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クラス内で話せる人が増えてきて、喜んでいたフローレンスだったが、まだまだ基本的には一人行動だった。誰かに誘われるならば、もちろん喜んで行動を共にするだろうが、自分の悪い評判を知っているフローレンスが自分から友人を誘うなんてありえないことだった。だから、少しの休憩時間やお昼も、一人でひっそりと過ごすのは変わらなかった。
その日も、誰も来ない静かな場所でお昼を食べていた。
(私、あんなに一人を恐れていたのに、こうして毎日一人で過ごしていたら、不思議とこれが普通になるものなのね・・・。一人では味も何も感じないと、ついこの前まで無理やり呑み込んでいたけど、今は普通においしいものね。)
そう思いながらパクパク口に運んでいると、遠くから誰かが走って来るのが見えた。
(誰か来た・・・。せっかく誰も来ない場所だったのにな・・・。また新しい場所探さないと駄目かしら・・・。)
フローレンスは心底がっかりした気分になったが、今、この場から走って逃げるわけにもいかず、視線を落とし、知らぬ顔で食事を続けることにした。だが、足音がだんだん大きくなってきて、フローレンスのすぐ傍まで来たことを音で感じると、さすがにいつまでも知らない顔はできない。面倒だなと思いながらも渋々顔を上げると、赤茶色の髪をなびかせて息を切らせたレイサスがフローレンスの目の前まで来た。
驚いたフローレンスが、ぽかんと口を開けたまま彼を見上げると、怒りに満ちた瞳をぎらつかせ、レイサスがいきなり大声を上げた。
「なぜ来ないっ!!」
「っ!!」
目つきの悪い大男に、突然大声で怒鳴られたフローレンスが、声にならない悲鳴を上げて咄嗟に立ち上がると、膝の上に置いていた食べかけの昼食が地面にバラバラと落ちて行った。レイサスは、その地面にチラッと視線を落としたが、またすぐにフローレンスを見据えて大きな声を出した。
「フローレンス!!」
「はい!」
「なぜ来ない!!」
「!?・・・あの―――」
「毎日必ず来ていたのに、なぜ来なくなった!!」
「あっ、図書室・・・。」
「理由を言え!!」
「・・・・・・・・。」
「フローレンス!!」
「理由って、そんなの・・・。」
「フローレンス!!」
「だって・・・貴方が・・・、優しい人だから。」
「はっ!?」
「だからっ!気の毒だと思った・・・のよ。」
「なんだそれは!!」
「もぅ!!だから!!なんで、そんなに聞いてくるのよ!!貴方、いい人じゃない!!だから、私なんかと一緒にいたら駄目でしょう!!」
「だから!なにが駄目なんだ!!」
「だから、だからって・・・ふぅー-・・・。」
フローレンスは、大きく一呼吸し、興奮してきた自分の心を静めようとした。
「前に言ったじゃない。弟が可哀想だって。これでも反省したのよ。人に頼らないで頑張りたいって思ったの・・・。このままじゃあ、弟にも婚約者にも迷惑をかけてばかりだわ。彼らには彼らの人生があるんですもの。いつまでも私にしがみ付かれていては、彼らが可哀想だわ・・・。自分が自立しなくてはって思ったのよ。」
「それが、俺と何の関係がある!?」
「だから!!貴方も可哀想だって気付いてしまったのよ!!私はいつだって自分のことばっかりだから、どうしても優しい人に甘えてしまう。そして貴方みたいな人は、私のような情けない人間を放っておけないのよ。だから、こうしてわざわざ私を心配して、こんな所まで来たんでしょう?貴方が優しくてお人よしな証拠じゃない!!」
せっかく気持ちを落ち着けようと深呼吸したフローレンスだったが、どこまでもはっきりとした答えを求めてくるレイサス相手では、あまり意味をなさなかった。
「お前に会いたいと思ったのは俺の意思だ・・・。甘えたいなら甘えればいい。それが嫌なら俺はちゃんと言うし、心配しなくても勝手に離れて行く。俺は、お前の弟でもないし、婚約者でもない。一緒にするな。」
(甘えたいならって・・・、そんな優しい言葉をくれる人だからこそ、近づきたくないんじゃない・・・。)
