39 / 61
好き、のその先へ
しおりを挟む
この日は、盛況だった。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「申し訳ありませんっ。ただいま、満席です」
元々広くない店先だ。それでも、随分と客扱いがうまくなっている。
毎日日替わり定食を夕食代わりに取りに寄るしずのための席も、しっかりと予約席の札を置き、確保する徹底ぶりだ。
「おかえり!しず!指定席確保しておいたよ!」
ドアベルがなる店内に入った瞬間に、ひよりが声をかけたので、驚いたしずだった。
荷物を置きながら、カウンター席に座るしず。
「本当に、なんか、はじめて来たときとは、別人って感じだよね。ひよりん」
「……そうですね。それでも、ボクは信じてました。ひよりさんなら、できるって」
マスターは料理の手を止め、ひよりを見た。
「……だからこそ、これからのことはしっかり選んでほしいと思っています」
しずは、静かにうなずいた。
*
この週末から、テスト準備期間に入る。
もちろん、喫茶つむぎでのバイトはお休み期間になる。
そこへ。
親友。神薙 雪凪からのメッセージが届いた。
『テスト勉強どう?それはともかく、ちょっと、オープンキャンパス行きたいんだけど、つきあってくれない?』
『え?私、進路のこととかまだ全然考えてないよ。そんな人でも行ってもいいの?』とひより。
雪凪は、ニッコリと笑う猫のスタンプで大丈夫と返してきた。
『かえって、ひよりみたいに進路迷ってる人向けだと思う。私も親に行け行け言われてようやく行ってみるかなって思ってるくらいだもん』
ひよりは、なるほどと大きくうなずくパンダのスタンプを返す。
『それじゃ、私も行こうかな。どこで待ち合わせる?』
ひよりたちは、勉強そっちのけでメッセージを返しあった。
*
「説明会!こちらでーす!」
係員が、誘導のため大きな声を張り上げている。
「やばい、やばい。遅刻スレスレじゃん」
「まって。雪凪!」
最寄り駅についた時には、既に時間スレスレだった。
同じ様に駅から走ってくる参加者も何名かいた。
会場にたどり着いた頃には、ひよりも雪凪も息も絶え絶えだった。
それでもなんとか間に合った格好だ。
開いてる席をなんとか探し、二人は座った。
周りは、真剣に説明の内容を聞いていた。
ひよりはまだ、そこまでは真剣ではないため、こんなもんなのかなとしか思えていなかった。
それだもの、周りの真剣さに気後れしがちだ。
「では、ここで説明会を終えたいと思います。これから、学生有志が皆様とキャンパスツアーに出かけます。ご希望の方は、お集まりください」
「ねえ。キャンパスツアーだって。行ってみない?」
「う、うん。せっかくだから、行ってみようかな」
ひよりたちは数名ごとに分かれ、在校生たちに連れられて構内を巡っていく。
あっという間に昼が過ぎた。
ひよりたちもオープンキャンパスからの帰り道だ。
「これから、どうする。うち寄らない?」
雪凪が誘ってくれた。
「え?いいの?あ、勉強道具もってくればよかった」
「さらっとおさらいするだけでも違うんじゃない?」
「うん。確かに。じゃあ、お邪魔しようかな」
*
「それにしても、ひより、あんたがオープンキャンパス誘って来るとは、思わなかった。どんな心境の変化?」
「うーん。この前雪凪に言われたこと、考えてみたんだ。今は、まだ、自分がどうしたいのかとかわからないから、今はやれること、見つける段階かなって思って」
「確かにね。私もそうだもん。でも、ありがとね。今日付き合ってもらって、本当に助かった。ひよりと大学とか一緒に行けたら楽しそうだって、ちょっと思った」
「うん。それも、いいね」
ふたりで、笑いあった。
*
それから、ひよりは猛勉強を開始した。
そのおかげか、中間テストではいつもよりもかなりの好成績を残した。
「ひよりん。今回テストどうだったの?」
「あ、しず。うん。結構よかったの。頑張りました」
「へー、すごいじゃん。なんか、バイト入りたての頃、困って泣いてたひよりんとは思えない」
「えー。私だって成長するよー」
そこへ、マスターが声をかけてくる。
「……ひよりさん。お話の途中ですが、オーダー入りましたよ。ひよりの特製パンケーキ」
「あ、はい!」
ひよりは、急いでキッチンに向かう。
やがて、見事に膨らんだパンケーキが三枚お皿の上に重ねられた。
ひより自らが、お客様にサーブした。
「……本当に見事ですね。ひよりさん。こちらの才能もあるかもしれませんね。どうですか?お菓子作りの専門学校とかもありますよ」
「へー。そんな学校もあるんですね。初めて知りました」
「あるある。うちの学校からも何人か、パティシエになりたいって目指した先輩もいたもん」
「そうなんだ……」
「……今は、色々と道を探る時期でしょう。道を探すのにどうしたいとかもしあったら、話してください。その都度、この店は対応します。お休みになって構いませんから。ひよりさんにおまかせしますよ」
ひよりは、その言葉を聞いて深くうなずいた。
次の日曜で、このバイトも一周年になる。
ここに通うのが、やっぱり本当に好きなんだとひよりは思った。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「申し訳ありませんっ。ただいま、満席です」
元々広くない店先だ。それでも、随分と客扱いがうまくなっている。
毎日日替わり定食を夕食代わりに取りに寄るしずのための席も、しっかりと予約席の札を置き、確保する徹底ぶりだ。
「おかえり!しず!指定席確保しておいたよ!」
ドアベルがなる店内に入った瞬間に、ひよりが声をかけたので、驚いたしずだった。
荷物を置きながら、カウンター席に座るしず。
「本当に、なんか、はじめて来たときとは、別人って感じだよね。ひよりん」
「……そうですね。それでも、ボクは信じてました。ひよりさんなら、できるって」
マスターは料理の手を止め、ひよりを見た。
「……だからこそ、これからのことはしっかり選んでほしいと思っています」
しずは、静かにうなずいた。
*
この週末から、テスト準備期間に入る。
もちろん、喫茶つむぎでのバイトはお休み期間になる。
そこへ。
親友。神薙 雪凪からのメッセージが届いた。
『テスト勉強どう?それはともかく、ちょっと、オープンキャンパス行きたいんだけど、つきあってくれない?』
『え?私、進路のこととかまだ全然考えてないよ。そんな人でも行ってもいいの?』とひより。
雪凪は、ニッコリと笑う猫のスタンプで大丈夫と返してきた。
『かえって、ひよりみたいに進路迷ってる人向けだと思う。私も親に行け行け言われてようやく行ってみるかなって思ってるくらいだもん』
ひよりは、なるほどと大きくうなずくパンダのスタンプを返す。
『それじゃ、私も行こうかな。どこで待ち合わせる?』
ひよりたちは、勉強そっちのけでメッセージを返しあった。
*
「説明会!こちらでーす!」
係員が、誘導のため大きな声を張り上げている。
「やばい、やばい。遅刻スレスレじゃん」
「まって。雪凪!」
最寄り駅についた時には、既に時間スレスレだった。
同じ様に駅から走ってくる参加者も何名かいた。
会場にたどり着いた頃には、ひよりも雪凪も息も絶え絶えだった。
それでもなんとか間に合った格好だ。
開いてる席をなんとか探し、二人は座った。
周りは、真剣に説明の内容を聞いていた。
ひよりはまだ、そこまでは真剣ではないため、こんなもんなのかなとしか思えていなかった。
それだもの、周りの真剣さに気後れしがちだ。
「では、ここで説明会を終えたいと思います。これから、学生有志が皆様とキャンパスツアーに出かけます。ご希望の方は、お集まりください」
「ねえ。キャンパスツアーだって。行ってみない?」
「う、うん。せっかくだから、行ってみようかな」
ひよりたちは数名ごとに分かれ、在校生たちに連れられて構内を巡っていく。
あっという間に昼が過ぎた。
ひよりたちもオープンキャンパスからの帰り道だ。
「これから、どうする。うち寄らない?」
雪凪が誘ってくれた。
「え?いいの?あ、勉強道具もってくればよかった」
「さらっとおさらいするだけでも違うんじゃない?」
「うん。確かに。じゃあ、お邪魔しようかな」
*
「それにしても、ひより、あんたがオープンキャンパス誘って来るとは、思わなかった。どんな心境の変化?」
「うーん。この前雪凪に言われたこと、考えてみたんだ。今は、まだ、自分がどうしたいのかとかわからないから、今はやれること、見つける段階かなって思って」
「確かにね。私もそうだもん。でも、ありがとね。今日付き合ってもらって、本当に助かった。ひよりと大学とか一緒に行けたら楽しそうだって、ちょっと思った」
「うん。それも、いいね」
ふたりで、笑いあった。
*
それから、ひよりは猛勉強を開始した。
そのおかげか、中間テストではいつもよりもかなりの好成績を残した。
「ひよりん。今回テストどうだったの?」
「あ、しず。うん。結構よかったの。頑張りました」
「へー、すごいじゃん。なんか、バイト入りたての頃、困って泣いてたひよりんとは思えない」
「えー。私だって成長するよー」
そこへ、マスターが声をかけてくる。
「……ひよりさん。お話の途中ですが、オーダー入りましたよ。ひよりの特製パンケーキ」
「あ、はい!」
ひよりは、急いでキッチンに向かう。
やがて、見事に膨らんだパンケーキが三枚お皿の上に重ねられた。
ひより自らが、お客様にサーブした。
「……本当に見事ですね。ひよりさん。こちらの才能もあるかもしれませんね。どうですか?お菓子作りの専門学校とかもありますよ」
「へー。そんな学校もあるんですね。初めて知りました」
「あるある。うちの学校からも何人か、パティシエになりたいって目指した先輩もいたもん」
「そうなんだ……」
「……今は、色々と道を探る時期でしょう。道を探すのにどうしたいとかもしあったら、話してください。その都度、この店は対応します。お休みになって構いませんから。ひよりさんにおまかせしますよ」
ひよりは、その言葉を聞いて深くうなずいた。
次の日曜で、このバイトも一周年になる。
ここに通うのが、やっぱり本当に好きなんだとひよりは思った。
10
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
ループ25 ~ 何度も繰り返す25歳、その理由を知る時、主人公は…… ~
藤堂慎人
ライト文芸
主人公新藤肇は何度目かの25歳の誕生日を迎えた。毎回少しだけ違う世界で目覚めるが、今回は前の世界で意中の人だった美由紀と新婚1年目の朝に目覚めた。
戸惑う肇だったが、この世界での情報を集め、徐々に慣れていく。
お互いの両親の問題は前の世界でもあったが、今回は良い方向で解決した。
仕事も順調で、苦労は感じつつも充実した日々を送っている。
しかし、これまでの流れではその暮らしも1年で終わってしまう。今までで最も良い世界だからこそ、次の世界にループすることを恐れている。
そんな時、肇は重大な出来事に遭遇する。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる