意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

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愛情の板挟み

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「以前、少し話したと思うけど、シオンはあの邸で虐げられて過ごしてきたの。本来なら侯爵家の跡取りとして、きちんとした教育に充分過ぎるほどの衣食が与えられるはずだったの。でも、私と母が来てしまったことで全てを壊してしまったわ。母は前妻の子供のシオンをあからさまに憎んだし、元々息子に関心などなかった義父も、私の母のすることに何も言わなかったの。そんな中、シオンの味方は私だけだったわ。考えてみて?部屋から一歩も出ることを許されず、満足な教育も食事も、洋服さえ与えられないの。まだ、たったの9歳だったわ。
レイ、お願いよ、わかって。シオンが私に変な執着を持つのは仕方のないことなのよ。でも、彼だってきっと直ぐに気付くわ。学園に入ったんですもの、たくさんのご令嬢に囲まれて、恋だってするわ。そうすれば私への気持ちにも必ず変化が訪れる。今は姉に対しておかしな愛情の注ぎ方をしているように見えるかもしれないけど、お願い、時間をちょうだい。私にとっても大切な弟なの、慣れない学園生活で、困っている時は姉として助けてあげたいの。」

フローレンスは、レイサスの手を取り、分かってもらうために一生懸命説得した。それを表情一つ変えることなく黙って聞いていたレイサスだったが、話を聞き終わると、自分の前髪をクシャっと握りつぶし、しばしの沈黙の後、諦めたように大きな溜息を吐いた。

「フローレンス。お前の気持ちをちゃんと教えろ。」

「私の好きな人はレイよ。」

レイサスによって、今まで何度も言わされてきた言葉だ。

「弟は?」

「家族として好きよ。」

「信じていいんだな?」

その言葉に、フローレンスは「うん!」と嬉しそうに返事をすると、自分からレイサスに抱きついた。
レイサスの胸に頬を寄せ、大好きな彼の香りに包まれ、この時のフローレンスは間違いなく幸せだった。

 しかし、この日から、毎晩夜中になるとフローレンスの部屋にシオンが訪れるようになるのだった。




「コンコココン」

 聞き覚えのある音で目を覚ました。フローレンスは、信じられない気持ちで起き上がった。

まさか・・・と思ったが、小さな声で「シオン?」とドアの向こうに声をかけてみると、「姉さん!」と、小さな声で返事が返ってきた。急いでドアを開けると勢いよく部屋に飛び込んできたシオンに抱きしめられた。

「ああ、姉さん。やっと二人きりになれたね。ずっと姉さんと会えなかったから、僕すごく寂しかったよ。」

シオンは、何度も「姉さん」と呼びながら、そのままベッドに押し倒すと、フローレンスが声を出す暇もなく口づけを落とした。



「・・・それで?何故あなたは女子寮に居るの?」

 ベッドに二人並んで座ると、フローレンスは、ジロリと横目でシオンを睨みつけた。いきなり現れたシオンに力任せにベッドに抑え込まれたかと思うと、そのまま、雨のような口づけを顔中に受けたのだ。

「だって・・・、寮を管理している人が、姉弟だったら自由に入っていいよって鍵をくれたから・・・。」

「なっ!?どういうこと?家族ならお互いの部屋の行き来が自由なの!?」

「いや、姉弟でも女性が男子寮にはさすがに入れないみたい。でも、その逆は許されてるって。あくまでも姉や妹に会う為に、鍵を持っている本人だけなんだけど。」

 シオンの話に驚きながらも、フローレンスは納得するものがあった。ここは男子禁制の女子寮のはずなのに、たまに男子生徒を見かけることがあったのだ。てっきり規則を破って誰かがこっそり入れているものと思っていたが、そんな決まりがあったとは、全然知らなかった。

「まあ、そうだったの・・・そんな決まりがあるなんて全然知らなかったわ。」

「これで、また前みたいに夜の時間を二人きりで過ごせるね!」

そう言うシオンは、子供のような可愛らしい顔でにっこり微笑んだ。

「シオン・・・。それは、もう駄目よ。今は、あの時とは状況が違うわ。」

シオンの可愛い笑顔を見て、フローレンスが申し訳なさそうに断ると、シオンは、さっと顔色を変えた。

「なんで!?僕は姉さんとの時間を、今までと同じように大切にしたいって思っているのに、姉さんは、もう僕と一緒の時間なんていらないって思っているの?」

「違うわ。そんなことない。いつだってシオンのことはとても大切に思っているわ。でも、いつまでも二人でって訳にはいかないわ。シオンだって、これから勉強だってあるし、それに好きな人だってできるでしょう?いつまでも、私に時間を費やしている場合ではなくなると思うの。」

「なにそれ!? 姉さんは僕のことそんな風に思っていたんだ。僕はいつだって姉さんのことばかり考えていたのに、姉さんはそんなに簡単に僕を捨てるんだね。」

シオンはフローレンスからフイッと視線を逸らした。握りこんだ拳は力を入れ過ぎて小刻みに震えており、眉を寄せた横顔は明らかに怒っていた。

「!! 違うよ。捨てないよ。そんなつもりで言ったんじゃないの。でも、いつか必ずシオンだって好きな人ができるわ。何度も言うけど、口づけだって・・・、本当は好きな人とするものよ・・・。」 

すると、泣きそうな顔のシオンが、フローレンスの両肩を掴むと苦しそうに声を絞り出した。

「好きな人は、姉さんだよ。」

「シオン・・・。」

「姉さんが変わったのは、あいつのせいなんでしょう!? あの赤い髪の、クレイズ公爵家の。あいつに何か言われたんでしょう?」

シオンの声が唸る様に低くなり、顔からは、どんどん表情が失われていく。

「シオン・・・。私、レイのことが―――」

「僕の前で親し気にあいつの名前を呼ばないで!!」

「・・・・・・・。」

「姉さん?僕との約束忘れちゃった?」

「忘れてないわ。でも、それは―――」

「姉さんは僕との約束、絶対破らないよね?」

「シオン・・・。」

「証明してよ!? 僕から離れないって証明して。」

シオンはフローレンスを抱き寄せると、顔に手を当て、お互いの鼻がつくほど近づけた。

「ほら、姉さんが証明するんだよ?」

フローレンスがためらいながらも、軽く唇を重ねると、嬉しそうに微笑んだシオンは、そのままフローレンスの頭を押さえフローレンスの唇を離さなかった。
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