意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

文字の大きさ
24 / 55

怒っていた理由

しおりを挟む
 放課後の図書室。フローレンスのお気に入りの場所では今、頭を抱えたレイサスが、がっくりと肩を落として項垂れていた。目の前に居るのは、床の上に膝を付き、頭を下げ続けているフローレンスだ。

 今までの無礼を詫び、自分はどんな処罰も受ける代わりに弟だけはなんとか見逃してほしいと泣いていた。懇願するフローレンスを見下ろし、レイサスは大きな溜息を吐いた。フローレンスの前にしゃがむと頬に手を当て優しく上を向かせた。どれ程泣いたのだろうか、綺麗な青い瞳は真っ赤に腫れてしまっている。涙で可愛い顔がぐしゃぐしゃになっていることに胸を痛めたレイサスは、もう一度大きな溜息を吐いた。

「フローレンス。頼むから、もう泣くな。また目が腫れてしまった。ちゃんと話を聞いてほしいんだ。俺は本当に怒っていない。だから、泣き止んで少し落ち着いてくれ。」

「本当ですか?」と言いながら、なんとか泣くのを止めようとしたフローレンスだったが、あまりに泣き続けてしまった為、しゃっくりのような症状が出てしまい、とても会話ができるような状態になかった。ヒックヒック言いながらも「すっ、す、みまっせん」と謝るフローレンスの肩を抱くと、お昼に返してもらったハンカチをポケットから出し、それで涙を拭ってやった。

「大丈夫だ。ゆっくり息を吐け。俺は何も怒っていない。大丈夫だ。俺を信じろ。ほら、ゆっくり吐いて。」

レイサスは、フローレンスを抱きながら優しく声をかけ、背中を擦った。

 放課後のこの時間は、図書室を利用する者は少ない。今日は特に少なかった為、レイサスが遅れて入ってきた時には、すでに室内には誰も居なかった。二人きりの静かな空間に、フローレンスの鼻をすする音と、レイサスが背中を擦る音が響いていた。

しばらくすると、レイサスのお陰で気持ちを落ち着けることができたフローレンスが、静かにレイサスの肩を押し、距離を取った。

「すみませんでした。もう大丈夫です。ご迷惑おかけしました。」

フローレンスを見て、少し寂しそうに眉を下げたレイサスが、「話を聞けるか?」と聞くと、真っすぐレイサスを見つめてフローレンスは頷いた。

「まず、何度も言っているが、今は何も怒っていない。確かに昼間は怒っていた・・・と思う。だが、それはお前が図書室に来なくなったからだ。」

「え?」 と、言ったフローレンスの顔は、言葉の意味を全く理解できていないものだった。呆れたレイサスは、軽く目頭を押さえたあと、「やはり、駄目か・・・。」と呟き、渋々話し出した。

「お前、言ってたよな。気に入った場所に俺が居て嬉しかったって。それは俺も同じ気持ちだった。自分の好きな場所にお前が居てくれて、俺も嬉しかった。もちろん、最初は邪魔だと思った・・・。だが、何も話はしなかったけど、お前との読書の時間を俺は気に入っていたんだ。そんなお前と話をできるようになって、正直、俺は嬉しかった。これからのここでの時間がもっと楽しくなるって期待もしていた。でも、何日待ってもお前は来なかったよな。せっかく話せるようになったのに、いつまで待ってもお前は現れないんだ。そしたら普通、探しに行くだろう? あと、一緒に昼を食べたいと思ったから、サンドウィッチも多めに持って行った。こんな気持ちは初めてだから、俺もよくわからないが、俺は多分お前のことが好きなんだと思う。だから、お前を抱きしめたことも、頬に口づけしたのも、裏なんて何もない。ただ、そうしたかったんだ。」

レイサスは、真っすぐにフローレンスを見つめていたが、その頬は、赤く染まっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている

おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。 しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。 男爵家の次女マリベルを除いて。 ◇素直になれない男女のすったもんだ ◇腐った令嬢が登場したりします ◇50話完結予定 2025.2.14 タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。

処理中です...