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近づく距離と迫る脅威

不良くんの☓☓

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 金色のショートカットに、ダイヤらしきピアス。長い睫を震わせ、林檎のような口紅を引いた女性。胸元が大きく開いた服に、美しい足を惜しみなく晒す短いタイトスカート。

 赤いピンヒールがよく似合う美女に白雪は、さあと青ざめた。

 この場に来るということは蒼汰の関係者。外見年齢から年上のお姉さんか恋人か。

 そんな彼女の前で呆気にとられて硬直していた白雪は、はっと取り繕う。

 もし恋人ならば、地味で女と表すにも烏滸がましい見た目の白雪でも、まずい。

 修羅場――頭によぎった恐ろしい単語に目眩がした。全くやましくないのに焦りが生まれて、醜く言い訳しているようだ。こんなところで流血沙汰などごめんである。

「ちが、ちがいますっ、あの蒼汰君を待ってて。あっクラスメイトの知り合いで」

「へぇ顔はかわいいわね。あれのカノジョ? 地味ね」

 白雪の心配をよそに、美女はなめ回すように吟味して笑う。這うような視線に後退ったが、蛇のような獲物を見る瞳から逃れられない。

 うっそりと目を三日月に歪めて、唇も弧を描く。毒々しくも美しい花が舌舐めずりをした。

「えらく芋っぽい女が好みだったのね。趣味が悪い」

 ラメが散りばめられた爪か唇に添えられる。きゃは、と甲高く笑い、白雪を品定めした上で見下す。悪意が込められた、おぞましい視線である。

 苦手なタイプをそのまま体現した美女に心の中で蒼汰に助けを求めた。実際は声すら出ない。気圧されて縮こまる。

「ねぇお暇ならお話しない? そうね、話題は、蒼汰についてなんてどう? 彼の色んなこと、知りたくなぁい?」

 吐息まじりの色っぽい声が歌うように紡いで、白雪の精神を確実に削っていく。あの百都子にも似ていて、彼女が成長したら、目の前の女のようになるのではないか、と嫌な想像が浮かんだ。

「あれは私のモノなのよ。だからあげない。貴方は知ってるからしら。あの子ね、寝るときとっても可愛いのよ」

「――……」

 恋愛に疎くとも示唆された意味は分かる。鼻で笑い、夜を連想させるのは白雪にダメージを与えるためだろう。

 嘲笑に、白雪の頭の中は真っ白になる。意識が、まるでテレビを見るかのように離れる。妙に冷めていき、耳鳴りがした。

 恐ろしいと怯える一方で、何故か身体は勝手に動き、唇が言葉を発した。

「――あの」

「……へぇ? あら、あらあらその顔は悪くないわね。可愛いわ、反抗的で虐めたくなる」

 どんな表情なのだろうか。鏡もない白雪が黙っていれば美女は上機嫌になっていく。声が弾み、先程とは打って変わり甘やかで熱を含んだ吐息と言葉をぶつけられる。

「ねぇ、あなた。これから……」

「――テメェ何してやがるッ!」

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