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不良くんは一途に愛し続ける!
不良くん、ごめんなさい
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しゃらんと髪飾りの星が揺れる。太陽の日差しを集めて、きらきら白雪を励ました。深く息を吐き出して瞬きを繰り返す。目眩を打ち消して、はっきりと口にした。
「だめ、あげれない。これは、宝物だから」
大きく響いた声に彼女が瞠目し、数秒。醜く顔を歪ませて舌打ちをこぼす。憎々しげに白雪を睥睨して唸るように言葉の刃を突き立てる。
「――うっざ。あんたのものは私のもの。いちいち口答えしないでよ、拒否権なんてないっつーの!」
瞬間。彼女の手が勢いよく髪飾りに伸ばされ、髪ごと乱暴に握られた。まずい、と避けるより早く。百都子が力を入れる。
「いッぁ……!」
躊躇せず一気に引きちぎり、髪の毛がぶちぶちと抜けていった。頭皮が引っ張られ激痛が襲う。生理的な涙と悲鳴をあげたが百都子は愉しげに嗤った。きゃは、と甲高い声と共にどんと肩を押される。
抵抗もむなしく地面に倒れ込み、強か肩を打って息が詰まった。
痛みと混乱の中、目はしっかりと百都子を捉えた。彼女の手には、白雪の抜けた髪と髪飾りが握られている。
汚い、とぼやいて髪の毛を払うと悠々と歩き出す。
白雪は急いで立ち上がったが、足首に鋭い痛みが走った。
どうやら捻ったらしい。頭、肩、足とそこら中が痛いが、どうにか堪えて、ひょこひょこと背中を追いかける。既に百都子の背は見えない。
取り返さなければ。それだけしか考えられない。歯を食いしばり、荒い呼吸を整える余裕もなく進んだ。
曲がり角で消えた百都子の行方など、冷静さを失った白雪では皆目見当もつかない。思考が纏まらず、すくさま焦りと痛みに霧散する。ざわざわと心臓を直接撫でられるような不快感、焦燥感。呼吸も乱れて、ぐらりと目眩が起きた。
「――し、白雪ちゃん!」
身体が傾き、倒れそうになれば済んでの所で誰かに支えられる。その際に打った肩が触れて、思わず顔を歪ませた。
「しらゆきちゃんっ、わた、わたし」
「あ……か、香奈恵ちゃん?」
心配そうな声音に白雪は、目を見開く。
彼女の顔色は今の白雪でも、わかるほど青白い。引きつったような声、がたがたと震える身体は明らかに恐怖を抱いている。
まさか、当番が回ってきたのかと勘ぐったが彼女の様子に閉口した。尋常ではない空気に、気圧されてぎしりと軋ませて硬直する。
「っあ、……あ、た……っ」
彼女の大きな瞳は涙で濡れそぼって、雨のようにはらはらと降らせた。
薄い唇をふるわせて何事か伝えようと必死になっている。幾度も母音を紡いでは、止めて。
「……かなえちゃん。だいじょうぶ」
逡巡の後、白雪は迷いつつ手を伸ばした。
彼女の丸い頭をできるだけ、ゆったりと撫でる。自分の中にある焦りは嚥下し、かき集めた余裕を分け与えるように宥めた。
しばらくして彼女は、依然と雨はやまなくとも落ち着いたのか鼻を啜る。覚悟を決めた力強い目線を白雪へと向けた。
「ごめんなさい」
脈絡もない謝罪だった。
心当たりがひとつも見当たらないそれは、あまりに静かで重く響く。遠くのほうから聞こえていたざわめきは消え失せ、香奈恵だけが切り取られたように白雪の世界に存在する。
凝視する白雪を真っ直ぐに見つめ返した香奈恵は、丁寧に言葉を紡いだ。
「白雪ちゃんを追い詰めて。百都子ちゃんの言いなりになって。酷いことして、本当にごめんなさい。白雪ちゃんは、いつも助けてくれたのに」
嗚咽交じりだが、しっかりと伝えて頭を下げた。頼りなさげに紺色のスカートの裾を掴む指が色を失っている。かたかたと揺れた肩をみとめて、ひっそりと深呼吸した。
灰色の過去が濁流のように流れていく。香奈恵はいつだって困ったように悲しそうに安心したように百都子に付き添っていた。当然、白雪が当番であれば手を下して、のけ者にした。だが。
「わたしこそ、ごめんなさい」
香奈恵を責める権利は白雪にはない。百都子が怖いのは痛いほど分かるからだ。百都子は女王、逆らえば首を刎ねられる。
そろそろと、腕を香奈恵の背中に回して遠慮がちに抱きしめた。
「私こそ逃げてごめんね」
罪悪感に溺れて酸素が吸えない香奈恵に、白雪は目を閉じる。きっと死にかけている者同士だ。お互い縋って暗い水底から浮き出ようと足掻いている。
ひっぱりあげてくれる誰かを、お姫様のように待っていたのだ。
王子様の代わりなど到底不可能な白雪は、香奈恵と同じように苦しみ共有した。どくどくと二人の鼓動を重ねて、長い間すれ違った気持ちをすりあわせていく。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」
