6 / 75
新婚生活
しおりを挟む
初めての気持ちにロステルは困惑していた。いくら考えないようにしても、どうしても自分の目は彼女の姿を追いかけてしまう。
それでも見ているだけで満足していた頃はまだ良かった。そのうち話しかけてもらいたくて彼女の側に行くようになってしまった。
そうすれば何も考えていない彼女は近くにいる自分に話しかけてくれる。ロステルが無理に表情を作らなくても、頑張って言葉を発しなくても、ジョナスは一人で話しながら楽しそうに笑ってくれるのだ。
彼女が自分を見て話しかけてくれることが嬉しかった。彼女の側にいるだけでなぜか心が温かくなりどうしても目が離せなくなってしまう。
だから結婚を受け入れてもらった時は本当に嬉しかった。
ジョナスを陰で慕っていた人間はヤソックだけではなかったし、彼らがいつジョナスに近寄って来るのかと考えると心配で夜も眠れなくなっていた。
結婚が決まってからも、離れたくない、ずっと側にいたいと思う気持ちは日々募って行った。遠くからジョナスを見つめているヤソックを何度も見かけたが、その度にわざとジョナスに触れて彼女は俺のものだと知らしめた。
洗濯物を干しているあの場所には、男女を問わずジョナスを好きな人間がたくさんいた。
ただ単に彼女の水魔法に癒されている者もいれば、純粋に彼女を慕っている者もいた。だが彼女がそれに気づく気配は全くなかった。
唯一、自分が好かれていると知ることが出来た相手は、短い言葉ではっきりと結婚を申し込んできたロステルただ一人だけだったのだ。
結婚を申し込んだ後も彼の少ない口数は相変わらずだったが、熱のこもった眼差しは決してジョナスから離れることはなく、常に彼女への強い愛情を表していた。
ここまではっきり言われたなら、さすがに鈍すぎるジョナスでも彼の気持ちは理解できたし真面目な性格のロステルを彼女はもともと好意的に見ていた。
面倒な駆け引きや誤魔化しを嫌うジョナスに、寡黙であっても本当に思ったことは口にするロステル。二人はとても純粋で素直という意味で似ていたのかもしれない。
こうして二人は結婚した。
爵位を持たないロステルは、男爵家であるジョナスの両親に反対されるのではないかと密かに心配していた。
だが、ジョナス本人が結婚した後も今の仕事を続けたいと言っていることもそうだが、寡黙なロステルと一緒にいる娘からは、無理をしている様子が一切見られないと言うことが何よりも彼女の両親を安心させた。
そもそも、ジョナスに貴族の奥様が務まるわけがないということを一番よく分かっていたのは彼女の両親なのだ。
そんなことで二人の結婚は思った以上にあっさりとまとまった。
結婚した二人は、ロステルの父親であるモンテナス伯爵が用意してくれた小さな一軒家で生活を始めた。
本当はもっと大きな屋敷と数人の使用人を用意すると言われたが、二人は小さな一軒家で庶民らしく質素な暮らしを望んだ。
それまで一人暮らしをしていた二人には、使用人も広い屋敷も必要なかったし、魔法使いのジョナスと騎士のロステルに防犯面での心配もいらなかった。
結婚してもロステルの無表情は健在であった。それでも返事もしない夫を相手にジョナスは毎日嬉しそうに話しかけていた。
ロステルが妻を無言で追いかけまわすことも変わっていない。それは職場でも家の中でも同じだ。
ジョナスが気付いた時、夫は必ず近くにいるのが今となっては当たり前のことになっていた。結婚してその距離はさらに縮まり、今もこうして後ろから夫に抱きしめられながら彼女は本を読んでいる。
本当は今すぐにでも寝室に連れ込んで、目一杯愛し合いたいロステルであったが、彼がいくら妻の肩にぐりぐり頭を擦り付けて甘えようと、ひんやりとした頬に吸い付くようにキスをしようと、本の世界に入り込んでいるジョナスには気付いてもらえない。
彼は知っているのだ。何事も自分が喋らないのが悪いということを。何も言わないのだから気付かれないのは当たり前、ましてや自分の妻はそのような細やかな神経は持ち合わせていない・・・。だからロステルは、寝室に行きたいのを我慢して妻の読んでいる本の話に耳を傾ける。
「もうっ! アルフォンスが大事なことを全然言わないからどんどん二人の仲が拗れるわ! なんてじれったいのかしら。心の中ではミズリーナへの愛を何十回も叫んでいるというのに本人に何も言わないで、そんなもの伝わる訳ないじゃない!!」
・・・少々耳の痛い内容であってもロステルは黙って聞く。
そんなロステルだったが、彼はいつだってジョナスとの生活には満足していた。
彼女は働き者だった。夫と同じ第二騎士団での仕事も、王宮での洗濯メイドの仕事だって決して楽ではないはずだ。頑張り過ぎた日には魔力切れを起こして動けなくなることだってある。それでも家に帰るなり掃除に洗濯に炊事が待っている。ロステルだってもちろん手伝うけれど、文句も言わず元気に働く妻に感謝しない日はなかった。
それでも見ているだけで満足していた頃はまだ良かった。そのうち話しかけてもらいたくて彼女の側に行くようになってしまった。
そうすれば何も考えていない彼女は近くにいる自分に話しかけてくれる。ロステルが無理に表情を作らなくても、頑張って言葉を発しなくても、ジョナスは一人で話しながら楽しそうに笑ってくれるのだ。
彼女が自分を見て話しかけてくれることが嬉しかった。彼女の側にいるだけでなぜか心が温かくなりどうしても目が離せなくなってしまう。
だから結婚を受け入れてもらった時は本当に嬉しかった。
ジョナスを陰で慕っていた人間はヤソックだけではなかったし、彼らがいつジョナスに近寄って来るのかと考えると心配で夜も眠れなくなっていた。
結婚が決まってからも、離れたくない、ずっと側にいたいと思う気持ちは日々募って行った。遠くからジョナスを見つめているヤソックを何度も見かけたが、その度にわざとジョナスに触れて彼女は俺のものだと知らしめた。
洗濯物を干しているあの場所には、男女を問わずジョナスを好きな人間がたくさんいた。
ただ単に彼女の水魔法に癒されている者もいれば、純粋に彼女を慕っている者もいた。だが彼女がそれに気づく気配は全くなかった。
唯一、自分が好かれていると知ることが出来た相手は、短い言葉ではっきりと結婚を申し込んできたロステルただ一人だけだったのだ。
結婚を申し込んだ後も彼の少ない口数は相変わらずだったが、熱のこもった眼差しは決してジョナスから離れることはなく、常に彼女への強い愛情を表していた。
ここまではっきり言われたなら、さすがに鈍すぎるジョナスでも彼の気持ちは理解できたし真面目な性格のロステルを彼女はもともと好意的に見ていた。
面倒な駆け引きや誤魔化しを嫌うジョナスに、寡黙であっても本当に思ったことは口にするロステル。二人はとても純粋で素直という意味で似ていたのかもしれない。
こうして二人は結婚した。
爵位を持たないロステルは、男爵家であるジョナスの両親に反対されるのではないかと密かに心配していた。
だが、ジョナス本人が結婚した後も今の仕事を続けたいと言っていることもそうだが、寡黙なロステルと一緒にいる娘からは、無理をしている様子が一切見られないと言うことが何よりも彼女の両親を安心させた。
そもそも、ジョナスに貴族の奥様が務まるわけがないということを一番よく分かっていたのは彼女の両親なのだ。
そんなことで二人の結婚は思った以上にあっさりとまとまった。
結婚した二人は、ロステルの父親であるモンテナス伯爵が用意してくれた小さな一軒家で生活を始めた。
本当はもっと大きな屋敷と数人の使用人を用意すると言われたが、二人は小さな一軒家で庶民らしく質素な暮らしを望んだ。
それまで一人暮らしをしていた二人には、使用人も広い屋敷も必要なかったし、魔法使いのジョナスと騎士のロステルに防犯面での心配もいらなかった。
結婚してもロステルの無表情は健在であった。それでも返事もしない夫を相手にジョナスは毎日嬉しそうに話しかけていた。
ロステルが妻を無言で追いかけまわすことも変わっていない。それは職場でも家の中でも同じだ。
ジョナスが気付いた時、夫は必ず近くにいるのが今となっては当たり前のことになっていた。結婚してその距離はさらに縮まり、今もこうして後ろから夫に抱きしめられながら彼女は本を読んでいる。
本当は今すぐにでも寝室に連れ込んで、目一杯愛し合いたいロステルであったが、彼がいくら妻の肩にぐりぐり頭を擦り付けて甘えようと、ひんやりとした頬に吸い付くようにキスをしようと、本の世界に入り込んでいるジョナスには気付いてもらえない。
彼は知っているのだ。何事も自分が喋らないのが悪いということを。何も言わないのだから気付かれないのは当たり前、ましてや自分の妻はそのような細やかな神経は持ち合わせていない・・・。だからロステルは、寝室に行きたいのを我慢して妻の読んでいる本の話に耳を傾ける。
「もうっ! アルフォンスが大事なことを全然言わないからどんどん二人の仲が拗れるわ! なんてじれったいのかしら。心の中ではミズリーナへの愛を何十回も叫んでいるというのに本人に何も言わないで、そんなもの伝わる訳ないじゃない!!」
・・・少々耳の痛い内容であってもロステルは黙って聞く。
そんなロステルだったが、彼はいつだってジョナスとの生活には満足していた。
彼女は働き者だった。夫と同じ第二騎士団での仕事も、王宮での洗濯メイドの仕事だって決して楽ではないはずだ。頑張り過ぎた日には魔力切れを起こして動けなくなることだってある。それでも家に帰るなり掃除に洗濯に炊事が待っている。ロステルだってもちろん手伝うけれど、文句も言わず元気に働く妻に感謝しない日はなかった。
1
あなたにおすすめの小説
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして
Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。
伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。
幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。
素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、
ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。
だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。
記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、
また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──……
そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。
※婚約者をざまぁする話ではありません
※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
後妻の条件を出したら……
しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。
格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。
だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。
しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる