優しい風に背を向けて水の鳩は飛び立つ (面倒くさがりの君に切なさは似合わない)

岬 空弥

文字の大きさ
5 / 75

突然の求婚と魔法使いジョナス

しおりを挟む
そこからのロステルの行動は早かった。
驚くことに、その日のうちに彼はジョナスに結婚を申し込んだのだ。

普段話しかけても声も出さないロステルにいきなり結婚を申し込まれたジョナスは、目玉が飛び出るかと思うほどに目を見開き、ぱかっと大きな口を開けたまましばらく固まった後で、 「えええぇーーー!?」 と大声で叫んだ。

そして、いいだけ大声を出して騒いだ後に彼女がお願いしたのは、いくらなんでも突然すぎる、お願いだから少し考える時間が欲しいということだった。

「分かった。じゃあ、待ってる」

彼女の言葉を受け入れたロステルであったが、その日からの彼は、時間の許す限りジョナスの側を離れないようにつきまとった。




 ジョナスが第二騎士団に配属された当時、魔法使いの彼女を良く思っていなかったのはロステルも同じであった。
そもそも魔法使いとは、魔力のない者を下に見るものだと思い込んでいた。

実際、魔法騎士のいる第一騎士団との間には大きな溝があり、たまの合同訓練などでは魔法騎士達の人を馬鹿にしたような態度や、度が過ぎる言葉の数々に皆が辟易していた。
いくら洗濯メイドだからといって、ジョナスの魔力が凄いことは有名な話であった。だからきっと彼女の考え方も他の魔法使いと同じであろうと決めつけていたのだ。

だがジョナスと一緒に過ごすうちに、ロステルの持っていた魔法使いへの悪いイメージは少しずつ散って行った。
なにより、彼女は魔法使いとしてのプライドを持ち合わせていなかったのだ。

『何故そんなことをこのわたくしがしなくてはいけませんの?』

ジョナスはそんなことを絶対に言わない。彼女の場合、どんな些細なことも 「いいよー」 で終わるのだ。それは戦闘後の疲れ切った身体だったとしても変わることはなかった。

彼女は細かいことは気にせず良く働き、いつも楽しそうに笑っていた。何も考えていないのか、限界も考えずに無理をして、ついには魔力切れを起こして倒れることも少なくなかった。
そんな彼女を知っていくうちに、騎士団内でも彼女の身体を気遣う者が増えてきた。

他の魔法使いとは明らかに違うことが分かると、彼女の周りは次第に賑やかになっていった。

一方、ろくな会話もできないつまらない自分になど話しかけてくるわけがないと決めつけていたロステルは、快活なジョナスをいつも遠巻きに見るだけに留めていた。
だが、いくらロステルが誰にも話しかけないようにしていても、人に近付かないように気を付けていても、ジョナスは難なくその壁を突っ切って来た。

『ロステル、今よっ! 行けー!!』

大量の水で呑み込んだ魔獣を指差し、ジョナスは行け!と叫んでいる。

名前を知られていたこと、呼び捨てにされたこと、そして命令されたこと。それらはロステルにとって驚くことばかりであったが、魔獣を仕留めた後に満面の笑みを浮かべて

『やった!凄い、ロステル!』

人の背中をバシバシ叩いて興奮している彼女には取るに足らないことなのであろう。

ジョナスの側に行けば、近くにいるからという理由で話しかけてもらえる。

『ロステル、あなたも水浴びするならあそこへ行って服を脱いで?・・・でも、お願いだから全裸はやめてよね?ふざけたら水攻めだからね!』

そんなことするわけないのに、彼女はこちらを睨んでくる。

『ロステル、これってお塩の入れ過ぎなんじゃない?・・・しょっぱくない? 団長って塩分気にしてるから怒られるかもよ?』

本当は自分で味付けしたくせに、なぜか咎めるような視線をこちらに向けてくる。

『そう言えば、ロステルの声ってあまり聞かないわね。でも寡黙な所がロステルの魅力でしょう? なに?・・・は!?人がちょっと褒めたくらいで、なんでもかんでも恋愛に結びつけてんじゃないの!』

団員達にからかわれて怒ったジョナスは、手から水風船のような玉を何個も出して周囲の者達に投げつける。しかも、なぜか彼女は関係のないロステルまでも狙って来るのだ。

ニヤリと笑うジョナスの標的はその場の全員だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして

Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。 伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。 幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。 素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、 ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。 だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。 記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、 また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──…… そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。 ※婚約者をざまぁする話ではありません ※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...