18 / 41
正史ルート
番外編 あたしの英雄
しおりを挟む
あたしはスクルド。2級神で、未来を司る女神。そして運命の3女神の1柱。
まあ、簡単にいえば、あたしは運命にまつわる仕事をしていて、さらにバルキリーとしての役目も担っている。だから、人間界に出向いて英雄の魂を探すことがある。たとえ神の力があるといっても、同時にいくつもの世界を飛び回るのは骨が折れる。そこで使うのが「分身体」ってわけ。あたし自身は神界に残り、同時に分身体を人間界に派遣することで、効率よく業務をこなす仕組みなのだ。
バルキリーの仕事は大きく分けて「英雄の魂の回収」と「その英雄の成長の手助け」。英雄は生きているあいだに輝きを増し、死後にその魂を引き上げてこそ最上級の“エインフェリア”となるから。探して、導いて、いつか死を迎えたときに回収する。気の長い仕事だ。でも、そういうプロセスを経ないと、真の英雄の魂は育たない。
ちなみにあたしは“女英雄”しか信用していない。男というのはすぐ堕落する傾向があるから嫌いなのよ。もちろん、どこかに優れた男英雄がいるのかもしれないけれど、これまで関わってきた男の魂がみんな途中で転んでしまうのを何度も見てきた結果、すっかり男嫌いになってしまったの。だから、あたしが使役しているエインフェリアも全員女性。これはあくまであたし個人のポリシーだけど、いまのところ問題なくやっていけている。
---
さて、あれは確か――「リサイクル計画」に参加していた時のこと。
そのリサイクル計画というのは、異世界から「英雄になり得る魂」を送ってもらい、こちらで転生させて育てて死後に回収するという計画。あちらの世界では平和すぎて英雄の需要がないらしいから、余剰気味の「有望な魂」をこちらに回してくれる――簡単にいえばそういう契約みたいなもの。もちろんオーディン様が決めた話だし、あたしは従わざるを得ない。
その日、あたしは新しく異世界から届いた魂と対面していた。嫌な予感はしてたけど、担当は男。内心で「最悪だな」と思ったけど、仕事だから仕方ない。
「欲しい能力を1つだけ与えてあげるわ。何がいい?」
あたしはいつものように淡々と説明した。こういうとき、戦闘向きでもない能力を望むようじゃ見込みがない。そんな奴は適当な試練を与えて始末し、元の異世界に送り返してやるだけ。だけど、その男はちょっと違うことを言ってきた。
「全てを従える能力が欲しい」
なるほど、叶えるのが難しい能力だ。あたしは少し考えこんだけど、それっぽい能力を与えてあげることにした。
「なら、召喚術の能力を与えるわ。(召喚したものは)全て従える能力よ」
いくらか曲解は入っているけど、これでいいだろう。そうして、あたしは人間界の郊外に小さな家を用意し、その男を転生させて住ませてやった。召喚術も最低限は教えてあげたし、あとは本人が成長できるかどうかが鍵になる。
ところが、男性への嫌悪感が拭えないあたしは、最初からその男にあまり期待をしていなかった。目の前で小さなドラゴンを召喚してはしゃいでいる姿に、子どもっぽくて頼りない印象を抱いてしまう。英雄に成長する可能性はあるかもしれないけど、まあ、しばらく様子を見ないとわからない。
あたしはその夜、その男の家に滞在していた。もし本当に英雄の資質があるなら導いてあげないといけないから、部屋もひとつ用意してある。男は召喚術が楽しすぎて徹夜しそうな勢いだったけど、あたしは先に寝ることにした。
朝目覚めると、状況が完全に変わっていた。あんなに小さかった家が、まるで城のようになっていて、しかも中は魔族であふれかえっている。おまけにあたしは鎖に繋がれ、囚われの身になっていた。
「初めまして、スクルド。私はアスタロテ、これから末永く仲良くしてね」
長い赤髪に青い瞳、妖艶な服を着て豊満な肉体をこれ見よがしに揺らす女――魔族の中でもかなり大物っぽい。目つきや雰囲気からして、ただ者ではないとすぐにわかった。
「魔族め!」
あたしは咄嗟に神術を使おうとしたけど、何も出ない。そっと手をかざしてみても神術が使えないのだ。
「神力封じの首輪、使い心地はどう?」
アスタロテは勝ち誇ったように笑う。その表情を見ただけで腹立たしくなるけど、今のあたしには何もできない。視線の先には、虚ろな瞳で徘徊する“あの男”の姿があった。どうやら魔族を召喚してしまい、逆に操られたらしい。だから男は嫌なんだ……と後悔しても遅い。
こうして、あたしはアスタロテに囚われ、屈辱の日々を送ることになる。痛めつけられたり嘲られたり、女神であるプライドをこれでもかと踏みにじられた。日が経つにつれ、アスタロテの支配領域はどんどん拡大していった。
大魔族の軍勢に対して普通の人間など太刀打ちできるはずもなく、近隣の王国の都市は次々に陥落。女神教国はまだ健在だったけど、そこを守っているのはあたしの姉――ヴェル姉様だ。
---
あるとき、アスタロテが上機嫌であたしに絡んできた。
「この前、女神教国と戦争してさ……どうなったと思う?」
あたしはできる限り無視しようとしたけど、彼女は急にあたしの腹を蹴り上げた。
「げほっ……」
まともに喰らって声が漏れる。
「ホント楽勝でしたー。突撃しかしてこないとかバカなの? 罠にかけたら一瞬だったんですけどぉ」
ヴェル姉様が真っ向勝負をしかけたのか……あの性格を知っているだけに、裏をかかれたんだろうな、と嫌な想像が頭をよぎる。
「残念ながらヴェルザンディには逃げられたけど、近いうちに捕らえてあげるわ。姉妹そろって私に飼われるなんて……ねえ、嬉しいでしょ?」
そう言って今度はあたしの頭を足で踏みつけてくる。その腐った行為に怒りが募るものの、首輪で神力を封じられているあたしは何もできない。心の中で必死に助けを呼ぶことしかできなかった。
---
そして、状況が一変したのは、人間界がほぼ魔族のものになりかけたとき。近隣の王国は王都だけをかろうじて残し、女神教国も首都陥落寸前になった頃――突然、ひとりの英雄がアスタロテのいる城に攻め込んできたのだ。
その英雄は光のような速さで魔族を斬り捨て、あっという間に玉座の間へ到達すると、アスタロテが声を発する前にその首を斬り落とし、続けて身体をバラバラにした。それはほんの一瞬の出来事。
その瞬間、あたしは鎖に繋がれたまま呆然とした。玉座の隣に囚われの姿で座らされていたから、その全てを見届けた。
その英雄は少女――年は12歳くらいだろうか。長い黒髪と異国らしい民族衣装を身にまとい、あたしと同じくらいの身長。剣に似た不思議な武器を持っていた。
彼女はあたしに近づくと、神力封じの首輪と鎖を何の苦もなく斬り落としてくれる。長い間、あたしを苦しめてきた拘束が一瞬で消し飛んだのだ。
胸の奥が熱くなるのを感じた。体中に残る痛みさえ一瞬忘れてしまうような、高揚感。あたしはバルキリーとして数多くの英雄を見てきたけど、これほどの存在に会ったことはない。彼女は本当に規格外だ――。
「何者なの、あんた……?」
声をかけるあたしに、彼女は腰に手をやって、誇らしげに名乗った。
「私? 私はエリカ。最強の剣士で、天才科学者よ」
カガクシャ? 何のことだかよくわからないけど、とにかく凄い力を誇る英雄のようだ。初めて出会った瞬間から心を奪われる感覚があった。ああ、もしこの子がエインフェリアになってくれたら……なんて、そんな都合のいい妄想が止まらなかった。
これがあたしとエリカの初めての出会いだった。
---
こうして人間界は、たったひとりの英雄の登場によって救われることになる。主を失った魔族たちは雪崩をうつように魔界へ帰っていき、軍勢はあっという間に瓦解した。あたしは神界に戻り、疲弊しきった体を本体に合流させる。肉体はもちろんボロボロだし、精神的にも参っていたけど、それ以上に頭の中を支配していたのは「どうやったら、あのエリカを自分のエインフェリアにできるだろう」という考え。
実際、あの後、分身体を派遣して必死にエリカを探し回った。人間界の町から町へ、大陸から大陸へと探し続ける。エリカが着ていた民族衣装はこの辺りでは見ないものだったから「極東の島国か?」と推測して、行ける範囲は徹底的に探したのだ。
けれど、見つからない。
同じ民族衣装を着ている人々や、エリカと似た顔立ちの人々には出会ったものの、肝心の彼女はいなかった。
失意のうちに日々を送っていたある日、あたしは姉であるヴェル姉様に尋ねてみた。
「ねえ、ヴェル姉様。あのアスタロテを倒した英雄が、どこに行ったか知らない?」
