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自重しない猫
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「それで、おれの事を忘れていたと」
不機嫌そうな虎の顔を前に、おれはただ縮こまるしかなかった。
ケーキの事に没頭していたおれは猫柳の事をすっかり忘れて買い物に行ってしまい、材料片手に家に来た猫柳を長時間放置していた。
口をへの字に曲げた猫柳を見た時はさすがに肝が冷えた。そのおれの表情で自分が忘れられていたと知った猫柳の不機嫌さは加速。今はおれのベッドでいじけてゴロゴロと転がっている。
「ごめんって、今すぐ作るからちょっと待ってて」
「待ちますよ。待てばいいんだろ。外で放置されることに比べたら全然余裕だしな」
これはかなり根に持ってるな。ラフな格好の猫柳はベッドを毛まみれにすることが仕返しだと言わんばかりに布団にもぐり始めた。狗守さんの爪の垢でも飲ませてやりたい。
「あ、おれ今日サークルのあとにシャワー浴びてねえから」
「は?」
お前はおれの布団に何か恨みでもあるのかこのやろう。
「あーあ、誰かさんが心配だったからすぐに駆けつけたのになーまさか入れてもらえないなんて思わなかったなー」
「悪かったって。だから布団を汚すのはやめてくれ」
「おれが使うと布団が汚れるって言いたいのかよ」
あくまで不満気な猫柳にため息一つで猛抗議。それでもジト目で見てくるもんだから、ついには諦めるしかなくなった。
これはおいしいオムライスを作らないと機嫌が直らないぞ。エプロンを装着後キッチンに火を入れて、おれは料理に取り掛かる。
「おれ、大盛りな」
「言われなくてもわかってるよ」
完全に布団の玉と化した猫柳がさらに注文を付けてきやがる。まあ、運動した後だし大目に食べるのは想定済みだ。
というか、なぜあいつは布団にくるまってるんだ。人の家を何だと思ってる。
「今日は珍しくおれ以外の臭いがするな」
「まあ、さっきまで来客があったしね。あと珍しいって言うな」
「まだ時間かかりそうだし。シャワー借りるぞ」
「お前はおれの家を我が物顔で使いすぎじゃないか!」
「本当ならシャワー浴びてから来ても十分間に合ったんだけどな。まさか入れないなんてなー」
「もう勝手に使え!」
布団を堪能した猫科野郎は勝ち誇った笑みを輝かせる顔をのぞかせると、尻尾をゆらりとくねらせた。
いら立ちをぶつけるように火力を上げると、具材が焼ける香ばしい匂いが部屋を埋めていく。
「でも、着替え持ってる?」
「持って来てねえよ」
「じゃあどうすんだよ」
「タオル貸してくれりゃそれでいいよ」
「おれがよくねえよ!」
お前おれがホモだってもう忘れたのかよ。お風呂上りにタオル一枚で目の前を歩かれるおれの気持ちにもなって見ろ。
あまりに気が動転してしまい、危うく指を火傷するところだった。炒めた具材にご飯を放り込み、ぎこちない手つきで切って混ぜる。
「なんだったら背中を流してくれてもいいんだぞ?」
なんて言いつつシャツをたくし上げ毛皮越しでも堅そうな腹筋を見せつけられた。こいつ絶対からかってやがる。外側を埋める縞の毛皮と違い、ふわりと柔らかそうな純白の毛皮。思わず喉が鳴ってしまっても、それは不可抗力というやつだろう。
おれの食い入るような視線を受け満足そうに猫柳は笑う。勝手知ったる顔で棚からバスタオルを取り出すと、浴室へと消えて行った。鼻歌交じりの軽やかな足取りと踊る尻尾を見るに、だいぶ機嫌は直ったようだ。単純な猫科はおれを困らせたことで溜飲を下げることに成功したらしく、ホッとする反面憎らしい気持ちも混ざり合った。
悔しいが、放置してた手前強く出られない自分が悲しい。まあいい。邪魔者はいなくなったんだ。この隙に料理を完成させてしまわないと。タオル一枚の猫柳なんて目の毒以外の何物でもないからな。
これが虎豪さんだったら鼻血出して卒倒しても悔いなどないのだけど、猫柳だとなんか癪だ。その後絶対からかわれるのが確定だし。
おれは十分炒めたご飯にケチャップを注ぎ最後の仕上げにかかる。完成に近づいていくチキンライスは我ながら上出来だと思う。少し試食して、後は調味料で味を調える。
「うん、こんな感じかな」
いい感じに仕上がった。おれは独り言で出来栄えを確かめる。浴室から聞こえるシャワーの音に邪念を煽られないように聞かないふりを決め込む。
白っぽいとき卵をフライパンに注ぎ込もうとしたその時、浴槽からドライヤーの音が響いてきた。どうやらもう猫柳が上がったらしい。まあ、おれの家には毛皮用のシャンプーなどないから汗を流しただけなのだろう。
料理の匂いに混じってお湯の匂いが鼻を突く。まさに夜を過ごす家族のワンシーンみたいだ。はぁ、あれが虎豪さんだったら脱いだ下着を洗濯して返すって言い張って預けてもらうんだけどなあ。猫柳だしなあ。持って帰らせよう。
とき卵をフライパンに落とし、油の跳ねる音で雑念を追い払う。
あとはこれをご飯にかぶせて完成だ。毛皮種は乾かすのに時間がかかるから、ちょうどいいタイミングで出来上がりそう。
少し形を崩した卵は予想通り柔らかな仕上がりで、フライパンの上で緩やかに震えている。その出来栄えに自己賞賛を注ぎ、フライ返しに卵を乗せご飯にオン!
これで辰瀬特製オムライスの完成。これを机の上において、次は自分の分だ。
「上がったぞー」
と、そこに猫柳がやって来た。宣言通り腰にタオル一枚で。
不機嫌そうな虎の顔を前に、おれはただ縮こまるしかなかった。
ケーキの事に没頭していたおれは猫柳の事をすっかり忘れて買い物に行ってしまい、材料片手に家に来た猫柳を長時間放置していた。
口をへの字に曲げた猫柳を見た時はさすがに肝が冷えた。そのおれの表情で自分が忘れられていたと知った猫柳の不機嫌さは加速。今はおれのベッドでいじけてゴロゴロと転がっている。
「ごめんって、今すぐ作るからちょっと待ってて」
「待ちますよ。待てばいいんだろ。外で放置されることに比べたら全然余裕だしな」
これはかなり根に持ってるな。ラフな格好の猫柳はベッドを毛まみれにすることが仕返しだと言わんばかりに布団にもぐり始めた。狗守さんの爪の垢でも飲ませてやりたい。
「あ、おれ今日サークルのあとにシャワー浴びてねえから」
「は?」
お前はおれの布団に何か恨みでもあるのかこのやろう。
「あーあ、誰かさんが心配だったからすぐに駆けつけたのになーまさか入れてもらえないなんて思わなかったなー」
「悪かったって。だから布団を汚すのはやめてくれ」
「おれが使うと布団が汚れるって言いたいのかよ」
あくまで不満気な猫柳にため息一つで猛抗議。それでもジト目で見てくるもんだから、ついには諦めるしかなくなった。
これはおいしいオムライスを作らないと機嫌が直らないぞ。エプロンを装着後キッチンに火を入れて、おれは料理に取り掛かる。
「おれ、大盛りな」
「言われなくてもわかってるよ」
完全に布団の玉と化した猫柳がさらに注文を付けてきやがる。まあ、運動した後だし大目に食べるのは想定済みだ。
というか、なぜあいつは布団にくるまってるんだ。人の家を何だと思ってる。
「今日は珍しくおれ以外の臭いがするな」
「まあ、さっきまで来客があったしね。あと珍しいって言うな」
「まだ時間かかりそうだし。シャワー借りるぞ」
「お前はおれの家を我が物顔で使いすぎじゃないか!」
「本当ならシャワー浴びてから来ても十分間に合ったんだけどな。まさか入れないなんてなー」
「もう勝手に使え!」
布団を堪能した猫科野郎は勝ち誇った笑みを輝かせる顔をのぞかせると、尻尾をゆらりとくねらせた。
いら立ちをぶつけるように火力を上げると、具材が焼ける香ばしい匂いが部屋を埋めていく。
「でも、着替え持ってる?」
「持って来てねえよ」
「じゃあどうすんだよ」
「タオル貸してくれりゃそれでいいよ」
「おれがよくねえよ!」
お前おれがホモだってもう忘れたのかよ。お風呂上りにタオル一枚で目の前を歩かれるおれの気持ちにもなって見ろ。
あまりに気が動転してしまい、危うく指を火傷するところだった。炒めた具材にご飯を放り込み、ぎこちない手つきで切って混ぜる。
「なんだったら背中を流してくれてもいいんだぞ?」
なんて言いつつシャツをたくし上げ毛皮越しでも堅そうな腹筋を見せつけられた。こいつ絶対からかってやがる。外側を埋める縞の毛皮と違い、ふわりと柔らかそうな純白の毛皮。思わず喉が鳴ってしまっても、それは不可抗力というやつだろう。
おれの食い入るような視線を受け満足そうに猫柳は笑う。勝手知ったる顔で棚からバスタオルを取り出すと、浴室へと消えて行った。鼻歌交じりの軽やかな足取りと踊る尻尾を見るに、だいぶ機嫌は直ったようだ。単純な猫科はおれを困らせたことで溜飲を下げることに成功したらしく、ホッとする反面憎らしい気持ちも混ざり合った。
悔しいが、放置してた手前強く出られない自分が悲しい。まあいい。邪魔者はいなくなったんだ。この隙に料理を完成させてしまわないと。タオル一枚の猫柳なんて目の毒以外の何物でもないからな。
これが虎豪さんだったら鼻血出して卒倒しても悔いなどないのだけど、猫柳だとなんか癪だ。その後絶対からかわれるのが確定だし。
おれは十分炒めたご飯にケチャップを注ぎ最後の仕上げにかかる。完成に近づいていくチキンライスは我ながら上出来だと思う。少し試食して、後は調味料で味を調える。
「うん、こんな感じかな」
いい感じに仕上がった。おれは独り言で出来栄えを確かめる。浴室から聞こえるシャワーの音に邪念を煽られないように聞かないふりを決め込む。
白っぽいとき卵をフライパンに注ぎ込もうとしたその時、浴槽からドライヤーの音が響いてきた。どうやらもう猫柳が上がったらしい。まあ、おれの家には毛皮用のシャンプーなどないから汗を流しただけなのだろう。
料理の匂いに混じってお湯の匂いが鼻を突く。まさに夜を過ごす家族のワンシーンみたいだ。はぁ、あれが虎豪さんだったら脱いだ下着を洗濯して返すって言い張って預けてもらうんだけどなあ。猫柳だしなあ。持って帰らせよう。
とき卵をフライパンに落とし、油の跳ねる音で雑念を追い払う。
あとはこれをご飯にかぶせて完成だ。毛皮種は乾かすのに時間がかかるから、ちょうどいいタイミングで出来上がりそう。
少し形を崩した卵は予想通り柔らかな仕上がりで、フライパンの上で緩やかに震えている。その出来栄えに自己賞賛を注ぎ、フライ返しに卵を乗せご飯にオン!
これで辰瀬特製オムライスの完成。これを机の上において、次は自分の分だ。
「上がったぞー」
と、そこに猫柳がやって来た。宣言通り腰にタオル一枚で。
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