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婚約者の本当の気持ち
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学園に入ってからのフローレンスは、周囲が持つ悪い印象とは正反対に、誰に迷惑かけることなく静かに生活していた。シオンを虐げる演技が必要なくなった今、キツイ目鼻立ちを更に強調するような濃い化粧も落とし、あんなに無駄に巻いていた髪が、今では美しく金色に輝き、さらさらと風になびいていた。真っ白な肌にほんのりと色付く口紅をつけ、サファイアのような瞳で嬉しそうに「ジル」と自分の名前を呼ばれれば、言葉では言い表せないほど幸せな気分になれるのだった。
「無理やり婚約させられたんだろう?お前も大変だな・・・。」
などと言っていた頭の悪い奴らも、さすがにもう気付いている頃だろう。
(ここにシオンが現れたら、あいつらの大好物の噂話なんて粉々に砕け散るだろうな。)
ジルドナは、口の右端を上げながら鼻で笑った。入学してからというもの、くだらない同情をいくつも受けた。聞いてもいないのに、フローレンスの悪口もあちこちから聞かされた。シオンの生活が保障された今、婚約者に迷惑しているというジルドナの演技も必要なくなった。しかし、ジルドナは、周囲の思い込みに対して、あえて否定も肯定もしなかった。
それによってフローレンスが孤立して、一人、孤独に陥ってしまうことも、もちろん気付いていた。だが、シオンのいない今、フローレンスが頼れる人間が自分一人という今の状況をジルドナは嬉しく思っていたのだ。
(誰も気付かなくていい。フローレンスの良さは俺一人が知っていればいいんだから。)
本当の彼女は、我儘でもなんでもない。逆に自分のことなど、どうでもいいのだ。人の心配ばかりで胸をいっぱいにして、結局自分は何も得られない。フローレンスが必死に作り上げた噂話は、結果的に本当の彼女とは正反対なことばかりだった。
(馬鹿な奴らは、勝手にくだらない噂に踊らされていればいい。そうすればフローレンスには俺しかいなくなるんだから。)
弟思いの心の優しい少女が、年を重ねるごとにどんどん美しくなってゆく。本人すら気付いていない事実を他人が知る必要などない。
「あっ、ジル!」
ジルドナを見つける度、嬉しそうに顔をほころばせるフローレンスにどうしようもなく心が躍ってしまう。ここでフローレンスの相手をするのは自分だけだ。フローレンスを救えるのも自分だけ。まるで重なるようにピッタリと寄り添えば、フローレンスの優しい香りがジルドナの心をくすぐる。話をしながら、そっと手を握ると、恥ずかしそうに目を伏せた彼女の頬がほんのり赤く染まるのだ。自分は彼女の婚約者で唯一の心の支えなのだ。そう思えば思う程、ジルドナの中に芽生えた優越感と独占欲は、日に日に大きくなっていった。
フローレンスからは、シオンが学園に入学して侯爵家の跡取りとして相応しいと周知されるまで、婚約解消を待ってほしいと言われている。しかし、元々ジルドナは婚約を解消するつもりなど最初からないのだ。フローレンスに初めて会ったあの日から、ジルドナの気持ちはフローレンスにしかない。いくら演技だと分かっていても、フローレンスが自分の腕に触れ、にこにこ笑っている姿にいつも心臓がうるさく鳴っていたし、彼女の優しさを見つけるたびに、自分だけのものにしたいと強く願った。本当の姉のように慕うルーベルトを疎ましく思っていたし、熱を持ってフローレンスを見つめているシオンにも、ジルドナは当然気付いていた。
ジルドナは、どうしてもシオンが入学する前にフローレンスとの関係を深めておきたいと考えていた。知り合った当時からシオンには変な違和感を感じていた。人の良さそうな外見からは想像もできない程の鋭い視線を感じたことも多々あった。シオンの瞳は常に姉のフローレンスを捉えており、隠し切れない仄暗い感情を垣間見たジルドナは恐怖すら覚えることもあった。あのシオンが本当に力をつけてしまったなら、もう誰にも触れさせないようにフローレンスを囲ってしまうだろうと、ジルドナには容易に想像できた。
フローレンスを孤立させ、自分に依存させるジルドナの作戦は順調に進んでいた。時間があるときは、必ずフローレンスを誘い、二人きりの時間を作った。甘く囁き、自分の気持ちを言葉と態度で表していけば、フローレンスが戸惑いながらもジルドナの気持ちを受け入れてくれているのを感じた。ジルドナは、その確実な手応えに喜びと幸せを感じる日々を送っていた。
送っていたハズだった・・・。
フローレンスが、その唯一の支えを奪われた時の・・・、あの顔を見てしまうまでは。
「無理やり婚約させられたんだろう?お前も大変だな・・・。」
などと言っていた頭の悪い奴らも、さすがにもう気付いている頃だろう。
(ここにシオンが現れたら、あいつらの大好物の噂話なんて粉々に砕け散るだろうな。)
ジルドナは、口の右端を上げながら鼻で笑った。入学してからというもの、くだらない同情をいくつも受けた。聞いてもいないのに、フローレンスの悪口もあちこちから聞かされた。シオンの生活が保障された今、婚約者に迷惑しているというジルドナの演技も必要なくなった。しかし、ジルドナは、周囲の思い込みに対して、あえて否定も肯定もしなかった。
それによってフローレンスが孤立して、一人、孤独に陥ってしまうことも、もちろん気付いていた。だが、シオンのいない今、フローレンスが頼れる人間が自分一人という今の状況をジルドナは嬉しく思っていたのだ。
(誰も気付かなくていい。フローレンスの良さは俺一人が知っていればいいんだから。)
本当の彼女は、我儘でもなんでもない。逆に自分のことなど、どうでもいいのだ。人の心配ばかりで胸をいっぱいにして、結局自分は何も得られない。フローレンスが必死に作り上げた噂話は、結果的に本当の彼女とは正反対なことばかりだった。
(馬鹿な奴らは、勝手にくだらない噂に踊らされていればいい。そうすればフローレンスには俺しかいなくなるんだから。)
弟思いの心の優しい少女が、年を重ねるごとにどんどん美しくなってゆく。本人すら気付いていない事実を他人が知る必要などない。
「あっ、ジル!」
ジルドナを見つける度、嬉しそうに顔をほころばせるフローレンスにどうしようもなく心が躍ってしまう。ここでフローレンスの相手をするのは自分だけだ。フローレンスを救えるのも自分だけ。まるで重なるようにピッタリと寄り添えば、フローレンスの優しい香りがジルドナの心をくすぐる。話をしながら、そっと手を握ると、恥ずかしそうに目を伏せた彼女の頬がほんのり赤く染まるのだ。自分は彼女の婚約者で唯一の心の支えなのだ。そう思えば思う程、ジルドナの中に芽生えた優越感と独占欲は、日に日に大きくなっていった。
フローレンスからは、シオンが学園に入学して侯爵家の跡取りとして相応しいと周知されるまで、婚約解消を待ってほしいと言われている。しかし、元々ジルドナは婚約を解消するつもりなど最初からないのだ。フローレンスに初めて会ったあの日から、ジルドナの気持ちはフローレンスにしかない。いくら演技だと分かっていても、フローレンスが自分の腕に触れ、にこにこ笑っている姿にいつも心臓がうるさく鳴っていたし、彼女の優しさを見つけるたびに、自分だけのものにしたいと強く願った。本当の姉のように慕うルーベルトを疎ましく思っていたし、熱を持ってフローレンスを見つめているシオンにも、ジルドナは当然気付いていた。
ジルドナは、どうしてもシオンが入学する前にフローレンスとの関係を深めておきたいと考えていた。知り合った当時からシオンには変な違和感を感じていた。人の良さそうな外見からは想像もできない程の鋭い視線を感じたことも多々あった。シオンの瞳は常に姉のフローレンスを捉えており、隠し切れない仄暗い感情を垣間見たジルドナは恐怖すら覚えることもあった。あのシオンが本当に力をつけてしまったなら、もう誰にも触れさせないようにフローレンスを囲ってしまうだろうと、ジルドナには容易に想像できた。
フローレンスを孤立させ、自分に依存させるジルドナの作戦は順調に進んでいた。時間があるときは、必ずフローレンスを誘い、二人きりの時間を作った。甘く囁き、自分の気持ちを言葉と態度で表していけば、フローレンスが戸惑いながらもジルドナの気持ちを受け入れてくれているのを感じた。ジルドナは、その確実な手応えに喜びと幸せを感じる日々を送っていた。
送っていたハズだった・・・。
フローレンスが、その唯一の支えを奪われた時の・・・、あの顔を見てしまうまでは。
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