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皓のことは好きだ。
顔もいいし、やさしいし、仕事は順調そうだし、ここだけの話だが身体の相性もいい。
けれどなにぶん出来すぎている。完璧すぎる。
顔がよくて、人当たりがよくて、大きな会社に勤めて仕事も順風満帆。――ふつうならすでに人に言えない性癖のひとつくらいある。
高学歴で高収入、実家も高級住宅街にあるお金持ち。――きっと嘘か裏があるに違いない。
さらに栄養バランス完璧な食事を毎朝作り、食洗機の使い方も熟知しているよくできたキラキライケメン。ちなみに彼の家はいつ行ってもモデルルームのように整頓されている。――ちゃんとし過ぎていて胸が痛い。
その上、旅先のつまらない置物を思い出として大切に飾っているのだ。もはや宇宙人――と月奈は思う。
おかしな性癖があったら、男なんてそんなもんよね、と思えた。嘘や裏があったら、見栄張っちゃって、と思った。交際が継続できるかは程度によるけれど、納得ができた。
月奈は結構ズボラだ。
朝はいつも食べないでギリギリまで寝てるし、なんなら寝るときにブラなんてつけない。メイクも服もネイルも髪も、見映えが悪くない程度に整えるが言ってしまえば外面でしかなく、やらなくていいならやりたくない。惰性で続けているだけだ。
皓と過ごす時間は楽しいが、一緒に住んだら毎日彼と同じように完璧に過ごさないといけないのかと思って怖じ気づいた。そんなの絶対無理だ。
はじめて彼の部屋に泊まった日も驚いたが、おもてなししてくれているのかな、とのんきに考えていた。まさかそれが彼の自然体だとは。
月奈は旅先でそれを実感した。
やさしく誠実なイケメンは行く先々で紳士的に振るまった。隣にいる彼氏がそうなのだ。月奈はかしこまるしかない。
一日のスケジュールは完璧だ。たしかに行きたいところはいっぱいあったが、こことそこを回って、こっちに戻って、ここで昼食を取る。そのためにはホテルを何時に出て――。
早い時間から化粧をして朝食をとる自分に首を傾げる。朝のエッチはしないの?なんて聞けなかった。
それでも皓と過ごす時間は楽しかった。
また旅行しようね、と言われて、うん、と笑顔で頷くほどには。
けれど皓といると劣等感が刺激される。
皓はイケメンでやさしいが、月奈の中のダメな部分がそうじゃないと訴える。皓といっしょにいるのは楽しいが、同じように過ごすのは無理だと悲鳴を上げる。
これはもう根本的な相性が合わないんだな、と旅行の後から月奈は別れを考えるようになった。けれど皓は旅行に行ってもっと月奈を好きになったと同棲を持ちかけてくる。
まだ早いよ、とどうにか断るのが精一杯。
「なぁるほどねー」
話を聞いて友人は声を上げる。月奈はかくりと肩を落とした。
「ねえ、パイナップル一玉って買ったことある?」
「え、ない。むしろ切り方も知らない」
「だよねえ。あたしもそう。パイナップルの切り方なんて彼氏の家ではじめて知ったよ…」
ぶふ!と友人が噴き出した。
「王子様はパイナップル切れるの!?」と言って腹を抱えて笑っている。
「笑い事じゃないよ、やめてよ。いっしょにいたらきっとこれからも同じようなことで悩むんだよ」
皓といるのは楽しい。
でもそれは二人で過ごす時間が楽しいだけだ。月奈はまだ皓自身をどうしようもなく好きなわけじゃない。これなら友達の距離で十分じゃないのか、と月奈はそう分析していた。
「彼氏じゃなくて友達ならよかったのに…」
いまならまだ間に合うかな。
おかしな話だ。月奈は皓からの告白を打算で受け入れている。はじめから皓を好きで付き合ったわけじゃないのに。
「ちゃんと話せば、王子様なら思いがけない方法で解決してくれるかもよ?」
「い、い、言えないよ!?」
月奈は慌てた。
あの完璧キラキライケメンの皓に、月奈がどれだけいい加減でズボラで外面だけなのかを伝えるだなんて!無理すぎる!
「いや、そこまで言ってないけど……」
友人の言葉は動揺する月奈の耳を通りすぎていく。
「はあ」
―――彼氏がイケメンすぎてつらい。別れたい。
顔もいいし、やさしいし、仕事は順調そうだし、ここだけの話だが身体の相性もいい。
けれどなにぶん出来すぎている。完璧すぎる。
顔がよくて、人当たりがよくて、大きな会社に勤めて仕事も順風満帆。――ふつうならすでに人に言えない性癖のひとつくらいある。
高学歴で高収入、実家も高級住宅街にあるお金持ち。――きっと嘘か裏があるに違いない。
さらに栄養バランス完璧な食事を毎朝作り、食洗機の使い方も熟知しているよくできたキラキライケメン。ちなみに彼の家はいつ行ってもモデルルームのように整頓されている。――ちゃんとし過ぎていて胸が痛い。
その上、旅先のつまらない置物を思い出として大切に飾っているのだ。もはや宇宙人――と月奈は思う。
おかしな性癖があったら、男なんてそんなもんよね、と思えた。嘘や裏があったら、見栄張っちゃって、と思った。交際が継続できるかは程度によるけれど、納得ができた。
月奈は結構ズボラだ。
朝はいつも食べないでギリギリまで寝てるし、なんなら寝るときにブラなんてつけない。メイクも服もネイルも髪も、見映えが悪くない程度に整えるが言ってしまえば外面でしかなく、やらなくていいならやりたくない。惰性で続けているだけだ。
皓と過ごす時間は楽しいが、一緒に住んだら毎日彼と同じように完璧に過ごさないといけないのかと思って怖じ気づいた。そんなの絶対無理だ。
はじめて彼の部屋に泊まった日も驚いたが、おもてなししてくれているのかな、とのんきに考えていた。まさかそれが彼の自然体だとは。
月奈は旅先でそれを実感した。
やさしく誠実なイケメンは行く先々で紳士的に振るまった。隣にいる彼氏がそうなのだ。月奈はかしこまるしかない。
一日のスケジュールは完璧だ。たしかに行きたいところはいっぱいあったが、こことそこを回って、こっちに戻って、ここで昼食を取る。そのためにはホテルを何時に出て――。
早い時間から化粧をして朝食をとる自分に首を傾げる。朝のエッチはしないの?なんて聞けなかった。
それでも皓と過ごす時間は楽しかった。
また旅行しようね、と言われて、うん、と笑顔で頷くほどには。
けれど皓といると劣等感が刺激される。
皓はイケメンでやさしいが、月奈の中のダメな部分がそうじゃないと訴える。皓といっしょにいるのは楽しいが、同じように過ごすのは無理だと悲鳴を上げる。
これはもう根本的な相性が合わないんだな、と旅行の後から月奈は別れを考えるようになった。けれど皓は旅行に行ってもっと月奈を好きになったと同棲を持ちかけてくる。
まだ早いよ、とどうにか断るのが精一杯。
「なぁるほどねー」
話を聞いて友人は声を上げる。月奈はかくりと肩を落とした。
「ねえ、パイナップル一玉って買ったことある?」
「え、ない。むしろ切り方も知らない」
「だよねえ。あたしもそう。パイナップルの切り方なんて彼氏の家ではじめて知ったよ…」
ぶふ!と友人が噴き出した。
「王子様はパイナップル切れるの!?」と言って腹を抱えて笑っている。
「笑い事じゃないよ、やめてよ。いっしょにいたらきっとこれからも同じようなことで悩むんだよ」
皓といるのは楽しい。
でもそれは二人で過ごす時間が楽しいだけだ。月奈はまだ皓自身をどうしようもなく好きなわけじゃない。これなら友達の距離で十分じゃないのか、と月奈はそう分析していた。
「彼氏じゃなくて友達ならよかったのに…」
いまならまだ間に合うかな。
おかしな話だ。月奈は皓からの告白を打算で受け入れている。はじめから皓を好きで付き合ったわけじゃないのに。
「ちゃんと話せば、王子様なら思いがけない方法で解決してくれるかもよ?」
「い、い、言えないよ!?」
月奈は慌てた。
あの完璧キラキライケメンの皓に、月奈がどれだけいい加減でズボラで外面だけなのかを伝えるだなんて!無理すぎる!
「いや、そこまで言ってないけど……」
友人の言葉は動揺する月奈の耳を通りすぎていく。
「はあ」
―――彼氏がイケメンすぎてつらい。別れたい。
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