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34話 死の花の秘術
他国の王太子の婚約者、文通の交わせなくなったリアの様子を、それでも父にせがんで聞いていた。
外交で姿を表す彼女の様子を聞いて、ライラックはただ幸せを願っていた。
――外交に携わっていたリアを見て、誰もその異変を気づけなかった。
リアに魔法は人前で使わせず、自己肯定感を摘み取っていたミレット王国。
純粋なリアをどれだけ愚弄したのだろう。
そして、あろうことか王太子が別の女に恋慕を抱いた。それが全ての凶行の始まり。
「リン。君は、ジェンティアン伯爵――父君に手紙を遺したね。十七歳で処刑されるのだと。
カメリア・ジェンティアンが処刑されたのは……彼女が、十九の誕生日だ」
婚約破棄をして、好きな女の手を取って、はい終わりとは、あの王子は選ばなかった。
そうしてくれていたら、醜聞付きだろうが、ライラックがリアを娶って済んだ話だったのに。保身にかけては周辺国随一だろう。
「……嘘」
ポツリと、リンが言葉を溢した。その瞳は、どこか遠くを映していて、ライラックを見てはいない。
ライラックは、静かに頭を横に振って話を続けた。
「婚約破棄後、最初は王城で。その後は、リアはあの施設で長い間、監禁されていた。
ジェンティアン伯爵は、グラシオラスとアスフォデルに、リア救出の助力を願おうとしていた。
焦ったミレットは、口封じに彼を処刑した。
後に戻れなくなったから、リアを魔女とそしり、冤罪を作り上げ処刑した。
それがことの全容だよ」
邪険に思っていたリアを婚約破棄するだけでなく、他国へ渡すことも、自国の異質さの露見も恐れてのミレット王国の愚行。
魔法使いが犯罪を犯したから処罰したのだと最もらしいことをやつらは言ってのけた。
――私も忙しかったなんて、言い訳にもならないな。
ライラックの両手を組んだ指に、力が入る。爪が皮膚に食い込んで、僅かに赤い染みを作る。
穏健派と言えば聞こえがいいが、父上は自国の腐敗を正せなかった。
一人背負う形で政治と外交を続けた結果、当時、病に臥せていた。
当時立太子のライラックは、ほとんどの政務を代行し、多忙を極めていた。
「私は、リアを助けることが出来なかった。
君に待っていてと、愛を乞うた男は、一度目の生で愛する女性も守れず、見殺しにしただけだった」
ナイツは、ライラックが死に戻った二度目の人生で、リアを探すために作った私兵たち。
だから一度目の生では、ライラックが直接、自由に使える部下は少なかった。
前世、ジェンティアン家の一連の惨状を知ったのは、ずいぶんと後だった。
――好きな女、一人守れず、見殺しにして、何が優秀な王太子だ。
そんなものは捨ててしまえ。
王位継承権を放棄し、王族としての地位もかなぐり捨てて、ライラックはミレット王国へと旅立った。
単身乗り込んだ城で、剣と魔法を使いライラックは、その全てを蹂躙した。
玉座の間で、事の顛末をミレットの王族から全て吐かせた。
怒りのあまり加減を間違えて殺せば、また次の王族を吐かせて、繰り返し、繰り返し。
そうやってカメリア・ジェンティアンの最期を、ライラックはかき集めて繋げていった。
再会したリアはあの施設で、無惨な姿へと変えられていた。
真っ白な部屋で、無機質に並ぶたくさんの瓶詰めの中から見つけた。
人を示すラベルなどはなく、誰が誰か分からない状態だった。
真っ赤なルビー色の目玉だけが、唯一リアだと、ライラックが分かったものだった。
彼女の瞳の色は、とても稀有だったから。
――君さえいれば、それだけで良かったのに。
ライラックは自虐的に顔を歪め、握りしめた手からは血が滴った。
あの日のことを、ライラックは忘れたことはない。
その後、激情に任せてライラックが、ミレット王国を滅ぼした。
血と瓦礫と、破壊の限りを尽くして、ライラックに残ったものは何もなかった。
気持ちは晴れず、とても虚しかった。
「私は、リアが死んだことに耐えられなくて、アスフォデル王家に伝わる禁術を発動した」
禁術とされる理由。それは成功率が低く、術の詳細が一切不明なこと。
自身の命を対価にして、過去に戻れるかも分からない行為のため、禁術指定されていた。
――そんな不確かなものにすがる程、リアのいない世界は私にはどうでも良かった。
あの施設からライラックが持ち出した、リアの身体の一部。
壊すことも、手離すことも出来なかった、愛しい彼女。
肌身離さず持っていたために、それにも禁術が及んだのだろう。
――結果として、リアも死に戻ることになった。それも、私よりも早くに。
それは、なんて地獄なのか。
一度目の生を知らないままの無垢な彼女を救いだそう。
悲劇が訪れる前に、今度こそ迎えに行こう。
ミレットに渡さず、アスフォデルで幸せにしよう。
ライラックが決意を固め――死に戻った時すでに、彼女はジェンティアン家から、消えていた。
けれど、捜索では青い髪としか指示を出していなかった。そのせいで発見が遅れた。
ライラックが瞳に振れるのを、無意識に避けていたからだ。
今、目の前にいるリアの綺麗なルビーの瞳に映るライラック。
あの瓶の目玉とリンの瞳が、どうしても重なって忘れられない。
「私の身勝手な決断が、リン。君に地獄を与えてしまった」
本当は今世だけじゃなく、前世のリンも救いたかった――。
外交で姿を表す彼女の様子を聞いて、ライラックはただ幸せを願っていた。
――外交に携わっていたリアを見て、誰もその異変を気づけなかった。
リアに魔法は人前で使わせず、自己肯定感を摘み取っていたミレット王国。
純粋なリアをどれだけ愚弄したのだろう。
そして、あろうことか王太子が別の女に恋慕を抱いた。それが全ての凶行の始まり。
「リン。君は、ジェンティアン伯爵――父君に手紙を遺したね。十七歳で処刑されるのだと。
カメリア・ジェンティアンが処刑されたのは……彼女が、十九の誕生日だ」
婚約破棄をして、好きな女の手を取って、はい終わりとは、あの王子は選ばなかった。
そうしてくれていたら、醜聞付きだろうが、ライラックがリアを娶って済んだ話だったのに。保身にかけては周辺国随一だろう。
「……嘘」
ポツリと、リンが言葉を溢した。その瞳は、どこか遠くを映していて、ライラックを見てはいない。
ライラックは、静かに頭を横に振って話を続けた。
「婚約破棄後、最初は王城で。その後は、リアはあの施設で長い間、監禁されていた。
ジェンティアン伯爵は、グラシオラスとアスフォデルに、リア救出の助力を願おうとしていた。
焦ったミレットは、口封じに彼を処刑した。
後に戻れなくなったから、リアを魔女とそしり、冤罪を作り上げ処刑した。
それがことの全容だよ」
邪険に思っていたリアを婚約破棄するだけでなく、他国へ渡すことも、自国の異質さの露見も恐れてのミレット王国の愚行。
魔法使いが犯罪を犯したから処罰したのだと最もらしいことをやつらは言ってのけた。
――私も忙しかったなんて、言い訳にもならないな。
ライラックの両手を組んだ指に、力が入る。爪が皮膚に食い込んで、僅かに赤い染みを作る。
穏健派と言えば聞こえがいいが、父上は自国の腐敗を正せなかった。
一人背負う形で政治と外交を続けた結果、当時、病に臥せていた。
当時立太子のライラックは、ほとんどの政務を代行し、多忙を極めていた。
「私は、リアを助けることが出来なかった。
君に待っていてと、愛を乞うた男は、一度目の生で愛する女性も守れず、見殺しにしただけだった」
ナイツは、ライラックが死に戻った二度目の人生で、リアを探すために作った私兵たち。
だから一度目の生では、ライラックが直接、自由に使える部下は少なかった。
前世、ジェンティアン家の一連の惨状を知ったのは、ずいぶんと後だった。
――好きな女、一人守れず、見殺しにして、何が優秀な王太子だ。
そんなものは捨ててしまえ。
王位継承権を放棄し、王族としての地位もかなぐり捨てて、ライラックはミレット王国へと旅立った。
単身乗り込んだ城で、剣と魔法を使いライラックは、その全てを蹂躙した。
玉座の間で、事の顛末をミレットの王族から全て吐かせた。
怒りのあまり加減を間違えて殺せば、また次の王族を吐かせて、繰り返し、繰り返し。
そうやってカメリア・ジェンティアンの最期を、ライラックはかき集めて繋げていった。
再会したリアはあの施設で、無惨な姿へと変えられていた。
真っ白な部屋で、無機質に並ぶたくさんの瓶詰めの中から見つけた。
人を示すラベルなどはなく、誰が誰か分からない状態だった。
真っ赤なルビー色の目玉だけが、唯一リアだと、ライラックが分かったものだった。
彼女の瞳の色は、とても稀有だったから。
――君さえいれば、それだけで良かったのに。
ライラックは自虐的に顔を歪め、握りしめた手からは血が滴った。
あの日のことを、ライラックは忘れたことはない。
その後、激情に任せてライラックが、ミレット王国を滅ぼした。
血と瓦礫と、破壊の限りを尽くして、ライラックに残ったものは何もなかった。
気持ちは晴れず、とても虚しかった。
「私は、リアが死んだことに耐えられなくて、アスフォデル王家に伝わる禁術を発動した」
禁術とされる理由。それは成功率が低く、術の詳細が一切不明なこと。
自身の命を対価にして、過去に戻れるかも分からない行為のため、禁術指定されていた。
――そんな不確かなものにすがる程、リアのいない世界は私にはどうでも良かった。
あの施設からライラックが持ち出した、リアの身体の一部。
壊すことも、手離すことも出来なかった、愛しい彼女。
肌身離さず持っていたために、それにも禁術が及んだのだろう。
――結果として、リアも死に戻ることになった。それも、私よりも早くに。
それは、なんて地獄なのか。
一度目の生を知らないままの無垢な彼女を救いだそう。
悲劇が訪れる前に、今度こそ迎えに行こう。
ミレットに渡さず、アスフォデルで幸せにしよう。
ライラックが決意を固め――死に戻った時すでに、彼女はジェンティアン家から、消えていた。
けれど、捜索では青い髪としか指示を出していなかった。そのせいで発見が遅れた。
ライラックが瞳に振れるのを、無意識に避けていたからだ。
今、目の前にいるリアの綺麗なルビーの瞳に映るライラック。
あの瓶の目玉とリンの瞳が、どうしても重なって忘れられない。
「私の身勝手な決断が、リン。君に地獄を与えてしまった」
本当は今世だけじゃなく、前世のリンも救いたかった――。
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