転生令嬢はゆめかわいいをお望み

しおだだ

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◇◇◇

23 不穏

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その日は朝からどんより重たい雲が立ち込めていた。いつもの日課のため中庭に出たレイラは庭師から声をかけられる。


「お嬢様、今日は大丈夫ですよ」

「あらそう?」

「はい、雨が降りそうなので鉢植えを移動しております。水やりも済ませていますので」

「そうね、お天気が崩れそうだわ」


じっとりと湿度が高く、雨の匂いがする。
鈍色の空を見上げて、すぐにでも降り出しそうだわ、とレイラは頷いた。


「お嬢様、落ち着きませんね」

中庭から戻ったあともそわそわしていると、通りかかったメイドに笑われてしまった。

「ええ、マリーは大丈夫かしらと思って」

「平気ですよ、雨になったら馬車が迎えに行きますし」

「そうなんだけどね」


頼んでいたチェーン飾りが出来上がったと店から連絡があり、マリーが学校の帰りに受け取りに行ってくれる手筈になっているのだ。

楽しみ半分、残りはなんだかざわざわして落ち着かない。


「お嬢様、楽しみなのはわかりますが、お勉強の時間ですよ」


ほらほら、と急き立てられて、レイラは仕方なく家庭教師の元へと向かう。

それからほどなくぽつぽつと降りはじめ、昼過ぎには夕暮れのように薄暗く、どしゃ降りの雨となった。


執事学校の終了時間は毎日ほとんど同じだ。
生徒の多くが実際に使用人を勤めているため、決まった時間に終わるよう配慮されているのだろう。

そろそろ迎えに行ってくる、とモンタールド邸の馬丁が馬車の準備をはじめる。

雨が降ると執事学校の前に各貴族の馬車が並ぶらしい。もちろん辻馬車で通う生徒もいるだろうが、使用人と主人の子供たちが同世代の場合、先に執事学校を回ってから貴族学校に向かうのだそうだ。

話を聞いておもしろいとレイラは笑った。


「じゃあ3人で帰ってくるわよね。マリーに『今日はいいから早く帰ってきなさい』って言ってくれる?」


馬丁に伝言を頼むと、「どうでしょうねぇ」とゆるく笑われてしまった。

マリーがレイラの用事を後回しにするなんて思ってもいないのだろう。

「では、行って参ります」

がらがらと大きな音を立てて馬車が屋敷を出ていく。


どしゃ降りの外はすこし肌寒い。
馬車を見送ったレイラが腕を擦ったのを見て、メイドが「温かいお茶でもいれましょうか」と室内に促す。

モンタールド邸で働く者はみんな出来た人ばかりだ。だからレイラも安心できる。


「ええ、そうね」


屋敷に戻ろうとしたレイラの耳に、がしゃがしゃとけたたましい音が届く。

忘れ物でもして戻ってきたのかしら、と振り返ったレイラは大きく目を見開いた。


それがデル・テスタ家の紋章の馬車だったから。

「お嬢様!!」

そして。


「マリーが怪我をしている。はやく手当てを!」


飛び降りてきたロイドが、ぐったりとした上にずぶ濡れのマリーを抱えていたから。



***
その後のモンタールド邸は大騒ぎだった。

メイドたちが大あらわでマリーを連れて行き介抱する。彼女たちにとってもマリーは大切な仲間だ。


「何があったの、ロイド」


そしてもちろんレイラにとってもかけがえのない存在だ。


マリー同様びしょ濡れだったロイドは、シャワーを借りて身体を温めるや、モンタールド邸の応接間に案内された。

そこにはレイラ以外にも、母親であるモンタールド侯爵夫人と弟のトマの姿もある。


ロイドは濡れた藤色の長い髪をタオルで雑に拭う。
いつになく荒々しい仕草に、彼が怒っていることをレイラだけでなく全員が察した。


「お嬢様、今日マリーに学校が終わった後、頼み事をしていたでしょう」

「ええ」

「それを聞いて私も一緒に行こうと思ったのよね。雨も降ってきたしちょうどいいと思って、マリーを迎えに行ったわ」


ロイドはそのために自分の学校は早退したらしい。呆れる。


「早く着きすぎちゃって、まだマリーは出てきそうになかったから、ちょっと驚かそうと思ったのよ」


それでロイドは部外者なのに学校の中に入って行ったらしい。呆れる。

だが執事学校は貴族の行動に寛容だ。
宮廷芸術家であるデル・テスタ家の人間相手なら尚更。  


「正面入り口の近くで言い争う声が聞こえて、何事かと思ったらマリーとブノワトだったわ」

「!」

「マリーが一方的に怒ってる感じだったけど、ブノワトはマリーを突き飛ばしたのよ」

「…っ!!」

「彼女たちがいたのが数段とはいえ階段の上で、かなり悪意を感じたわ」


レイラはぎりと奥歯を噛み締める。


「もしあの場に居合わせていなかったら、なんて考えただけで恐ろしいわね。間一髪で助けることができたからマリーは足を痛めただけで済んだけど……」

「…え?マリーぐったりしてたわよね?」

「あれは酸欠よ」

「……なんで?」

「察してよ、お嬢様」

「~~っロイド!!あなたってば……!」


レイラは一気に頭が沸騰した気がした。

話を聞いていたトマも顔を赤くしているし、母は口許を押さえてぷるぷると肩を震わせている。


「話を聞く限りマリーは大丈夫なようね」

でも、と母は言葉を続ける。

「この件はお父様に報告しておくわ。それにしても、マリーはブノワトと何があったのかしら?」

「そうよね、最近はマリーも変な様子はなかったのに…」


レイラが首を傾げていると、こんこんとノックの音がしてメイドがひとり顔を出した。


「お話中失礼します。馬車が戻ってきました」

「ただいま帰りました。ノアです。」


メイドの後ろからノアが顔を出して、レイラはカッとなった。


「ノア!あなたは一体なにをしていたのよ!」

「え、ええ?」


ノアはまだ状況を分かっていないようだ。


「まあ怒られるのも仕方ないな」

トマがうんうんと頷く。

「ノアちゃん、あなたも覚悟なさいね」

母がにこりとやさしく微笑む。怖い。

「…………」

ロイドは眉を寄せたまま、ノアに一瞥すらくれなかった。


「ええと、はい……?」

優秀な従者であるノアはわけがわからなくてもとりあえず頷く。


「それよりあなた一人なの?ブノワトは?」

「いや、こちらも探していたんです。まだ戻ってませんか?」

怪訝な顔をするノア。

馬丁の話もあわせて聞くと、学校について馬車に乗り込んできたのはノアひとりだったらしい。しばらく待ってみてもマリーもブノワトも現れず、仕方なく屋敷へ出発したのだとか。

マリーはロイドの馬車で帰ってきたけれど…。


「ブノワトはどこに行ったわけ?」


レイラの問いはいまこの場にいる全員の疑問だった。
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