香奈恵は子供のように泣いて、柔い力で白雪にしがみついた。ふわり彼女が好んで使っているシャンプーの香りがする。随分、久しぶりの柑橘系だった。
「だめ、あげれない。これは、宝物だから」
大きく響いた声に彼女が瞠目し、数秒。醜く顔を歪ませて舌打ちをこぼす。憎々しげに白雪を睥睨して唸るように言葉の刃を突き立てる。
「――うっざ。あんたのものは私のもの。いちいち口答えしないでよ、拒否権なんてないっつーの!」
瞬間。彼女の手が勢いよく髪飾りに伸ばされ、髪ごと乱暴に握られた。まずい、と避けるより早く。百都子が力を入れる。
「いッぁ……!」
躊躇せず一気に引きちぎり、髪の毛がぶちぶちと抜けていった。頭皮が引っ張られ激痛が襲う。生理的な涙と悲鳴をあげたが百都子は愉しげに嗤った。きゃは、と甲高い声と共にどんと肩を押される。
抵抗もむなしく地面に倒れ込み、強か肩を打って息が詰まった。
痛みと混乱の中、目はしっかりと百都子を捉えた。彼女の手には、白雪の抜けた髪と髪飾りが握られている。
汚い、とぼやいて髪の毛を払うと悠々と歩き出す。
白雪は急いで立ち上がったが、足首に鋭い痛みが走った。
どうやら捻ったらしい。頭、肩、足とそこら中が痛いが、どうにか堪えて、ひょこひょこと背中を追いかける。既に百都子の背は見えない。
取り返さなければ。それだけしか考えられない。歯を食いしばり、荒い呼吸を整える余裕もなく進んだ。
曲がり角で消えた百都子の行方など、冷静さを失った白雪では皆目見当もつかない。思考が纏まらず、すくさま焦りと痛みに霧散する。ざわざわと心臓を直接撫でられるような不快感、焦燥感。呼吸も乱れて、ぐらりと目眩が起きた。
「――し、白雪ちゃん!」
身体が傾き、倒れそうになれば済んでの所で誰かに支えられる。その際に打った肩が触れて、思わず顔を歪ませた。
「しらゆきちゃんっ、わた、わたし」
「あ……か、香奈恵ちゃん?」
心配そうな声音に白雪は、目を見開く。
彼女の顔色は今の白雪でも、わかるほど青白い。引きつったような声、がたがたと震える身体は明らかに恐怖を抱いている。
まさか、当番が回ってきたのかと勘ぐったが彼女の様子に閉口した。尋常ではない空気に、気圧されてぎしりと軋ませて硬直する。
「っあ、……あ、た……っ」
彼女の大きな瞳は涙で濡れそぼって、雨のようにはらはらと降らせた。
薄い唇をふるわせて何事か伝えようと必死になっている。幾度も母音を紡いでは、止めて。
「……かなえちゃん。だいじょうぶ」
逡巡の後、白雪は迷いつつ手を伸ばした。
彼女の丸い頭をできるだけ、ゆったりと撫でる。自分の中にある焦りは嚥下し、かき集めた余裕を分け与えるように宥めた。
しばらくして彼女は、依然と雨はやまなくとも落ち着いたのか鼻を啜る。覚悟を決めた力強い目線を白雪へと向けた。
「ごめんなさい」
脈絡もない謝罪だった。
心当たりがひとつも見当たらないそれは、あまりに静かで重く響く。遠くのほうから聞こえていたざわめきは消え失せ、香奈恵だけが切り取られたように白雪の世界に存在する。
凝視する白雪を真っ直ぐに見つめ返した香奈恵は、丁寧に言葉を紡いだ。
「白雪ちゃんを追い詰めて。百都子ちゃんの言いなりになって。酷いことして、本当にごめんなさい。白雪ちゃんは、いつも助けてくれたのに」
嗚咽交じりだが、しっかりと伝えて頭を下げた。頼りなさげに紺色のスカートの裾を掴む指が色を失っている。かたかたと揺れた肩をみとめて、ひっそりと深呼吸した。
灰色の過去が濁流のように流れていく。香奈恵はいつだって困ったように悲しそうに安心したように百都子に付き添っていた。当然、白雪が当番であれば手を下して、のけ者にした。だが。
「わたしこそ、ごめんなさい」
香奈恵を責める権利は白雪にはない。百都子が怖いのは痛いほど分かるからだ。百都子は女王、逆らえば首を刎ねられる。
そろそろと、腕を香奈恵の背中に回して遠慮がちに抱きしめた。
「私こそ逃げてごめんね」
罪悪感に溺れて酸素が吸えない香奈恵に、白雪は目を閉じる。きっと死にかけている者同士だ。お互い縋って暗い水底から浮き出ようと足掻いている。
ひっぱりあげてくれる誰かを、お姫様のように待っていたのだ。
王子様の代わりなど到底不可能な白雪は、香奈恵と同じように苦しみ共有した。どくどくと二人の鼓動を重ねて、長い間すれ違った気持ちをすりあわせていく。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」
香奈恵は子供のように泣いて、柔い力で白雪にしがみついた。ふわり彼女が好んで使っているシャンプーの香りがする。随分、久しぶりの柑橘系だった。
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