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IFルート 絶望的な運命に立ち向かうダークファンタジー
IF早過ぎたラグナロク4話 ロキ一味
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どうやってロキの一味を始末しようかと考えていたとき、私の家にロキがやって来た。まさに“飛んで火に入る何とやら”という言葉がふさわしいだろう。
「ヘルがいないんだ! エリカ、どこに行ったか知らないかい? 僕に黙ってどこかへ行くような娘じゃないんだが……」
ロキは珍しく動揺をあらわにしていた。明らかにあちこちを探しまわっていたらしく、衣服は乱れ、髪はぼさぼさ、充血した目をこちらに向けている。
普段なら貴族のような優雅さを漂わせている男なのに、いまは取り乱した姿だ。心底ヘルを案じている様子が伝わる。これが“親心”とでも言うのか? 私には理解できないけど。
「君はヘルと付き合いがあっただろう? どこにいるのか知っているなら教えてくれ!」
かなり焦った口調だ。あの容姿のヘルを、これほどまでに大事にしているという。ロキなりの愛情なのかもしれない。
でも私は、既にヘルを殺した。彼女の血も肉体も、もうこの世には存在しない。それを正直に伝えられるはずがないし、そもそも私はスクルドたちを守るためにロキも殺すと決めている。ラグナロクで敵になる連中は生かしてはおけない。
ロキの能力は「透明化」だと聞いていた。暗殺向きの能力であり、まともに相手をすると厄介極まりない。だから、卑怯な方法で始末するしかない。
「なあ、頼むよ。知っているなら、教えてくれ! 望む物を与えてやろう!」
ロキはやや傲慢な口調で懇願している。自分のほうが上だと信じて疑わない態度。私からすれば、その首こそが欲しいのだが、さすがにそう言えば警戒されるだろう。
(……どうしたものか)
やや考えこんだフリをしてから、私はニコリと笑顔をつくった。
「いいわよ。教えてあげる。耳を貸して」
朗報をささやくかのように手招きする。すると、ロキは期待で顔をほころばせ、疑う素振りもなく近づいてきた。明らかに喜びが大きすぎて、いつもの狡猾さが抜け落ちているようだ。
「おお、知っているのか。何でも用意しよう。それで、どこにいるんだい?」
焦りからか、ロキは私のそばまで無防備に顔を寄せる。それを見計らい、私は彼の耳元で囁いた。
「つーかまえたー」
その刹那、左手でがっしりとロキの首を掴み、右手で刀を抜き放つ。鈍い光が一瞬きらめき、ロキの腹へ思いきり突き刺した。
「なっ……!」
ロキが驚いてジタバタともがく。焦って何かしようとしたようだが、私の攻撃は止まらない。透明化される前に絶命させるのが得策だ。
私は刀を何度も抜いては突き刺し、抜いては突き刺しを繰り返す。金色の血が辺り一面に飛び散り、私の着物や顔にもかかる。強烈な血の匂いが鼻をつき、内臓をえぐるような不快感がじわりと広がった。
「なぜ……ぐはっ……」
ロキが声を上げるが、私は無視して無感情に突き刺す作業を継続する。
やめろ、という声が漏れかけたところで、ロキの体はぐったり動かなくなる。
ユーミルやヘルを殺してきたからか、もう殺すことに何の感情も湧かない。淡々とした作業──それが私の中の正直な感覚だった。
(……終わったか)
あとは死体結晶化装置に吸引させ、結晶化して飲み込むだけ。慣れた手順だ。ロキの身体が吸引され、あの狡猾な笑みを浮かべていた顔さえも装置に呑まれていく。金色の血液が結晶へと変わり、私はそれを喉の奥へ流し込んだ。
これで厄介な能力を持ったロキを消し去ると同時に、その力を奪うことに成功した。ラグナロクで敵になる連中を減らせたうえ、自分の戦力を上げる──一石三鳥くらいの価値がある。
「次はフェンリルにしようかしら」
身支度を整えてから外へ出た。さっそく次の“獲物”を狩りに行くつもりだ。
---
フェンリルを探す前に、まずは奪ったロキの能力を試してみた。
鏡の前に立ち、“透明になりたい”と思うだけで鏡に私の姿が映らなくなる。あっけないくらい簡単だ。拍子抜けするほどにシンプルで、だからこそ暗殺には最適。
さらに“変身したい”と思うと、白い毛が生えて巨大な狼の姿に――あるいは他の姿にもなれる。どうやらロキの能力は透明化ではなく、変身能力だったらしい。つまり、“ロキの情報”は片鱗しか正しく伝わっていなかったことになるが、どのみち暗殺には大いに役立つだろう。
本当に便利な能力だ。少し邪悪な笑みがこぼれた。
(フェンリル相手には……アレが良さそうね)
---
世界樹の森に入る。薄緑の光が木々の隙間から差し込んでおり、風が揺らす枝葉がざわざわと不穏な音を立てる。「フェンリルー、出てきなさいー!」と大声で呼んでみたが、当然のように反応がない。以前ひどい目にあったから、あいつも警戒しているのだろう。
私はロキの姿へと変身した。視点が少し高くなり、体つきも男性的になる。腕を回して確かめると、筋肉のつき方まで違う。
(ふふ、ロキの姿で呼んだらあいつは出て来るかな?)
