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「あなたがレイラ・モンタールド嬢?」
年上の御令嬢に声をかけられ、レイラはまたかとうんざりしながら振り返る。
「ええ、そうですわ。ごきげんよう先輩方」
「ごきげんよう」
扇子で口許を隠した御令嬢を中心に、年上の少女たちがレイラの前に立つ。
「あなたのブランドのドレスを私たちにも誂えていただきたいの」
「ごめんなさい、先輩方。ドレスはご注文いただいた順に仕上げておりますわ。ご予約ならお店へいらしてくださいませ」
この手のアピールはもう何度か繰り返されている。
同学年の子達はまだいい方だ。断っても素直に引き下がってくれる。中にはきちんと店を訪れて予約をいれてくれた子もいる。
ややこしいのは上級生たちで、家格はレイラの方が上だろうに、先輩という立場を使って無理を通そうとする。
「あなたの友人たちはいつも新しいドレスを着ているじゃない!」
「彼女たちはお得意様です。いつも予約をいれてくれるわ」
いくらロイドだって採寸しないとドレスは作れない。年頃の女性は毎回サイズが違っていたりするし、それはエマたちだって同じだ。
…まあ、ゆめかわお茶会で集まったときなどに済ませてしまっているが。
ぱちん!と扇子が音を立てて閉じられる。
「なによ!侯爵家がただ出資してるだけのくせに偉そうに。いいわ、ロイド様に直接頼むわ!」
「…ロイドは店におりますよ。ご来店お待ちしてます」
どやどやと去っていく集団にレイラはため息をついた。
レイラは出資者ではなく共同経営者だ。ドレスのアイディアはほぼレイラが担っている。けれど、侯爵令嬢がそんなことをしているとは思い至らないのか、実務はすべてロイドが取り仕切っていると勘違いされてばかり。
とくにロイドは美青年だし、物腰もやわらかいし、年頃の令嬢は猛禽類のように目を光らせている。…だからはやく結婚しちゃえばいいのに。
そう考えると、はじめからわたくしを認めてくれたエマたちってすごいのね。あのときはまだほんの子供だったわけだし。
そしてレイラはひとつ年上のリーサを案じる。
リーサはレイラの噂を心配してくれたが、彼女自身も矢面に立たされていたのかもしれない。
リーサの助言を軽く受け流してしまった過去を思い出し、レイラは胸を痛めた。
***
「パーティーのドレスどうもありがとう。すごく素敵だったわ」
「そう、よかった」
レイラが礼を告げると、藤色の髪の麗しい青年は優しく目を細める。
学園が休みのその日、モンタールド邸には朝からロイドが訪れていた。
「パーティーでロイドのお祖父様を見つけたわよ。かっこよかったわ」
「ああ、じいさまも話してたわね。とてもかわいかったって」
「あらいやだ、照れるわ」
「ドレスの話よ?」
「ちょっとロイド!?」
きゃあきゃあと騒ぐ傍でマリーが穏やかに微笑んで控えている。
彼女が茶を淹れ替えるために席を外した一瞬、レイラは問いかける。
「ねえロイドお兄ちゃん、いつ結婚するの?」
「んぐっ!?」
ロイドが噎せた。めずらしい。
「ちょ、あなたいきなり何を言って…!?」
「だってロイドもマリーもいい歳じゃない」
ロイドは19歳、マリーは18歳になった。
少し待ちすぎじゃないかしら、とレイラは首を捻る。
「…お嬢様…」
ロイドの恨めしい声に目を瞬かせた。
マリーがロイドの手伝いをするようになって、順調に距離が縮まっている様子は会話の端々から感じ取っていたのだけれど、違ったかしら?
「マリーはお嬢様が一番大切なのよ。あなた最近元気がないんですって?」
「え……」
レイラは目を丸くした。
学園で落ち込むことがあってもマリーには話していなかった。
…でも、そうよね。マリーにはお見通しよね。
マリーはレイラのどんな些細なことも見落としたりはしないのだ。レイラがそうであったように。
「まあ…なんていうか、学園でうまく過ごせていないのよ。ルチアーノ様もなにを考えているかわからないし」
「まったく、そっくりねあなたたち」
言われてみればその通りだ。
レイラはおかしくなってしまう。
「いやだ、本当だわ」
学校に行きたくないと拗ねたこと。
凹むことがあっても心配をかけまいと口を噤んでいたこと。
マリーがノアを頼りにしていたように、レイラにはルチアーノがいる。そんなところまで一緒だ。
ああでも、そうなるとマリーと同じように、いつかはルチアーノと――。
「そんなときは身体を動かすといいのよ、行きましょう?」
「え、ロイド!?」
「マリー、いっしょに来て!」
ロイドの大きな手に引っ張られて立ち上がると、すぐにマリーが現れた。レイラはそこで年上二人の計らいを悟る。
「ごめんなさい、マリー」
「いえ、いいんです。でも心配でした」
マリーの微笑みにレイラはまた胸がきゅうと痛くなった。
年上の御令嬢に声をかけられ、レイラはまたかとうんざりしながら振り返る。
「ええ、そうですわ。ごきげんよう先輩方」
「ごきげんよう」
扇子で口許を隠した御令嬢を中心に、年上の少女たちがレイラの前に立つ。
「あなたのブランドのドレスを私たちにも誂えていただきたいの」
「ごめんなさい、先輩方。ドレスはご注文いただいた順に仕上げておりますわ。ご予約ならお店へいらしてくださいませ」
この手のアピールはもう何度か繰り返されている。
同学年の子達はまだいい方だ。断っても素直に引き下がってくれる。中にはきちんと店を訪れて予約をいれてくれた子もいる。
ややこしいのは上級生たちで、家格はレイラの方が上だろうに、先輩という立場を使って無理を通そうとする。
「あなたの友人たちはいつも新しいドレスを着ているじゃない!」
「彼女たちはお得意様です。いつも予約をいれてくれるわ」
いくらロイドだって採寸しないとドレスは作れない。年頃の女性は毎回サイズが違っていたりするし、それはエマたちだって同じだ。
…まあ、ゆめかわお茶会で集まったときなどに済ませてしまっているが。
ぱちん!と扇子が音を立てて閉じられる。
「なによ!侯爵家がただ出資してるだけのくせに偉そうに。いいわ、ロイド様に直接頼むわ!」
「…ロイドは店におりますよ。ご来店お待ちしてます」
どやどやと去っていく集団にレイラはため息をついた。
レイラは出資者ではなく共同経営者だ。ドレスのアイディアはほぼレイラが担っている。けれど、侯爵令嬢がそんなことをしているとは思い至らないのか、実務はすべてロイドが取り仕切っていると勘違いされてばかり。
とくにロイドは美青年だし、物腰もやわらかいし、年頃の令嬢は猛禽類のように目を光らせている。…だからはやく結婚しちゃえばいいのに。
そう考えると、はじめからわたくしを認めてくれたエマたちってすごいのね。あのときはまだほんの子供だったわけだし。
そしてレイラはひとつ年上のリーサを案じる。
リーサはレイラの噂を心配してくれたが、彼女自身も矢面に立たされていたのかもしれない。
リーサの助言を軽く受け流してしまった過去を思い出し、レイラは胸を痛めた。
***
「パーティーのドレスどうもありがとう。すごく素敵だったわ」
「そう、よかった」
レイラが礼を告げると、藤色の髪の麗しい青年は優しく目を細める。
学園が休みのその日、モンタールド邸には朝からロイドが訪れていた。
「パーティーでロイドのお祖父様を見つけたわよ。かっこよかったわ」
「ああ、じいさまも話してたわね。とてもかわいかったって」
「あらいやだ、照れるわ」
「ドレスの話よ?」
「ちょっとロイド!?」
きゃあきゃあと騒ぐ傍でマリーが穏やかに微笑んで控えている。
彼女が茶を淹れ替えるために席を外した一瞬、レイラは問いかける。
「ねえロイドお兄ちゃん、いつ結婚するの?」
「んぐっ!?」
ロイドが噎せた。めずらしい。
「ちょ、あなたいきなり何を言って…!?」
「だってロイドもマリーもいい歳じゃない」
ロイドは19歳、マリーは18歳になった。
少し待ちすぎじゃないかしら、とレイラは首を捻る。
「…お嬢様…」
ロイドの恨めしい声に目を瞬かせた。
マリーがロイドの手伝いをするようになって、順調に距離が縮まっている様子は会話の端々から感じ取っていたのだけれど、違ったかしら?
「マリーはお嬢様が一番大切なのよ。あなた最近元気がないんですって?」
「え……」
レイラは目を丸くした。
学園で落ち込むことがあってもマリーには話していなかった。
…でも、そうよね。マリーにはお見通しよね。
マリーはレイラのどんな些細なことも見落としたりはしないのだ。レイラがそうであったように。
「まあ…なんていうか、学園でうまく過ごせていないのよ。ルチアーノ様もなにを考えているかわからないし」
「まったく、そっくりねあなたたち」
言われてみればその通りだ。
レイラはおかしくなってしまう。
「いやだ、本当だわ」
学校に行きたくないと拗ねたこと。
凹むことがあっても心配をかけまいと口を噤んでいたこと。
マリーがノアを頼りにしていたように、レイラにはルチアーノがいる。そんなところまで一緒だ。
ああでも、そうなるとマリーと同じように、いつかはルチアーノと――。
「そんなときは身体を動かすといいのよ、行きましょう?」
「え、ロイド!?」
「マリー、いっしょに来て!」
ロイドの大きな手に引っ張られて立ち上がると、すぐにマリーが現れた。レイラはそこで年上二人の計らいを悟る。
「ごめんなさい、マリー」
「いえ、いいんです。でも心配でした」
マリーの微笑みにレイラはまた胸がきゅうと痛くなった。
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