意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

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まだ見ぬ弟の存在

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 その後、レイサスは鍛練に向かうが、やはり集中は出来なかった。今すぐフローレンスの元に戻り、詳しく問いただしたいと思った。

(弟と血が繋がってないだと!? 後妻が平民なんじゃなかったのか!?)

フローレンスは、身分だの平民だのごちゃごちゃ言っていたが、レイサスはそんなことよりも、フローレンスの弟のことが気になって仕方がなかった。

 フローレンスが元平民なのは知っていた。悪い噂で有名な令嬢だ。いくら人と接しないレイサスでも、だいたいの悪口は耳に入ってきていた。しかし、実際に見た彼女があまりにも噂とかけ離れた令嬢だった為、殆どの噂が嘘であることは直ぐに分かった。後妻と共に弟を虐げていると言う話も、弟を護ろうと何度も自分に頭を下げているフローレンスを見て、あり得ないと鼻で笑った。そうだ、彼女は弟のことになるといつも必死なのだ。いつだってフローレンスの話には、弟の名前がでてくる。大切な弟だと、優秀な弟だと、自慢の弟だと・・・。そう言ってフローレンスは弟の存在に幸せを感じて微笑むのだ。レイサスは、弟思いの優しい女性だと感心した。噂なんて全くあてにならないものだと馬鹿にもした。しかし、それはあくまで姉弟が血縁の場合の話だ。

(血も繋がってない男の為にあんなに俺に頭を下げたのか?その男の為に好きでもない奴と婚約までしたのか?フローレンス!お前はどれだけの愛情をそいつに注いだんだ!?・・・そして、そんな愛情を受け続けた男は、どうなる・・・。)

ずっとフローレンスとジルドナの陰に隠れていた、まだ見ぬ男に対する怒りなのか嫉妬なのか、はたまた奪われる恐怖なのか・・・。レイサスは乱暴に頭を掻きむしって、イライラした気持ちを何とか抑え込んだ。


 レイサスがドアを開けると、夕日で赤く染まった図書室は、人の気配がなく静まり返っていた。急いでいつもの場所へ向かうと、そこには、頬杖をついたフローレンスが暖かな夕日に照らされスースーと寝息を立てていた。この平和な空間の中で、あまりにも無防備にうたた寝をしているフローレンスを見下ろし、レイサスは、先ほどまで感じていた焦りや苛立ちが見る見るうちに消えてゆくのを感じた。

(そうか・・・俺が離さなければいいんだ。何があっても決して離さなければいい。)

レイサスは、フローレンスを後ろからそおっと抱きしめた。

「ん・・・・?」

背中からの暖かな体温を感じ、気持ちよさそうに薄っすらと目を開けたフローレンスの頬に、レイサスは優しく口づけを落とすと、そのまま耳元で話始めた。

「俺はお前を離す気はない。お前が平民でも関係ない。いつまで待てば婚約できる?」

「レイ・・・。でも、私は、あまり評判の良い令嬢ではないわ・・・。どちらかと言うと―――」

「かまわない。世間体なんてどうでもいい。俺は、お前の良さを知っている。それで充分だ。フローレンス、俺と婚約しよう。前の婚約者のことはもういいんだろ?俺がいるんだ。心を休める時間など必要ないだろう?」

レイサスは、フローレンスの頬や耳、首筋などに口づけを落としながら話し続ける。

「レイ・・・時間は必要なの。弟の・・・んんっ・・・レイ・・・。」

フローレンスの口から弟の話が出た瞬間に、レイサスは何も言わせないようにフローレンスの顔を自分の方に向けさせ唇を塞いだ。

(このまま、誰にも見つからない場所に閉じ込めてしまいたい。二度と自分以外の誰にも触れさせたくない。誰にも取られたくない・・・。)

レイサスは、フローレンスの頭を押さえ口づけを深くしてゆく。と同時に、自分がこんなに誰かに執着する人間だったことに少なからず驚いているのだった。
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