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体(船)を作ろう。

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僕の名前はキューブ。
生後0日にして歳は25歳の各辺が1キロに及ぶ立方体だ。
外から見れば表面は少し緑色をしていてところどころ内部が見えているのがわかるだろう。
生まれたばかりにしては大きい赤ちゃんだね。
そしてなにより宇宙船でもある。
何を言ってるかよくわからないって?

「俺にもさっぱりわからないぞ!僕ちんゼロちゃいだもーん!!」

船内に響き渡った僕の怒りの篭った思念めいた声は船中に響き渡ったが船外、この広い宇宙には当然響き渡りはしなかった。



俺はお決まりの白い世界でこれまたお決まりとも言える仙人のような神聖な雰囲気を纏いながらも飄々とした雰囲気もまた持ち合わせた不思議な翁と向き合っていた。

「お主には宇宙船に転生してもらうのじゃ」

「は? というかここどこだ。そもそも俺は一体誰なんだ! まてよ記憶喪失、いや、ここが転生によくある空間だという事はわかるが……知識記憶は残っていてエピソード記憶が抜け落ちている? 認知できる記憶がなくなっているのか……扉の開ける事が出来たりそもそも日本語自体を喋れても扉をどんな時に開けたのかや日本語を使ったときの事を思い出せない……だかまるでこれじゃあ転生物の小説のようじゃないか」

「ふむ、理解が早くて流石じゃ。まぁお主は死んだからの」

「し、死んだのか。俺」

気づけば周りの世界は白い世界から茶室に変わっていた。

「まぁお茶でも飲んで落ち着くのじゃ」

手にはお茶が、俺はぐいっと飲む。

「大変美味しいです。多分これほどのお茶は今まで飲んだ事はありません」

神のお茶だった。
自然と混乱していた頭が冴えてきた。
悟りを開いた賢者になった気分だ。

「うむ」

「落ち着きました。それで宇宙船に転生というのは」

「お主にはこれより異世界に転生してもらう。魔法があるファンタジーな世界じゃが、お主の思うような中世の世界ではない。まぁそう言った星もあるが……そして残念ながらこれは強制じゃ。断る事はできない。お主が果たさなければならぬ使命をいう事もできぬ。使命を果たせば出来る範囲で願いを何でも叶えてやろう。では早速キャラメイクをしてもらう。どうせかなりの時間考える事になるじゃろうからな」

神がそう言うと俺の目の前にステータスが表示される。

(ん?いまなんでもって、それに使命があるのか。しかもキャラメイクってゲームかよ……)

俺の中の謎の知識群が俺にそう思わせた。
ステータスを見る。

名前 未設定
年齢 0(25歳)
種族 未設定
(種族選択後自らの体となる船を設計してくだい[設計する])
スキル
未設定
所有船舶

[キャラメイクを完了する]


名前か、いろんな名前が自分の名前として知識にはあるわけだが自分がそのどれかは分からんな。
こう名前があるとSNSやらゲームをやってたときとかの名前だろうな。
俺の歳は25歳らしい。それも本当かは俺には確証を持てないが。

(とりあえず種族を見てみるか)

俺は種族の未設定のところを押した。

「うわっ! 多すぎ」

視界が種族名の羅列で埋まって驚いた。

「ぶはっはっはっ、面白い。押さなくても念じればおぬしの好きなように見えるぞ」

神が笑っているがその姿も見れないほどだった。
脳波コントロール出来るならそう言ってくれよ!

その後色々操作しておおよその事が把握できた。

種族を選んだ後船を作る事になるわけだが、選んだ種族によって船に特徴が出てくる。使える武器や装甲、船内の環境がその種族っぽいものに変わるようだ。

種族の系統としては大きく分けて人型系、動物型系、昆虫系、植物系、細菌系の5つに分けられるだろう。
まぁ本当に大きく大雑把に分けたが。この五つの系の中にもこの五ぐらいの系統があってさらにその五つにもみたいな感じで本当に多種多様だ。
それにファンタジー種族がいっぱいいた。
これからそんな宇宙に行くとなると思うと恐怖もあるが好奇心も非常に高まった。

次は己の体、つまり船に関してだ。
これは全て弄れる。
どこに自身の命の源コアを置くかから始まって造形や通路はもちろん配線の一本まで全て弄れる。
コアや部品を分散配置させる事が出来る事も分かった。
このコアがどれか一つやられても俺の意識の一部が消えたり記憶を失ったりはしないらしい。部品は分散しておくと一部がやられても機能低下しつつも使えるようになるらしい。
これが分散配置のメリットだがデメリットとして分散配置すると部品そのもの能力が落ちるようだ。落ち方は部品による。

コアの能力は船内に魔力、科学問わずエネルギーを与える機関の役割を持つ。
一応機関もコア以外にいろいろな種類のものが作れはする。
コアに比べると出力はかなり低い。
コアの出力だって武器や防御に回す分を考えると非常に低いと思ったがそれ以下だ。

神曰く異世界で成長する事でコアの出力や部品の出力は上げられるらしい。
この選べる部品全てを手にする事もいずれはできるとも言ってるがマジか。

船の武装や防御もその種類は非常に多い。
コアの出力を考えると選択肢は狭まるけれど
大きく分けると魔力式か科学式か混合式。
それと武装は実体弾、レーザー、プラズマ、ミサイル、の4種。
例えば実体弾だと普通の大砲やら電気式のレールガンやら、ミサイルだと核弾頭や反物質弾頭などがある。
弾薬の補充もコアの能力で行えるようだ。
ちなみに反物質の補充や維持なんて俺が10人いても出来ないんですがそれは……。
防御に関しては物理的な装甲とエネルギーシールドの2種だ。
魔法的なエネルギーシールドや科学的に特定の運動エネルギーを拡散させる力場的な何かがあるらしいのだった……すっごいSF。
装甲も魔法攻撃には強いが物理には弱かったりその逆だったりあったりした。
他にも推進システムもただの燃料ロケットから真空エネルギーだの魔法式の反動推進だのコアのエネルギー馬鹿みたいに使うワープだの転移魔法だのとこれまた多様であった。

これらの部品が種族によって強化されたり弱体化させられたりするわけだ。
種族によって部品の名前も変わるのも良い。
そしてさらにコアの出力も種族によって変わるみたいで出力や武器防御、機動力のバランスを考えながら好きなように配置して船を作れるわけだ。
それが俺の体になる。
そして出来上がった体に見合うスキルをこれも選んだ種族によって数は違うがいくつか選択、習得できるようだ。
スキルは過程を経ずに不思議な力で結果を生み出す力の事だ。
攻撃なら剣が勝手に燃え出したり手から火の玉が出たりするような感じだな。
魔法に近いけれど何か違う物らしい。

「これめちゃくちゃ難しいけどめちゃくちゃ面白いな」

そう思わず呟いた俺は神を見た。
目と目があった。

「……。……」

神はただ笑みを浮かべて親指を立てた。

俺は静かにキャラメイクをどうするかの思考へと戻った。

大体のイメージは決まった。
俺の考えだと重視すべきは生存だ。
右も左も分からない異世界、それも過酷な宇宙空間で優先すべきは生存力。
つまり防御力だろう。
その上でまずは種族はコアの分散配置で減る出力が減らずにわずかに増すようになる細菌系にする事にした。
種族それぞれ主に人間系は整備にメリットがあるし動物系はコアの出力に、昆虫系は装甲に、植物系は部品を使う際の必要エネルギーが減るなどのメリットがあるようだったけれど、コアの分散配置のデメリットがなくなる細菌系が良いと俺は考えた。

その中でただの細菌だと生存性が低そうなので船体ナノマシンというのを選択する事にした。
ナノマシンと細菌は全く別物って?
そうだよ!選べる種族が多くて酷く大雑把に分けたのさ。
まぁ説明文はこんな感じだ。

名前 未設定
年齢 0(25歳)
種族 船体ナノマシン(宿主の健康維持や生活の補助をする為に宇宙のどこかで作られた寄生型ナノマシンの成れの果て。いつからか自我に目覚めて以来自らを完璧な生命にするため様々な宿主を得て宇宙を彷徨うようになった。なお完璧な生命とは何かについて明確な答えを持っていない。本体であるナノマシンと宿主である他者との区別がつかなくなっていたため旅の途中で船に取り憑きそのまま一体化しその後意識がコア化した。船となった後は自身を最強の船にする事を目指していた)
(種族選択後自らの体となる船を設計してくだい[設計する])
スキル
【】 【】 【】
所有船舶

[キャラメイクを完了する]


まぁ最後の方の最強の船になることを目指していたとかに心惹かれたわけだけどね。
これから船のコアとして転生するわけだしただのフレーバーテキストだろうけどその生き様に感動したよ。

