎて徹夜しそうな勢いだったけど、あたしは先に寝ることにした。


 


 朝目覚めると、状況が完全に変わっていた。あんなに小さかった家が、まるで城のようになっていて、しかも中は魔族であふれかえっている。おまけにあたしは鎖に繋がれ、囚われの身になっていた。


「初めまして、スクルド。私はアスタロテ、これから末永く仲良くしてね」


 長い赤髪に青い瞳、妖艶な服を着て豊満な肉体をこれ見よがしに揺らす女――魔族の中でもかなり大物っぽい。目つきや雰囲気からして、ただ者ではないとすぐにわかった。


「魔族め!」


 あたしは咄嗟に神術を使おうとしたけど、何も出ない。そっと手をかざしてみても神術が使えないのだ。


「神力封じの首輪、使い心地はどう?」


 アスタロテは勝ち誇ったように笑う。その表情を見ただけで腹立たしくなるけど、今のあたしには何もできない。視線の先には、虚ろな瞳で徘徊する“あの男”の姿があった。どうやら魔族を召喚してしまい、逆に操られたらしい。だから男は嫌なんだ……と後悔しても遅い。


 こうして、あたしはアスタロテに囚われ、屈辱の日々を送ることになる。痛めつけられたり嘲られたり、女神であるプライドをこれでもかと踏みにじられた。日が経つにつれ、アスタロテの支配領域はどんどん拡大していった。


 大魔族の軍勢に対して普通の人間など太刀打ちできるはずもなく、近隣の王国の都市は次々に陥落。女神教国はまだ健在だったけど、そこを守っているのはあたしの姉――ヴェル姉様だ。




---




 あるとき、アスタロテが上機嫌であたしに絡んできた。


「この前、女神教国と戦争してさ……どうなったと思う?」


 あたしはできる限り無視しようとしたけど、彼女は急にあたしの腹を蹴り上げた。


「げほっ……」


 まともに喰らって声が漏れる。


「ホント楽勝でしたー。突撃しかしてこないとかバカなの? 罠にかけたら一瞬だったんですけどぉ」


 ヴェル姉様が真っ向勝負をしかけたのか……あの性格を知っているだけに、裏をかかれたんだろうな、と嫌な想像が頭をよぎる。


「残念ながらヴェルザンディには逃げられたけど、近いうちに捕らえてあげるわ。姉妹そろって私に飼われるなんて……ねえ、嬉しいでしょ?」


 そう言って今度はあたしの頭を足で踏みつけてくる。その腐った行為に怒りが募るものの、首輪で神力を封じられているあたしは何もできない。心の中で必死に助けを呼ぶことしかできなかった。




---




 そして、状況が一変したのは、人間界がほぼ魔族のものになりかけたとき。近隣の王国は王都だけをかろうじて残し、女神教国も首都陥落寸前になった頃――突然、ひとりの英雄がアスタロテのいる城に攻め込んできたのだ。


 その英雄は光のような速さで魔族を斬り捨て、あっという間に玉座の間へ到達すると、アスタロテが声を発する前にその首を斬り落とし、続けて身体をバラバラにした。それはほんの一瞬の出来事。


 その瞬間、あたしは鎖に繋がれたまま呆然とした。玉座の隣に囚われの姿で座らされていたから、その全てを見届けた。


 その英雄は少女――年は12歳くらいだろうか。長い黒髪と異国らしい民族衣装を身にまとい、あたしと同じくらいの身長。剣に似た不思議な武器を持っていた。


 彼女はあたしに近づくと、神力封じの首輪と鎖を何の苦もなく斬り落としてくれる。長い間、あたしを苦しめてきた拘束が一瞬で消し飛んだのだ。


 胸の奥が熱くなるのを感じた。体中に残る痛みさえ一瞬忘れてしまうような、高揚感。あたしはバルキリーとして数多くの英雄を見てきたけど、これほどの存在に会ったことはない。彼女は本当に規格外だ――。


「何者なの、あんた……?」


 声をかけるあたしに、彼女は腰に手をやって、誇らしげに名乗った。


「私? 私はエリカ。最強の剣士で、天才科学者よ」


 カガクシャ? 何のことだかよくわからないけど、とにかく凄い力を誇る英雄のようだ。初めて出会った瞬間から心を奪われる感覚があった。ああ、もしこの子がエインフェリアになってくれたら……なんて、そんな都合のいい妄想が止まらなかった。


 これがあたしとエリカの初めての出会いだった。




---


 



 こうして人間界は、たったひとりの英雄の登場によって救われることになる。主を失った魔族たちは雪崩をうつように魔界へ帰っていき、軍勢はあっという間に瓦解した。あたしは神界に戻り、疲弊しきった体を本体に合流させる。肉体はもちろんボロボロだし、精神的にも参っていたけど、それ以上に頭の中を支配していたのは「どうやったら、あのエリカを自分のエインフェリアにできるだろう」という考え。


 実際、あの後、分身体を派遣して必死にエリカを探し回った。人間界の町から町へ、大陸から大陸へと探し続ける。エリカが着ていた民族衣装はこの辺りでは見ないものだったから「極東の島国か?」と推測して、行ける範囲は徹底的に探したのだ。


 けれど、見つからない。


 同じ民族衣装を着ている人々や、エリカと似た顔立ちの人々には出会ったものの、肝心の彼女はいなかった。


 失意のうちに日々を送っていたある日、あたしは姉であるヴェル姉様に尋ねてみた。


「ねえ、ヴェル姉様。あのアスタロテを倒した英雄が、どこに行ったか知らない?」


 すると姉はあっさり答える。


「ああ、あいつなら異世界に帰ったよ。ノルン様が連れてきた人間だからな」


 そのとき、妙に納得してしまった。異世界から来たのなら、この世界をいくら探してもいないわけだ。あの男がやらかしたせいで、異世界にはいいイメージがなかったけど、それでもエリカはあたしが見てきた中でも群を抜いて魅力的だった。


 とはいえ、あたしには異世界に行く能力がない。だから、しばらくは鬱々とした気持ちで仕事をこなし、女の英雄候補を探しては悶々とする日々を送った。気づけば、無意識に「あの英雄と比べれば物足りないな」なんて思ってしまう。後悔しても始まらないのに、あのときに確保しておけばよかったと何度も思わずにいられなかった。




---





 そんなある日のこと。あたしの屋敷に黄色い雲に乗ったノルン様がひょっこり現れた。どうやら新たな神を紹介したいという。


「3級神のエリカちゃんよん。発明を司る女神なのん。面倒見てあげてねん」


 思わず目を疑った。そこに立っていたのは、あの長い黒髪に異国風の民族衣装、見覚えのある顔立ち。間違いなく、あたしが必死に探していたエリカだった。


「久しぶりね、エリカ」


 そう声をかけるあたしに対して、彼女は怪訝そうな顔をした。


「あなた、誰よ?」


 まるで初対面。どうやら記憶がないらしい。あれだけあたしが執着した相手なのに、向こうにとっては最初からいないも同然。悲しみもわいてくるけど、同時にまた一から彼女と関係を築けるんだ――と思ったら、それはそれで少し胸がときめいた。


 ノルン様が口に指を当てて「しー、よん」と言うから、これは秘密にしないといけない事らしい。


「あたしはスクルド。運命の3女神の1柱で、未来を司ってるの。何でも相談してくれて構わないわよ」


 そう自己紹介すると、エリカは面倒くさそうに言う。


「……なんか小さいし、頼りなさそうなのよね」


「あんたも大差ないでしょうが!」


 思わずそう返してしまったけど、嬉しさがこみ上げてくる。かつて人間界を救った理想の英雄が、今はあたしの目の前にいるのだから。



 こうして、あたしとエリカの新しい関係が始まったのだった。


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