すると姉はあっさり答える。
「ああ、あいつなら異世界に帰ったよ。ノルン様が連れてきた人間だからな」
そのとき、妙に納得してしまった。異世界から来たのなら、この世界をいくら探してもいないわけだ。あの男がやらかしたせいで、異世界にはいいイメージがなかったけど、それでもエリカはあたしが見てきた中でも群を抜いて魅力的だった。
とはいえ、あたしには異世界に行く能力がない。だから、しばらくは鬱々とした気持ちで仕事をこなし、女の英雄候補を探しては悶々とする日々を送った。気づけば、無意識に「あの英雄と比べれば物足りないな」なんて思ってしまう。後悔しても始まらないのに、あのときに確保しておけばよかったと何度も思わずにいられなかった。
---
そんなある日のこと。あたしの屋敷に黄色い雲に乗ったノルン様がひょっこり現れた。どうやら新たな神を紹介したいという。
「3級神のエリカちゃんよん。発明を司る女神なのん。面倒見てあげてねん」
思わず目を疑った。そこに立っていたのは、あの長い黒髪に異国風の民族衣装、見覚えのある顔立ち。間違いなく、あたしが必死に探していたエリカだった。
「久しぶりね、エリカ」
そう声をかけるあたしに対して、彼女は怪訝そうな顔をした。
「あなた、誰よ?」
まるで初対面。どうやら記憶がないらしい。あれだけあたしが執着した相手なのに、向こうにとっては最初からいないも同然。悲しみもわいてくるけど、同時にまた一から彼女と関係を築けるんだ――と思ったら、それはそれで少し胸がときめいた。
ノルン様が口に指を当てて「しー、よん」と言うから、これは秘密にしないといけない事らしい。
「あたしはスクルド。運命の3女神の1柱で、未来を司ってるの。何でも相談してくれて構わないわよ」
そう自己紹介すると、エリカは面倒くさそうに言う。
「……なんか小さいし、頼りなさそうなのよね」
「あんたも大差ないでしょうが!」
思わずそう返してしまったけど、嬉しさがこみ上げてくる。かつて人間界を救った理想の英雄が、今はあたしの目の前にいるのだから。
こうして、あたしとエリカの新しい関係が始まったのだった。
まあ、簡単にいえば、あたしは運命にまつわる仕事をしていて、さらにバルキリーとしての役目も担っている。だから、人間界に出向いて英雄の魂を探すことがある。たとえ神の力があるといっても、同時にいくつもの世界を飛び回るのは骨が折れる。そこで使うのが「分身体」ってわけ。あたし自身は神界に残り、同時に分身体を人間界に派遣することで、効率よく業務をこなす仕組みなのだ。
バルキリーの仕事は大きく分けて「英雄の魂の回収」と「その英雄の成長の手助け」。英雄は生きているあいだに輝きを増し、死後にその魂を引き上げてこそ最上級の“エインフェリア”となるから。探して、導いて、いつか死を迎えたときに回収する。気の長い仕事だ。でも、そういうプロセスを経ないと、真の英雄の魂は育たない。
ちなみにあたしは“女英雄”しか信用していない。男というのはすぐ堕落する傾向があるから嫌いなのよ。もちろん、どこかに優れた男英雄がいるのかもしれないけれど、これまで関わってきた男の魂がみんな途中で転んでしまうのを何度も見てきた結果、すっかり男嫌いになってしまったの。だから、あたしが使役しているエインフェリアも全員女性。これはあくまであたし個人のポリシーだけど、いまのところ問題なくやっていけている。
---
さて、あれは確か――「リサイクル計画」に参加していた時のこと。
そのリサイクル計画というのは、異世界から「英雄になり得る魂」を送ってもらい、こちらで転生させて育てて死後に回収するという計画。あちらの世界では平和すぎて英雄の需要がないらしいから、余剰気味の「有望な魂」をこちらに回してくれる――簡単にいえばそういう契約みたいなもの。もちろんオーディン様が決めた話だし、あたしは従わざるを得ない。
その日、あたしは新しく異世界から届いた魂と対面していた。嫌な予感はしてたけど、担当は男。内心で「最悪だな」と思ったけど、仕事だから仕方ない。
「欲しい能力を1つだけ与えてあげるわ。何がいい?」
