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怒っていた理由

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 放課後の図書室。フローレンスのお気に入りの場所では今、頭を抱えたレイサスが、がっくりと肩を落として項垂れていた。目の前に居るのは、床の上に膝を付き、頭を下げ続けているフローレンスだ。

 今までの無礼を詫び、自分はどんな処罰も受ける代わりに弟だけはなんとか見逃してほしいと泣いていた。懇願するフローレンスを見下ろし、レイサスは大きな溜息を吐いた。フローレンスの前にしゃがむと頬に手を当て優しく上を向かせた。どれ程泣いたのだろうか、綺麗な青い瞳は真っ赤に腫れてしまっている。涙で可愛い顔がぐしゃぐしゃになっていることに胸を痛めたレイサスは、もう一度大きな溜息を吐いた。

「フローレンス。頼むから、もう泣くな。また目が腫れてしまった。ちゃんと話を聞いてほしいんだ。俺は本当に怒っていない。だから、泣き止んで少し落ち着いてくれ。」

「本当ですか?」と言いながら、なんとか泣くのを止めようとしたフローレンスだったが、あまりに泣き続けてしまった為、しゃっくりのような症状が出てしまい、とても会話ができるような状態になかった。ヒックヒック言いながらも「すっ、す、みまっせん」と謝るフローレンスの肩を抱くと、お昼に返してもらったハンカチをポケットから出し、それで涙を拭ってやった。

「大丈夫だ。ゆっくり息を吐け。俺は何も怒っていない。大丈夫だ。俺を信じろ。ほら、ゆっくり吐いて。」

レイサスは、フローレンスを抱きながら優しく声をかけ、背中を擦った。

 放課後のこの時間は、図書室を利用する者は少ない。今日は特に少なかった為、レイサスが遅れて入ってきた時には、すでに室内には誰も居なかった。二人きりの静かな空間に、フローレンスの鼻をすする音と、レイサスが背中を擦る音が響いていた。

しばらくすると、レイサスのお陰で気持ちを落ち着けることができたフローレンスが、静かにレイサスの肩を押し、距離を取った。

「すみませんでした。もう大丈夫です。ご迷惑おかけしました。」

フローレンスを見て、少し寂しそうに眉を下げたレイサスが、「話を聞けるか?」と聞くと、真っすぐレイサスを見つめてフローレンスは頷いた。

「まず、何度も言っているが、今は何も怒っていない。確かに昼間は怒っていた・・・と思う。だが、それはお前が図書室に来なくなったからだ。」

「え?」 と、言ったフローレンスの顔は、言葉の意味を全く理解できていないものだった。呆れたレイサスは、軽く目頭を押さえたあと、「やはり、駄目か・・・。」と呟き、渋々話し出した。

「お前、言ってたよな。気に入った場所に俺が居て嬉しかったって。それは俺も同じ気持ちだった。自分の好きな場所にお前が居てくれて、俺も嬉しかった。もちろん、最初は邪魔だと思った・・・。だが、何も話はしなかったけど、お前との読書の時間を俺は気に入っていたんだ。そんなお前と話をできるようになって、正直、俺は嬉しかった。これからのここでの時間がもっと楽しくなるって期待もしていた。でも、何日待ってもお前は来なかったよな。せっかく話せるようになったのに、いつまで待ってもお前は現れないんだ。そしたら普通、探しに行くだろう? あと、一緒に昼を食べたいと思ったから、サンドウィッチも多めに持って行った。こんな気持ちは初めてだから、俺もよくわからないが、俺は多分お前のことが好きなんだと思う。だから、お前を抱きしめたことも、頬に口づけしたのも、裏なんて何もない。ただ、そうしたかったんだ。」

レイサスは、真っすぐにフローレンスを見つめていたが、その頬は、赤く染まっていた。
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