悪役令嬢は悪徳商人に嫁ぎました(R18)

しおだだ

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悪役令嬢は悪徳商人を捕まえる

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髪は短く、ジュリアスの知っている彼女とは浮かべる表情が違うけれど。


「メイヴェル、メイヴェル嬢だろ…!?」


「メイヴェル?いいえ、わたくしはメイヴィスでございますが?」


にこりと艶やかに微笑むメイヴィス。


「し、しかし……」

「人違いです、殿下。わたくしはメイヴィス・ジーン・レアードと申します。ここにいるヴィンセントの妻です」


有無を言わさぬ圧にジュリアスはたじろいだ。
メイヴィスに腕を取られたヴィンセントも心得たとばかりに調子を合わせる。


「メイヴェル・バーネット侯爵令嬢ですよね。バーネット卿から聞き及んでおります、彼女は亡くなられたそうで…残念です」

「いやだが、メイヴェル嬢はここに…」


「殿下」


メイヴィスが呼び掛ける。悲しそうな顔で。


「いま殿下が女性の名を連呼するのは、あまり外聞がよろしくないと思いますけれど…?」


ジュリアスははっと顔を上げた。

公国の建国パーティーの客は王国の関係者と他国の人間が半々だ。もちろん王子の醜聞も知られている。


第一王子は慌てて居住いを正し、けれどじっとメイヴィスを見つめる。

「…すまない。けれど、少し話がしたい」

「殿下。いくら彼女が美しいとはいえ、妻を口説かれていい気分はしませんが」

「違っ…!私はそんな……!!」

ヴィンセントに睨まれてジュリアスが慌てる。


「おや、どうしました?新しい恋ですか?」


割って入ったのは隣国の外務大臣だ。
「お話し中に申し訳ない」と言いながら、にやにや笑ってジュリアスを見る。

王国の第一王子はぐっと口を噤んだ。


「ヴィンセント、来たよ」


モンタールド卿がそう背後に視線を送る。

薄茶色の髪の背の高い紳士がこちらに向かって歩いてくるところだった。

ベルナルド、ロレンス、ファレルをはじめ、会場中の王国関係者が簡易的ながらも恭しく頭を下げる。


「ヴィンセント、独立おめでとう」

「ありがたいお言葉でございます。ここまで御足労いただきまして恭悦至極です」

「む。わざわざ来た」


メイヴィスはぽかんと見上げてしまった。
その視線に気付いたのか、ヴィンセントの隣に立つ淑女に向けて彼はうすく目を細める。


「花がよく咲いていた。もう枯らして騒ぐことはないな?」

「…それ、いま言いますか?」


頭を下げていたヴィンセントが憮然と呻く。


「挨拶した。帰る。」

「待って待って、レイ様。懐かしい人いっぱいいるでしょ?」

「…む。」


くるりと背を向けたところをモンタールド大臣に止められている。


「…レイモンド、王弟殿下…?」


メイヴィス同様、呆然と見ていたジュリアスが震える声で呟いた。


「なぜ、そんなまさか…王弟は亡くなったと…」


「お前がジュリアス?」


こてん、と首を傾げて王子を見下ろす。

それからふっと笑って。


「レアードには亡霊が出るんだ、怖いな」


そしてあっさりと立ち去ってしまう。


ジュリアスはそれこそ幽霊を見たかのように真っ青な顔で硬直していたが、やがてぎこちなく表情を崩した。


「……亡霊か、そうか」


それからメイヴィスを見る。


「すまない、妙なことを言ってしまった」

「い、いえ…」


メイヴィスも驚いており言葉がでない。


「我が国王陛下からだ」


ジュリアスは書簡を取り出すとヴィンセントに差し出した。

「貴国とはいい関係を築きたいとおっしゃっている。私としてはあまり驚かせてくれるなと言いたいが、どうだろうな?」

「検討しておきます」

その返答に肩を竦める。

「貴国のこれからに幸多からんことを。それから、宰相夫妻もお幸せに」

「ありがとうございます」


王国の第一王子と別れて、メイヴィスは「ほう」と息を吐いた。


「亡霊とはレイ殿下も乙なことを言う。王子も少し大人しくなったな」

「あの方、本当に王弟殿下なのよね…?」


メイヴィスは先程の男性を思い出す。
薄茶色の髪をして、気高い顔立ちだが――生活感というより生気がなかった。背が高い分、余計にぼうっとして見える。


「殿下は花にしか興味がないから」

ヴィンセントが苦笑する。


「生きていたなんて…」

「死亡したと偽装して隣国に亡命したんだ。向こうで結婚している」

「そんな…だったら、過去のレアードは冤罪じゃない…!」

「王弟殿下についてはそれが最善だったと理解しているよ」


ヴィンセントは細い肩を抱き寄せた。


「ねえ、ヴィンス」


メイヴィスがすんと小さく鼻を啜る。


「枯れた花ってなんのこと?」

「…む。」



***
王弟レイモンドは、元辺境伯ベルナルドとモンタールド大臣と共に、過去に尽力してくれた懐かしい者たちと久しぶりに顔を合わせた。

そして最後に、隅の方で愕然としている忠臣に声をかける。


「レスター、久しぶりだな?」

「レイ、モンド、殿下…っ」


レスターは顔を拭ってどうにか頭を下げる。


「生きて、いらっしゃったんですね」

「む。いまは隣国にいる」

「そうでしたか、私はてっきり……」


言葉が途切れた忠臣に、隣国の大臣が「うんうん」と頷く。


「あれはね、やりすぎじゃないかなって私も思った。レアードって結構派手好きだよね?」

「…あれくらいしないと殿下の旅路にはふさわしくなかった」

元辺境伯が憮然として言う。

「そもそも貴殿がやたらめったら我が領に出入りするから、殿下が」

「えー?一目惚れしたのはレイ様の勝手だよ、こっちだって後処理が大変だったんだから」


王弟殿下の結末はこうだ。

兄王子一派に追われてレアード辺境領に身を寄せた弟王子は、隣国の女性外交官に一目惚れした。
普段は花にしか興味のない弟王子の変貌に驚いた辺境伯は一計を案じ、当時まだ大臣ではなかったモンタールド侯爵にレイモンドを託すことにした。

内乱中の混乱で弟王子が死亡したと見せかけ、女性と共に隣国へ送り出したのだ。

ちなみにそのときは弟王子が逃げ込んだとした小屋と桟橋を盛大に爆破した。兄王子派の貴族たちが生存を疑わないくらい、豪快に。


その後、レイモンドは女性と結婚したが、王国の第二王子を勝手に連れて帰ったモンタールド侯爵は内政干渉を疑われ、こっぴどく叱られた。懲りなかったけれど。


「兄上はどうしてる?」

レイモンドに問いかけられたレスターは苦笑いを浮かべた。

「毒の影響がまだあると言って、離宮に閉じ籠っております。最近は吹奏楽に夢中です」

「うむ」

元気そうだ。よかった。


「うちの娘と婿のところに子ができてな、女の子なんだが、先般、兄上から第二王子に嫁いでこないかと打診があった。が、断っておいた。構わないよな?」

「え?」

王家の忠臣は目を点にした。

「殿下、娘さんがいらっしゃったんですか?え?それにお孫さんも?」

「お前のとこの上の娘と同じ年だ。孫は私の方が先だったな」


ふふん、と死んだ目で勝ち誇る王弟。


「え、ちょっと待ってください。殿下は陛下と連絡を取り合っていたんですか?」

「む?レアードは鳥を飛ばす」


こてん、と首を倒す様を見て、レスターはぐるんと首を回しベルナルドを睨む。


「――な、驚いただろ?」


武骨な元辺境伯はなんでもないことのように言った。
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