甘い宝石と愛の雨

しおだだ

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ふっと目が覚めると、ルーファスが甘い瞳でミリーを眺めていた。

あれからそう時間が経っていないようで、お互いまだ裸だった。恥ずかしくなってずるずるとシーツを顔まで引き上げれば、長い指につむじの辺りをこしょこしょとくすぐられる。


「かわいいミリー、恥ずかしがってないで出ておいで。書いてもらいたい書類があるんだ」

「書類?なあに?」


おずおずと顔を出せば、さっそくちゅっと額に口づけられる。ミリーは顔を赤くして「騙したわね!」と騒ぐがルーファスはにこにこするばかり。


「ごめんごめん、かわいくて」


そうしてルーファスが用意したのは婚姻誓約書。

彼の大きなシャツを借りて、ミリーはベッドの上で書面に目を通した。横からルーファスが細かい説明をしてくれる。

結婚条件の多くはミリーが語った理想の夫婦生活の通りで、追加されたことといえば『ミリーの生み出した宝石は絶対に手放さないこと』と『夫婦喧嘩の仲直りの際には必ずキスすること』くらいだった。


「ねえ、これいる?」

「いるよ。とても大切なことだよ」


力強く頷いたルーファスにミリーも頷いて、さらさらと署名をする。すでにルーファスのサインは書き込まれていたため、早急に提出するように、と呼び込んだ侍従に手渡された。


「さあこれで私たちは夫婦だね」

「ええ、ずいぶん待ち焦がれたわ」


ルーファスはミリーを愛してくれるが、ミリーにとってもルーファスは理想の男性だった。

抱き締め合ってキスをして、喜びを交わす。


「それで実はミリーにお願いがあるんだけど…」

「ルーファス様からお願いなんてめずらしいわ。なにかしら?」

「その、ミリーのギフトは関係ないって言っておいてあれなんだけど、欲しい石があるんだ」

「『宝玉』のギフトに関わることなの?わたくしにできることなら構わないわよ」


ミリーはにこりと笑う。
彼女はわがままで高慢だが、懐は広いのだ。

ぎしりと寝台を軋ませて、ルーファスはシーツを剥ぎとりミリーの前に座った。美しい肉体に目のやり場に困る。そして彼のシャツを羽織っただけのミリーも下は裸だ。慌てて膝をすり寄せる。


「な、何?いきなり…」

「ミリーのおしっこの石が欲しい」

「えっ?」


ミリーは耳を疑った。


「だから、ミリーのおしっこの石が欲しい」


ぐいぐい身を寄せられて仰け反る。
だからミリーはいま下に何も着ていないのだ。


「ここに」


ルーファスが両手をお碗のように丸くして突き出す。


「石をちょうだい」

「そこに出せって言うのお!?」


ミリーは真っ赤な顔で絶叫した。

ついさっき身体を重ねたばかりなのにとんでもない。相手は恋人や婚約者を飛び越えてすでに夫なのだけれど。


「ミリーのことならなんでも知りたいし、欲しいんだ」


眉を下げた美男に迫られてミリーはたじろぐ。
それで結局「し、仕方ないわね…」とシャツの裾をたくし上げて。


「こんなこと、あなたにしかしないんだからね!」

「もちろんだよ!!」


ミリーの白い両股の間で、ルーファスの両手に丸い大粒の宝石が溢れ落ちる。

すべてかき集めるとルーファスは目を輝かせて矯めつ眇めつ眺めた。


「そんなまじまじと見ないで、恥ずかしい…」


真っ赤になったミリーは顔を覆ってシーツに沈む。


「すごいきれいだ…」


わずかに頬を染めたルーファスは摘み上げた一粒を、ぱくりと口に。


「きゃ―――っ!?」

「……甘い」


むぐむぐと口を動かす夫に向けて、ミリーは必死になってばふばふと枕を振り下ろす。


「ばかばか!信じられない!飴玉じゃないのよ、もー!!」

「はは。さっそくはじめての夫婦喧嘩だね」


幸せそうなルーファスにミリーは顔を赤くしてますます怒った。



***
「ついにやったか……」


学園での創立記念パーティーに出掛けたはずの侯爵令嬢ミリーはその日から邸宅に帰ることはなく、代わりに届けられたのは婚姻誓約書の写しだった。

長年のらりくらりと二人の訴えをかわし続けてきた侯爵は、近頃のルーファスの闇深い目を思い出して肩を落とした。覚悟していたとはいえ、娘をとられるのは辛い。

そう、この父親、単に娘を嫁に出すことを渋っていただけだった。


「『宝玉』のギフトを考えれば、これが一番よな…」


同じタイミングで大公閣下の元にも写しが届けられたようで、その日のうちに閣下から早馬で謝罪の手紙が届けられる。


「あー!でも悔しい!ギフトなんて一生発現しなくていいから、帰っておいでミリー!」
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