「はぁー・・・。貴方もどちらかの貴族令息様なのでしょう?だったら、私が悪い意味で有名だってことも知ってるんですよね?好んで私に関わろうとする人なんていないわ。・・・ねえ、もういいでしょう? 貴方、いい人だわ。独りぼっちの私が、唯一安心できる図書室で、私を避けることなく一緒に居てくれたこと、本当に嬉しかったわ。一言も話さないし、いつも怖い顔していたけれど・・・、でも、隣に座ってくれているだけで安心できたわ。何度心の中でありがとうってお礼を言ったかわからないわ。そんないい人と、私は関わりたくないの。」
そう言うと、フローレンスはポケットからレイサスのハンカチを取り出した。
「これ、借りっぱなしでごめんなさい。いつ会ってもいいように、ずっとポケットに入れてたから少し皺になってしまったわ・・・。図書室に行かないと、貴方には中々会えないものなのね・・・。短い間だったけれど、親切にしてくれて、本当にありがとう。」
そう言って、ハンカチを差し出したフローレンスの腕をレイサスは強い力で引き寄せた。あまりの勢いにフローレンスの体がレイサスの胸にぼふっとぶつかるとレイサスは腕に力を入れて、フローレンスをきつく抱きしめた。
「もっと甘えていいから離れるな。今までのように毎日、図書室で俺を待て。くだらないことなど考えず、黙って俺の傍にいろ。」
「・・・・・・・・。」
「フローレンス! 返事は!?」
「ぐぅっ・・・うぐっ・・・うっ。」
「ん?」
力づくで、ぎゅうぎゅうに締め上げられているフローレンスに、レイサスは大声で返事を求めているが、彼の胸に顔面を押し付けられ呼吸もままならないフローレンスに、返事を返す余裕はなかった。フローレンスの口から変な音が聞こえることを不思議に思ったレイサスが腕の力を少し緩めると「ぶはぁっ」と、フローレンスは大きな口を開けて、慌てて空気を求めて息を吸い込んだ。顔を背け、はぁはぁと苦しそうに呼吸をしているフローレンスをそれでもレイサスは離そうとしなかった。かなり強く押し付けられていたのかフローレンスの鼻は真っ赤になっていたし、艶やかな唇の横には、レイサスの胸のボタンの跡がくっきりと残っていた。それを見たレイサスがフローレンスの耳元に口を寄せて囁いた。
「面白いな。」
「えっ!?」
フローレンスが、レイサスの胸を両手で押しながら見上げると、あの常に表情の変わらないレイサスが目を細めて笑っていたので、驚いたフローレンスは、もう、何が何だか頭が追い付かず軽いめまいすら覚えた。
その日も、誰も来ない静かな場所でお昼を食べていた。
(私、あんなに一人を恐れていたのに、こうして毎日一人で過ごしていたら、不思議とこれが普通になるものなのね・・・。一人では味も何も感じないと、ついこの前まで無理やり呑み込んでいたけど、今は普通においしいものね。)
そう思いながらパクパク口に運んでいると、遠くから誰かが走って来るのが見えた。
(誰か来た・・・。せっかく誰も来ない場所だったのにな・・・。また新しい場所探さないと駄目かしら・・・。)
フローレンスは心底がっかりした気分になったが、今、この場から走って逃げるわけにもいかず、視線を落とし、知らぬ顔で食事を続けることにした。だが、足音がだんだん大きくなってきて、フローレンスのすぐ傍まで来たことを音で感じると、さすがにいつまでも知らない顔はできない。面倒だなと思いながらも渋々顔を上げると、赤茶色の髪をなびかせて息を切らせたレイサスがフローレンスの目の前まで来た。
驚いたフローレンスが、ぽかんと口を開けたまま彼を見上げると、怒りに満ちた瞳をぎらつかせ、レイサスがいきなり大声を上げた。
「なぜ来ないっ!!」
「っ!!」
目つきの悪い大男に、突然大声で怒鳴られたフローレンスが、声にならない悲鳴を上げて咄嗟に立ち上がると、膝の上に置いていた食べかけの昼食が地面にバラバラと落ちて行った。レイサスは、その地面にチラッと視線を落としたが、またすぐにフローレンスを見据えて大きな声を出した。
「フローレンス!!」
「はい!」
「なぜ来ない!!」
「!?・・・あの―――」
「毎日必ず来ていたのに、なぜ来なくなった!!」
「あっ、図書室・・・。」
「理由を言え!!」
「・・・・・・・・。」
「フローレンス!!」
「理由って、そんなの・・・。」
「フローレンス!!」
「だって・・・貴方が・・・、優しい人だから。」
「はっ!?」
「だからっ!気の毒だと思った・・・のよ。」
