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噂話は十中八九嘘
不良くんの持論
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とんでもなく大きな溜息を吐き出すと同時に、気怠げに毒づく。その通りだ、と白雪は蒼汰へと向き直った。
彼は呆れたと目を細めた。
「馬鹿だ、大馬鹿野郎。イジメられ当番なんて、くだんねぇもんに当たったとき、そいつらは助けてくれてたのかよ」
ぐに、と頬をつねられる。痛みはない。振り払う気力もなく、されるがまま。
彼女たちは百都子の言いなりだ。
彼女たちに無視された、靴を隠された、酷い言葉をぶつけられた、おぞましい行為も。だが。
「百都子ちゃんに逆らえるわけないよ」
「なら罪悪感なんて覚えんな」
「なんで。だってそれとこれは話が違う」
「違わねぇよ」
ぺちんと両頬を包まれる。無表情に滲む怒りは白雪と他の子にも向けられていた。
「自分ができないことを他人に強いるな。そいつら、お前がひどい目にあわされてるのときに反論せず虐めてたくせに、自分は助けろなんて虫が良すぎるだろ」
「私は、何も出来なかったから」
「……話かみ合ってねぇのは置いとく。本当にお前は出来なかったのか?」
「そうだよ。ただ、同じような扱い受けるしか」
無力な己に恥じて言葉を濁す。思い出したるは残酷でえぐい過去、百都子に噛みつく勇気もなく当番の傍で同じ扱いを受けるしか能がない醜い自身。黒い淀みが首を締め付け呼吸がしにくくなる。
暗く落ちていく様を眺めて、蒼汰はやはり変わらず呆れたような、どこか悲しげに呟いた。
「……まじで馬鹿すぎて、どこからツッコめばいいかわかんねぇ」
「バカバカ言い過ぎでは」
「懇切丁寧、最初から説明してやるよ。まず自分が出来ないことを他人に強いるなって話からな」
嫌味っぽい言葉のはずなのに声音に棘は一切ない。どこか苦しげで、白雪の奥底をきゅうと締め付けた。嫌ではない、そんな風な彼への形容できない感情が体を支配する。
顎を柔く掴まれ、顔を上げさせられる。彼は、無表情ではなかった。酷く苦しげで傷付いたような、眉根を寄せていた。
俯くな。逃げるな。言外に伝える強い瞳が輝くのを白雪は、間抜け面で見つめた。眩しさに魅入って。
「そいつらはお前を庇えなかった。なのに自分のときは助けてくれなんて虫が良すぎるだろって話だ。『自分ができないことを他人に強いるな』――この言葉の『自分』を指すのはあいつら、『他人』はお前。つまり、百都子から庇えなかったあいつらが、お前には百都子から庇ってくれと強いるのはおかしいだろって意味。怖いから逆らえない、だけどお前は逆らえとか変だろ。分かるか」
幼子に言い聞かせるかのごとく、ゆったりとした口調で説明された。納得すべきなのだろうが、昔の自分が苛む。認めるなと叫ぶ。
どうにか暴れ出しそうな気持ちを抑え込み、渋々と頷きつつも努めて冷静を装う。
「でも、悪いのは私もだよ。だって言い返せなくて」
「今の話からすると。お前、百都子に反発してんじゃん」
「……えっ? し、してない! してないよ」
いつそんな勘違いしたのかと焦りつつ、勢いよく首を横にふる。ぶんぶんと音が鳴りそうなほどして、ぐわりと視界が揺れた。頭が痛い、唸れば蒼汰が苦い笑いをこぼした。
「必死になるなよ」
「だって!」
「だって当番の奴らをイジメられなくて、そばにいたんだろ」
そうだ。百都子に刃向かえずに、傍にいるだけで。
「イジメられてたときはお前どうしてたんだ」
「一緒に受けて。百都子ちゃんが怒って」
「……それでいつの間にか、当番が固定になったってか」
図星に何も言えなくなる。押し黙った白雪に蒼汰は、ひくひくと口角を引き攣らせて、拳をふるわせた。何かを呑み込み、ぐっと堪えて、憎悪を膨れ上がらせた。
「おれ、女は殴りたくねぇけど、殴りそう」
「やめてやめてやめて暴力反対」
実行する迫力だ。一般人ならば一目散に逃げる形相だ、一人は殺している凶悪面に小心者の白雪は身が竦む。殺気が刺すように痛い。
「はぁあぁ……なんでだよ」
「なにが?」
こてんと首を傾げれば、蒼汰がますます目を鋭くした。殺される、と心の中で悲鳴を上げた。
「そんだけ助けてもらって、あいつらは固定になった当番に反論せずに、白雪を虐めるのに加担するんだよ。しかも今も助けてもらっていて、平気な顔で居座るんだよ。面の皮が厚すぎんだよ、それとも何枚も重ねてんのか? ミルフィーユかよ」
「いや、恨まれてるかも」
「は?」
「だって、私が逃げたから、また当番が回ってるし」
「はぁ? はぁあぁー?」
「こわ」
目を見開き、信じられないと表情で伝えてくる。無表情が崩れ、あんぐりと口を開いている。ドン引きだと呟く彼は、心底白雪を理解出来ないらしい。
「お前それにも心痛めてんの?」
「そんな聞こえの良いカンジでは」
「そこまで来ると病気だな、生きにくいだろ」
憐れみを帯びた声音、ぽんと肩を叩かれる。可哀想な生き物を見る目に失礼なと白雪は睨んだ。
そんなもの痛くもかゆくもない蒼汰はやれやれと、本日何回目かの、盛大な溜息をついた。
彼は呆れたと目を細めた。
「馬鹿だ、大馬鹿野郎。イジメられ当番なんて、くだんねぇもんに当たったとき、そいつらは助けてくれてたのかよ」
ぐに、と頬をつねられる。痛みはない。振り払う気力もなく、されるがまま。
彼女たちは百都子の言いなりだ。
彼女たちに無視された、靴を隠された、酷い言葉をぶつけられた、おぞましい行為も。だが。
「百都子ちゃんに逆らえるわけないよ」
「なら罪悪感なんて覚えんな」
「なんで。だってそれとこれは話が違う」
「違わねぇよ」
ぺちんと両頬を包まれる。無表情に滲む怒りは白雪と他の子にも向けられていた。
「自分ができないことを他人に強いるな。そいつら、お前がひどい目にあわされてるのときに反論せず虐めてたくせに、自分は助けろなんて虫が良すぎるだろ」
「私は、何も出来なかったから」
「……話かみ合ってねぇのは置いとく。本当にお前は出来なかったのか?」
「そうだよ。ただ、同じような扱い受けるしか」
無力な己に恥じて言葉を濁す。思い出したるは残酷でえぐい過去、百都子に噛みつく勇気もなく当番の傍で同じ扱いを受けるしか能がない醜い自身。黒い淀みが首を締め付け呼吸がしにくくなる。
暗く落ちていく様を眺めて、蒼汰はやはり変わらず呆れたような、どこか悲しげに呟いた。
「……まじで馬鹿すぎて、どこからツッコめばいいかわかんねぇ」
「バカバカ言い過ぎでは」
「懇切丁寧、最初から説明してやるよ。まず自分が出来ないことを他人に強いるなって話からな」
嫌味っぽい言葉のはずなのに声音に棘は一切ない。どこか苦しげで、白雪の奥底をきゅうと締め付けた。嫌ではない、そんな風な彼への形容できない感情が体を支配する。
顎を柔く掴まれ、顔を上げさせられる。彼は、無表情ではなかった。酷く苦しげで傷付いたような、眉根を寄せていた。
俯くな。逃げるな。言外に伝える強い瞳が輝くのを白雪は、間抜け面で見つめた。眩しさに魅入って。
「そいつらはお前を庇えなかった。なのに自分のときは助けてくれなんて虫が良すぎるだろって話だ。『自分ができないことを他人に強いるな』――この言葉の『自分』を指すのはあいつら、『他人』はお前。つまり、百都子から庇えなかったあいつらが、お前には百都子から庇ってくれと強いるのはおかしいだろって意味。怖いから逆らえない、だけどお前は逆らえとか変だろ。分かるか」
幼子に言い聞かせるかのごとく、ゆったりとした口調で説明された。納得すべきなのだろうが、昔の自分が苛む。認めるなと叫ぶ。
どうにか暴れ出しそうな気持ちを抑え込み、渋々と頷きつつも努めて冷静を装う。
「でも、悪いのは私もだよ。だって言い返せなくて」
「今の話からすると。お前、百都子に反発してんじゃん」
「……えっ? し、してない! してないよ」
いつそんな勘違いしたのかと焦りつつ、勢いよく首を横にふる。ぶんぶんと音が鳴りそうなほどして、ぐわりと視界が揺れた。頭が痛い、唸れば蒼汰が苦い笑いをこぼした。
「必死になるなよ」
「だって!」
「だって当番の奴らをイジメられなくて、そばにいたんだろ」
そうだ。百都子に刃向かえずに、傍にいるだけで。
「イジメられてたときはお前どうしてたんだ」
「一緒に受けて。百都子ちゃんが怒って」
「……それでいつの間にか、当番が固定になったってか」
図星に何も言えなくなる。押し黙った白雪に蒼汰は、ひくひくと口角を引き攣らせて、拳をふるわせた。何かを呑み込み、ぐっと堪えて、憎悪を膨れ上がらせた。
「おれ、女は殴りたくねぇけど、殴りそう」
「やめてやめてやめて暴力反対」
実行する迫力だ。一般人ならば一目散に逃げる形相だ、一人は殺している凶悪面に小心者の白雪は身が竦む。殺気が刺すように痛い。
「はぁあぁ……なんでだよ」
「なにが?」
こてんと首を傾げれば、蒼汰がますます目を鋭くした。殺される、と心の中で悲鳴を上げた。
「そんだけ助けてもらって、あいつらは固定になった当番に反論せずに、白雪を虐めるのに加担するんだよ。しかも今も助けてもらっていて、平気な顔で居座るんだよ。面の皮が厚すぎんだよ、それとも何枚も重ねてんのか? ミルフィーユかよ」
「いや、恨まれてるかも」
「は?」
「だって、私が逃げたから、また当番が回ってるし」
「はぁ? はぁあぁー?」
「こわ」
目を見開き、信じられないと表情で伝えてくる。無表情が崩れ、あんぐりと口を開いている。ドン引きだと呟く彼は、心底白雪を理解出来ないらしい。
「お前それにも心痛めてんの?」
「そんな聞こえの良いカンジでは」
「そこまで来ると病気だな、生きにくいだろ」
憐れみを帯びた声音、ぽんと肩を叩かれる。可哀想な生き物を見る目に失礼なと白雪は睨んだ。
そんなもの痛くもかゆくもない蒼汰はやれやれと、本日何回目かの、盛大な溜息をついた。
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