あたしはいつものように淡々と説明した。こういうとき、戦闘向きでもない能力を望むようじゃ見込みがない。そんな奴は適当な試練を与えて始末し、元の異世界に送り返してやるだけ。だけど、その男はちょっと違うことを言ってきた。
「全てを従える能力が欲しい」
なるほど、叶えるのが難しい能力だ。あたしは少し考えこんだけど、それっぽい能力を与えてあげることにした。
「なら、召喚術の能力を与えるわ。(召喚したものは)全て従える能力よ」
いくらか曲解は入っているけど、これでいいだろう。そうして、あたしは人間界の郊外に小さな家を用意し、その男を転生させて住ませてやった。召喚術も最低限は教えてあげたし、あとは本人が成長できるかどうかが鍵になる。
ところが、男性への嫌悪感が拭えないあたしは、最初からその男にあまり期待をしていなかった。目の前で小さなドラゴンを召喚してはしゃいでいる姿に、子どもっぽくて頼りない印象を抱いてしまう。英雄に成長する可能性はあるかもしれないけど、まあ、しばらく様子を見ないとわからない。
あたしはその夜、その男の家に滞在していた。もし本当に英雄の資質があるなら導いてあげないといけないから、部屋もひとつ用意してある。男は召喚術が楽しすぎて徹夜しそうな勢いだったけど、あたしは先に寝ることにした。
朝目覚めると、状況が完全に変わっていた。あんなに小さかった家が、まるで城のようになっていて、しかも中は魔族であふれかえっている。おまけにあたしは鎖に繋がれ、囚われの身になっていた。
「初めまして、スクルド。私はアスタロテ、これから末永く仲良くしてね」
長い赤髪に青い瞳、妖艶な服を着て豊満な肉体をこれ見よがしに揺らす女――魔族の中でもかなり大物っぽい。目つきや雰囲気からして、ただ者ではないとすぐにわかった。
「魔族め!」
あたしは咄嗟に神術を使おうとしたけど、何も出ない。そっと手をかざしてみても神術が使えないのだ。
「神力封じの首輪、使い心地はどう?」
アスタロテは勝ち誇ったように笑う。その表情を見ただけで腹立たしくなるけど、今のあたしには何もできない。視線の先には、虚ろな瞳で徘徊する“あの男”の姿があった。どうやら魔族を召喚してしまい、逆に操られたらしい。だから男は嫌なんだ……と後悔しても遅い。
こうして、あたしはアスタロテに囚われ、屈辱の日々を送ることになる。痛めつけられたり嘲られたり、女神であるプライドをこれでもかと踏みにじられた。日が経つにつれ、アスタロテの支配領域はどんどん拡大していった。
大魔族の軍勢に対して普通の人間など太刀打ちできるはずもなく、近隣の王国の都市は次々に陥落。女神教国はまだ健在だったけど、そこを守っているのはあたしの姉――ヴェル姉様だ。
---
あるとき、アスタロテが上機嫌であたしに絡んできた。
「この前、女神教国と戦争してさ……どうなったと思う?」
あたしはできる限り無視しようとしたけど、彼女は急にあたしの腹を蹴り上げた。
「げほっ……」
まともに喰らって声が漏れる。
「ホント楽勝でしたー。突撃しかしてこないとかバカなの? 罠にかけたら一瞬だったんですけどぉ」
ヴェル姉様が真っ向勝負をしかけたのか……あの性格を知っているだけに、裏をかかれたんだろうな、と嫌な想像が頭をよぎる。
「残念ながらヴェルザンディには逃げられたけど、近いうちに捕らえてあげるわ。姉妹そろって私に飼われるなんて……ねえ、嬉しいでしょ?」
そう言って今度はあたしの頭を足で踏みつけてくる。その腐った行為に怒りが募るものの、首輪で神力を封じられているあたしは何もできない。心の中で必死に助けを呼ぶことしかできなかった。
---
そして、状況が一変したのは、人間界がほぼ魔族のものになりかけたとき。近隣の王国は王都だけをかろうじて残し、女神教国も首都陥落寸前になった頃――突然、ひとりの英雄がアスタロテのいる城に攻め込んできたのだ。
その英雄は光のような速さで魔族を斬り捨て、あっという間に玉座の間へ到達すると、アスタロテが声を発する前にその首を斬り落とし、続けて身体をバラバラにした。それはほんの一瞬の出来事。
その瞬間、あたしは鎖に繋がれたまま呆然とした。玉座の隣に囚われの姿で座らされていたから、その全てを見届けた。
その英雄は少女――年は12歳くらいだろうか。長い黒髪と異国らしい民族衣装を身にまとい、あたしと同じくらいの身長。剣に似た不思議な武器を持っていた。
