意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

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人けのない教室で

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 その日、珍しくジルドナが昼食の誘いに来なかった。いくら待っても現れないジルドナを不思議に思いながらも、フローレンスはジルドナのクラスまで足を運んでみることにした。

 皆、昼食を食べに行っているらしく、廊下で数名とすれ違いはしたものの、ジルドナのクラスに近づいても中から物音は聞こえてこなかった。

 他の人と食べに行ってしまったのかもしれないと、半ば諦めながらもドアを開けると、フローレンスの目に飛び込んできたのは、ジルドナが他の女生徒と抱き合っている姿だった。ドアの開く音に気付いたジルドナと目が合ってしまったフローレンスは驚いて、

「あっ・・・。」

と、小さな声が漏れてしまった。

「あっ!! これはっ―――」

 ジルドナも、驚いて咄嗟に何か言おうとしていたが、その言葉を最後まで聞かずにフローレンスは、走って逃げだしてしまった。

 たくさん走って、人けのない場所にたどり着いたフローレンスは、胸を押さえてその場にしゃがみ込んだ。荒い息を吐きながら、今見た光景をどう解釈すればいいのかわからなかった。
心臓が大きな音を立てて騒いでいた。

(どうしよう・・・。)

 たくさんの感情が溢れてしまい、フローレンスの頭は混乱した。

(どうしよう・・・。)

 何度も何度も心の中で呟いてみるが、一向に答えは見つからない。

 その後、もう昼食を食べる気分になれなかったフローレンスは、そのまま図書室へ向かった。静まり返った室内を歩き、いつもの席に向かう。するとそこには既に赤毛の彼が座っていた。本当は、図書室での飲食は禁止されていたはずだが、彼は本を読みながら昼食のパンを食べていた。彼が食事中なのもあって、一瞬、座るのを躊躇したフローレンスだったが、他に心を静める場所も思いつかなかったので、そのまま静かに隣の席に座った。本を読む気分にもなれなかったので、ただ黙って窓からの景色を見ていた。赤毛の彼は、突然現れたフローレンスを特に気にするでもなく、いつものように顔色一つ変えずに食事を続けていた。

 教室に戻る時間が来ても、フローレンスは座ったまま立ち上がらなかった。考えることがあまりにも多くて、フローレンスの頭の中はパンパンに膨れ上がっているかのようだった。手を膝の上に置き、姿勢正しく正面を向くフローレンスが、そのままピクリとも動かないことを不審に思い、立ち上がった赤毛の青年が訝し気に見下ろしていたとて、今のフローレンスには彼が隣に立っていることすらも気付くことが出来なかった。

(自分が思っていた以上に、私はジルに依存していたのだわ・・・。)

 未だ震えている両手を机の上に置くと、大きく息を吐き、どうにか心を落ち着かせようと思った。

(婚約は解消するつもりだったわ・・・。なのに、二人の関係を知ってこんなにショックを受けるなんて・・・。やっぱり私、どこかで期待していたんだわ・・・。)

 こうして頭の中で呟くだけでも、いかに自分の本当の気持ちに気付かない振りをしてきたのか分かった。考えてみれば、自分はジルドナに優しくされて嬉しく思っていたではないか・・・。彼の力強い手の温もりを心地いいと思っていた・・・。どんな時もジルドナが居てくれれば大丈夫と、その安心感に酔いしれていたのは誰だ・・・。

(私は・・・ジルの優しさに甘えて・・・勘違いしてしまっていたのね・・・。私達の間では、婚約なんて所詮は上辺だけのもの。分かっていたはずなのに、いつしかそこに馬鹿な私は、愛情を求めてしまっていたのね・・・。ジルの優しさを勝手に好かれていると勘違いして、持ってはいけない感情を育ててしまっていたんだわ・・・。)

 ジルドナに依存してしまった理由の一つが、フローレンスの学園での孤立だった。本来一人には慣れていたはずなのに、シオンやジルドナと過ごすうちに、人と心を通わすことの喜びを知ってしまったのだ。この状態で、今、ジルドナに見放されたら、誰とも話さない孤独に、果たして自分はどこまで耐えられるのだろう・・・。フローレンスは、ここにきて強い不安を覚えた。

(誰とも関わらなくても平気って・・・、それは、ジルがいたから・・・。ジルが私の相手をしてくれていたから、そう思っていられたのね・・・。ああ、私は一体いつからジルの思いやりを当たり前だと思ってしまったのかしら・・・。)

 自分の気付かないうちにいらぬ感情を生み出し、その中には、そんな打算まで入っていたのかと、フローレンスは自分の醜い考えを恐ろしいとすら感じた。

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