「フェンリルー! 出てきたまえ!」
ロキの声で呼びかけると、遠くから“ワオーン!”という雄叫びが返ってきた。次の瞬間、ものすごい勢いでフェンリルが現れ、尻尾を振り振りさせながら私の目の前にお座りする。
「あら……本当に来たわね」
まるで飼い主を慕う犬のようだ。
以前、尻尾を半分切り取ったはずだけれど、どうやら再生したらしく完全な長さに戻っている。もし再生するなら、全部切り取っておけばよかったかもしれないが、それを今さら言っても仕方ない。
フェンリルは嬉しそうに舌を出し、ひたすらこちらの様子を窺っている。危険をまるで感じていないのだろう。瞳には純粋な忠誠心が浮かんでいるようにも見える。
スザクの姿が頭をかすめるけれど、ここで情に流されるわけにはいかない。 ラグナロクで敵になる者を残せば、スクルドたちの命が危険にさらされる。それだけは避けたい。
「フェンリル、こっちにおいで」
ロキの声で優しく手招きすると、フェンリルは疑うことなく近づいてくる。鼻息の荒い獣臭が顔にかかり、思わず眉を顰めたくなるが、我慢だ。完全に油断させるには、飼い主の演技を続けないと。
「頭を近づけるんだ」
「ワオン」
フェンリルは言われるがままに、頭をこちらへ差し出す。尻尾を振りながら、目を細めて気持ちよさそうにしている。
(本当に犬みたいね……)
「そのまま目を閉じたままでいたまえ。いい事をしてあげるよ」
主人の指示を守り、フェンリルは目を閉じて完全な無防備状態になる。私は静かに全斬丸を抜き、刃先をフェンリルの眉間に押し当てる。ほんの一瞬、罪悪感が頭をかすめたが、それに囚われるわけにはいかない。
素早く突き刺すと、フェンリルは声も上げないまま絶命した。脳を貫かれた衝撃で、何の抵抗もできなかったのだろう。あるいは、飼い主になら殺されてもいいと思ったのか――そこまではわからないが、とにかく思ったより簡単に仕留められた。
あとはいつも通り、後始末をして結晶化し、その力を取り込むだけ。フェンリルの巨大な死体も、いくつかに切り分けて装置に吸引する。今では手慣れた作業でしかない。
---
ロキに変身すれば容易に事が運ぶと味をしめた私は、次の獲物であるヨルムンガンドも同じ手口で狙うことにした。
世界樹から北に百歩ほど進んだところで、とぐろを巻いているヨルムンガンドの姿を見つける。あれほどの巨体を見逃すはずもない。攻撃される恐れがないのだからと、私は深呼吸してから意気揚々と近づいていった。
(フェンリルみたいに不意打ちで一撃……は難しいわね。サイズ的に)
そこで私は特別な薬を用意してきた。名付けて“超強力毒薬エリカスペシャル”。あらゆる毒をかき集め、強化し、濃縮し、一滴で普通の生き物なら瞬殺に至るという代物だ。ヨルムンガンドが相手でも、少なからず効果はあるはず。
「やあ、ヨルムンガンド。元気にしているかい? 今日は良い物を持って来たんだ」
ロキの姿で、毒の小瓶をちらつかせながら声をかける。ヨルムンガンドは舌をちろちろと動かし、その巨大な口を開いた。かなりの迫力に気圧されそうだが、今の私はロキに化けている。ヨルムンガンドも主人の気配を感じ、襲う気はないのだろう。
「元気が出る薬なんだ。前にひどい目にあっただろう? 僕は君のことが心配なんだよ」
嘘くさい言葉を並べつつ、小瓶の蓋を開けて大きく開いたヨルムンガンドの口に向かって投げ込む。赤くぬめった喉奥まで一瞬で吸い込まれた。
「くらえっ! エリカスペシャル」
あとはどうなるか。ヨルムンガンドはごくりと飲み込んだが、すぐには変化がない。もしかして毒が効かないのか? そう思い始めた矢先、ヤツがものすごい勢いで暴れ出す。地鳴りが響き、森の木々が根こそぎ投げ倒され、風圧で葉が渦を巻いて飛び散った。
「うわっ……!」
私も思いきり巻き添えを食らい、ふっと宙へ投げ出される。周囲の景色が一瞬反転するほどの衝撃。前回よりも凄まじいパワーだ。私はロキの姿のまま吹き飛ばされ木に衝突して、息が止まりそうになる。
「またこうなるのねー」