さて、いよいよ船造りだ!
船体ナノマシンの種族の特性としては分散配置による部品性能の低下が軽減されたり物によっては僅かながら性能が増すという細菌系の特徴とこれも僅かながら自動で部品が修理されるという効果があるようだ。
単身、単艦? 異世界に行くならかなり良い効果のように思えた。
さらに良いのは船内環境の制限が少ない事だ。
待機中にナノマシンを散布しておくナノマシン製造機を内蔵しとかないといけないけど、人型種族に比べて船内の環境に制限がつかないのがとても素晴らしいとこだった。他種族だど気温やら空気の有無やら俺以外に乗ってるわけでもないのに維持しておく必要があるらしい。
他の細菌系だど、例えば致死的なウィルスだった場合はそれを船内に撒いとかないといけないらしく却下してこの無害そうな種族を選んだのだ。
ただ気温や空気の維持は必要なくなってもこのキャラメイクの仕様なのか通路をなくした船を作る事は出来なかった。
船として生命体つまりは操縦要員が暮らせるように一応は作らなければならないようだ。
そうとなったら拘りたい。
空気も維持したい。
もし俺が人間のままこの船に乗ることを想像して快適な空間を作りたかった。
拘るとなると船内の通路構築や敵対的な侵入者への対策は難しかった。

武器はレーザー、一択だ。複数の武器を配置する余裕は今のところなかった。
プラズマだと破壊力はかなりのものだがエネルギー効率が悪く汎用性がないし実体弾やミサイルだと弾頭を生成して武器までわざわざ運ばなければならない。
コアは船内においてはポルターガイストめいた事ができるらしいが一々運ぶのは大変だ。
なにより弾速の問題もあった。

レーザーを選んだのはコアから運ぶのはエネルギーのみで実体弾やミサイルを迎撃できたりもするためだ。
レーザーの攻撃性能は対シールド破壊対装甲ダメージ増加というものだ。
どんな武器かというと目に見えないシールドを調べる光線を放った数瞬のあとその光線を辿ってシールドを貫通する波長のビームが放たれるようだ。
ミサイルや実体弾の迎撃にも使える。
名前はアンチシップビームである。
選べる武器の中では火力自体は低いがコアの出力を考えるにこれを俺は選んだ。
対艦ビームなんてぴったしの名前だし。
防御は被弾上等のダメコン重視である。
転移魔法装置で飛びまくるのも考えたがエネルギー効率が非常に悪い。
分散配置をしまくり、モジュール化してひたすら生存性が高い配置を俺は模索した。
防御システムに関しては一見すると船体そのままの見た目になった。
ナノマシン種族のおかげで程々の防御力を持って僅かながら自動で修理される船体だ。
装甲もシールドもエネルギーを使うし装備した分重くなるので選べる中では選ぶしかない。
その中で俺が選んだのは、ホログラムアーマーなるエネルギーを馬鹿みたいに食う装甲だ。
分散配置で装備はしてるがエネルギーなさすぎて使う機会は当分ないだろう。
戦闘時に船体に装甲が展開されるなんてカッコよくない?
今だと部分展開だけで秒でガス欠して動けなくなるけどね……装甲材を選べるチートな装備だから出力さえあればめちゃくちゃ強いのに……それは他の部品にも言えるか。
あとシールドだがそんな特定の波長以外の運動エネルギーを防ぐ摩訶不思議防御システムを俺は信頼できなかった。
エネルギー消費もかなりのものだしね。
ただ気に入らないというそれだけで付けないで、何もわからない異世界で死んだら嫌なので、お試しで少しユニークなシールドを俺は選んだ。
普通のシールドの場合は特定の波長以外の運動エネルギーを拡散するというものだが、俺が選んだのは指定した特定の運動エネルギーのみをブロックするという少し変わったアンチウェポンシールドというものを装備する事にした。
選んだ波長だけを拡散するから無駄がなかったのと船内の空気の維持ができるということもわかって結局このシールドを選んだのだ。

あとアンチシップビームやらホログラム装甲やらアンチウェポンシールドといい細菌系の部品のネーミングがシンプルで良い。

選んだ部品によってどんな船になるかというのをまとめてみると何発も攻撃をくらって損傷しても特に困らずその間にくらってる攻撃の波長がわかってシールドで防御されるようになってダメージをうけなくなるような船になったわけだ。
攻撃は相手のシールドを貫通するビーム兵器を複数基もっていてミサイルもそれで迎撃できるという感じだな。
なかなか良いのではないだろうか。
ただ選べる部品の中で必要エネルギーが多い強力なものを装備した船と戦えば秒で殺されそうだがな……ネタ枠だろうと思った惑星破壊砲とかならチリ一つ残らなそうだ。

推進システムや探知システムも分散配置のおかげで全方位ムラなく性能を発揮できる。
科学式と魔法式両方で探知できるが性能は低い。
なんだかダメコン重視で数を意識したために部品自体の性能は選べる中ではかなり低いものばかりになってしまった。

それでもこの船は性能を完全に発揮するには少しばかりエネルギーを充電する時間が必要になる。
まぁ転生していきなり戦うような事はないだろうから大丈夫だろう。

それに戦いは質より数だよ!

そして出来たのは各辺が1キロの立方体だった……装甲がないから中身が見えてる部分がある。
分散配置しまくった結果がこれだよ。
中枢にある中型コア以外の場所はコピーアンドペーストされたモジュールが規則正しく置かれた箱になった。
球体の方が全方位からの攻撃に対して防御出来るとも思ったのだけれど船内スペースを考えるとこの立方体が出来上がってしまった。
シールドのおかげで内部の空気は出ていかないし船内エアロックがちゃんとあるから被弾してシールドがなくなったとしても被弾場所以外の空気は出ていかないだろう。

「これは豆腐だな。なんだか馴染み深い。どうやら俺はゲームで毎回こんなナンセンスなものを作ってたらしい」

俺の謎知識がそう言わせた。
流石に豆腐と名付けはしない。
体である船の名前が決まったわけで俺の名前も決まったな。

名前 キューブ
年齢 0(25歳)
種族 船体ナノマシン
スキル
【】 【】 【】
所有船舶
キューブ
(全長1km全幅1km
兵装:小型アンチシップビーム48基.
防御兵装:小型アンチウェポンシールド48基、小型ホログラムアーマー48基.
機関:小型コア48基、中型コア1基、小型キャパシター120基、小型マジックジェネレーター120基.
通信システム:小型マジックマテリアルフュージョン通信機.
探知システム:小型マジックマテリアルフュージョンレーダー120基.
推進機関小型マジックスラスター120基.小型ジャンプマジック発生器120基
その他設備:ナノマシン製造機120基、小型重力魔法発生器120基、小型環境魔法発生器120基、)

[キャラメイクを完了する]

部品を小型化して分散配置したおかげで維持するための消費エネルギーを減らすことができそうなのは嬉しい誤算だ。
使わない時はその場所の電源は切っておけば良いわけだ。
それぞれの部品の数が整ってるし見た目も六面どこからみても同じで見事に整理された船になった。

え、なんでシールドは疑うくせに魔法部品多めなんだ。
魔法は信頼できるのかって?

そりゃ魔法は信じるよ。異世界だもん。

俺の謎知識がそう言うのだった。

さてこれで体はできた。

最後はスキルを選ぼう。
この船はどんなスキルを持てるのだろうか。

選択可能なスキル一覧
修理、製造、貫通攻撃、寄生、性能向上、チャージ速度向上、修理速度向上、出力向上、……

って、多いわ!

また長く長く考えてこうなった。

名前 キューブ
年齢 0(25歳)
種族 船体ナノマシン
スキル
【修理Lv1】【製造Lv1】【性能向上Lv1】
所有船舶
キューブ

修理Lv1
修理活動の効果向上。

製造Lv1
製造活動の効果向上。

性能向上Lv1
船の性能が向上する。

シンプルイズベスト!
パッシブイズベスト!
何故ベストを尽くさないのか!
寄生はダメ絶対!

俺の中の謎知識がそう言った。
謎だ。

さて、脳波だと反応しないからキャラメイクを完了するを押すか。

と思った時神が話しかけてきた。

「終わったようじゃな。キャラメイクを完了するを押すとお主は転生する。最後に聞きたいことはあるかのう」

押しかけた指を外して神をみる。

今更聞きたいことと言われても……ありすぎる。
宇宙のどこに転生されるだとか何のために転生させられるだとか、どうして船に転生させられるのだとか、でもそれに対して答える気は無いのだろう。
あったら既に教えてくれるはずである。

「うむ、無いのじゃ」

そう何も言ってない俺に対して神が答えた瞬間俺はどうしようもない怒りを感じながらキャラメイクを完了した。


さて、僕の名前はキューブ。
生後0日にして歳は25歳の各辺が1キロに及ぶ立方体だ。
生まれたばかりにしては大きい赤ちゃんだね。
そしてなにより宇宙船でもある。
何を言ってるかよくわからないって?

「俺にもさっぱりわからないぞ!僕ちんゼロちゃいだもーん!!」

船内に響き渡った僕の怒りの篭った思念めいた声は船中に響き渡ったが船外、この広い宇宙には当然響き渡りはしなかった。


神はそんな船となった男を眺めていた。
神の目線は男から離れそこから少しの距離にある衛星を伴った地球に似た青い星があった。
そこからさらに遠くには宇宙の魔獣が潜む小惑星帯があった。
そのさらにさらに遠くには多くの生命体が暮らす星々が、国々があった。
その国々はお互いに争っていた。

その無慈悲な争いを神はじっと見守っていた。
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