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弟と王子
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一人が当たり前だったフローレンスにとって、ルーナとキャシーが常に傍にいてくれることは、心強くもあり、嬉しくてたまらないことでもあった。レイサスも頻繁に会いに来てくれているし、フローレンスは毎日幸せを噛み締めて生活していた。
「まあ!あんなに大きな口を開けて笑ってらっしゃる。これだから元平民とか言われるのでしょね。」
「結局、ジルドナ様にだって全く相手にされていなかったのでしょう?」
「うふふっ、だからあんな田舎の男爵令嬢なんかに奪われてね。」
「ちょっとレイサス様に構われているからって、あんなにつけ上がって、本当、みっともなくて見ていられませんわ。」
「フローレンス様の素行が悪すぎて、クレイズ公爵家では二人の婚約を認めたくないってお話ですわよ」
「まあ。あのクレイズ公爵家のご子息ですものね。相手が元平民ではねぇー。ふふふ。」
「シオン様もあんなお姉様だと大変ですわね。」
一歩教室から出れば、相変わらずそんな悪口を耳にすることもあった。そんな時は、ルーナもキャシーも怒りをあらわにして相手を睨みつける。
「いいのよ。私は誰に何を言われても平気だから、もう気にしないで?」
「でも、あんなひどい事を、あんな大声で。」
キャシーが、先ほどの怒った顔から急に眉を下げ、悲しい顔でフローレンスを見上げた。
(可愛いし、優しいし、本当にもう・・・。)
可愛らしいキャシーの姿に、胸を押さえて抱きしめたい気持ちを抑えると、フローレンスは何でもないことのように笑った。
「二人共、ありがとう。二人の気持ちが何よりも嬉しいわ。でも、私は本当に気にならないのよ?それよりも、私のせいでキャシーとルーナが悲しい顔になることの方が辛いの。随分長い間、一人で過ごしてきたから、こうしてあなた達が笑いかけてくれるだけで、私はとても幸せなの。確かに少し調子に乗っているのかもしれないわね。ふふっ、だって毎日とても楽しいんですもの。だから、彼女達の言葉もあながち間違いではないのよ。」
「なに言ってるの。私とキャシーだって、貴女と一緒にいられて、本当に幸せよ?」
「そうよ。もっと早くお友達になりたかったわ。」
「二人共・・・。ありがとう。私・・・嬉しいわ。」
手を取り合って、三人の友情に酔いしれていると、遠くから声を掛けられた。
「姉さん!」
フローレンスが、シオンの声のする方へ顔を向けると、ロナウド第一王子殿下が数名の男子生徒を引き連れ歩いて来た。ロナウド殿下の横には、こちらに手を振るシオンがいた。
「これは、ロナウド殿下。ご機嫌麗しゅうございます。」
フローレンス達三人は、慌てて廊下の端に避けるとスカートをつまみ、カーテシーをしようとした所でロナウド殿下に止められた。
「学園で、それはやめてください。畏まった挨拶は必要ありません。」
今日の殿下も眩しい程の美貌だった。シオンと並ぶと、辺りがひときわ明るくなるような錯覚を覚えてしまうほど、二人は美しかった。皆が目を細めてうっとりしている中、フローレンスだけは、ロナウド殿下の後ろで護衛のように控えている、がっしりとした体の大きい生徒に目が行ってしまい、しばし見つめてしまうのだった。それに気付いたシオンがムッとした顔で、一歩前に出てその視線を遮った。
「姉さん。」
フローレンスの目の前で、にっこり微笑んでいるつもりのシオンだったが、その瞳の冷たさに本人は全く気付いていないようだった。周囲の生徒達が震えあがるような視線を受け、フローレンスは困った顔で腕を擦った。
「これから、生徒会のお仕事?貴方のことだから私からの心配など必要ないと思いますが、しっかりと殿下のお役に立てるように頑張ってね。」
フローレンスの言葉を聞くと、先ほどとは違う優しい笑顔でシオンは応えた。すると、傍で聞いていたロナウド殿下が爽やかに話しかけてきた。
「これは本当に驚きました。二人がこんなに仲の良い姉弟だったとは。私の耳に入ってきた噂とは随分と違うようですね。」
なんて返したらいいのか分からないフローレンスが、眉を下げて口ごもっていると、
「ご心配には及びません。シオンはしっかり僕の右腕として頑張ってくれています。彼は、とても優秀ですから、私も期待しているところです。」
するとフローレンスの顔がぱあっと明るくなり、花が綻ぶような嬉しそうな笑みを浮かべた。
「まあ、シオン!すごいわ。・・・殿下、お褒め頂き光栄にございます。姉の欲目でお恥ずかしい限りですが、シオンは私にとって自慢の弟なのです。これからもどうぞよろしくお願い致します。」
フローレンスが深々と頭を下げると、シオンが手を伸ばし、
「姉さん、恥ずかしいから。もうやめて・・・。」
と、顔を赤くしていた。ほのぼのした姉弟のやり取りに、ロナウド殿下も周囲の生徒達もほっこりと心が温かくなるのを感じるのだった。
