17 / 55
人けのない教室で
しおりを挟む
その日、珍しくジルドナが昼食の誘いに来なかった。いくら待っても現れないジルドナを不思議に思いながらも、フローレンスはジルドナのクラスまで足を運んでみることにした。
皆、昼食を食べに行っているらしく、廊下で数名とすれ違いはしたものの、ジルドナのクラスに近づいても中から物音は聞こえてこなかった。
他の人と食べに行ってしまったのかもしれないと、半ば諦めながらもドアを開けると、フローレンスの目に飛び込んできたのは、ジルドナが他の女生徒と抱き合っている姿だった。ドアの開く音に気付いたジルドナと目が合ってしまったフローレンスは驚いて、
「あっ・・・。」
と、小さな声が漏れてしまった。
「あっ!! これはっ―――」
ジルドナも、驚いて咄嗟に何か言おうとしていたが、その言葉を最後まで聞かずにフローレンスは、走って逃げだしてしまった。
たくさん走って、人けのない場所にたどり着いたフローレンスは、胸を押さえてその場にしゃがみ込んだ。荒い息を吐きながら、今見た光景をどう解釈すればいいのかわからなかった。
心臓が大きな音を立てて騒いでいた。
(どうしよう・・・。)
たくさんの感情が溢れてしまい、フローレンスの頭は混乱した。
(どうしよう・・・。)
何度も何度も心の中で呟いてみるが、一向に答えは見つからない。
その後、もう昼食を食べる気分になれなかったフローレンスは、そのまま図書室へ向かった。静まり返った室内を歩き、いつもの席に向かう。するとそこには既に赤毛の彼が座っていた。本当は、図書室での飲食は禁止されていたはずだが、彼は本を読みながら昼食のパンを食べていた。彼が食事中なのもあって、一瞬、座るのを躊躇したフローレンスだったが、他に心を静める場所も思いつかなかったので、そのまま静かに隣の席に座った。本を読む気分にもなれなかったので、ただ黙って窓からの景色を見ていた。赤毛の彼は、突然現れたフローレンスを特に気にするでもなく、いつものように顔色一つ変えずに食事を続けていた。
教室に戻る時間が来ても、フローレンスは座ったまま立ち上がらなかった。考えることがあまりにも多くて、フローレンスの頭の中はパンパンに膨れ上がっているかのようだった。手を膝の上に置き、姿勢正しく正面を向くフローレンスが、そのままピクリとも動かないことを不審に思い、立ち上がった赤毛の青年が訝し気に見下ろしていたとて、今のフローレンスには彼が隣に立っていることすらも気付くことが出来なかった。
(自分が思っていた以上に、私はジルに依存していたのだわ・・・。)
未だ震えている両手を机の上に置くと、大きく息を吐き、どうにか心を落ち着かせようと思った。
(婚約は解消するつもりだったわ・・・。なのに、二人の関係を知ってこんなにショックを受けるなんて・・・。やっぱり私、どこかで期待していたんだわ・・・。)
こうして頭の中で呟くだけでも、いかに自分の本当の気持ちに気付かない振りをしてきたのか分かった。考えてみれば、自分はジルドナに優しくされて嬉しく思っていたではないか・・・。彼の力強い手の温もりを心地いいと思っていた・・・。どんな時もジルドナが居てくれれば大丈夫と、その安心感に酔いしれていたのは誰だ・・・。
(私は・・・ジルの優しさに甘えて・・・勘違いしてしまっていたのね・・・。私達の間では、婚約なんて所詮は上辺だけのもの。分かっていたはずなのに、いつしかそこに馬鹿な私は、愛情を求めてしまっていたのね・・・。ジルの優しさを勝手に好かれていると勘違いして、持ってはいけない感情を育ててしまっていたんだわ・・・。)
ジルドナに依存してしまった理由の一つが、フローレンスの学園での孤立だった。本来一人には慣れていたはずなのに、シオンやジルドナと過ごすうちに、人と心を通わすことの喜びを知ってしまったのだ。この状態で、今、ジルドナに見放されたら、誰とも話さない孤独に、果たして自分はどこまで耐えられるのだろう・・・。フローレンスは、ここにきて強い不安を覚えた。
(誰とも関わらなくても平気って・・・、それは、ジルがいたから・・・。ジルが私の相手をしてくれていたから、そう思っていられたのね・・・。ああ、私は一体いつからジルの思いやりを当たり前だと思ってしまったのかしら・・・。)
自分の気付かないうちにいらぬ感情を生み出し、その中には、そんな打算まで入っていたのかと、フローレンスは自分の醜い考えを恐ろしいとすら感じた。
皆、昼食を食べに行っているらしく、廊下で数名とすれ違いはしたものの、ジルドナのクラスに近づいても中から物音は聞こえてこなかった。
他の人と食べに行ってしまったのかもしれないと、半ば諦めながらもドアを開けると、フローレンスの目に飛び込んできたのは、ジルドナが他の女生徒と抱き合っている姿だった。ドアの開く音に気付いたジルドナと目が合ってしまったフローレンスは驚いて、
「あっ・・・。」
と、小さな声が漏れてしまった。
「あっ!! これはっ―――」
ジルドナも、驚いて咄嗟に何か言おうとしていたが、その言葉を最後まで聞かずにフローレンスは、走って逃げだしてしまった。
