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「ハンナ…!」
「レイラ!」
わっと駆け寄ってきたハンナと両の手の指を絡めて繋ぐ。
「レイラ、パーティーに行けなくてごめんなさい」
「いいのよ。それよりあなたは大丈夫だったの?」
「ええ。閉じ込められていたけど、ママはわたしに危害を加えることはないから」
―――閉じ込められていたですって!?
レイラは思わず国王陛下たちを振り返る。
さっと目を逸らす父たちにレイラの眦がますます吊り上がった。
「レイラ・モンタールド侯爵令嬢、そしてレイラパピヨン店主殿」
大柄でほどよく日に焼けた、まるで兵士のような風貌のクロフォード卿が、娘と同年代のレイラの前で片膝をついて頭を下げる。
「この度の数々の所業、大変申し訳ございませんでした。クロフォード家の当主として深くお詫び申し上げます」
「わたしも謝ります!いつもたくさんお世話になっているのに、レイラに被害を与えてしまって、本当にごめんなさい…!!」
クロフォード卿に続いて、両膝をついたハンナがレイラの手を額に当てて謝罪する。
「この身でもって償いたいところですが、陛下の王命を拝しておりますので、首は差し出せないのです。その代わり、持てるものならなんでもお譲り致します故」
「…………」
クロフォード卿は貴族としての位はレイラより格下とはいえ、友人の父親であり、経営者としてもレイラとは比べ物にならないほどの規模を手掛けている。
そんな人に深く頭を下げられて、レイラはなにも言えず父を振り返った。
侯爵は薄く微笑んで娘の行動をただ眺めている。父親だけではなく、陛下も、殿下も、この部屋にいる人すべてが。
「…………」
レイラはもう一度クロフォード卿を見下ろし、おそるおそる口を開いた。
「…本当に、なんでもいいんですか…?」
「当然です…!」
クロフォード卿の額に玉のような汗が浮かぶ。
「それなら……」
ハンナがきつくレイラの手を握る。それはわずかに震えていた。
「綺光石が採れる山があるとハンナから聞きました。その石を、綺光石を、わたくしに与えてくださいませ」
「っ!!?」
クロフォード卿が勢いよく顔を上げる。
「もちろんです!山ごと、いいえ、周囲の土地ごとお渡し致します!!」
「いえ、土地はいりません」
レイラは首を横に振る。
「わたくしが欲しいのは石です。綺光石は脆く掘削に技術がいると聞いています。そんな山は管理がしきれません。その代わり、卿にはわたくしが必要なときに石を切り出してほしいのです」
「合点承知!!お安い御用です!」
「が…?」
え、なんですって?
レイラが耳を疑った瞬間、わあっと声が上がった。
「レイラ!ありがとう!!」
ハンナが飛びついてくる。
「綺光石かあ、そうきたか」
「買ってあげるって言ったんだけどな」
アドリアンとルチアーノが言う。
マルセルと将軍の父子は静かに目を細めて、宰相はにこにことして。
「どうだ、ほら見たか!」
外務大臣ことモンタールド侯爵は、嬉しさのあまり国王陛下の背中を力いっぱい叩いた。
「痛ってえ!!」
「「「「…………」」」」
陛下の悲鳴に一瞬、静寂が落ちる。
居た堪れなかったのか、藍色の髪の渋い国王陛下はごほんと咳払いした。
***
クロフォード父娘は恐縮しきりで退出して行った。
「ハンナ、お母様のことは…」
「いいの。仕方ないのよ。わたしもママがいまのままでいられるとは思えなかったから」
去り際のハンナとの会話に、レイラは少ししんみりとして。
「父王、クロフォード卿の待遇はどういうことですか」
彼らが部屋を出るのを待って、アドリアンが国王陛下に訊ねる。その声は険しい。
クロフォード夫人を咎めるのは難しいと王子自身も言っていたが、レイラの友人として、卿の身分を格上げされるようなことはやっぱり腑に落ちなかった。
「…だって、アドリアン、モテないから」
しかし返ってきた言葉は斜め上もいいところで。
「は!?」
紺色の髪の少年は父親をきつく睨みつける。
「この国の王家は本当にモテないんだ。貴族も平民もみんな自立していて、王家に取り入ろうなんて思わない。…他国は選り取り見取りだって聞くんだけどな」
