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ぱち、と目を開けると皓の部屋だった。
もぞりと隣を見ればシーツはもぬけの殻でそこに彼の姿はない。
渓谷デートの後、泊まりにおいで、とねだる皓に『明日仕事だから』とか『着替えもないから』とか理由をつけていたが、なんだかんだほだされてしまった。
『会社はオレの部屋からの方が近いよ』とか『着替えは一度取りに戻ればいいじゃん』とか。最後は置いていかれる犬のような目で切なげに見つめられて、同棲を断った引け目で頷いてしまった。
月奈はぎしりとベッドから降りて、立ち上がった拍子に肩を滑り落ちたブラのストラップを直す。
いい匂いがする。おなかのすく匂いだ。
寝乱れた髪を手で押さえながら寝室を出て、まずは洗面所に向かった。
「おはよう」
「おはよう月奈ちゃん。そろそろ起こしに行こうと思ってたんだ」
顔を洗って、着替えて、髪を整え化粧まで済ませた月奈がダイニングを覗くと、エプロン姿の皓がフライパンを持ったままにっこりと振り返った。
「今日もすごいね」
「簡単にできるものだけだよ。さあ座って。無理して食べなくても大丈夫だからね」
テーブルに並べられたたくさんの朝ごはん。
はじめてこの光景を見たときに思わず固まった月奈を覚えていて、皓はいつもそう言う。
「あ、でもこれだけは食べてほしいな」
そう言って月奈の前に置かれたスクランブルエッグとフルーツのヨーグルトかけ。これもいつものことだ。
「…ありがとう。いただきます」
「はいどうぞ」
皓もエプロンを外して正面に座った。
彼は部屋着姿だったが、どこもくたびれた様子はなくて、今日も朝からキラキラしている。眩しい。
「皓、いつもごはん作ってくれるけど何時に起きてるの?」
「一時間前とか?気にしなくていいよ、一人のときでもこんな感じだし」
皓は二十代半ばの健康男児なので朝からよく食べる。大きな口で次々と飲み込まれていく食べ物たち。
「…そっか。うん、そうなんだ」
月奈はヨーグルトを絡めた生のパイナップルを口に運んだ。…おいしい。
「月奈ちゃんもう支度ほぼできてるね。オレも着替えてこないと」
食後、せめて食器を片そうとするが「大丈夫」と皓が手早く食洗機に皿を並べてスイッチを入れた。いつものやり方があるのだろう。月奈ができることは何もなかった。
出勤前にアイラインとリップだけ直して、時間まですこしとスマホを手に取りソファーに向かう。そしてふと、飾り棚の上に置かれたものに気づいた。
「これ……」
「あ、それね、前の旅行で買った置物だよ」
キラキライケメンがキラキラ王子様になって戻ってきた。眩しい。
皓と月奈は少し前に二人で旅行に行った。
これはそのとき売られていた、地元では神様として祀られている動物がモチーフの置物だ。かわいくないし、どうせ観光客用でしょ、と月奈が見向きもしなかったそれを彼はいつの間にか購入していた。
「買ってたんだ」
「月奈ちゃんとはじめて行った旅行の記念にね。楽しかったよね、また行こうよ」
「…うん、また今度ね」
***
―――カツカツカツカツ!
月奈は会社のバックフロアをすごい形相で歩いていた。
「おはよう、月奈…どうしたぁ?」
声をかけてきた同僚兼友人は月奈の顔を見てあんぐりと口を開ける。
「もう無理もう無理!無理だよおおお!」
「何がどうした!?」
突然泣きついてきた月奈にぎょっと肩が跳ねる。
「…皓のこと。もう、無理だよー」
爪の先まできれいに整えられた両手で顔を覆って、月奈は大きく息を吐いた。
もぞりと隣を見ればシーツはもぬけの殻でそこに彼の姿はない。
渓谷デートの後、泊まりにおいで、とねだる皓に『明日仕事だから』とか『着替えもないから』とか理由をつけていたが、なんだかんだほだされてしまった。
『会社はオレの部屋からの方が近いよ』とか『着替えは一度取りに戻ればいいじゃん』とか。最後は置いていかれる犬のような目で切なげに見つめられて、同棲を断った引け目で頷いてしまった。
月奈はぎしりとベッドから降りて、立ち上がった拍子に肩を滑り落ちたブラのストラップを直す。
いい匂いがする。おなかのすく匂いだ。
寝乱れた髪を手で押さえながら寝室を出て、まずは洗面所に向かった。
「おはよう」
「おはよう月奈ちゃん。そろそろ起こしに行こうと思ってたんだ」
顔を洗って、着替えて、髪を整え化粧まで済ませた月奈がダイニングを覗くと、エプロン姿の皓がフライパンを持ったままにっこりと振り返った。
「今日もすごいね」
「簡単にできるものだけだよ。さあ座って。無理して食べなくても大丈夫だからね」
テーブルに並べられたたくさんの朝ごはん。
はじめてこの光景を見たときに思わず固まった月奈を覚えていて、皓はいつもそう言う。
「あ、でもこれだけは食べてほしいな」
そう言って月奈の前に置かれたスクランブルエッグとフルーツのヨーグルトかけ。これもいつものことだ。
「…ありがとう。いただきます」
「はいどうぞ」
皓もエプロンを外して正面に座った。
彼は部屋着姿だったが、どこもくたびれた様子はなくて、今日も朝からキラキラしている。眩しい。
「皓、いつもごはん作ってくれるけど何時に起きてるの?」
「一時間前とか?気にしなくていいよ、一人のときでもこんな感じだし」
皓は二十代半ばの健康男児なので朝からよく食べる。大きな口で次々と飲み込まれていく食べ物たち。
「…そっか。うん、そうなんだ」
月奈はヨーグルトを絡めた生のパイナップルを口に運んだ。…おいしい。
「月奈ちゃんもう支度ほぼできてるね。オレも着替えてこないと」
食後、せめて食器を片そうとするが「大丈夫」と皓が手早く食洗機に皿を並べてスイッチを入れた。いつものやり方があるのだろう。月奈ができることは何もなかった。
出勤前にアイラインとリップだけ直して、時間まですこしとスマホを手に取りソファーに向かう。そしてふと、飾り棚の上に置かれたものに気づいた。
「これ……」
「あ、それね、前の旅行で買った置物だよ」
キラキライケメンがキラキラ王子様になって戻ってきた。眩しい。
皓と月奈は少し前に二人で旅行に行った。
これはそのとき売られていた、地元では神様として祀られている動物がモチーフの置物だ。かわいくないし、どうせ観光客用でしょ、と月奈が見向きもしなかったそれを彼はいつの間にか購入していた。
「買ってたんだ」
「月奈ちゃんとはじめて行った旅行の記念にね。楽しかったよね、また行こうよ」
「…うん、また今度ね」
***
―――カツカツカツカツ!
月奈は会社のバックフロアをすごい形相で歩いていた。
「おはよう、月奈…どうしたぁ?」
声をかけてきた同僚兼友人は月奈の顔を見てあんぐりと口を開ける。
「もう無理もう無理!無理だよおおお!」
「何がどうした!?」
突然泣きついてきた月奈にぎょっと肩が跳ねる。
「…皓のこと。もう、無理だよー」
爪の先まできれいに整えられた両手で顔を覆って、月奈は大きく息を吐いた。
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