彼氏が完璧すぎるから別れたい

しおだだ

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「月奈(ユエナ)、最近彼氏とどうなの?前に同棲持ちかけられたって言ってたじゃん?」


休日のカフェで期待したような面持ちの友人から質問され、月奈はそっと目を泳がせた。


「あー…それね、断った」

「ええ!?どうして!」

「まあ、うん…」


カフェラテに唇を寄せて、小さな声で言う。


「ていうかもう別れようと思ってて」

「えええ!あんないい男捕まえておいて!?」

「だからだよ……」


月奈は溜息をついた。


「いい男すぎるんだよね。あたしにはちょっと、もう無理かな…」



***
恋人の皓(コウ)はよくできた男だ。
顔もいい、やさしい、稼ぎもある。


月奈がはじめて彼を見たのは出勤前、会社に一番近いコンビニでだった。
客が溢れる朝のくそ忙しい中、いつもは雑な仕事をするレジスタッフと笑顔で会話をしていた。ずいぶん見目のいい男だと思った。

その次は、仕事帰りに地下鉄の改札前で。
同僚らしき男性と楽しげに話しながら歩いていて、終業後とは思えないぱりっとしたスーツ姿に、自分のことよくわかってるんだなぁ、と思った。

次は昼休憩に食後のコーヒーショップで。
窓際のカウンターに座ると、ちょうど向かいの通りで女性に声をかけられている彼がいた。

「あ、セオビルの王子様じゃん」

隣にいる同僚兼友人が声をあげて、「知ってるの?」と聞けば「この辺では一番の色男って有名だよ」と教えてくれた。さすが彼はよくおモテになるようだ。
しかもセオビルって世界的大企業の本社ビルじゃん。出来過ぎかよ。


それからその次は、駅チカの高級老舗百貨店で。
閉まりかけたエレベーターの扉を開けて待ってくれたのが彼だった。

「ありがとうございます」

「いえ。何階ですか?」

そう言って月奈が答えたフロアのボタンを光らせる。すらりとした長い指だった。スマート過ぎて驚いた。

そんなことがあったからか、会社近くのコンビニでも、地下鉄の駅でも、コーヒーショップでも、高級百貨店でも、互いを見かけたらなんとなく挨拶をするようになって簡単な会話もするようになった。そこに辿り着くまであっという間だった。


そしてその日は偶然、地下鉄のホームでばったりはち合わせた。


「こんばんは」


声をかけられて、なんとなくいっしょに乗り込み並んで座る。


「どこで降りるんですか?」


それは月奈から訊ねた。


「この二つ先です」

「二つって、え、もうご自宅帰られるんですよね?あそこ人の住むとこありましたっけ?」


月奈の知る限りではオフィス街の延長上だ。高層ビルが立ち並んでいても居住用の建物があっただろうか。その物言いがおもしろかったらしく、彼は快活に笑った。


「あはは!あるんですよ、スーパーもあります」

「えー!?」


けれど彼は駅が近づいても降りる素振りを見せなかった。


「降りないんですか?」

「だって、名残惜しくなっちゃって」


彼は笑みの残った表情で月奈を見つめる。


「不躾で申し訳ないんですが、もう少し話したいです。よかったら何か食べにいきませんか?」


期待に目を輝かせる彼を見返して、慣れてるなあと苦笑した。そして断る理由を見つけられなかった月奈は、まあいいか、と頷いた。


「いいですよ」

「よかった!うれしいです」


それから月奈の最寄駅まで行って食事とお酒を楽しんだ。そして最後に。


「ずっと素敵な方だなって思ってたんです。もしよければオレと付き合ってもらえませんか?」


別れ際の告白を、月奈は頷いて受け入れた。

こんないい男に告白されてうれしかったのもあるし、純粋に彼といるのは楽しかったから。ちょうど付き合っている相手も好きな人もいなかったため、断る理由も必要性もなかったのだ。


―――それがおよそ一年ほど前のことである。


「はああ~」


けれど月奈はいまになって彼と別れようと考えている。理由は皓がよくできた男だから。そんなこと、はじめからよくよくわかっていたことなのに。
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