国王陛下はちらりとモンタールド侯爵を見る。
侯爵自身、余計な責務を負いたくないと、娘を王家に嫁がせるのを厭った口だ。サルヴァティーニ公爵家と縁を結んだ理由はそれだけではないが、王家と姻戚で繋がるのを遠慮願ったのも本当。
「めぼしい娘たちはみんな早々に婚約者を決めてしまう。マルセルも出会ってから早かったよね。イリス嬢、いいなと思ってたんだけど…」
じめっとした陛下の視線に、マルセルは少しだけ後ずさった。
「陛下、マイティー家こそ無理だと思いますが」
宰相が冷静に言う。
イリスの父親は隣国の現王の弟で、極秘亡命した身。イリスが王家と婚姻を結ぶことは避けたはずだ。
「むう、レイラ嬢も機転が利いていいよね」
「私も同意します」
「…陛下、アドリアン、それ以上言うなよ」
ルチアーノが国王陛下と王子殿下をきつく見据える。
「まあとにかく、有力貴族らがそれぞれ自分の得意分野で成果を上げて、地場産業で各領地もそれなりに栄えている。するとどうなる?王宮の力は衰えていくだろう?」
陛下は玉座に凭れて告げた。一国の主たる深い声色で。
「そうなる前に、各地で共通して必要な事業を、王宮主導で進めていく必要がある。そのためにはクロフォード卿の技術が必要だったんだよ」
「社会インフラの整備…ですか?」
レイラの言葉に陛下は薄く笑む。
「道路や上下水道の設備、治水事業は統一しておいた方がいいだろう?技術や経費を王宮が援助すれば各領地にも恩恵となる」
―――そして王宮も恩が売れる、と。
ああ本当に政治的な話だわ、とレイラは唸った。
「レイラ!」
わっと駆け寄ってきたハンナと両の手の指を絡めて繋ぐ。
「レイラ、パーティーに行けなくてごめんなさい」
「いいのよ。それよりあなたは大丈夫だったの?」
「ええ。閉じ込められていたけど、ママはわたしに危害を加えることはないから」
―――閉じ込められていたですって!?
レイラは思わず国王陛下たちを振り返る。
さっと目を逸らす父たちにレイラの眦がますます吊り上がった。
「レイラ・モンタールド侯爵令嬢、そしてレイラパピヨン店主殿」
大柄でほどよく日に焼けた、まるで兵士のような風貌のクロフォード卿が、娘と同年代のレイラの前で片膝をついて頭を下げる。
「この度の数々の所業、大変申し訳ございませんでした。クロフォード家の当主として深くお詫び申し上げます」
「わたしも謝ります!いつもたくさんお世話になっているのに、レイラに被害を与えてしまって、本当にごめんなさい…!!」
クロフォード卿に続いて、両膝をついたハンナがレイラの手を額に当てて謝罪する。
「この身でもって償いたいところですが、陛下の王命を拝しておりますので、首は差し出せないのです。その代わり、持てるものならなんでもお譲り致します故」
「…………」
クロフォード卿は貴族としての位はレイラより格下とはいえ、友人の父親であり、経営者としてもレイラとは比べ物にならないほどの規模を手掛けている。
そんな人に深く頭を下げられて、レイラはなにも言えず父を振り返った。
侯爵は薄く微笑んで娘の行動をただ眺めている。父親だけではなく、陛下も、殿下も、この部屋にいる人すべてが。
「…………」
レイラはもう一度クロフォード卿を見下ろし、おそるおそる口を開いた。
「…本当に、なんでもいいんですか…?」
「当然です…!」
クロフォード卿の額に玉のような汗が浮かぶ。
「それなら……」
ハンナがきつくレイラの手を握る。それはわずかに震えていた。
「綺光石が採れる山があるとハンナから聞きました。その石を、綺光石を、わたくしに与えてくださいませ」
「っ!!?」
クロフォード卿が勢いよく顔を上げる。
「もちろんです!山ごと、いいえ、周囲の土地ごとお渡し致します!!」
「いえ、土地はいりません」
レイラは首を横に振る。
「わたくしが欲しいのは石です。綺光石は脆く掘削に技術がいると聞いています。そんな山は管理がしきれません。その代わり、卿にはわたくしが必要なときに石を切り出してほしいのです」
「合点承知!!お安い御用です!」
「が…?」
え、なんですって?
レイラが耳を疑った瞬間、わあっと声が上がった。
「レイラ!ありがとう!!」
ハンナが飛びついてくる。
「綺光石かあ、そうきたか」
「買ってあげるって言ったんだけどな」
アドリアンとルチアーノが言う。
マルセルと将軍の父子は静かに目を細めて、宰相はにこにことして。
「どうだ、ほら見たか!」
外務大臣ことモンタールド侯爵は、嬉しさのあまり国王陛下の背中を力いっぱい叩いた。
「痛ってえ!!」
「「「「…………」」」」
陛下の悲鳴に一瞬、静寂が落ちる。
居た堪れなかったのか、藍色の髪の渋い国王陛下はごほんと咳払いした。
***
クロフォード父娘は恐縮しきりで退出して行った。
「ハンナ、お母様のことは…」
「いいの。仕方ないのよ。わたしもママがいまのままでいられるとは思えなかったから」
去り際のハンナとの会話に、レイラは少ししんみりとして。
「父王、クロフォード卿の待遇はどういうことですか」
彼らが部屋を出るのを待って、アドリアンが国王陛下に訊ねる。その声は険しい。
クロフォード夫人を咎めるのは難しいと王子自身も言っていたが、レイラの友人として、卿の身分を格上げされるようなことはやっぱり腑に落ちなかった。
「…だって、アドリアン、モテないから」
しかし返ってきた言葉は斜め上もいいところで。
「は!?」
紺色の髪の少年は父親をきつく睨みつける。
「この国の王家は本当にモテないんだ。貴族も平民もみんな自立していて、王家に取り入ろうなんて思わない。…他国は選り取り見取りだって聞くんだけどな」
国王陛下はちらりとモンタールド侯爵を見る。
侯爵自身、余計な責務を負いたくないと、娘を王家に嫁がせるのを厭った口だ。サルヴァティーニ公爵家と縁を結んだ理由はそれだけではないが、王家と姻戚で繋がるのを遠慮願ったのも本当。
「めぼしい娘たちはみんな早々に婚約者を決めてしまう。マルセルも出会ってから早かったよね。イリス嬢、いいなと思ってたんだけど…」
じめっとした陛下の視線に、マルセルは少しだけ後ずさった。
「陛下、マイティー家こそ無理だと思いますが」
宰相が冷静に言う。
イリスの父親は隣国の現王の弟で、極秘亡命した身。イリスが王家と婚姻を結ぶことは避けたはずだ。
「むう、レイラ嬢も機転が利いていいよね」
「私も同意します」
「…陛下、アドリアン、それ以上言うなよ」
ルチアーノが国王陛下と王子殿下をきつく見据える。
「まあとにかく、有力貴族らがそれぞれ自分の得意分野で成果を上げて、地場産業で各領地もそれなりに栄えている。するとどうなる?王宮の力は衰えていくだろう?」
陛下は玉座に凭れて告げた。一国の主たる深い声色で。
「そうなる前に、各地で共通して必要な事業を、王宮主導で進めていく必要がある。そのためにはクロフォード卿の技術が必要だったんだよ」
「社会インフラの整備…ですか?」
レイラの言葉に陛下は薄く笑む。
「道路や上下水道の設備、治水事業は統一しておいた方がいいだろう?技術や経費を王宮が援助すれば各領地にも恩恵となる」
―――そして王宮も恩が売れる、と。
ああ本当に政治的な話だわ、とレイラは唸った。
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