意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

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眩しいほどの赤

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「大丈夫か?」

 近い距離でいきなり声をかけられたフローレンスは、咄嗟にガタっと椅子を鳴らして立ち上がってしまった。胸に両手を当て、何も言えず目を見開いているフローレンスを見て、逆に驚いてしまった赤毛の青年は、決まり悪そうに目を泳がせた後、静かな声で謝ってきた。

「・・・すまない。驚かせるつもりはなかった。」

 その声に、はっと我に返ったフローレンスは、相手がいつも隣に座っている赤毛の青年だと気付くと同時に、彼が自分に話しかけてきたことが信じられなくて返事が出来なかった。

(え?嘘? え?私、話しかけられた?)

 フローレンスが、目を見張って相手を凝視したまま立ち尽くしていると、赤毛の青年は、眉を寄せて少し困ったように話を続けた。

「顔色が悪い・・・。調子が悪いんじゃないのか?」

「あ・・・、あの・・・えと・・・」

 自分には絶対、話しかけてこないと思い込んでいた相手だったせいか、フローレンスは、どうしていいか分からず言い淀んでしまった。

「昼からずっとここに座っていたんだろう?様子もおかしいし、大丈夫か?」

「えっ?あの・・・、今の時間は・・・。」

 青年がすっと指差す壁には時計があり、時刻は既に夕方だった。

(こんなに長い間ここに一人でいたのね・・・。)

 思えば午後の授業もサボってしまっていた。教室に鞄も置きっぱなしだった。

 フローレンスが時計を見ながら呆然としていると、赤毛の青年がフローレンスの腕を取った。

「やっぱり何か変だな・・・。体の調子が悪い訳ではないなら寮まで送って行く。鞄はどうした?」

「え? は? いえ、あの・・・大丈夫です。一人で帰れます・・・よ?あの・・・」

「鞄は教室だろう?教室はどこだ!? 行くぞ!」

 一人で大丈夫と言っているのに、青年はフローレンスの腕を離さなかった。強引に腕を引き図書室を出ると、何も言わず、どんどんフローレンスの教室の方へ向かって行った。

 フローレンスのクラスの前まで来ると、青年は迷いなくドアを開けた。誰も居ない静かな教室は、窓から差し込む夕陽の温かさでフローレンスの冷え切った心と体を癒してくれるようだった。

「あれか?」

 青年が指差す先には、フローレンスの鞄が何故か目立つように机の上に置いてあった。

(私の鞄・・・。誰か、机の上に置いてくれたのかしら・・・。忘れてることを教えてくれてるとか?)

 フローレンスが、青年に返事をしながらも首を傾げていると、青年が鞄を取って来てくれた。青年はフローレンスに、鞄を差し出しながら言った。

「レイサス・クレイズ」

「え?」

「名前だ。」

「ああっ、はい。名前・・・。あっ、フローレンスです。フローレンス・フーバート。すみません、鞄、ありがとうございます。」

 フローレンスが鞄を貰うため手を伸ばすと、レイサスは、その手をさっと掴んだ。

「やっぱり、俺が持つ。行くぞ。」

レイサスは、フローレンスの手を引くと、さっさと歩き始めた。

「あのっ、」

「レイサスだ。」

「あの、レイサス様、」

「レイサスだ。」

「・・・・・・。」

(いや・・・この人、なに・・・。)

「なんだ」

「手を・・・。」

 繋がれた手を離してほしくて、フローレンスは困った顔で立ち止まった。

「・・・気にするな。」

「は?」

「自分の顔色わかってるのか?真っ青だぞ。いいから黙って着いてこい。」

「・・・はい。」

 レイサスの一方的な言葉に少しイラっとしたフローレンスは、口を尖らしてむすっと返事をした。しかし、繋がれた手の温かさがじわじわと伝わってくると、自分の手がいかに冷えていたのかを知った。先ほどまでどうしようもなく震えていた体も、気が付いた時には治まっていた。フローレンスは、少し前を歩くレイサスをそっと観察してみた。相変わらずその顔に表情はなかったものの、いつものような冷たく刺々しい瞳には見えなかった。いつも気づいたら隣に座っている目つきの悪い青年が、こんなに背の高い人だとは思わなかった。細身でありながらもしっかりと鍛え上げられた体躯に、この長身だ。さぞ女性からの人気もすごいのだろう。

(本当に図書室の似合わない人ね・・・。)

 先ほどまでの嫌な気分が薄れ、呑気に彼の観察を続けていると、レイサスの赤の強い髪色も同色の少し吊り上がった瞳も、窓からの夕日が当たって真っ赤に染まっていることに気付いた。そして、その光景に一瞬で目を奪われてしまったフローレンスは、眩しいほどの美しい赤色に、つい立ち止まって見入ってしまった。それに気付いたレイサスが振り返り何事かとフローレンスを見下ろしていると、しばらくお互い見つめ合った後、フローレンスは、何も言わずににっこり笑った。

(嬉しい・・・。きっと、アーレン閣下と同じ色・・・。)

「行くぞ。」

 いきなり手を引き、再び歩き出したレイサスをフローレンスは不思議そうに見つめていたが、夕日が眩しすぎてレイサスの顔が赤くなっていることには気付かなかった。

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