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夕食会をしよう
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危うくカウンター内で食器を落しかけたよ今。さらりと自分も陽さんと付き合ってたなんて狗守さんも暴露したよね。狗守さんが陽さんの彼氏だったのは何となく想像ついてたけど、牙縞さんもそうだったなんて完全に予想外だ。全然タイプが違う二人を見て、陽さんって結構守備範囲が広い人だったんだと、どうでもいい知識を得ることができた。
突然の告白に驚き固まってしまったが、本題はここからなんだ。おれは牙縞さんに続きを促して、頑張って気持ちを切り替えようとする。
「あ、ごめん。俺が陽と付き合ってた話、したことなかったよね」
「狗守……お前は相変わらずどこか抜けてるよね……」
「うんうん、申し訳ない。辰瀬君を驚かせちゃったね」
あきれ顔の牙縞さんだったけど、すぐさま表情を正しおれと向かい合う。眉の角度が緩やかになったせいか気弱な雰囲気が緩和されており、毅然とした風格が漂っているように見える。
「なので、今日の晩、良かったら僕と食事でもしながらお話しないかい?」
「あれ、牙縞。虎豪さんはいいのかい? それだとただの誘い文句だよ」
「あ。違うんだ! 虎豪の奴も含めてってことで。別にそんなつもりじゃないから、僕のことを警戒しないでほしいんだ! 僕は人畜無害の肉食獣だから! 怖くない! 怖くないよ!」
肉食獣に人畜無害もなにもあったものではないと思うのだけど……。
これはひょっとしなくても、この二人はどちらもどこか抜けてる方々なのではないだろうか。陽さんの好みってこういう人たちなのかもしれない。
おっとりした天然の狗守さんと、肉食の持つ怖さを消そうとしている牙縞さん。二人の掛け合いはまるで漫才みたいでもっと聞いていたかったけど、そこに割って入る声があった。
「俺に用があるって?」
低く男らしい声がずいっとやって来て、虎豪さんが不機嫌そうな顔でおれらを見渡した。
猫柳と違い着なれた燕尾はいまだ綺麗なままだったけど、盛り上がって肉感豊かな服装はいつ見ても色っぽい。ひそめられた眼光と相まって、けだるげな色香を豊潤と放っていた。
「……ああ、そうさ。お前に言いたいことがあるんだ」
やはり、虎豪さんを前にする時だけ、牙縞さんはその牙をむき出しにする。膨大な怒気を放ち、透明な壁を押し付けていく。
しかし、虎豪さんは牙縞さんと初対面らしく、どうしてそんな感情をぶつけられているのか理解できていないようだ。それでも眉をぴくりと動かすだけであの威圧感を受け流せるのはさすがだと思う。
「誰だお前? ……まあ、どうせ陽のことだろう」
「察しがいいね」
狗守さんがのんびりと相槌を打つと、虎豪さんはめんどくさそうに鼻息を一つ鳴らした。
「狗守と一緒にいて俺に話があるという。普通に考えたらわかることだろうが。それで、いつがいい。お前の希望に合わせてやるよ」
「こっちだっていつでもいいよ。僕がお前に合わせてやる」
「落ち着いてよ二人とも。今晩にしようねってさっき話しててさ、できれば辰瀬君も一緒だと嬉しいんだけど」
その言葉を受けて、虎豪さんがおれを見る。不機嫌な表情そのままだったけど、なんだか少しだけ柔らかくなった気がする。
「別にいいぞ。どうせこいつを抜かそうったって、どこかで話を聞いたら心配してこっちに来るんだ。なら、最初からいてもいいだろ」
「相変わらず素直じゃないね」
「うっせえ」
ふてくされたように虎豪さんが吐き捨てて、尻尾をぴしゃりと床にたたきつけた。ちょっと前の素直な虎豪さんは、どうやらおれの前限定だったらしい。なんだか嬉しい。
「なら、今夜店を締めたらここに来いよ。晩御飯は俺が作ってやる。辰瀬にも今の俺の味を評価してほしいからな」
「おお! それはありがたい。ご飯どうしようかなって悩んでたんだよ」
「お前は普段からもっとましなものを食えっていつも言ってるだろうが……」
虎豪さんが心配するほど狗守さんの食生活って悪いのか。おいしいご飯が食べられると聞いて、オオカミの尻尾がブンブンと揺れている。
牙縞さんはさっきから唸り声を上げたままだったけど、これといって否定の言葉もない。なら、今晩の予定は決まった。
さて、ならば猫柳の晩御飯はどうしようか、なんて考えていたのだれけど。その考えはひょいっと視界に滑り込んできた馬鹿虎を見たことで杞憂に終わった。
「今、晩飯の話してなかったか?」
うん、ご飯に関してだけ君の聴力は獣を凌駕するよね。ひょっこり現れた猫柳は当然だと言わんばかりに会話に参加して、夕食会へ出向くという。前後の会話などお構いなしでとりあえず美味しそうなところに突っ込んでいくスタイルは、お前本当に成人しているのかと問い詰めたいレベル。
でも、さすがに部外者の猫柳をいれるのも申し訳なくて、おれは食欲魔獣に待ったをかける。
「なんか重要な話をするみたいだからさ、ちょっと遠慮してほしい……」
「いや、どうせなら多い方がいい。何かあったら辰瀬を頼むぞ」
「おう! そうこなくっちゃな。飯さえ食えれば都合の悪い話は聞かないから、安心しろ」
本能に忠実すぎるだろ。何でも首を突っ込むほど無神経ではないのはありがたいけど、ご飯の誘惑には勝てないのかお前は。
やんわり断ろうと思ったら、虎豪さんが了承してしまった。喜色満面で給仕に戻っていく猫柳を見ていたら、取り消しなんてできるわけもない。嵐のような奴だな。
「これは普通に楽しい夕食会になりそうだね」
そんなやり取りを見ていた狗守さんが保母さんを思わせる優しい笑みで締めくくり、隣の牙縞さんの背中をなでている。牙縞さんはいまだ鋭い眼光を虎豪さんに合わせたままで、どう考えても楽しい夕食会にならないと思うんだけど。おれが鈍いだけなのだろうか……。
突然の告白に驚き固まってしまったが、本題はここからなんだ。おれは牙縞さんに続きを促して、頑張って気持ちを切り替えようとする。
「あ、ごめん。俺が陽と付き合ってた話、したことなかったよね」
「狗守……お前は相変わらずどこか抜けてるよね……」
「うんうん、申し訳ない。辰瀬君を驚かせちゃったね」
あきれ顔の牙縞さんだったけど、すぐさま表情を正しおれと向かい合う。眉の角度が緩やかになったせいか気弱な雰囲気が緩和されており、毅然とした風格が漂っているように見える。
「なので、今日の晩、良かったら僕と食事でもしながらお話しないかい?」
「あれ、牙縞。虎豪さんはいいのかい? それだとただの誘い文句だよ」
「あ。違うんだ! 虎豪の奴も含めてってことで。別にそんなつもりじゃないから、僕のことを警戒しないでほしいんだ! 僕は人畜無害の肉食獣だから! 怖くない! 怖くないよ!」
肉食獣に人畜無害もなにもあったものではないと思うのだけど……。
これはひょっとしなくても、この二人はどちらもどこか抜けてる方々なのではないだろうか。陽さんの好みってこういう人たちなのかもしれない。
おっとりした天然の狗守さんと、肉食の持つ怖さを消そうとしている牙縞さん。二人の掛け合いはまるで漫才みたいでもっと聞いていたかったけど、そこに割って入る声があった。
「俺に用があるって?」
低く男らしい声がずいっとやって来て、虎豪さんが不機嫌そうな顔でおれらを見渡した。
猫柳と違い着なれた燕尾はいまだ綺麗なままだったけど、盛り上がって肉感豊かな服装はいつ見ても色っぽい。ひそめられた眼光と相まって、けだるげな色香を豊潤と放っていた。
「……ああ、そうさ。お前に言いたいことがあるんだ」
やはり、虎豪さんを前にする時だけ、牙縞さんはその牙をむき出しにする。膨大な怒気を放ち、透明な壁を押し付けていく。
しかし、虎豪さんは牙縞さんと初対面らしく、どうしてそんな感情をぶつけられているのか理解できていないようだ。それでも眉をぴくりと動かすだけであの威圧感を受け流せるのはさすがだと思う。
「誰だお前? ……まあ、どうせ陽のことだろう」
「察しがいいね」
狗守さんがのんびりと相槌を打つと、虎豪さんはめんどくさそうに鼻息を一つ鳴らした。
「狗守と一緒にいて俺に話があるという。普通に考えたらわかることだろうが。それで、いつがいい。お前の希望に合わせてやるよ」
「こっちだっていつでもいいよ。僕がお前に合わせてやる」
「落ち着いてよ二人とも。今晩にしようねってさっき話しててさ、できれば辰瀬君も一緒だと嬉しいんだけど」
その言葉を受けて、虎豪さんがおれを見る。不機嫌な表情そのままだったけど、なんだか少しだけ柔らかくなった気がする。
「別にいいぞ。どうせこいつを抜かそうったって、どこかで話を聞いたら心配してこっちに来るんだ。なら、最初からいてもいいだろ」
「相変わらず素直じゃないね」
「うっせえ」
ふてくされたように虎豪さんが吐き捨てて、尻尾をぴしゃりと床にたたきつけた。ちょっと前の素直な虎豪さんは、どうやらおれの前限定だったらしい。なんだか嬉しい。
「なら、今夜店を締めたらここに来いよ。晩御飯は俺が作ってやる。辰瀬にも今の俺の味を評価してほしいからな」
「おお! それはありがたい。ご飯どうしようかなって悩んでたんだよ」
「お前は普段からもっとましなものを食えっていつも言ってるだろうが……」
虎豪さんが心配するほど狗守さんの食生活って悪いのか。おいしいご飯が食べられると聞いて、オオカミの尻尾がブンブンと揺れている。
牙縞さんはさっきから唸り声を上げたままだったけど、これといって否定の言葉もない。なら、今晩の予定は決まった。
さて、ならば猫柳の晩御飯はどうしようか、なんて考えていたのだれけど。その考えはひょいっと視界に滑り込んできた馬鹿虎を見たことで杞憂に終わった。
「今、晩飯の話してなかったか?」
うん、ご飯に関してだけ君の聴力は獣を凌駕するよね。ひょっこり現れた猫柳は当然だと言わんばかりに会話に参加して、夕食会へ出向くという。前後の会話などお構いなしでとりあえず美味しそうなところに突っ込んでいくスタイルは、お前本当に成人しているのかと問い詰めたいレベル。
でも、さすがに部外者の猫柳をいれるのも申し訳なくて、おれは食欲魔獣に待ったをかける。
「なんか重要な話をするみたいだからさ、ちょっと遠慮してほしい……」
「いや、どうせなら多い方がいい。何かあったら辰瀬を頼むぞ」
「おう! そうこなくっちゃな。飯さえ食えれば都合の悪い話は聞かないから、安心しろ」
本能に忠実すぎるだろ。何でも首を突っ込むほど無神経ではないのはありがたいけど、ご飯の誘惑には勝てないのかお前は。
やんわり断ろうと思ったら、虎豪さんが了承してしまった。喜色満面で給仕に戻っていく猫柳を見ていたら、取り消しなんてできるわけもない。嵐のような奴だな。
「これは普通に楽しい夕食会になりそうだね」
そんなやり取りを見ていた狗守さんが保母さんを思わせる優しい笑みで締めくくり、隣の牙縞さんの背中をなでている。牙縞さんはいまだ鋭い眼光を虎豪さんに合わせたままで、どう考えても楽しい夕食会にならないと思うんだけど。おれが鈍いだけなのだろうか……。
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