暴れているということは毒が効いている証拠。私はひとまず離れた場所で様子をうかがう。超回復のおかげで痛みはすぐに治まった。そのうち夕暮れが近づき、ヨルムンガンドの動きが少しずつ鈍ってきた。
夜のとばりが落ちかけるころ、大蛇は完全に地面へ崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。あたりには無数の倒木やえぐられた土が乱雑に散らばり、まるで大嵐が通り過ぎたあとのようだ。
「やったかな……」
私は警戒を解かずに近づいた。結論から言うと毒の勝利だった。毒蛇を毒で殺すとは、皮肉なものだ。ヨルムンガンドはすでに息絶えている。
念のため頭部を破壊し、血液と肉体を結晶化装置で処理する。体が巨大過ぎて、吸引できるサイズに切り分けるのに苦労した。これでラグナロクで敵になるロキ一味はすべて始末したことになる。
「ふふふ……これで私の恨みも少しは晴れたわね」
かすかな疲労が残る体を休める間もなく、私は次の行動を考える。ロキたちを倒して得た能力で、さらに強くなった。スクルドたちを守るという目的のため、手段を選ぶつもりはない。けれど、いまは立ち止まるわけにはいかない。
(次の獲物は……あいつらにしようか)
そんな独白を胸に、私はロキの姿を解いて元の姿に戻る。闇が降りた世界樹の森の中、血の匂いがまだ消えずに漂っている。
私の足取りは迷いなく、深い夜の闇へと消えていくのだった。
---
現在のエリカのステータス
神力……32万5千
特殊能力……発明、暴食、ちょっとだけ未来視、毒耐性、無限成長、超再生、予知夢、変身
「ヘルがいないんだ! エリカ、どこに行ったか知らないかい? 僕に黙ってどこかへ行くような娘じゃないんだが……」
ロキは珍しく動揺をあらわにしていた。明らかにあちこちを探しまわっていたらしく、衣服は乱れ、髪はぼさぼさ、充血した目をこちらに向けている。
普段なら貴族のような優雅さを漂わせている男なのに、いまは取り乱した姿だ。心底ヘルを案じている様子が伝わる。これが“親心”とでも言うのか? 私には理解できないけど。
「君はヘルと付き合いがあっただろう? どこにいるのか知っているなら教えてくれ!」
かなり焦った口調だ。あの容姿のヘルを、これほどまでに大事にしているという。ロキなりの愛情なのかもしれない。
でも私は、既にヘルを殺した。彼女の血も肉体も、もうこの世には存在しない。それを正直に伝えられるはずがないし、そもそも私はスクルドたちを守るためにロキも殺すと決めている。ラグナロクで敵になる連中は生かしてはおけない。
ロキの能力は「透明化」だと聞いていた。暗殺向きの能力であり、まともに相手をすると厄介極まりない。だから、卑怯な方法で始末するしかない。
「なあ、頼むよ。知っているなら、教えてくれ! 望む物を与えてやろう!」
ロキはやや傲慢な口調で懇願している。自分のほうが上だと信じて疑わない態度。私からすれば、その首こそが欲しいのだが、さすがにそう言えば警戒されるだろう。
(……どうしたものか)
やや考えこんだフリをしてから、私はニコリと笑顔をつくった。
「いいわよ。教えてあげる。耳を貸して」
朗報をささやくかのように手招きする。すると、ロキは期待で顔をほころばせ、疑う素振りもなく近づいてきた。明らかに喜びが大きすぎて、いつもの狡猾さが抜け落ちているようだ。
「おお、知っているのか。何でも用意しよう。それで、どこにいるんだい?」
焦りからか、ロキは私のそばまで無防備に顔を寄せる。それを見計らい、私は彼の耳元で囁いた。
「つーかまえたー」
その刹那、左手でがっしりとロキの首を掴み、右手で刀を抜き放つ。鈍い光が一瞬きらめき、ロキの腹へ思いきり突き刺した。
「なっ……!」
ロキが驚いてジタバタともがく。焦って何かしようとしたようだが、私の攻撃は止まらない。透明化される前に絶命させるのが得策だ。
私は刀を何度も抜いては突き刺し、抜いては突き刺しを繰り返す。金色の血が辺り一面に飛び散り、私の着物や顔にもかかる。強烈な血の匂いが鼻をつき、内臓をえぐるような不快感がじわりと広がった。
「なぜ……ぐはっ……」
ロキが声を上げるが、私は無視して無感情に突き刺す作業を継続する。
やめろ、という声が漏れかけたところで、ロキの体はぐったり動かなくなる。
ユーミルやヘルを殺してきたからか、もう殺すことに何の感情も湧かない。淡々とした作業──それが私の中の正直な感覚だった。
(……終わったか)
あとは死体結晶化装置に吸引させ、結晶化して飲み込むだけ。慣れた手順だ。ロキの身体が吸引され、あの狡猾な笑みを浮かべていた顔さえも装置に呑まれていく。金色の血液が結晶へと変わり、私はそれを喉の奥へ流し込んだ。
これで厄介な能力を持ったロキを消し去ると同時に、その力を奪うことに成功した。ラグナロクで敵になる連中を減らせたうえ、自分の戦力を上げる──一石三鳥くらいの価値がある。
「次はフェンリルにしようかしら」
身支度を整えてから外へ出た。さっそく次の“獲物”を狩りに行くつもりだ。
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フェンリルを探す前に、まずは奪ったロキの能力を試してみた。
鏡の前に立ち、“透明になりたい”と思うだけで鏡に私の姿が映らなくなる。あっけないくらい簡単だ。拍子抜けするほどにシンプルで、だからこそ暗殺には最適。
さらに“変身したい”と思うと、白い毛が生えて巨大な狼の姿に――あるいは他の姿にもなれる。どうやらロキの能力は透明化ではなく、変身能力だったらしい。つまり、“ロキの情報”は片鱗しか正しく伝わっていなかったことになるが、どのみち暗殺には大いに役立つだろう。
本当に便利な能力だ。少し邪悪な笑みがこぼれた。
(フェンリル相手には……アレが良さそうね)
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世界樹の森に入る。薄緑の光が木々の隙間から差し込んでおり、風が揺らす枝葉がざわざわと不穏な音を立てる。「フェンリルー、出てきなさいー!」と大声で呼んでみたが、当然のように反応がない。以前ひどい目にあったから、あいつも警戒しているのだろう。
私はロキの姿へと変身した。視点が少し高くなり、体つきも男性的になる。腕を回して確かめると、筋肉のつき方まで違う。
(ふふ、ロキの姿で呼んだらあいつは出て来るかな?)
「フェンリルー! 出てきたまえ!」
ロキの声で呼びかけると、遠くから“ワオーン!”という雄叫びが返ってきた。次の瞬間、ものすごい勢いでフェンリルが現れ、尻尾を振り振りさせながら私の目の前にお座りする。
「あら……本当に来たわね」
まるで飼い主を慕う犬のようだ。
以前、尻尾を半分切り取ったはずだけれど、どうやら再生したらしく完全な長さに戻っている。もし再生するなら、全部切り取っておけばよかったかもしれないが、それを今さら言っても仕方ない。
フェンリルは嬉しそうに舌を出し、ひたすらこちらの様子を窺っている。危険をまるで感じていないのだろう。瞳には純粋な忠誠心が浮かんでいるようにも見える。
スザクの姿が頭をかすめるけれど、ここで情に流されるわけにはいかない。 ラグナロクで敵になる者を残せば、スクルドたちの命が危険にさらされる。それだけは避けたい。
「フェンリル、こっちにおいで」
ロキの声で優しく手招きすると、フェンリルは疑うことなく近づいてくる。鼻息の荒い獣臭が顔にかかり、思わず眉を顰めたくなるが、我慢だ。完全に油断させるには、飼い主の演技を続けないと。
「頭を近づけるんだ」
「ワオン」
フェンリルは言われるがままに、頭をこちらへ差し出す。尻尾を振りながら、目を細めて気持ちよさそうにしている。
(本当に犬みたいね……)
「そのまま目を閉じたままでいたまえ。いい事をしてあげるよ」
主人の指示を守り、フェンリルは目を閉じて完全な無防備状態になる。私は静かに全斬丸を抜き、刃先をフェンリルの眉間に押し当てる。ほんの一瞬、罪悪感が頭をかすめたが、それに囚われるわけにはいかない。
素早く突き刺すと、フェンリルは声も上げないまま絶命した。脳を貫かれた衝撃で、何の抵抗もできなかったのだろう。あるいは、飼い主になら殺されてもいいと思ったのか――そこまではわからないが、とにかく思ったより簡単に仕留められた。
あとはいつも通り、後始末をして結晶化し、その力を取り込むだけ。フェンリルの巨大な死体も、いくつかに切り分けて装置に吸引する。今では手慣れた作業でしかない。
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ロキに変身すれば容易に事が運ぶと味をしめた私は、次の獲物であるヨルムンガンドも同じ手口で狙うことにした。
世界樹から北に百歩ほど進んだところで、とぐろを巻いているヨルムンガンドの姿を見つける。あれほどの巨体を見逃すはずもない。攻撃される恐れがないのだからと、私は深呼吸してから意気揚々と近づいていった。
(フェンリルみたいに不意打ちで一撃……は難しいわね。サイズ的に)
そこで私は特別な薬を用意してきた。名付けて“超強力毒薬エリカスペシャル”。あらゆる毒をかき集め、強化し、濃縮し、一滴で普通の生き物なら瞬殺に至るという代物だ。ヨルムンガンドが相手でも、少なからず効果はあるはず。
「やあ、ヨルムンガンド。元気にしているかい? 今日は良い物を持って来たんだ」
ロキの姿で、毒の小瓶をちらつかせながら声をかける。ヨルムンガンドは舌をちろちろと動かし、その巨大な口を開いた。かなりの迫力に気圧されそうだが、今の私はロキに化けている。ヨルムンガンドも主人の気配を感じ、襲う気はないのだろう。
「元気が出る薬なんだ。前にひどい目にあっただろう? 僕は君のことが心配なんだよ」
嘘くさい言葉を並べつつ、小瓶の蓋を開けて大きく開いたヨルムンガンドの口に向かって投げ込む。赤くぬめった喉奥まで一瞬で吸い込まれた。
「くらえっ! エリカスペシャル」
あとはどうなるか。ヨルムンガンドはごくりと飲み込んだが、すぐには変化がない。もしかして毒が効かないのか? そう思い始めた矢先、ヤツがものすごい勢いで暴れ出す。地鳴りが響き、森の木々が根こそぎ投げ倒され、風圧で葉が渦を巻いて飛び散った。
「うわっ……!」
私も思いきり巻き添えを食らい、ふっと宙へ投げ出される。周囲の景色が一瞬反転するほどの衝撃。前回よりも凄まじいパワーだ。私はロキの姿のまま吹き飛ばされ木に衝突して、息が止まりそうになる。
「またこうなるのねー」
暴れているということは毒が効いている証拠。私はひとまず離れた場所で様子をうかがう。超回復のおかげで痛みはすぐに治まった。そのうち夕暮れが近づき、ヨルムンガンドの動きが少しずつ鈍ってきた。
夜のとばりが落ちかけるころ、大蛇は完全に地面へ崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。あたりには無数の倒木やえぐられた土が乱雑に散らばり、まるで大嵐が通り過ぎたあとのようだ。
「やったかな……」
私は警戒を解かずに近づいた。結論から言うと毒の勝利だった。毒蛇を毒で殺すとは、皮肉なものだ。ヨルムンガンドはすでに息絶えている。
念のため頭部を破壊し、血液と肉体を結晶化装置で処理する。体が巨大過ぎて、吸引できるサイズに切り分けるのに苦労した。これでラグナロクで敵になるロキ一味はすべて始末したことになる。
「ふふふ……これで私の恨みも少しは晴れたわね」
かすかな疲労が残る体を休める間もなく、私は次の行動を考える。ロキたちを倒して得た能力で、さらに強くなった。スクルドたちを守るという目的のため、手段を選ぶつもりはない。けれど、いまは立ち止まるわけにはいかない。
(次の獲物は……あいつらにしようか)
そんな独白を胸に、私はロキの姿を解いて元の姿に戻る。闇が降りた世界樹の森の中、血の匂いがまだ消えずに漂っている。
私の足取りは迷いなく、深い夜の闇へと消えていくのだった。
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現在のエリカのステータス
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