「なんだそれは!!」
「もぅ!!だから!!なんで、そんなに聞いてくるのよ!!貴方、いい人じゃない!!だから、私なんかと一緒にいたら駄目でしょう!!」
「だから!なにが駄目なんだ!!」
「だから、だからって・・・ふぅー-・・・。」
フローレンスは、大きく一呼吸し、興奮してきた自分の心を静めようとした。
「前に言ったじゃない。弟が可哀想だって。これでも反省したのよ。人に頼らないで頑張りたいって思ったの・・・。このままじゃあ、弟にも婚約者にも迷惑をかけてばかりだわ。彼らには彼らの人生があるんですもの。いつまでも私にしがみ付かれていては、彼らが可哀想だわ・・・。自分が自立しなくてはって思ったのよ。」
「それが、俺と何の関係がある!?」
「だから!!貴方も可哀想だって気付いてしまったのよ!!私はいつだって自分のことばっかりだから、どうしても優しい人に甘えてしまう。そして貴方みたいな人は、私のような情けない人間を放っておけないのよ。だから、こうしてわざわざ私を心配して、こんな所まで来たんでしょう?貴方が優しくてお人よしな証拠じゃない!!」
せっかく気持ちを落ち着けようと深呼吸したフローレンスだったが、どこまでもはっきりとした答えを求めてくるレイサス相手では、あまり意味をなさなかった。
「お前に会いたいと思ったのは俺の意思だ・・・。甘えたいなら甘えればいい。それが嫌なら俺はちゃんと言うし、心配しなくても勝手に離れて行く。俺は、お前の弟でもないし、婚約者でもない。一緒にするな。」
(甘えたいならって・・・、そんな優しい言葉をくれる人だからこそ、近づきたくないんじゃない・・・。)
「はぁー・・・。貴方もどちらかの貴族令息様なのでしょう?だったら、私が悪い意味で有名だってことも知ってるんですよね?好んで私に関わろうとする人なんていないわ。・・・ねえ、もういいでしょう? 貴方、いい人だわ。独りぼっちの私が、唯一安心できる図書室で、私を避けることなく一緒に居てくれたこと、本当に嬉しかったわ。一言も話さないし、いつも怖い顔していたけれど・・・、でも、隣に座ってくれているだけで安心できたわ。何度心の中でありがとうってお礼を言ったかわからないわ。そんないい人と、私は関わりたくないの。」
そう言うと、フローレンスはポケットからレイサスのハンカチを取り出した。
「これ、借りっぱなしでごめんなさい。いつ会ってもいいように、ずっとポケットに入れてたから少し皺になってしまったわ・・・。図書室に行かないと、貴方には中々会えないものなのね・・・。短い間だったけれど、親切にしてくれて、本当にありがとう。」
そう言って、ハンカチを差し出したフローレンスの腕をレイサスは強い力で引き寄せた。あまりの勢いにフローレンスの体がレイサスの胸にぼふっとぶつかるとレイサスは腕に力を入れて、フローレンスをきつく抱きしめた。
「もっと甘えていいから離れるな。今までのように毎日、図書室で俺を待て。くだらないことなど考えず、黙って俺の傍にいろ。」
「・・・・・・・・。」
「フローレンス! 返事は!?」
「ぐぅっ・・・うぐっ・・・うっ。」
「ん?」
力づくで、ぎゅうぎゅうに締め上げられているフローレンスに、レイサスは大声で返事を求めているが、彼の胸に顔面を押し付けられ呼吸もままならないフローレンスに、返事を返す余裕はなかった。フローレンスの口から変な音が聞こえることを不思議に思ったレイサスが腕の力を少し緩めると「ぶはぁっ」と、フローレンスは大きな口を開けて、慌てて空気を求めて息を吸い込んだ。顔を背け、はぁはぁと苦しそうに呼吸をしているフローレンスをそれでもレイサスは離そうとしなかった。かなり強く押し付けられていたのかフローレンスの鼻は真っ赤になっていたし、艶やかな唇の横には、レイサスの胸のボタンの跡がくっきりと残っていた。それを見たレイサスがフローレンスの耳元に口を寄せて囁いた。
「面白いな。」
「えっ!?」
フローレンスが、レイサスの胸を両手で押しながら見上げると、あの常に表情の変わらないレイサスが目を細めて笑っていたので、驚いたフローレンスは、もう、何が何だか頭が追い付かず軽いめまいすら覚えた。
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