たくさん走って、人けのない場所にたどり着いたフローレンスは、胸を押さえてその場にしゃがみ込んだ。荒い息を吐きながら、今見た光景をどう解釈すればいいのかわからなかった。
心臓が大きな音を立てて騒いでいた。
(どうしよう・・・。)
たくさんの感情が溢れてしまい、フローレンスの頭は混乱した。
(どうしよう・・・。)
何度も何度も心の中で呟いてみるが、一向に答えは見つからない。
その後、もう昼食を食べる気分になれなかったフローレンスは、そのまま図書室へ向かった。静まり返った室内を歩き、いつもの席に向かう。するとそこには既に赤毛の彼が座っていた。本当は、図書室での飲食は禁止されていたはずだが、彼は本を読みながら昼食のパンを食べていた。彼が食事中なのもあって、一瞬、座るのを躊躇したフローレンスだったが、他に心を静める場所も思いつかなかったので、そのまま静かに隣の席に座った。本を読む気分にもなれなかったので、ただ黙って窓からの景色を見ていた。赤毛の彼は、突然現れたフローレンスを特に気にするでもなく、いつものように顔色一つ変えずに食事を続けていた。
教室に戻る時間が来ても、フローレンスは座ったまま立ち上がらなかった。考えることがあまりにも多くて、フローレンスの頭の中はパンパンに膨れ上がっているかのようだった。手を膝の上に置き、姿勢正しく正面を向くフローレンスが、そのままピクリとも動かないことを不審に思い、立ち上がった赤毛の青年が訝し気に見下ろしていたとて、今のフローレンスには彼が隣に立っていることすらも気付くことが出来なかった。
(自分が思っていた以上に、私はジルに依存していたのだわ・・・。)
未だ震えている両手を机の上に置くと、大きく息を吐き、どうにか心を落ち着かせようと思った。
(婚約は解消するつもりだったわ・・・。なのに、二人の関係を知ってこんなにショックを受けるなんて・・・。やっぱり私、どこかで期待していたんだわ・・・。)
こうして頭の中で呟くだけでも、いかに自分の本当の気持ちに気付かない振りをしてきたのか分かった。考えてみれば、自分はジルドナに優しくされて嬉しく思っていたではないか・・・。彼の力強い手の温もりを心地いいと思っていた・・・。どんな時もジルドナが居てくれれば大丈夫と、その安心感に酔いしれていたのは誰だ・・・。
(私は・・・ジルの優しさに甘えて・・・勘違いしてしまっていたのね・・・。私達の間では、婚約なんて所詮は上辺だけのもの。分かっていたはずなのに、いつしかそこに馬鹿な私は、愛情を求めてしまっていたのね・・・。ジルの優しさを勝手に好かれていると勘違いして、持ってはいけない感情を育ててしまっていたんだわ・・・。)
ジルドナに依存してしまった理由の一つが、フローレンスの学園での孤立だった。本来一人には慣れていたはずなのに、シオンやジルドナと過ごすうちに、人と心を通わすことの喜びを知ってしまったのだ。この状態で、今、ジルドナに見放されたら、誰とも話さない孤独に、果たして自分はどこまで耐えられるのだろう・・・。フローレンスは、ここにきて強い不安を覚えた。
(誰とも関わらなくても平気って・・・、それは、ジルがいたから・・・。ジルが私の相手をしてくれていたから、そう思っていられたのね・・・。ああ、私は一体いつからジルの思いやりを当たり前だと思ってしまったのかしら・・・。)
自分の気付かないうちにいらぬ感情を生み出し、その中には、そんな打算まで入っていたのかと、フローレンスは自分の醜い考えを恐ろしいとすら感じた。
1
あなたにおすすめの小説
チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている
おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。
しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。
男爵家の次女マリベルを除いて。
◇素直になれない男女のすったもんだ
◇腐った令嬢が登場したりします
◇50話完結予定
2025.2.14
タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版
まほりろ
恋愛
国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。
食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。
しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。
アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。
その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。
ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日
※長編版と差し替えました。2025年7月2日
※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる