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「月奈ちゃん!」
最寄駅まで車で迎えにきてくれた皓が黒いコンパクトカーの運転席から手を振っている。
月奈は小走りで駆け寄り、助手席に滑り込んだ。
「待たせちゃってごめんね、月奈ちゃん」
「ううん全然。すぐだったよ」
実際、彼は時間通りにやって来た。
月奈がシートベルトを絞めると皓は駅前のロータリーから手早く車を発進させた。日差しよけのサングラスが様になっている。
こう見えて実は皓はひとつ下なのだ。その事実を知ったのは付き合ってからだったが、月奈はとても驚いた。年下になんて見えなかったから。
「昨日は何してた?」
「友達と会ってお茶してたよ。皓は?」
「大学のときのサークル仲間とテニスしてた」
「そっかー」と軽く返しながら、月奈は内心で顔をひきつらせる。さすがおぼっちゃま。
東京のほぼ中心地に住む皓は当然のようにいいとこの子で、実家は都内の高級住宅街。出身校も名のある有名大学だった。彼の言う友人たちももれなく高給取りだろう。
「今日はどこ行くの?」
「ちょっと遠くまで行って森林浴しよ。それから釜飯食べよう」
「釜飯!!」
浮かれる月奈を見て皓は楽しげに微笑んだ。
時折ナビを確認しつつ車はすいすいと進む。
車内はちょうどいい音量で最近彼が好きな男性ボーカルの歌が流れている。
月奈がぼうっと外を眺めていると、前を向いたまま皓が言う。
「ねえ見て、緑が多くなってきたよ」
「やだ、まだ郊外に入ったばかりだよ」
こんな程度で緑だなんてこのおぼっちゃまは。
月奈はくるりと皓の方に顔を向けた。
「皓って自然とか苦手?」
「そんなことないよ、アウトドアも好きだし」
「虫さわれる?」
「んー、触らないかなあ?」
「もう、ほらぁー」とか穏やかに笑いながら、月奈はさらりとした髪を耳にかけた。揺れるタイプのピアスが光る。
旧道に入ってからは本当に緑が増えた。
途中で休憩を挟みながら車は目的地である渓谷に辿り着く。外に出ると空気が違って、わあと揃って声を上げた。
「気持ちいいね」
「うん、近くまで行ってみよう」
指だけ掴むようなゆるい形で手を繋いでぶらぶらと歩く。月奈はヒールの低いショートブーツだったのであまり足場の悪いところまでは降りなかった。皓もぴかぴかのブランドスニーカーだったのでちょうどいい。
「あ、キャンプ場あるよ」
「バーベキューもできるんだって。いいなー」
「今度バーベキューする?お互い友達とか呼んで」
「皓の知り合いとか、あたしの友達みんな目の色変わっちゃうよ。そういえばビアガーデン風のお店できたの知ってる?」
「そっち?そっちがいいの?合コンのセッティングしようとしてる?」
皓がくつくつ笑う。
それから川のせせらぎを聞きつつ周辺を散策して、途中でご当地ソフトクリームを食べた。
「おいしー!」
「はは。ほんとに美味しそう、一口ちょうだい」
アイスをスプーンで一掬いして皓の口元まで運ぶと、うれしそうにぱくりと食らいつく。
「おいしいね」
観光用のルートを一周してから渓谷の近くで店を構える地元の釜飯屋に向かった。
皓は店のおすすめを、月奈は季節限定品を頼んだ。おいしかった。たわいもない話をしてゆるやかに時間が過ぎていく。ふつうに楽しい。
「あー、やっぱいいなあ」
食後、テーブルに肘をついた皓が目を細めて月奈を見つめる。うっとりするくらいの甘い微笑み。イケメンすぎて目が潰れそう。
「ねえ、いっしょに暮らす話、どうしてもだめ?」
「だってまだ早いよ。あたしと暮らしたら幻滅しちゃうよ」
「そんなことないと思うけどなあ」
月奈は苦笑した。
そんなことある。そんなことしかないのだ。
最寄駅まで車で迎えにきてくれた皓が黒いコンパクトカーの運転席から手を振っている。
月奈は小走りで駆け寄り、助手席に滑り込んだ。
「待たせちゃってごめんね、月奈ちゃん」
「ううん全然。すぐだったよ」
実際、彼は時間通りにやって来た。
月奈がシートベルトを絞めると皓は駅前のロータリーから手早く車を発進させた。日差しよけのサングラスが様になっている。
こう見えて実は皓はひとつ下なのだ。その事実を知ったのは付き合ってからだったが、月奈はとても驚いた。年下になんて見えなかったから。
「昨日は何してた?」
「友達と会ってお茶してたよ。皓は?」
「大学のときのサークル仲間とテニスしてた」
「そっかー」と軽く返しながら、月奈は内心で顔をひきつらせる。さすがおぼっちゃま。
東京のほぼ中心地に住む皓は当然のようにいいとこの子で、実家は都内の高級住宅街。出身校も名のある有名大学だった。彼の言う友人たちももれなく高給取りだろう。
「今日はどこ行くの?」
「ちょっと遠くまで行って森林浴しよ。それから釜飯食べよう」
「釜飯!!」
浮かれる月奈を見て皓は楽しげに微笑んだ。
時折ナビを確認しつつ車はすいすいと進む。
車内はちょうどいい音量で最近彼が好きな男性ボーカルの歌が流れている。
月奈がぼうっと外を眺めていると、前を向いたまま皓が言う。
「ねえ見て、緑が多くなってきたよ」
「やだ、まだ郊外に入ったばかりだよ」
こんな程度で緑だなんてこのおぼっちゃまは。
月奈はくるりと皓の方に顔を向けた。
「皓って自然とか苦手?」
「そんなことないよ、アウトドアも好きだし」
「虫さわれる?」
「んー、触らないかなあ?」
「もう、ほらぁー」とか穏やかに笑いながら、月奈はさらりとした髪を耳にかけた。揺れるタイプのピアスが光る。
旧道に入ってからは本当に緑が増えた。
途中で休憩を挟みながら車は目的地である渓谷に辿り着く。外に出ると空気が違って、わあと揃って声を上げた。
「気持ちいいね」
「うん、近くまで行ってみよう」
指だけ掴むようなゆるい形で手を繋いでぶらぶらと歩く。月奈はヒールの低いショートブーツだったのであまり足場の悪いところまでは降りなかった。皓もぴかぴかのブランドスニーカーだったのでちょうどいい。
「あ、キャンプ場あるよ」
「バーベキューもできるんだって。いいなー」
「今度バーベキューする?お互い友達とか呼んで」
「皓の知り合いとか、あたしの友達みんな目の色変わっちゃうよ。そういえばビアガーデン風のお店できたの知ってる?」
「そっち?そっちがいいの?合コンのセッティングしようとしてる?」
皓がくつくつ笑う。
それから川のせせらぎを聞きつつ周辺を散策して、途中でご当地ソフトクリームを食べた。
「おいしー!」
「はは。ほんとに美味しそう、一口ちょうだい」
アイスをスプーンで一掬いして皓の口元まで運ぶと、うれしそうにぱくりと食らいつく。
「おいしいね」
観光用のルートを一周してから渓谷の近くで店を構える地元の釜飯屋に向かった。
皓は店のおすすめを、月奈は季節限定品を頼んだ。おいしかった。たわいもない話をしてゆるやかに時間が過ぎていく。ふつうに楽しい。
「あー、やっぱいいなあ」
食後、テーブルに肘をついた皓が目を細めて月奈を見つめる。うっとりするくらいの甘い微笑み。イケメンすぎて目が潰れそう。
「ねえ、いっしょに暮らす話、どうしてもだめ?」
「だってまだ早いよ。あたしと暮らしたら幻滅しちゃうよ」
「そんなことないと思うけどなあ」
月奈は苦笑した。
そんなことある。そんなことしかないのだ。
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