1 / 10
1
しおりを挟む
「月奈(ユエナ)、最近彼氏とどうなの?前に同棲持ちかけられたって言ってたじゃん?」
休日のカフェで期待したような面持ちの友人から質問され、月奈はそっと目を泳がせた。
「あー…それね、断った」
「ええ!?どうして!」
「まあ、うん…」
カフェラテに唇を寄せて、小さな声で言う。
「ていうかもう別れようと思ってて」
「えええ!あんないい男捕まえておいて!?」
「だからだよ……」
月奈は溜息をついた。
「いい男すぎるんだよね。あたしにはちょっと、もう無理かな…」
***
恋人の皓(コウ)はよくできた男だ。
顔もいい、やさしい、稼ぎもある。
月奈がはじめて彼を見たのは出勤前、会社に一番近いコンビニでだった。
客が溢れる朝のくそ忙しい中、いつもは雑な仕事をするレジスタッフと笑顔で会話をしていた。ずいぶん見目のいい男だと思った。
その次は、仕事帰りに地下鉄の改札前で。
同僚らしき男性と楽しげに話しながら歩いていて、終業後とは思えないぱりっとしたスーツ姿に、自分のことよくわかってるんだなぁ、と思った。
次は昼休憩に食後のコーヒーショップで。
窓際のカウンターに座ると、ちょうど向かいの通りで女性に声をかけられている彼がいた。
「あ、セオビルの王子様じゃん」
隣にいる同僚兼友人が声をあげて、「知ってるの?」と聞けば「この辺では一番の色男って有名だよ」と教えてくれた。さすが彼はよくおモテになるようだ。
しかもセオビルって世界的大企業の本社ビルじゃん。出来過ぎかよ。
それからその次は、駅チカの高級老舗百貨店で。
閉まりかけたエレベーターの扉を開けて待ってくれたのが彼だった。
「ありがとうございます」
「いえ。何階ですか?」
そう言って月奈が答えたフロアのボタンを光らせる。すらりとした長い指だった。スマート過ぎて驚いた。
そんなことがあったからか、会社近くのコンビニでも、地下鉄の駅でも、コーヒーショップでも、高級百貨店でも、互いを見かけたらなんとなく挨拶をするようになって簡単な会話もするようになった。そこに辿り着くまであっという間だった。
そしてその日は偶然、地下鉄のホームでばったりはち合わせた。
「こんばんは」
声をかけられて、なんとなくいっしょに乗り込み並んで座る。
「どこで降りるんですか?」
それは月奈から訊ねた。
「この二つ先です」
「二つって、え、もうご自宅帰られるんですよね?あそこ人の住むとこありましたっけ?」
月奈の知る限りではオフィス街の延長上だ。高層ビルが立ち並んでいても居住用の建物があっただろうか。その物言いがおもしろかったらしく、彼は快活に笑った。
「あはは!あるんですよ、スーパーもあります」
「えー!?」
けれど彼は駅が近づいても降りる素振りを見せなかった。
「降りないんですか?」
「だって、名残惜しくなっちゃって」
彼は笑みの残った表情で月奈を見つめる。
「不躾で申し訳ないんですが、もう少し話したいです。よかったら何か食べにいきませんか?」
期待に目を輝かせる彼を見返して、慣れてるなあと苦笑した。そして断る理由を見つけられなかった月奈は、まあいいか、と頷いた。
「いいですよ」
「よかった!うれしいです」
それから月奈の最寄駅まで行って食事とお酒を楽しんだ。そして最後に。
「ずっと素敵な方だなって思ってたんです。もしよければオレと付き合ってもらえませんか?」
別れ際の告白を、月奈は頷いて受け入れた。
こんないい男に告白されてうれしかったのもあるし、純粋に彼といるのは楽しかったから。ちょうど付き合っている相手も好きな人もいなかったため、断る理由も必要性もなかったのだ。
―――それがおよそ一年ほど前のことである。
「はああ~」
けれど月奈はいまになって彼と別れようと考えている。理由は皓がよくできた男だから。そんなこと、はじめからよくよくわかっていたことなのに。
休日のカフェで期待したような面持ちの友人から質問され、月奈はそっと目を泳がせた。
「あー…それね、断った」
「ええ!?どうして!」
「まあ、うん…」
カフェラテに唇を寄せて、小さな声で言う。
「ていうかもう別れようと思ってて」
「えええ!あんないい男捕まえておいて!?」
「だからだよ……」
月奈は溜息をついた。
「いい男すぎるんだよね。あたしにはちょっと、もう無理かな…」
***
恋人の皓(コウ)はよくできた男だ。
顔もいい、やさしい、稼ぎもある。
月奈がはじめて彼を見たのは出勤前、会社に一番近いコンビニでだった。
客が溢れる朝のくそ忙しい中、いつもは雑な仕事をするレジスタッフと笑顔で会話をしていた。ずいぶん見目のいい男だと思った。
その次は、仕事帰りに地下鉄の改札前で。
同僚らしき男性と楽しげに話しながら歩いていて、終業後とは思えないぱりっとしたスーツ姿に、自分のことよくわかってるんだなぁ、と思った。
次は昼休憩に食後のコーヒーショップで。
窓際のカウンターに座ると、ちょうど向かいの通りで女性に声をかけられている彼がいた。
「あ、セオビルの王子様じゃん」
隣にいる同僚兼友人が声をあげて、「知ってるの?」と聞けば「この辺では一番の色男って有名だよ」と教えてくれた。さすが彼はよくおモテになるようだ。
しかもセオビルって世界的大企業の本社ビルじゃん。出来過ぎかよ。
それからその次は、駅チカの高級老舗百貨店で。
閉まりかけたエレベーターの扉を開けて待ってくれたのが彼だった。
「ありがとうございます」
「いえ。何階ですか?」
そう言って月奈が答えたフロアのボタンを光らせる。すらりとした長い指だった。スマート過ぎて驚いた。
そんなことがあったからか、会社近くのコンビニでも、地下鉄の駅でも、コーヒーショップでも、高級百貨店でも、互いを見かけたらなんとなく挨拶をするようになって簡単な会話もするようになった。そこに辿り着くまであっという間だった。
そしてその日は偶然、地下鉄のホームでばったりはち合わせた。
「こんばんは」
声をかけられて、なんとなくいっしょに乗り込み並んで座る。
「どこで降りるんですか?」
それは月奈から訊ねた。
「この二つ先です」
「二つって、え、もうご自宅帰られるんですよね?あそこ人の住むとこありましたっけ?」
月奈の知る限りではオフィス街の延長上だ。高層ビルが立ち並んでいても居住用の建物があっただろうか。その物言いがおもしろかったらしく、彼は快活に笑った。
「あはは!あるんですよ、スーパーもあります」
「えー!?」
けれど彼は駅が近づいても降りる素振りを見せなかった。
「降りないんですか?」
「だって、名残惜しくなっちゃって」
彼は笑みの残った表情で月奈を見つめる。
「不躾で申し訳ないんですが、もう少し話したいです。よかったら何か食べにいきませんか?」
期待に目を輝かせる彼を見返して、慣れてるなあと苦笑した。そして断る理由を見つけられなかった月奈は、まあいいか、と頷いた。
「いいですよ」
「よかった!うれしいです」
それから月奈の最寄駅まで行って食事とお酒を楽しんだ。そして最後に。
「ずっと素敵な方だなって思ってたんです。もしよければオレと付き合ってもらえませんか?」
別れ際の告白を、月奈は頷いて受け入れた。
こんないい男に告白されてうれしかったのもあるし、純粋に彼といるのは楽しかったから。ちょうど付き合っている相手も好きな人もいなかったため、断る理由も必要性もなかったのだ。
―――それがおよそ一年ほど前のことである。
「はああ~」
けれど月奈はいまになって彼と別れようと考えている。理由は皓がよくできた男だから。そんなこと、はじめからよくよくわかっていたことなのに。
0
あなたにおすすめの小説
どんなあなたでも愛してる。
piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー
騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。
どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか?
※全四話+後日談一話。
※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。
※なろうにも投稿しています。
偽りの愛に囚われた私と、彼が隠した秘密の財産〜最低義母が全てを失う日
紅葉山参
恋愛
裕福なキョーヘーと結婚し、誰もが羨む生活を手に入れたはずのユリネ。しかし、待っていたのはキョーヘーの母親、アイコからの陰湿なイジメでした。
「お前はあの家にふさわしくない」毎日浴びせられる罵倒と理不尽な要求。愛する旦那様の助けもなく、ユリネの心は少しずつ摩耗していきます。
しかし、ある日、ユリネは見てしまうのです。義母アイコが夫キョーヘーの大切な財産に、人知れず手をつけている決定的な証拠を。
それは、キョーヘーが将来ユリネのためにと秘密にしていた、ある会社の株券でした。
最低なアイコの裏切りを知った時、ユリネとキョーヘーの関係、そしてこの偽りの家族の運命は一変します。
全てを失うアイコへの痛快な復讐劇が、今、幕を開けるのです。
譲れない秘密の溺愛
恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。
あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。
各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。
*☼*――――――――――*☼*
佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳
文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務
仕事人間で料理は苦手
×
各務 尊(かがみ たける) 30歳
実花子の上司で新人研修時代の指導担当
海外勤務から本社の最年少課長になったエリート
*☼*――――――――――*☼*
『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。
――――――――――
※他サイトからの転載
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※無断転載禁止。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる