不良くんは一途に愛してる!

鶴森はり

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近づく距離と迫る脅威

不良くんは心配

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 白雪は言質をとられ、引きずられながらも妙に機嫌の良い蒼汰に頼み込み、放課後まで時間を延ばしてもらった。サボってデートなど言語道断、小心者にはハードルが高い。

「どこに行きたい?」

 これはデートではないと自分に言い聞かせつつ、放課後を迎えた。蒼汰は靴を履き替えて白雪に訊く。特段プランはないらしい。誘っておいて、と文句をこぼしそうになって口を噤む。

 友達ならば、予定を立てず遊ぶというのもある。彼と親密な仲なのかは疑問だが。

「そっちが決めて。何処か行きたいところは?」

「俺はお前といられれば、それでいい」

 ――とんでもない発言だ。勘違いしそうなほど甘ったるい。彼に好意をよせる人間ならば舞い上がってしまうだろう。

 これ以上、蒼汰に委ねると余計な一言を引き出しそうだ。聞けば、今の薄い氷の上に立つような不安定な関係が脆く崩れてしまいそうだ。

 こほん、と白雪は咳払いをして行き先について思考を移行させる。

 といってもな、と頭を悩ませる。

 白雪はアクティブなほうではない。家で本を読むのが性に合っている。外で遊ぶ、買い物などは必要に迫られなければ避ける。

「なら、うちの家に来る?」

「……いま、なんて言った?」

「それか蒼汰くんの家か。外は疲れる」

 朝から面倒な人間に絡まれて、体育のレポートに追われた今日は休みたい。

「お前、今、何言ってるか理解してるか?」

「うん。私の家でいいよ。今日は親も仕事で出てる、気にしないで」

「ことばにならない」

 蒼汰にとっては最近知り合った人間を家に招待するのは良い気分ではないかもしれない。白雪の自宅ならば親もいない、気楽だろう。

 そう思って提案したのだが。

「そうやって他の男も家に誘うのか」

「は? 蒼汰くん以外呼んだことないけど」

「えっ」

「友達なんて、いないし」

「はは、よぉし。黙って頭を差し出せ、今なら一発で許してやる」

 驚愕から怒りと忙しなく変化する表情。ぐっと拳を握る姿に白雪は身を引いた。暴力男め、と睨み付けたが彼の般若のような顔に早々に負けを覚悟した。

 どうやら機嫌を損ねたらしい。原因を探ろうにも相手の逆鱗に触れそうだ。困り果てていると、彼は心底呆れたと溜息をついた。

「そういう奴だよな、お前」

「すごく失礼な態度をとるね」
「ひとつ、忠告してやる。そう易々と男を家に招き入れるな。痛い目にあうぞ」

「なんで?」

「なんでもだ」

「じゃあ蒼汰くんも入れないほうがいいってこと?」

「……ああそうだ。そうだよ、俺は特に気をつけろよ。死ぬぞ」

「家に呼んだだけで私殺されるんです?」

 恐ろしい話だ。二度と誘うまい。

 心に誓えば、彼は眉根を寄せて何か言いたげに口ごもったが、舌打ちして歩き始めた。昇降口を出る背中を慌てて追う。

 周りの目線が痛い、今離れたら野次馬に囲まれそうだ。有名人の蒼汰との関係を聞かれても答えられない。誤解を生むだけだろう。

「どこに行くの?」

「俺んち。家に誰もいねぇから、ゆっくり休めるんじゃねぇの」

 ぞんざいで、明らかに棘が含まれた言い方だ。彼の機嫌はころころ変化して白雪を戸惑わせる。

 男を呼ぶのは駄目で、男に呼ばれるのは良いのか。

 さすがの白雪も、その質問を訊くのが彼を怒らせるのは察した。はい、と萎縮しつつ頷くと鞄を抱え直して彼の後に続いた。

 電車に乗り、揺られて二十分。以前、ネックレスを拾って彼に届けた駅で降りた。そこから歩くこと五分。

 マンションに辿り着きエレベーターで六階にあがれば。

「ほら、入れよ」

 自分の一軒家より、万全のセキュリティ。まだ新築なのだろう、広いロビーに綺麗に清掃された場所は清潔感がある。駅前という立地にくわえて、この設備。決して家賃は安くないだろう。

 高級そうな場所に不慣れな白雪は、開け放たれた扉の前で尻込みする。ちらりと蒼汰を窺い見たが、不思議そうに首を傾げていた。

 静かに深呼吸してから頭をさげて「お邪魔します」とおそるおそる一歩踏み入る。微かに香る甘い匂いがして、緊張が強まった。

「ちょっと待ってろ、かたづける」

「あ、おかまいなく」

「俺がかまうわ」

 奥の扉に消えていくのを見送って、靴を脱いで入るのを躊躇う。玄関にて、棒立ちで待つのもおかしいか。

 手土産のひとつでも買うべきだったのでは。来てから後悔しても遅い、友達未満の人間の家など初めてで正解が不明だ。

 しんと静まる空間にたえられず、手持ち無沙汰に携帯電話を取り出そうとして。

「あらあなた」

 がちゃりと扉が開いた。


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