彼女はあたしに近づくと、神力封じの首輪と鎖を何の苦もなく斬り落としてくれる。長い間、あたしを苦しめてきた拘束が一瞬で消し飛んだのだ。
胸の奥が熱くなるのを感じた。体中に残る痛みさえ一瞬忘れてしまうような、高揚感。あたしはバルキリーとして数多くの英雄を見てきたけど、これほどの存在に会ったことはない。彼女は本当に規格外だ――。
「何者なの、あんた……?」
声をかけるあたしに、彼女は腰に手をやって、誇らしげに名乗った。
「私? 私はエリカ。最強の剣士で、天才科学者よ」
カガクシャ? 何のことだかよくわからないけど、とにかく凄い力を誇る英雄のようだ。初めて出会った瞬間から心を奪われる感覚があった。ああ、もしこの子がエインフェリアになってくれたら……なんて、そんな都合のいい妄想が止まらなかった。
これがあたしとエリカの初めての出会いだった。
---
こうして人間界は、たったひとりの英雄の登場によって救われることになる。主を失った魔族たちは雪崩をうつように魔界へ帰っていき、軍勢はあっという間に瓦解した。あたしは神界に戻り、疲弊しきった体を本体に合流させる。肉体はもちろんボロボロだし、精神的にも参っていたけど、それ以上に頭の中を支配していたのは「どうやったら、あのエリカを自分のエインフェリアにできるだろう」という考え。
実際、あの後、分身体を派遣して必死にエリカを探し回った。人間界の町から町へ、大陸から大陸へと探し続ける。エリカが着ていた民族衣装はこの辺りでは見ないものだったから「極東の島国か?」と推測して、行ける範囲は徹底的に探したのだ。
けれど、見つからない。
同じ民族衣装を着ている人々や、エリカと似た顔立ちの人々には出会ったものの、肝心の彼女はいなかった。
失意のうちに日々を送っていたある日、あたしは姉であるヴェル姉様に尋ねてみた。
「ねえ、ヴェル姉様。あのアスタロテを倒した英雄が、どこに行ったか知らない?」
すると姉はあっさり答える。
「ああ、あいつなら異世界に帰ったよ。ノルン様が連れてきた人間だからな」
そのとき、妙に納得してしまった。異世界から来たのなら、この世界をいくら探してもいないわけだ。あの男がやらかしたせいで、異世界にはいいイメージがなかったけど、それでもエリカはあたしが見てきた中でも群を抜いて魅力的だった。
とはいえ、あたしには異世界に行く能力がない。だから、しばらくは鬱々とした気持ちで仕事をこなし、女の英雄候補を探しては悶々とする日々を送った。気づけば、無意識に「あの英雄と比べれば物足りないな」なんて思ってしまう。後悔しても始まらないのに、あのときに確保しておけばよかったと何度も思わずにいられなかった。
---
そんなある日のこと。あたしの屋敷に黄色い雲に乗ったノルン様がひょっこり現れた。どうやら新たな神を紹介したいという。
「3級神のエリカちゃんよん。発明を司る女神なのん。面倒見てあげてねん」
思わず目を疑った。そこに立っていたのは、あの長い黒髪に異国風の民族衣装、見覚えのある顔立ち。間違いなく、あたしが必死に探していたエリカだった。
「久しぶりね、エリカ」
そう声をかけるあたしに対して、彼女は怪訝そうな顔をした。
「あなた、誰よ?」
まるで初対面。どうやら記憶がないらしい。あれだけあたしが執着した相手なのに、向こうにとっては最初からいないも同然。悲しみもわいてくるけど、同時にまた一から彼女と関係を築けるんだ――と思ったら、それはそれで少し胸がときめいた。
ノルン様が口に指を当てて「しー、よん」と言うから、これは秘密にしないといけない事らしい。
「あたしはスクルド。運命の3女神の1柱で、未来を司ってるの。何でも相談してくれて構わないわよ」
そう自己紹介すると、エリカは面倒くさそうに言う。
「……なんか小さいし、頼りなさそうなのよね」
「あんたも大差ないでしょうが!」
思わずそう返してしまったけど、嬉しさがこみ上げてくる。かつて人間界を救った理想の英雄が、今はあたしの目の前にいるのだから。
こうして、あたしとエリカの新しい関係が始まったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる