転生令嬢はゆめかわいいをお望み

しおだだ

文字の大きさ
36 / 59
◇◇◇

36 寂寥

しおりを挟む
アドリアンに指摘されて、マリーと話をして、レイラは自分の気持ちがすとんとあるべきところに収まったような心地があった。

ルチアーノがどう思っているのかはわからないが、自分の気持ちはわかった。

それだけで胸を覆っていた言いようのない不安が晴れていく気がした。


「え?どういうこと?」


けれど。


「だから、入学パーティーのとき、レイラがハンナ嬢のヒールに細工をしたって噂が広まってるのよ!」


「えーっ!?」


登校して早々、待ち構えていたリーサが難しい顔で伝えてきた内容にレイラは仰天した。


「わたくしそんなことしてないわよ!?」

「わかってるわよ」

「そうだよ、ハンナ嬢だってあのときレイラに助けてもらって喜んでたじゃないか」

「ええ、そう…よ…?」


割り込んできた声にレイラとリーサはぎぎぎと振り返って、「きゃー!?」と揃って声を上げた。


「「アドリアン王子殿下!?」」


「おはようレイラ。貴女はリーサ嬢だね、トマのいい人の。おはよう」

「おは、おはようございます…」


「あーもー、そんな固くならないでって言ったのに」


いいや恐れ多い。いつのまにか呼び捨てだし。
王子はにこにこ笑いながら言うが、レイラは冷や汗ものだ。


「レイラ、リーサ、おはよー!あ、王子様もおはようございまーす」

「エマ嬢、イリス嬢、おはよう」


続けてエマとイリスがやって来る。
エマの気さくさがなんだか怨めしい。ていうか、ノリが軽すぎる!


「レイラ!」


そこへまた別の声が響いた。


「ハンナ!…と、ルチアーノ様?」


駆け寄ってくるピンクの髪の少女の後ろには、見慣れた濃緑色の髪のイケメンが続いている。ルチアーノだ。

レイラは胸がもやっとした。


「…おはよう、レイラ」


ルチアーノはレイラにそう告げると、ふいっとアドリアンに視線を向けてしまう。

もやっとしていたレイラの胸が、ちくんと痛んだ。


「…アドリアン、なんでレイラといるんだ」

「偶然だって。ルチアーノこそなんであの子と?」

「それは……」


ずずいっと王子に迫るルチアーノの言葉は、小声ゆえにレイラまで届くことはなかった。


「ごめんなさいレイラ!なんか変な噂が流れてるみたいで…!」


ハンナはあわあわと涙目で言い募る。
わかっているわ、とレイラはその桃色の髪を撫でた。

やだ、なにこのさらつや。ゆめかわすぎる。


「レイラ、そんな簡単にいいの?この子が裏で変なことを言ってるのかもしれないわよ?」

「わたしそんなことしません!」


怪しむリーサにハンナは勢いよく首を横に振る。


「そうね、ハンナはそんなことしないと思うわ」


というか、しないと思いたい、が正直な気持ちだけど。


「私もそう思うな。どちらにしろレイラとハンナ嬢が、会場の外で親しく話していたのは私もこの目で見ているから、噂は事実無根だよ。私の言葉を信じない者なんているかな?」

「殿下……!!」


レイラは目を輝かせてアドリアンを見る。そしてハンナも。


「アドリアン?パーティーの後にレイラと会ったのか?ていうか、なんで呼び捨てなんだ?」

「面倒くさいな、ルチアーノ」


ルチアーノにじとりと睨まれて、アドリアンは真顔のまま目を逸らした。


「皆様、いまはとりあえず移動しましょう。授業がはじまってしまうわ」


にっこりと微笑むイリスの一声で、全員の行動が決まった。



***
中央学園は、他の庶民向けの学校や専門性のある学校と違い、基礎教育はすでに終了している前提で講義を受ける。

そのためクラスという概念がない。
科目によって変わる講義室に都度集まるのは、『私』の記憶にある大学と近いシステムだ。


「わたくし、ルチアーノ様はもっとインドアな方だと思っていたの」

「インドア…?が、なにかわからないけど、殿下の護衛としても有能と聞いているわ」

「ええ、そうみたい」


授業と授業の間は、学生たちは各々自由な場所で自由に過ごす。カフェテラスや自習室が人気だが、人によっては広場で身体を動かしたりする。

まさにいま、ルチアーノが他の男子生徒と刃を潰した練習用の剣で手合わせをしていた。

楽しそうに剣を振るうルチアーノにすれば遊びの範疇なのだろうが、素人であるレイラは危なくないのかとはらはらしてしまう。


でも、そうよね――…。


ルチアーノは昔から剣や馬に勤しんでいた。
きれいな顔をしているから、なんとなくインドアなイメージを持っていたけれど、十分鍛えているに違いない。


ルチアーノが剣を払い、バランスを崩して倒れ込んだ相手の胸に剣先を突きつける。

わあっと歓声が上がって、勝負が決した。


ルチアーノがあんな風にたくさんの人と交流するようなタイプだということも、レイラは知らなかった。なんとなく気難しいのかなと思っていたから。

でも、そうよね。

ルチアーノはアドリアン王子の側近になることがほぼ決まっている男だ。顔も広いだろうし、社交性がないとやっていけないはず。

「あら、レイラもう行くの?」

「ええ」

立ち上がったレイラの背中にエマが声をかける。


「ルチアーノ様!」


広場では、ハンナが預かっていた上着をルチアーノに渡していた。

お互い笑顔で言葉を交わしているが、ここからでは何を言っているのかまではわからない。けれどきっと健闘を称えているのだろう。


レイラは眩しくて目を逸らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

異世界召喚されました。親友は第一王子に惚れられて、ぽっちゃりな私は聖女として精霊王とイケメン達に愛される!?〜聖女の座は親友に譲ります〜

あいみ
恋愛
ーーーグランロッド国に召喚されてしまった|心音《ことね》と|友愛《ゆあ》。 イケメン王子カイザーに見初められた友愛は王宮で贅沢三昧。 一方心音は、一人寂しく部屋に閉じ込められる!? 天と地ほどの差の扱い。無下にされ笑われ蔑まれた心音はなんと精霊王シェイドの加護を受けていると判明。 だがしかし。カイザーは美しく可憐な友愛こそが本物の聖女だと言い張る。 心音は聖女の座に興味はなくシェイドの力をフル活用して、異世界で始まるのはぐうたら生活。 ぽっちゃり女子×イケメン多数 悪女×クズ男 物語が今……始まる

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。 (他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

処理中です...