シオンは、入学して直ぐに生徒会に引き抜かれてロナウド殿下の傍に居ることが多くなった。フローレンスとは学年も違うし、今回のような偶然でもなければ学園内でシオンに会うことはほとんどなかった。そのお陰で、レイサスとシオンが鉢合わせすることもなく、フローレンスにとっても平穏な毎日が過ぎて行った。
「まあ!あんなに大きな口を開けて笑ってらっしゃる。これだから元平民とか言われるのでしょね。」
「結局、ジルドナ様にだって全く相手にされていなかったのでしょう?」
「うふふっ、だからあんな田舎の男爵令嬢なんかに奪われてね。」
「ちょっとレイサス様に構われているからって、あんなにつけ上がって、本当、みっともなくて見ていられませんわ。」
「フローレンス様の素行が悪すぎて、クレイズ公爵家では二人の婚約を認めたくないってお話ですわよ」
「まあ。あのクレイズ公爵家のご子息ですものね。相手が元平民ではねぇー。ふふふ。」
「シオン様もあんなお姉様だと大変ですわね。」
一歩教室から出れば、相変わらずそんな悪口を耳にすることもあった。そんな時は、ルーナもキャシーも怒りをあらわにして相手を睨みつける。
「いいのよ。私は誰に何を言われても平気だから、もう気にしないで?」
「でも、あんなひどい事を、あんな大声で。」
キャシーが、先ほどの怒った顔から急に眉を下げ、悲しい顔でフローレンスを見上げた。
(可愛いし、優しいし、本当にもう・・・。)
可愛らしいキャシーの姿に、胸を押さえて抱きしめたい気持ちを抑えると、フローレンスは何でもないことのように笑った。
「二人共、ありがとう。二人の気持ちが何よりも嬉しいわ。でも、私は本当に気にならないのよ?それよりも、私のせいでキャシーとルーナが悲しい顔になることの方が辛いの。随分長い間、一人で過ごしてきたから、こうしてあなた達が笑いかけてくれるだけで、私はとても幸せなの。確かに少し調子に乗っているのかもしれないわね。ふふっ、だって毎日とても楽しいんですもの。だから、彼女達の言葉もあながち間違いではないのよ。」
「なに言ってるの。私とキャシーだって、貴女と一緒にいられて、本当に幸せよ?」
「そうよ。もっと早くお友達になりたかったわ。」
「二人共・・・。ありがとう。私・・・嬉しいわ。」
手を取り合って、三人の友情に酔いしれていると、遠くから声を掛けられた。
「姉さん!」
フローレンスが、シオンの声のする方へ顔を向けると、ロナウド第一王子殿下が数名の男子生徒を引き連れ歩いて来た。ロナウド殿下の横には、こちらに手を振るシオンがいた。
「これは、ロナウド殿下。ご機嫌麗しゅうございます。」
フローレンス達三人は、慌てて廊下の端に避けるとスカートをつまみ、カーテシーをしようとした所でロナウド殿下に止められた。
「学園で、それはやめてください。畏まった挨拶は必要ありません。」
今日の殿下も眩しい程の美貌だった。シオンと並ぶと、辺りがひときわ明るくなるような錯覚を覚えてしまうほど、二人は美しかった。皆が目を細めてうっとりしている中、フローレンスだけは、ロナウド殿下の後ろで護衛のように控えている、がっしりとした体の大きい生徒に目が行ってしまい、しばし見つめてしまうのだった。それに気付いたシオンがムッとした顔で、一歩前に出てその視線を遮った。
「姉さん。」
フローレンスの目の前で、にっこり微笑んでいるつもりのシオンだったが、その瞳の冷たさに本人は全く気付いていないようだった。周囲の生徒達が震えあがるような視線を受け、フローレンスは困った顔で腕を擦った。
「これから、生徒会のお仕事?貴方のことだから私からの心配など必要ないと思いますが、しっかりと殿下のお役に立てるように頑張ってね。」
フローレンスの言葉を聞くと、先ほどとは違う優しい笑顔でシオンは応えた。すると、傍で聞いていたロナウド殿下が爽やかに話しかけてきた。
「これは本当に驚きました。二人がこんなに仲の良い姉弟だったとは。私の耳に入ってきた噂とは随分と違うようですね。」
なんて返したらいいのか分からないフローレンスが、眉を下げて口ごもっていると、
「ご心配には及びません。シオンはしっかり僕の右腕として頑張ってくれています。彼は、とても優秀ですから、私も期待しているところです。」
するとフローレンスの顔がぱあっと明るくなり、花が綻ぶような嬉しそうな笑みを浮かべた。
「まあ、シオン!すごいわ。・・・殿下、お褒め頂き光栄にございます。姉の欲目でお恥ずかしい限りですが、シオンは私にとって自慢の弟なのです。これからもどうぞよろしくお願い致します。」
フローレンスが深々と頭を下げると、シオンが手を伸ばし、
「姉さん、恥ずかしいから。もうやめて・・・。」
と、顔を赤くしていた。ほのぼのした姉弟のやり取りに、ロナウド殿下も周囲の生徒達もほっこりと心が温かくなるのを感じるのだった。
シオンは、入学して直ぐに生徒会に引き抜かれてロナウド殿下の傍に居ることが多くなった。フローレンスとは学年も違うし、今回のような偶然でもなければ学園内でシオンに会うことはほとんどなかった。そのお陰で、レイサスとシオンが鉢合わせすることもなく、フローレンスにとっても平穏な毎日が過ぎて行った。
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