意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

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姉の涙

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半年後。

 夕日の差し込む誰も居ない教室で、一人ぽつんとフローレンスは本を読んでいた。

珍しく恋愛小説を読んでみたが、思いのほか感情移入してしまい、気付いたらポタポタと涙が零れていた。ハンカチを取り出し目元に当てるも、次から次にどんどん溢れてくる涙に、フローレンスも自分で驚いていた。そのうち、抑えていた声が漏れだしてしまう。口を引き結び必死にこらえるも、努力も虚しく鳴き声が漏れてしまう。

フローレンスは、まるで子供のように声を上げて泣いた。今のフローレンスには、「目を冷やせ」と、水で冷やしたハンカチを持って来てくれる人は、いなくなってしまった。

 フローレンスは、もう図書室には行かない。最後に行った時、レイサスは言った。

「これから先、何があっても俺が愛しているのはお前だけだ。どんなに離されようと、心までは決して奪われない。俺はいつまでもお前のことだけを愛している。フローレンス、お願いだ。俺を忘れないで・・・。いつだって俺は君を愛している・・・。」

初めて見たレイサスの涙だった。最初で最後の涙。

隣国のアリーナ王女とは、過去に何度か挨拶を交わした程度の関係だったらしい。王女の強い希望で、レイサスはその後すぐに隣国へ旅立った。王女の護衛騎士を務め、婚姻後は隣国にて公爵の地位を得るそうだ。

 レイサスが居なくなった後、フローレンスに関わった男性は皆、隣国に飛ばされるという噂が広まった。

噂ではなく、事実だ。ジルドナもレイサスも二人共隣国に行ってしまった。ほんの少しの差で、レイサスとの婚約は成立しなかったが、フローレンスは更に傷物となった。

きっと、こんな娘はどこにも嫁げないと諦めたのだろう、両親がフローレンスの反対を押し切って、弟のシオンと無理やり婚約させてしまった。それ以来、フローレンスはシオンの顔がまともに見れなくなってしまった。

 それからは、シオンに好意を持っていた令嬢達から毎日散々虐められた。何を言われても、何をされてもフローレンスは何も言い返さなかった。突き飛ばされても、頬をぶたれても黙って耐えた。
そんなフローレンスを見て、ルーナとキャシーがあまりに心を痛めるので、フローレンスは、二人に距離を取りたいとお願いした。フローレンスは、また一人に戻ってしまった。助けてくれるジルドナもレイサスも、もういない。以前は平気だった独りぼっちが、今はこんなに辛い。

 廊下から誰かが走って来る足音が聞こえる。きっとフローレンスの泣き声を聞きつけたシオンだろう。フローレンスは、ハンカチを口に強く押しあてて声を抑える。急いで涙を拭き、荷物をまとめて教室を出る準備をした。

立ち上がって席から離れようとした時、シオンはドアの前に立っていて、フローレンスをじっと見ていた。

フローレンスは、その視線に気付かない振りをしてシオンの横を通り過ぎようとした。
フローレンスは、もう自分からシオンに話しかけはしない。

「姉さん。」

シオンが通り過ぎようとするフローレンスの腕を掴んだ。
立ち止まったフローレンスは、そっと、その手を外すと、シオンの頭を優しく撫でた。決して声は出さないし、目も合わせない。頭を撫でるのは、フローレンスが哀れな弟へ向ける愛情だった。
立ち去るフローレンスに向かい、シオンが叫んだ。

「姉さん・・・。姉さん!!」



 フローレンスの声を最後に聞いたのは、もう随分前になる。

「こんな姉でごめんなさい・・・。」

シオンに向かい、深く頭を下げたフローレンスの声は、今にも消え入りそうだった。それからは、いくら部屋に行ってもドアを開けてくれなかった。いくら話しかけても返事は貰えなかったし、学園で会うたびにフローレンスは目に見えてやつれていった。何人もの人間に心無い言葉を吐かれていると、ルーナもキャシーも随分と心配してくれていたが、フローレンスは、あんなに大切にしていた二人の友人も遠ざけてしまった。

暴力を受けていると聞いた時は、怒りで目の前が真っ赤に染まった。一人で泣いていることが多くなったのか、度々心配した他の生徒が、フローレンスが一人で泣いていると教えてくれるが、シオンが急いで行っても目も合わさず逃げるように行ってしまうのだった。

(こんなことになるなんて・・・。)

自分の無力さを痛感すると共に、今にも消えてしまいそうなフローレンスに、シオンは毎日怯えて生活していた。
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